島のまにまに~インドネシアの小径~

海洋国インドネシアのあちこちでで出会う、美しい村、美しいもの。自然とつながる暮らし。

日本軍の洞窟を案内する若者

2012-08-17 | まちむら探訪

昨日、一昨日と書いた日本軍の洞窟を知ったのは、
たどり着いた森林公園の入り口でのことである。

私は地図に載っている森林公園に行くのが目的だった。
2000mを超える富士山のような山の中腹に、そのマークが付いている。
山深く訪れる人も少ない山岳の国定公園みたいなところを想像していた。相当遠く、悪路であることも覚悟した。
けれどそこにはオジェ(バイクタクシー)であっけなく到着した。インドネシアの人たちが休日に気軽に訪れる温泉が中心の開けたところで、山に向かって細い散策道が付けられていた。
名古屋でいえば、隣の尾張旭の森林公園的な感じ。

私は温泉は入るつもりはないので、オジェ青年はゲートで入場料交渉でもしてくれていたのだろう。しかし妙に手間取っていて、戻ってくると顔をしかめて言った。
日本軍の何とかがあるので行きたいか?と言っていることだけが分かった。
行きたい、というと、「金がかかるぞ」という。顔をしかめているのはそのためだ。

要するに案内してくれる人がいて、行くならその人にお礼を払わないといけないということだ。インドネシアにはこの手のミニビジネスが無数にある。
けれど慎重にやれば、そんなにひどい目に遭うこともない(と思う)ので
行くことにした。

やせた20歳そこそこの、あまり笑わないおとなしそうな若者が、私に先立って歩いていった。
オジェマンはゲート近くでぶらぶら休息。


若者は何も言わない。英語が全然しゃべれない。
一体いくら取るつもりかしれないけど、案内するなら英語ぐらいしゃべってもいいかも、と思う。
草に埋もれかかった細道、右下に深い谷。足を踏み外すと落ちてしまう。
そんな道を歩いた後、斜面に洞窟があった。
入っていく。
中は真っ暗なので、ライターをカチカチつけて見せようとしてくれるが、その明りも一瞬で、ほとんど何も見えない。
私はカメラのストロボを焚いて照らそうとしたが、あまりに真っ暗なので、レンズがピントを合わせることができず、そのせいでストロボもつかない。

案内で稼ぐなら、懐中電灯か、せめてろうそくでも持ってきてほしかったと思う。
仕事なんでしょう、あなた。

あやうく、中の穴に落ちるところだった。彼は、穴があるから気をつけてね、とすら言ってくれない。恥ずかしがりやなんだと思うけど。案内人にしては、あまりにも遠慮がちだ。

けれど初めて洞窟というものに行くことができて、興味深かった。今まで想像だけでしかなかったことが、やっと分かった。
いろいろ難点はあるけれど、彼は静かにあちこちに案内してくれた。


何個目かの洞窟の暗闇の中、若者と私は静かに立っていた。そのとき突然思った。私何やってんだろう。もしここで彼がナイフでも出して脅してきたら、どうにもならない。あまりにも無防備でお気楽ではないか。
本当に切られたり殺されたりしたら、みんな私をバカか!と思うだろう。

けれど、そんなことはありえないと、心の底で思っていた。
だって、ありえないからありえないんだもの。


いくつかの洞窟を見て、彼は、まだある、もっと行くか?と聞いた。
洞窟はほんとうにいくつもあるようで、終わりがなかった。
それ以上はもうよかった。

ガイド料も心配だった。インドネシアでは先に交渉しておくのがルールだ。
交渉せずにあとで高いことを言われても、拒否することは難しい。
「いくらか必要でしょ?」と聞くと彼は「いいよ」と言った。
言葉が通じてないのかもしれない。

帰り道、森の中で、さまざまな小鳥がさえずっていた。
小鳥を見つけたかったけれど、姿はなかなか見えなかった。
不意に、赤い鳥が横切った。
私が立ち止まって探していると、彼が「あそこ」とそっと指差して教えてくれた。

もともと森を見るのが目的だったから、見て回るために洞窟案内人の彼を拘束するのも気の毒だ。「私はゆっくり行くから、お金を払うわ」と言うと、彼は手を横に振った。
本当にお金が要らないということなのだった。


驚愕……。
観光地でインドネシア人が親切にしてくれる場合、必ず後からお金を請求される。
それが彼らのビジネスなのである。別にあくどいわけではなく、そういうやり方なのだ。
そして彼らはどんな小さなビジネスでもやって、小銭を稼いで、何とか食べていこうとしている。彼らなりに知恵を絞った、一生懸命な仕事だ。私はその「稼ぐために知恵を絞る」クリエイティブさに結構敬意を払っている。
だから、観光地で親切はただではない。それは、100%そうなのだ。

けど、100%ではなかった……。
お金を請求されるかどうかにかかわらず、案内してくれたお礼はしたいと思った。
けれど彼は頑として受け取らなかった。
「なら、どうして案内をしているの?」と聞くと
「ただ、多くの人に知ってもらいたいんだけだ」と。

言葉が通じれば、真意をもっと聞くことができたのに残念だ。
とにかく、私には驚きの出来事だった。

彼はゲートまで、ずっと一緒に歩いてくれた。
何もしゃべらなかったけれど。

バトゥの森林公園での出来事。






一番上の写真/洞窟に行く道
下の写真2枚/今は戦争の影も形もなくのどかな公園。日曜日だったせいか、家族連れや若者グループが手に手にゴザとお弁当を持ってピクニックに訪れていた。温泉もきれい。プールのように遊ぶ。


日本軍の洞窟 その2 ジャワで
日本軍の洞窟 スラウェシとフローレスで


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