風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第二部) 其の拾壱

2010-02-28 21:40:27 | 大人の童話

昭和四十三年、四年生になった夢に衝撃的なことが起こります。夢と二・三年生の時

仲よしだった友だちは、実は他県に住んでいたのです。でも友だちは、六小の方が

通うのに近いからと六小に来ていました。しかし、他県の子どもが東京の町立学校に

通うのはおかしいと町で問題になり、友だちは本来行くべき学校に転校していって

しまったのです。仲よしだった子がいなくなってしまい、夢は心配になりました。更に

クラス替えがあり、先生も今までの男の先生から女の先生に変わりました。夢は、

どんな先生なのか、新しく友だちはできるのかと不安でした。そして、夢の不安は

新しい学年が始まって、すぐ現実のものとなりました。そう、夢に対するいじめが

始まったのです。朝、学校に着くと、なぜか数人の男子がわざと夢に触れていきます。

そして、「わー、エンガチョ、汚ったねぇー。夢のエンガチョ、さわっちゃったよー。」

などと叫びながら、廊下を走っていきました。その途中、「エンガチョつけた。エンガチョ

切った。おまえ、それ、夢のエンガチョだからなぁー。」と言って、エンガチョを他の子に

つけていきます。こうして、この遊びは次から次へと広まっていきました。そのうち、

「夢は汚ねぇ。臭い。側に寄るな。」など、様々な悪口を言われ、いやがらせをされて

仲間はずれにされるようになりました。


風の向こうに(第二部) 其の拾

2010-02-28 13:59:47 | 大人の童話

三年の二学期も半ばが過ぎ、夢は勉強に遊びに、楽しく過ごしていました。

ある休み時間、夢が友だち何人かと、校舎近くの校庭で

ドッジボールをしていると、突然、先生の怒鳴るような大きな声が聞こえました。

びっくりして声のした方を見ると、校舎側の地面と校舎一階側の地面との境になって

いる土手のような坂を、二・三人の子が、すべり台のように滑り下りて遊んで

いるのが見えました。先生はそれを、「あぶないからやめなさい。」と注意して

いたのです。注意された子たちは、あわてて逃げていきました。夢も、

”ほんと、あぶないなあ。”

と思いました。でも本当は、他の子たちがやっているのを見て、自分もやって

みたいなと思っていたのです。なぜって、こんなスリルのあるすべり台、他では

ちょっとあじわえないものですもの。そんなことを考えていると、またまた校舎から

大きな光が現れて六小が声をかけてきました。

「夢ちゃん、今おもしろいこと考えていたでしょ。」

「何、なんにも考えてないよ。」

「うそばっか。そこの坂、滑ってみたいって思ってたくせに。」

「そ、そんなこと、思ってないもん。」

「ほんとかなぁー。」

「ほ、ほんとだってば。」

「うふふ、まあいいや。だめよ、あぶないことしちゃ。夢ちゃん、いろいろとやること

へたくそなんだから。怪我でもしたら大変だもの。」

「何が!」

「うふふふ、なんでもな~い。」

六小はおもしろそうにそう言うと、スゥーッと消えていきました。一人残された夢は、

「もう、六小さんたら言いたいことだけ言ってさっさと行っちゃうんだから。」と、

しばらくブチブチ言っていましたが、やがて、「まっ、いいか。そこが六小さんの

六小さんらしいところなんだから。」と言って、教室へ戻っていきました。

 

 


第六小学校の呟き

2010-02-27 11:09:47 | 校舎(精霊)の独り言

ところで、皆さんは学校の周年記念誌など、ずっと取ってありますか?

夢ちゃんは、卒業してからずっと、私の「開校記念誌」・「三周年記念誌」を大事に

持っていてくれました。それがこの間、突然、「開校記念誌」を私に返しに来たんです。

私はびっくりして、「えっ、なんで?」と聞いたんです。そしたら、「六小さんが持って

いる方がいいと思ったから。」ですって。いったい、どうしたんでしょうね。

ウフッ、でも、ちょうどよかったわ。実は、「開校記念誌」失くしちゃって、持って

なかったの。あ、でも、このことは夢ちゃんには内緒、ね。知られたら怒られちゃう。

「なんで、大事に持ってないの!」って。

では、またね。

 


風の向こうに(第二部) 其の九 

2010-02-26 17:00:45 | 大人の童話

六小が開校してもうすぐ一年になろうというある日、開校記念に、全校で校庭に

人文字を描き、それを空から撮影するということになりました。子どもたちはみんな、

もう大はしゃぎです。夢も、これからどんなことが起こるのかとわくわくしていました。

先生たちが、「はい、あなたたちはこっちに並んで、君たちはあっちに行って。」などと

言いながら、子どもたちを学年ごとに誘導して並べていきます。やがて、何とか

文字ができあがりました。みんな、にこにこしながら空を見上げています。飛行機が

飛んでくるのを待っているのです。

「夢ちゃん、夢ちゃん。」

呼びかける声に夢が振り向くと、そこにはチカッチカッと小さく光りながら、

いたずらっぽく笑っている六小がいました。

「うまく描いたわね。へたくそだったら、みんなを飛ばしちゃおうと思っていたのに。」

「また、六小さんは!みんな、上手に描いたでしょ。そんなことばかり言ってると

みんなにきらわれちゃうよ。」

「いいわよ。どうせ、みんなはわたしのことなんてわからないんだから。」

「もう!そんなこと言って。」

「だって、ほんとのことじゃない。」

「そりゃ、まあ、そうだけど。」

「でしょ?」

 そんなことをいっているうちに飛行機が飛んできました。子どもたちから、

「ワーッ。」という歓声があがります。

”あそこからどうやって写真撮るんだろう。わたしたちは、ちゃんと撮れているかな。

写真できたら見てみたいな。”

雲一つない青い空、校庭の上を高く低く、何回も回りながら飛んでいる飛行機を

眺めながら、夢はそんなことを考えていました。

 


風の向こうに(第二部) 其の八  

2010-02-24 21:16:26 | 大人の童話

春になり、新しい学年が始まりました。三年生になった夢は、毎日元気いっぱいに

学校生活をおくっていました。特に休み時間は、皆ワーッと校庭に出ていくので、

夢も遅れまいと、急いで教室を飛び出していきました。この頃には遊具も増えて、

子どもたちも、前よりずっと楽しく遊べるようになっていました。小学校定番の鉄棒・

はんとう棒・うんていの他、跳び箱のようにして遊ぶ土に半分埋まった古タイヤ・色を

塗った丸太を利用して作った平均台・土を盛って作った小山などです。小山には

芝生が植わっていました。夢は、そのときどきによって遊具を変えて遊んで

いました。今日は、はんとう棒です。でも、なかなかうまく上れません。皆は、

お猿さんのように上手にスルスルと、てっぺんまで上っていくのに、夢は、みんなと

同じようにやっても上っていきません。それでも、一所懸命上ろうとしていました。

が、やがて、あきらめて降りてしまいました。すると、校庭の向こうに見える校舎が

光りだし、まもなく六小のクスクス笑う声が聞こえてきました。そして、

「何、夢ちゃん、はんとう棒上れないの?みんなスイスイ上っているのに。

へたくそ!」

と、おもしろそうに夢をからかいました。

「何よ、別にはんとう棒なんて、上れなくてもいいもん。」

「へー、そうかな。この間、体育の授業でやってなかったっけ。上れないの、

夢ちゃんだけだったよね。本当に上れなくてもいいのかなあ。」

「もー、いいったらいいの。うるさいなあ。あっち行ってよ。」

夢は、そう言いながら、得意なうんていの方に歩いて行きました。

「これなら、六小さんに何も言わせないもんね。」

「あー、夢ちゃんったら、わたしに言われたからって得意なうんていに行ったあ。

ずるーい。だめじゃない、もっと、はんとう棒練習しなきゃ。」

「いいんだったら。黙って見ててよ。」

夢と六小の心の会話は、これからこんな調子で続くのでしょうか。夢は思いました。

 ”あーあ、四小さんだったら静かに見守っていてくれるのになあ。できない時は、

やさしく励ましてくれるのに。もう、六小さんたら騒々しいだけなんだもん。四小さんに

会いたいなあ。”

そんな夢の思いを察知したのか、また六小が話しかけてきました。

「夢ちゃん、今、四小さんのこと思ったでしょ。」

「うん。だって、六小さんうるさいんだもん。」

「だったら、四小さんのとこに行けばぁー。」

「行けるわけないじゃない。わかってるくせに。」

「ウフッ、だったらさっさとあきらめて、わたしとつきあうのになれるのね。わたしが

四小さんのかわりに、夢ちゃんとつきあってあげるから。」

「六小さんたら、そういうことじゃないでしょ。」

「ウフフフ、夢ちゃんておもしろいと思っていたけど、やっぱりおもしろいわ、ウフフ。」

六小はそう言うと、大きく光を放ち、笑いながら消えていきました。