風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第一部) 其の弐拾参

2010-02-12 23:01:44 | 大人の童話

ドッジボール大会から一ヶ月後、卒業も真近ということで、卒業文集を書くことに

なりました。夢は四小と六小、どっちの思い出を書こうか困ってしまいました。

普通ならもちろん、五年間の時を共に過ごした六小でしょう。しかし、夢には、

一年生の時の四小のことが深く心に残っていて、六小でのことが書けそうも

ないのでした。四小のことが大好きな夢、その四小と同じくらい六小のことも

大好きなのに。するといつの間に来たのか、いきなり六小が声をかけてきました。

「どうしたの、考えこんで。」

「わっ、びっくりしたぁ。急に来ないでよ。」

「わかった、文集のことでしょ。もうすぐ卒業だもんね。」

「うん。何を書こうかなって考えてたの。」

「そんなの決まってるじゃない。わたしとのことを書けばいいのよ。」

「うーん、でも、なんかねえ。あ、ねえ六小さん、文集に四小さんとのことを

書いてもいい?」

「えーっ、何それ。四小さんとの思い出の方が、わたしとのことより残ってるの?」

「う・ん。」

六小はしばらく黙っていましたが、やがて、

「いいよ。」

 と言いました。

「え、いいの?」

「だって、しようがないじゃない。」

「ありがとう。決して、六小さんとの思い出が残ってないわけじゃないからね。」

「わかってるわよ、そんなこと。」

そう言いながらも、六小は本当は少し寂しく思っていたのです。しかし、文集に

四小とのことが書けるとただ喜んでいる夢には、そんな六小の気持ちなど全然

気づくことができなかったのでした。こうして夢は、”思い出の第四小学校”という

題で卒業文集を書きました。その中から最後の二行を、ここに載せておきます。

”わたしは戸久野第四小学校のことを、そして、この戸久野のことを一生

忘れないだろう”