風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第二部) 其の六

2010-02-21 20:30:02 | 大人の童話

十一月十一日、父母会代表や町のお偉方を招いて、六小の開校を祝う式典が

校庭で行われました。夢は、これから何が始まるのかと興味津々でしたが、式は、

校長先生・父母会会長・町代表の話などだけで終わり、ちょっとがっかりして

しまいました。夢は、”六小さん、どう感じているかなあ”と思い、六小の方をちらっと

見てみました。見たとたん、思わず笑ってしまいました。だって六小さんったら、

自分を祝う式典だっていうのに、鼻ちょうちんつけて寝ているんですから。

”ふふっ、やっぱり六小さんも退屈だったのね。”

式が終わっても、まだ六小は寝ています。夢は「終わったよ。」と、六小を起こそうと

思いましたがやめました。

「ゆっくり眠ってね。おやすみなさい。」

そっと言うと、みんなといっしょに教室へ戻りました。教室では、先生が

[開校記念誌]を渡しています。まだ、ほんのりインクの匂いのするその記念誌を

見た時、夢は、”これから、この学校の、六小さんの歴史が始まるんだ”と思って、

とてもうれしくなりました。そのあと、家に帰ろうと校舎の外に出た時、夢はいきなり、

六小から声をかけられました。

「もう、そんな時間?式、終わったの?」

「うん、そうだよ。六小さん、やっと起きたのね。」

「う~ん、よく寝たあ~~。だって、式、つまらなかったんだもの。夢ちゃんだって

そう思ったでしょ。」

「う・ん、まあね。」

「うふふ、やっぱり。」

六小は、我が意を得たり、とでも言うように小さく笑いました。

夢は、先生から渡された記念誌を、大きく六小に振って見せて、

「この記念誌、大事にするね。」

と大声で言いました。六小は、

「ありがとう。」

と返すと、うれしそうに大きく一回光って消えていきました。

 

 


風の向こうに(第二部) 其の五

2010-02-21 00:50:59 | 大人の童話

ある日の朝会のあと、夢はしゃがんで、一所懸命に石を拾っていました。と、急に

眼の前が明るくなり始めました。あわてて顔をあげると、そこには、いたずらっぽく

笑っている六小の顔がありました。

「おはよう、夢ちゃん。石拾い大変ね。ごくろうさま。」

「あ、おはよう、六小さん。今日も、元気だね。」

「うん、もちろん。ねえ、石、いっぱい拾えた?」

「うん、こんなにいっぱい。」

夢は、両手の平いっぱいに拾った石を、六小に見せました。

「あら、ほんと。すごいわねー。」

「でも、まだいっぱいあるよ。これ、全部きれいになくなるかなあ。」

「なくなるわよ、いつか。だって、みんな一所懸命拾っているんだもの。」

「六小さんはいいよね。ただ見てるだけだもん。」

「あら、わたしは監督だもの。あたりまえでしょ。」

「何それ、へんなの。」

「ウフフ・・・・。」

”そろそろ、拾うのを終わりにします。みんな、それぞれ拾った石を、バケツに入れて

教室に戻ってください。”

先生が、石拾いの終了を告げています。

「あ、もう時間。六小さん、じゃあ、わたし行くね。」

「うん、またね。」

六小は、教室へ戻っていく夢を見ながら、もう一度、小さく「ウフフ。」と笑うのでした。