風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

夢草子 拾の巻

2010-06-18 23:26:47 | 大人の童話其の弐

それから四小は、もう毎日が楽しくてしかたありません。自分が生まれてはじめて

心通わせられた子、四小はその子と、毎日のように話をして過ごしていました。ええ、

それはもう、楽しそうに。二小は、時々四小を訪ねて来ていましたが、そのたびに、

四小から「その子とこの間は何をした、昨日は何をした。」と話を聞かされていました。


夢草子 九の巻

2010-06-17 23:13:04 | 大人の童話其の弐

ある日、四小の所に訊ねてきた二小は、楽しそうにしている四小の様子を見て

四小に訊ねました。

「どうしたの。何かいいことでもあったの。そんなに楽しそうにして。」

「うん、あのね。」

と、四小は、自分に気づいてくれた子のことを二小に話しました。二小は四小の話を

聞くと驚いて、信じられない、という様子で言いました。

「まあ!そうなの。人としては稀有な子だわ。そんな子もいるのねえ。」

そして、感慨深げにほっと息をはきました。

「でしょ?わたし、あきらめずに、子どもたちに声かけ続けてきてよかったわ。」

四小はそう言うと、何か思うことがあるのか、あとは黙って遠くを見つめていました。

二小は、そんな四小の横顔を見ながら、

『その子とずっと心通わせられますように。』

と願わずにはいられませんでした。


夢草子 八の巻

2010-06-15 22:50:14 | 大人の童話其の弐

四小は、もう、うれしくてたまりません。さっそく、その子に語りかけてみました。すると

その子は、最初こそ驚いた顔をしたものの、すぐ慣れて反対に、

「あなたは、だあれ?」

と、四小に訊いてきました。四小は、もう、うれしくてうれしくて、自分のことをペラペラと

かいつまんで話しました。その子は黙って聞いていましたが、最後に、

「ふ~ん、そうなの。じゃあ、これからいっぱいお話できるね。」

と、うれしそうに言って、入学式の行われる教室へ入っていきました。四小は、

うれしくてしかたありませんでした。顔に満面の笑みをうかべて、喜びを表して

いました。


夢草子 七の巻

2010-06-15 00:06:14 | 大人の童話其の弐

その後も四小は、毎日毎日子どもたちに声をかけていました。でも、あいかわらず

誰も気づいてくれません。そうこうしているうちに、また一年が過ぎ、季節は

昭和四十年の春になっていました。四小は思いました。

『ああ、今年もたくさんの子が来てくれたのね。この中に、一人でもわたしに気づいて

くれる子がいるといいんだけど。今年もだめかしらね。』

入学式の日、四小は、なにげなく子どもたちを見ていましたが、ふっと声をかけて

みようと思い、新入生たちに語りかけてみました。すると、どうでしょう。一人の子が

四小の声に反応したのです。いいえ、正確にはその前、四小が語りかける時に

放つ光に、すでに反応していたのです。四小は、飛びあがらんばかりに驚きました。

無理もありません。だって、声をかける前からもう、精霊に反応する子なんて

いないといっていいくらいなのですから。

 

 


夢草子 六の巻

2010-06-13 22:28:10 | 大人の童話其の弐

すると四小は、

「だって、気づいてくれたらうれしいじゃない。お話できるもの。そうでしょ、姉さん。」

と、にこっと笑って答えました。

「ええ、まあ、そうだけど。でも、人は、そう簡単に気づいてはくれないわよ。」

二小は、そんなことは、まあ、千に一つもないだろう、と考えながら言いました。

それでも四小は、

「うん、でも、根気よく続けていれば、いつかは気づいてくれる子が一人ぐらいは

いるんじゃないかしら。そう思ってるの、わたし。」

と、ちょっと小首をかしげて言いきる のでした。

「それで、毎日そんなに一所懸命なのね。」

「うん。」

「そう、誰か、あなたのことを気づいてくれるといいわね。」

「きっと、いつか気づいてくれるわ。わたし、そう信じてる。」

「そうね。」

二小は、四小ににこっと笑いかけると、

『四小の思いが、いつかかなうといいけど。』

と思いながら、自分のところへ帰って行きました。