トランプ米大統領の外交・安保政策が輪郭を現してきた。「トランプ・ドクトリン」とはどのようなものか。それは、場当たり的な「ご都合主義」と、独善的な解釈を世界に押し付ける「大本営発表」の組み合わせだと言えるのではないだろうか。
トランプ政権によるシリアのアサド政権攻撃とその後の国際情勢の推移は、安全保障をめぐる状況も「ポスト真実」の時代に突入し、危うさを増していることを示している。
まずは、アサド政権への攻撃は何が引き金になったのかという点だ。
経緯を簡単に振り返りたい。シリア北部ハンシャフィンで4月3日、神経ガス・サリンの攻撃により70人以上が犠牲になり、アメリカはアサド政権による化学兵器使用と断定。
経緯を簡単に振り返りたい。シリア北部ハンシャフィンで4月3日、神経ガス・サリンの攻撃により70人以上が犠牲になり、アメリカはアサド政権による化学兵器使用と断定。
「越えてはならない一線(レッドライン)を越えた」として、発生からわずか3日目の6日、シリア西部のシャイラット空軍基地に巡行ミサイル・トマホーク59発を撃ち込んだ。
報道では、トランプ氏は犠牲になった幼い子供たちの映像に心を揺さぶられ、懲罰攻撃を決断したとされている。トランプ氏は6日のテレビ声明でこう説明した。
「シリアの独裁者アサドは恐ろしい化学兵器で罪のない市民を攻撃した……多くの人がゆっくりと残忍な形で死んでいった。かわいらしい赤ちゃんまでもがこの非常に野蛮な攻撃で残酷に殺された。どんな神の子もこのような恐怖で苦しんではならない」
子供たちが泡を吹きながら倒れ、水で洗われている映像には、誰もが強い憤りを覚えるだろう。しかし、これまでの経緯を振り返ると、この説明は説得力を持たない。
思い出してほしい。オバマ前米政権がシリア空爆寸前までいった2013年の化学兵器使用問題のときのことを。
米政府は同年夏にアサド政権の化学兵器使用で少なくとも1429人が死亡したとの報告書を公表。子供を含む被害者らが苦しむ、胸を締め付けられるような映像がたくさん流れていた。
しかし、トランプ氏は同年9月、こうツィートしている。
“シリアを攻撃するな。米国にトラブルをもたらすだけだ。我々の国を再び強く、偉大にすることに集中すべきだ”
“シリアを攻撃するな。米国にトラブルをもたらすだけだ。我々の国を再び強く、偉大にすることに集中すべきだ”
まさに「米国第一主義」を掲げるトランプ氏の冷徹な実利主義者の姿を示す言葉である。
そのトランプ氏が今回は義憤にかられ、「人道主義的介入」に踏み切ったという説明は説得力を持つだろうか。
シリア攻撃の引き金が何であり、その意思決定プロセスがどうだったのかを知ることは重要だ。なぜなら、「予測不可能性」を売り物にしているトランプ大統領がどういう状況で軍事行動に踏み切るのか、踏み切らならないのかを判断する材料となるからだ。
現代ビジネス からの引用記事