米国のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)東南アジアプログラムのAmy SearightディレクターとGeoffrey Hartman研究員が、同研究所ウェブサイトで、トランプ政権が南シナ海の戦略を見直すことを提言し、その際に留意すべき原則を掲げています。要旨次の通り。
南シナ海では中国に主導権を握られ、航行と上空の飛行の自由、ルールに根差した国際秩序、紛争の平和的解決という米国の利益がリスクに晒されている。従来の米国の対応は中国の行動を変えるには不十分であった。新政権は徹底的な戦略見直しを行うべきであり、その際、次の原則に留意すべきである。
米国は、抑止戦略の強化が地域的・世界的問題(北朝鮮、地球温暖化など)での米中協力を阻害するという懸念にとらわれるべきではない。他の分野での協力を保全したいばかりに南シナ海における米国の政策を変更することは不必要であり逆効果である。米中関係の緊張を怖れるべきでなく、弱さと見られることは中国のさらに強硬な振舞いを助長する。
新政権は明確で一貫性のある戦略的メッセージを出すべきである。リバランス戦略の目的に関する一貫性のない説明、航行の自由作戦と日常的な軍事的プレゼンスに関する一貫性のない説明と政策が混乱を招いた。新政権は、これらへのきちんとした説明をすべきである。中国の圧力で行動の日程を変更すべきではない。米国はこれらの行動を定期的に実施すべきである。
南シナ海における米国の政策は軍事行動に偏り過ぎであったが、外交的、広報的、経済的な対応を組み込むことも重要であろう。例えば、不安定化の策謀に関与した中国企業を制裁の対象とすることが考えられよう。
米国は中国の威圧に抵抗する同盟国とパートナー諸国の能力構築の支援を強化すべきである。東南アジア諸国の能力構築は中国の低いレベルでの威圧に対する抑止力を増し、米軍が高いレベルの緊急事態に焦点を絞ることを可能にする。このためには、米国は地域的な防衛関係を保全せねばならない。
南シナ海の地形に係る領有権紛争については如何なる立場も取らないとする一方、国際法に従って平和的解決が図られるべしとする従来の米国の立場は健全であり、維持されるべきである。この原則に基づいた立場が、米国がその利益と国際的な規範を守るために南シナ海に柔軟に介入することを可能にする一方で、米国の行動を中国の主権に対する脅威だといい立てる中国の試みを挫くことになる。
上記提言の内容は妥当なものであり、大筋において異論はありません。現在中国がやっていることは、国連憲章39条の「平和に対する脅威」と認定されておかしくないようなことです。トランプ政権が骨太の戦略を打ち出すことを期待したいものです。
航行の自由作戦は、定期的に実施する必要があります。オバマ政権時代のどことなく腰の引けた実施ぶりではなく、どういう法的効果を狙って、どういう態様で、どういう航路で実施したかを明確にすべきものと思います。海洋調査のようなもっと穏便な活動もあっていいでしょうが、水中ドローンを眼前で中国海軍に盗まれるという先般の失態は米側の弱さを見せたようなものであり、繰り返してはなりません。
領有権の紛争に中立の立場を維持することが米国の立場として健全であるという指摘に敢えてコメントすれば、南シナ海に該当するケースがあるかどうかはともかくとして、米国が関与した事案であって、法と正義に照らして判断が可能なのであれば、その判断を宣明しないのは責任ある態度とはいえないと思います。
北方四島については、米国はそれをしています。尖閣諸島についても、米国は「日本領土と考える」と宣明することが責任ある態度だと思います。もっとも、日本の施政の下にあり、安保条約5条の対象となるということで当面の目的に過不足はないのかも知れません。さらに、米韓関係が崩壊の危機に瀕することになるでしょうが、竹島についてすら、米国は日本の領土だと言い得るのではないかと思います。
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