3番目の切り札が、かつて北朝鮮が「ソウルを火の海にできる」と豪語した長距離砲だ。
北朝鮮軍は射程20キロ程度の小口径砲から、ソウルを射程に収める240ミリ、米軍基地があるソウル南方の京畿道(キョンギド)平沢(ピョンテク)まで届く300ミリなど、多彩な長距離砲を全部で1000門程度保有しているとされる。
うち、南北軍事境界線沿いにソウルなどをにらむ砲門が300~500門展開している。米韓両軍は長距離砲での攻撃の兆候が出た瞬間から航空機による攻撃などで制圧する作戦だが、北朝鮮軍は長距離砲を山脈沿いにくりぬいた坑道に隠し、複数の出口を使って攻撃するとみられている。
韓国・慶南大学の金東葉博士によれば、航空攻撃で、50%の砲門を破壊した場合でも、1時間で3000発以上がソウルに降り注ぐ計算になる。その場合、ソウルの5~7%程度が破壊されることになる。
たかが5~7%と言っても、高層ビルや発電所などが破壊されれば被害は大きくなる。特殊部隊と組み合わせた攻撃が起きた場合、市民は簡単には避難できなくなるだろう。
韓国には在留邦人だけで約4万人が住んでいるし、地理に不慣れな旅行客もいる。攻撃が始まれば外に出ることすら難しくなるだろう。日本政府は有事の際、米軍の支援を仰ぐ考えだが、米軍が日本人一人ひとりを救出に来てくれるわけではない。
米軍の集結ポイントまでたどり着く必要があるが、それには自衛隊などの救援が必要になる。日本政府は現在、救援活動に必要になる、空港や道路の使用情報、韓国軍の展開計画などの情報共有を求めているが、韓国側は「一般の不安をあおる」として、協議を拒んでいる。
金正恩政権の最大の目標は「政権の生き残り」であり、自滅につながる米軍との戦闘は徹底して避ける戦略を持っている。北朝鮮が繰り返し、米韓合同演習の中止を求めているのも、その戦略の一環だ。
だが、トランプ政権が「核を持った北朝鮮」を絶対に認めなければ、最後には自滅も覚悟して、戦闘に至る可能性は捨てきれない。
訪韓中のペンス米副大統領は17日午後、核・ミサイル開発や軍事挑発を続ける北朝鮮について言及し、「シリアやアフガニスタンでの行動を通じ、(トランプ)新大統領の力を見せた。北朝鮮は大統領の決意やこの地域の米軍の力をテストしない方がよい」と警告した。?
これから、金正恩政権とトランプ政権は、「北朝鮮の核」を巡って、硬軟取り混ぜた丁々発止のやりとりを繰り広げるだろう。そして徐々に対話の余地は狭まっていき、最後は衝突しか出口が残されていない事態に至っていくのかもしれない。
週刊ダイヤモンドからの引用記事