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宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

衝撃の一日

2007年09月13日 | インターンシップ
 
今日は朝から衝撃続きの一日だった。一体何が起こったのか、簡単に紹介してみたい。

まず、朝一番に会社について同僚に「Bonjour!」と挨拶したら、「NOBU、日本の総理大臣が辞任したらしいが、本当なのか?」との質問を受ける。参議院議員選挙で大敗したとはいえ、まだ新内閣が発足してから数週間あまり。なので内閣総辞職なんてありえないと思って「ジョークでしょう?」と回答したら、本当に辞めていた。衝撃その1。

お昼休みの時間を利用してレンタカー会社に契約更新の手続きをしに行った。係のお姉さんにメーターの数字を申告してくれといわれたので数字を言うと、急に顔色を変えて、「申し訳ない、これ以上レンタルできない」との返事。訳が分からないので理由を聞いたら、小型車については20,000キロ毎にメンテナンスチェックをしなければならないルールがあるとのこと。ということで、僕の2番目の愛車シトロエンC1没収。衝撃その2。

愛車を没収されてもATR社への通勤には車がないと非常に困る。なので、なんとか同じクラスの代車を用意してくれと頼んだら、ちょうどいいのが今あるとのこと。ラッキー!と思ってレンタカー会社の駐車場に行くと、そこにはシトロエンC3という車が。僕が乗っていたのはC1という小型車で、それよりも二まわり大きいのがC3。契約期間中は追加料金なしでよいから、コレに乗れという。その適当さに、衝撃その3。

新しい車を受け取ってATR社に戻ると、同じくマーケティング担当のOlivieに呼ばれる。何事だろうと思っていたら、我がATRのライバル機であるボンバルディア社のDHC-8 Q400に対し、ついに世界的な飛行禁止措置が発令されたらしい。まだ、一部の国でしか完全実施には至っていないようだけど、日本でも飛行回数10,000回を越える機体は検査でOKがでるまで飛んではいけないことになったようだ。航空会社にとってこれはかなりイタイ。信じられないくらいの収益圧迫要因となって、すぐに経営に響いてくる。

今の世界のターボプロップ機市場(40席~70席クラス)は、我がATR社とカナダのボンバルディア社のほぼ独占状態にある。なので、今回の一件は両社の競争関係に大きな影響を及ぼす可能性がある。チャンスなのかピンチなのかは簡単に判断できないが、少なくともATR社にとってネガティブな要素はあまりなさそうだ。この件に関して早急に情報収集をするとともに、マーケットに対するインパクトを分析してくれ、という内容の緊急指令を受けとる。カフェを飲んで一休みしてから仕事復帰しようと思っていたので、衝撃その4。

夜になって、オマーンに一時帰国していたはずのMBAのクラスメートSuleimanから電話を受け取る。久々の会話で話が弾むかに思えたのだけど、彼の本当の用事は昨年のクリスマスパーティーの後で彼が僕の車でIASキャンパスまで帰った際に僕の車の中に落としたかもしれない封筒は見つかっていないか?というもの。その車は既に返してしまった初代ルノーClio。今はどこで誰に使われているかさえ僕には分からない。ほぼ1年前の落し物を今頃聞いてくるオマーン時間のゆるやかさに、衝撃その5。

こんな感じで衝撃続きの1日が終わった。明日もまた頑張ろう。

(写真はBiarritzのビーチ。頭の中にはまだバカンスの残像が。。。)
 

仕事復帰

2007年09月12日 | インターンシップ
 
Biarritz(ビアリッツ)でのプチ・バカンスも終わり、今日からATR社での仕事に復帰。週末を含めてたった4日間しかオフィスを離れていなかったのだけど、会うたびに同僚達から「お帰り!どうだった?」という出迎えを受けた。短くてもバカンス、ただビーチでのんびして帰ってきたという事実だけでも、彼らは聞きたくてたまらないらしい。

僕は自分の部屋で朝のコーラを飲みながら、たまっているメールをチェックすることにした。インターンの僕にはそれほど重要なメールは届かないのだけど、たまに会議に出ろとか、このテーマについて情報収集せよ、といった指令が入っていることがある。Aerospace MBAのクオリティとスピードで迅速に対応するため、こまめにメールをチェックすることだけは欠かせない。

メールをチェックしていて、1通だけビジネススクールから届いているメールがあることに気付いた。MBAのセクレタリーとして働いてくれているCaroleからのメールだ。彼女は元航空会社のフライト・アテンダントで、毎日パリ・コレのモデルのような格好をして僕達の前に現れるエレガント系マダムだ。セクレタリーまで航空宇宙系出身者で固めるあたりが、さすがAerospace MBAだと思う。

メールの内容は、修士論文の口頭試問日時に関するものだった。僕の発表日が10月15日(月)へと早まることになったらしい。どうしても都合が悪い場合を除き、この日程でやらせてほしいとのこと。ちょっと強引だなあ~と思いつつも、Formica副社長のスケジュールを確認した上で、僕はCaroleに変更OKとの返事を送った。フルタイムMBAとパートタイムMBAを含め、彼女は今50人以上の学生を相手に調整をしている。僕一人でも素直に変更に応じれば、少しは彼女の手間が省ける。

口頭試問日程が変更になった理由は、MBAプログラム自体のAccredition(認証)審査が今年10月に予定されているためだ。MBAディレクターのJacquesも前々から準備に余念がなく、生徒である僕達を講堂に集め対策ミーティングを行ったこともある。MBA認証の審査員は、生徒の中から数名を任意に選び、授業内容に関する質疑応答を行うのだそうだ。誰が選ばれるかは直前まで発表されないので、僕もドキドキしている。

とにかく、MBA認証審査のおかげで、僕の修士論文の口頭試問まで後1ヶ月しかないことが確定した。ATR社で僕が進めるプロジェクトも、これに連動して多少スピードアップしなければならない。しかし、こんな事態に備えてちゃんと余裕を持たせたプロジェクト管理をしているので、今回の変更は十分に想定の範囲内として吸収できる。特に問題はないはずだ。

あと1ヶ月、ATR社の幹部を満足させられるだけの成果を残せるよう、全力を尽くして頑張っていこうと思う。それが、日本人の僕をインターンとして採用してくれたATR社への恩返しだ。

(写真はBiarritzの海岸で眺めた夕陽。サーファー達がまだ波間に揺れている。)
 

トルコ共和国

2007年09月08日 | インターンシップ
 
今日は同じくATR社でインターンとして勤務しているトルコ人のDuyuguのプレゼン発表の日。彼女はトゥールーズ第一大学の大学院生で、トルコの航空機マーケットについての市場調査を行うことをミッションとしている。バカンスに出かけてしまった同僚から僕が指導を頼まれた学生のうちの一人でもある。

ATR社へのプレゼン発表に先立って、僕は彼女にある一つの提案をした。発表前日に一度本番と同じ会場を使い、予行演習をやっておこうという提案だ。マスター1年生の彼女にとってはこれが人生で初の本格的なプレゼン発表であり、1時間近くも一人だけで舞台に立ち、多数の聴衆への発表と質疑応答に耐えることは、彼女にとって想像以上のストレスになるだろうと僕は考えた。

僕達は許可をとった上で本番の会場である本社最上階のプレゼンルームを借りた。ここは昨年の9月に僕が一番最初にGianni副社長からATR社についてのプレゼンを受け、心の底から感動してしまった場所でもある。この場所に再び足を踏み入れることができたことが、なんだか少し感慨深い。しかも、今回はATR社で勤務する者としてこの場所に足を踏み入れることができたのだ。

僕は彼女にできるだけ大人数の前でプレゼンすることに慣れてもらうため、他の部署のインターンにも声をかけてこの予行演習に参加してもらうことにした。本番ではATR社の複数の部門の責任者が彼女のプレゼンを聞きにやってくる。おそらく、様々な角度からいろんな質問を彼女にあびせるだろう。本番で緊張せずに堂々をプレゼンを遂行するためには、限りなく本番に近い環境で訓練を重ねておくしか方法はない。「訓練で流す汗が多いほど、戦場で流す血は少なくなる」のだ。

プレゼン発表の事前練習することは、別に彼女にとってだけ特になることではない。僕も彼女のプレゼン発表を聞く中で、実にいろんな学びを得ることができた。例えば、トルコでは長距離輸送の9割以上を、なんと長距離バスによる輸送が占めているのだ。飛行機で飛べば1時間から2時間たらずの距離を、トルコの人々は35時間以上かけてバスで移動しているというのだ。

彼女の分析によれば、この長距離バス移動に対するトルコ国民の異常なほどの集中には、大きく分けて2つの原因があるらしい。一つ目はトルコ政府の過去の政策に起因するもので、トルコ国内には自動車用の高速道路網はしっかりと整備されているものの、新幹線のような高速鉄道は一切建設されてこなかったという事実だ。

高速鉄道が存在しないので、どの都市へ行くにも普通の在来線で移動しなければならない。これでは、長距離バスで移動するのと移動時間に大した違いは生じない。また、トルコ鉄道は地方都市同士のコネクションが悪いらしく、鉄道を利用すると長距離バスよりも時間がかかるといったケースも少なからず存在するようだ。

そして2つ目の原因は、長距離バスのチケットの安さだ。トルコ鉄道は長らく国営企業の1社独占状態で運営されており、当然コスト削減努力がなされるはずもなく、チケット代は高い。価格競争により顧客争奪戦がなされるとすると、輸送手段としての鉄道は長距離バスに決して勝てない。それが彼女の分析の答えだった。

こんな感じで背景となる状況を分析した上で、彼女はATR社が今後トルコ市場でどのようなアクションをとるべきかを丁寧に説明した。その提案はどれもリーズナブルなもので、ATR社が今すぐにでも実行可能なものばかりだ。後は、ATR社の幹部がこの提案の価値とコストと実現可能性を評価した上で、実行に移すかどうかを決めるだけだ。

僕も自分がプレゼンをするまでに後1ヶ月半しか時間がない。ヌケなく、モレなく、しっかりと準備を進めていこうと思う。

(写真はトルコ共和国の地図)
 

航空機のSTOL性能

2007年09月06日 | インターンシップ
 
今日はTechnical Sales Director(テクニカル・セールス・ディレクター)のAlberto部長と打ち合わせ。僕がATR社でインターンをするに際して採用の面接をしてくれた人で、入社後もいろいろと僕に指導をしてくれている。特に、ビジネス開発にあたってTechnical Feasibility(技術的な実現可能性)を検証する際には、彼の助けがなければ僕だけではどうにもならない。

僕が今日相談した内容は、ATR機のSTOL性能について。STOLとは、Short Take Off and Landingの頭文字をとったもので、日本語に訳すと短距離離着陸性能となる。つまり、航空機がどれだけ短い滑走路で離着陸できるかということだ。ちなみに、これが垂直で離着陸できるかどうかになると、VTOL(Vertical Take Off and Landing)となる。

離着陸に必要な距離というのは、航空機の大きさや重量によって大体決まっているのだけど、それでもその日の天候や視界、空港の高度などによって多少変化する。例えば、海抜0メートルにある空港の滑走路よりも、海抜1000メートルにある空港の滑走路ほうが、同じ航空機でも離着陸に必要な距離が長くなる。これは、高度によって空気の密度(すなわち、気圧)が変化するために起こる現象だ。

このSTOL性能を良くするためには、大きく分けて方法が2つある。1つは、航空機自体の重量を軽くすること。重たい荷物を積んでなかったり、たくさん乗客を乗せてない状態であれば、どんな航空機でも通常より短い距離で離着陸できる。もし危険がないのであれば、予備の燃料を余計に積まないことによって離陸重量を軽くし、離陸のための滑走距離を短くすることもできる。

もう一つは、よりパワーの大きいエンジンを積むこと。1つよりも2つ、2つよりも4つエンジンがあったほうが、当然航空機の推力は増すので、離着陸に必要な滑走距離も短くて済む。ただし、エンジンの種類や数はそう簡単に変えられるのもではないため、今日は短い滑走距離で離陸したいからエンジン追加で2つというわけにはいかない。後で変更がききにくい意思決定だけに、最初に航空機を購入する時点でどのような使い方が最も多くなりそうかを的確に予想しなければならないのだ。

しかし、エンジンをパワーアップしただけでは不十分だ。なぜなら、片方のエンジンが何らかの理由で停止してしまった場合に当然機体は不安定になるのだけど、この不安定の原因であるヨー角方向の力を、垂直尾翼の操作で打ち消すことができなければならないからだ。パイロットがこの操作をできない限り、いくらエンジンだけをパワーアップしたところで航空機として飛行してよいという許可が下りない。緊急時に不安定な機体を立て直す力がないことは、航空機にとって致命的な欠陥だからだ。

こんな感じでAlberto部長との話は2時間近くに及んだ。経験豊富な彼にとってはごく初歩的な航空エンジニアリングの話なのだろうけれど、僕にとっては全てが新鮮で面白いことばかりだ。分かりやすく図に描いて説明してくれるAlberto部長の話を、僕はいつも小学生のように「うん、うん」と頷きながら聞いている。おかげで航空機に関してはかなり詳しくなることができた。

こんなに新しいことを勉強させてもらえて、しかも、給料まで支給してくれるなんて、本当に僕は恵まれていると思う。ATR社に感謝だ。Merci!

(写真はルフトハン航空系列のContact AirのATR機。ヨーロッパでは大活躍。)
 

デザート攻め

2007年09月05日 | インターンシップ
 
フランスといえば世界に誇る美食の大国。カフェで食べるカジュアルなランチから星付きレストランで食べる豪華なディナーまで、フランス人の食に対する情熱はハンパではない。その姿勢は食後のデザートにも表れていて、子供から大人まで、皆がおいしそうに食後のデザートを楽しんでいる姿を毎日目にする。

ATR社のカフェテリアで毎日食べるランチでも、デザートは量も種類も豊富に用意されていて、メインディッシュを食べた後にこんなに食べられないだろうというくらい一皿の分量がある。甘いものが苦手な僕にとっては、一皿選択するだけで大変な作業だ。どれが少ないか、どれが甘くなさそうか、ちょっと時間をかけて観察しないと分からない。

今日はデザートとしてパイナップルのヨーグルトのようなもの(詳細不明)を選んだのだけど、これは思った以上においしかった。甘さも控えめで、パイナップルの甘酸っぱさがヨーグルトの中に絶妙に溶け込んでいる。久々においしくデザートを最後まで食べられた気がする。

大変だったのはこの後だ。同僚のクリスティアン達と一緒にランチをとっていたのだけど、今日はチョコ・クレープの日だったらしく、「NOBU、フランスといえばクレープ・ショコラ。おごってやるから食べてみろ」ということで、気付かないうちに僕専用のクレープが一皿用意されていた。

僕もチョコは嫌いではないので、Merci!といってありがたく頂くことにしたのだけど、やはりパイナップルヨーグルトを食べた後でチョコ・クレープ一枚はキツイ。しかも、上にかけられているチョコの量がハンパではない。それでも残すと失礼なので、頑張って最後まで完食した。

さて、ランチもデザートも終了したのでオフィスに戻ろうと思ったら、もう一人の同僚のギョームが今度は「アイスが食べたい!」と言い始めた。どうやら「マグナム」という特別なアイスがあるらしく、普通のアイスよりもちょっと高級でいい感じらしい。NOBUもぜひトライすべきだと薦められ、結局付き合いで僕もアイスを食べることになってしまった。

思った以上に濃厚なティストのアイスをなんとか食べ終わった僕は、さすがにこれでもう終わりだろうと思っていた。しかし、僕が甘かった。カフェを飲まなきゃランチは終われないらしい。

ATR社のカフェテリアの出口にはカフェコーナーがあって、ここにはフランス製カフェマシンとイタリア製カフェマシンの2台が用意されている。いつも係りの人がフレンチかイタリアンかを聞いてくれ、煎れたてのカフェを20Centsで楽しむことができるのだ。

僕はもうお腹いっぱいだったのだけど、カフェなしに立ちぱなしで話込むのもいやなので、今日はフレンチ・カフェを注文することにした。チョコ・クレープにアイスにもう糖分を取りすぎだと思ったので、砂糖は一切入れなかった。しかし、クリスティアンもギョームも砂糖を2つ、3つさらに入れている。そんなに糖分とったらキミ達病気になるよと言いたくなってしまう。大丈夫なのだろうか?

お肉もお魚も、パスタもピザも、全てが最高においしい。でも、最後のデザート攻めだけがちょっと大変なATR社ランチなのでした。


(写真はクレープ・ショコラ)
 

航空機メーカーの成功

2007年09月01日 | インターンシップ
 
新たな市場に新たな航空機を売り込む場合、まず一番に考えなければならないと教えられたことがある。それは、顧客エアラインをいかにして成功させるかということだ。航空機を買ってくれる航空会社の成功無くして、航空機ビジネスの成功はあり得ない。それがここATR社で僕が一番最初に教わったことだ。

航空機メーカーにとっては、航空機を売ってしまえばその航空機の価格分の利益を確保できる。利益を確保することが企業の最大目的だとするならば、航空機を売った時点でそれを成功と定義することもできる。実際、Break Even(損益分岐)以上の機体数を販売することによって、航空機メーカーは確実に利益を上げているのだ。だが、それは十分な成功とは言えない。

航空機メーカーとして航空会社の成功をサポートしなければならない理由は主に2つある。その一つが、航空ビジネスに関する収益の7割から8割が、全てアフターセールスで発生しているという事実だ。つまり、航空機を売った後のトレーニングや部品補給、メンテナンス等のカスタマーサービスから得られる収益のほうが、最初に航空機を販売することによって得た利益の額よりもはるかに大きいのだ。

もう一つの重要な理由は、中古機としての航空機の価格をできる限り高く保たなければならないということだ。航空機の平均寿命は大体25年から30年と言われていて、持ち主である航空会社も次から次へと変わっていく。持ち主が変わるたびに中古機としての航空機の価格は下がっていくのが普通だ。多少の例外はあるものの、時間が経ってどんどん古くなっていくのだからそれは仕方のことだ。

ATR社の航空機を使っている航空会社がビジネスに成功すれば、当然マーケットにおけるATRの航空機の魅力度は増す。マーケットにおける魅力度が増せば、たとえ中古機であってもATR機を買いたいという航空会社が増える。しかし、成功している航空会社は所有するATR機をなかなかマーケットに売りに出さないので、マーケットには中古機とししてのATR機がほとんど存在しなくなる。もしくは、中古機としてリーズナブルな価格で販売されているATR機を見つけるのが極めて難しくなる。結果として、航空会社の目は新品の航空機に向けられるようになるのだ。

逆に言えば、成功する見込みのない顧客に航空機を販売することは、長い目で見ればATR社に好ましくない状況をもたらす可能性があるということだ。航空機を販売した時点で得られる機体価格は手に入るものの、アフターセールスの収入も見込むことができないし、何より転売先に安く叩き売られて中古機としてのATR機の価格に悪影響を及ぼす。目先の利益に目を奪われて、最終的な利益を最大化することを忘れた最悪の意思決定なのだ。

その意味で、僕が今取り組んでいる航空機の新市場戦略立案には、決して目先の利益に目をとらわれない、長い目で先を見越した分析が重要になる。口で言うのは簡単なのだけど、忠実にこれを実行するのがいかに難しいか、今身を持って実感しているところだ。

目先の利益にとらわれず、最終的な利益の最大化を目指す。これが本当に難しい。

(写真はトゥールの街並み)
 

中国におけるATR

2007年08月30日 | インターンシップ
 
僕がインターンとして勤務するATR社には、実は北京事務所がある。正確には事務所があるというよりも、Sales Representative(セールス責任者)をフランスから派遣し、彼の下で計3人の中国人スタッフが働いているだけの小さなオフィスだ。

今日ちょうど北京オフィスからトレーニングのために中国人スタッフがトゥールーズの本社にやってきていたので、お昼に一緒にランチをとることにした。僕は大学時代に中国語を勉強していたのだけど、ビジネスレベルの中国語会話にはさすがについていけない。自己紹介だけ簡単に中国語で済ませ、後は全て英語で会話をすることになった。

北京オフィスで働く彼女の話によると、中国では日本以上にTurboprop(プロペラ)機に対する乗客の抵抗が強いのだそうだ。ジェット機全盛の時代になぜ一昔前のテクノロジーを使って空を飛ばなければならないのか、それをなかなか理解してもらえないらしい。もちろん、乗客の抵抗感の強さはそのまま航空機の魅力度として航空会社に認識され、僕達のようなマーケティング担当者にとっては無視できないファクターとなる。

しかし、ATR社の航空機にはプロペラが付いているものの、実はジェットエンジンで空を飛んでいる。皆さんが普段乗っているようなジェット機に付いているファンジェットエンジンと基本的に同じだ。ただ、ジェット燃料を燃焼することで得たエネルギーをプロペラを回すのに用いるのか、あるいは、ブレードの付いたタービンを回すのに用いるのかの違いだ。ターボプロップ機は、昔の小型プロペラ機のようなレシプロエンジンで飛んでいるわけではない。

中国には既に5機のATR機が導入されている。その意味では、まだ一機もATR機が導入されていない日本よりも、中国のほうがマーケティング戦略的に先を行っているといえるだろう。また、韓国でも既に2機のATR機がフライトサービスを提供している。そして、今後その数はさらに増え続ける見込みだ。

環境にやさしく、運行コストが安く、値段まで安い。そんな優秀な航空機でもなかなか売れない国がこの世にあるというのだから、航空機ビジネスは一筋縄ではいかない極めて難しいビジネスだと思う。その難しさにチャレンジングな要素がたくさんあって、そこがまた僕にとっては面白い。

技術開発として成功することと、ビジネスとして成功することは、本当に全く別のものなんだと最近は身をもって実感するようになってきた。そこがインターンシップをすることの価値なのかもしれない。

(写真はアジア地区におけるATR社の進出地域)
 

ATR社の記事

2007年08月28日 | インターンシップ
 
トゥールーズにまた夏が戻ってきた。朝から雲一つない澄みきった青空が広がっていて、先週までの寒さが嘘であるかのように気温もぐんぐん上がっていく。こうでなくちゃ夏を過ごした気分にならない。

トゥール・ポワティエの旅から帰った僕は、今週もまたATR社での勤務を続けている。早いもので既に勤務も3ヶ月目に突入した。そろそろ修士論文の準備も含めて、成果のまとめに入らなければならない。

そんなことを考えていたちょうどその時、日本にいらっしゃるあるお方からホットなニュースを送っていただいた。ATR社のことが日本のビジネス誌で記事になっているというのだ。僕はワクワクしながらファイルを開いてみた。

タイトル:『小型旅客機の価格破壊者 仏ATR参入で国産ジェットに新たな不安』

いかにも衝撃的なタイトルだ。『価格破壊者』なんて激安スーパーの安売りセールに使う表現であって、一機何十億円もする航空機に使うべき言葉ではない。航空機のカタログ価格はあってないようなもので、全ては交渉次第で決まる。売手の交渉力、買手の交渉力、マーケットの状況など、あらゆる要素が複雑に絡み合って航空機の価格は決定されるのだ。それを小売店と同じレベルで表現してしまっているあたりに、センスと知識の無さを感じてしまう。

書かれている内容は、今年6月にATR社の親会社の一つであるイタリアのフィンメカニカ社の幹部が日本を訪れ、日本市場への参入を正式に表明したというもの。僕の直属のボスであるGianni副社長の名前も出ていて、カナダのボンバルディア社が独占する日本の小型機市場に対し、ATR機の運行コストの安さをウリにして各航空会社にアピールしていく、といったことが書いてある。

面白いのは、三菱重工業が中心になって現在開発を進めている国産ジェット機への影響を大げさに心配している点だ。「新たな強敵が出現!」といった論調で、まるでATR社が日本の国産ジェット機の未来を潰そうとしているかのような語り口だ。まあ、このタイミングで新規市場参入を仕掛けるのだから、そう受け取られても仕方がないのかもしれない。しかし、ちょっと大げさだと僕は思う。

三菱ジェットの価格が一体いくらになるのかは正確には分からないが、僕の予想ではおそらくATR機の2倍から2.5倍くらいの価格帯になるのではないかと考えている。もし競争が発生するとすれば、それは決して価格競争ではなく、Value(価値)の競争になるはずだ。顧客が求めるスペックを、顧客が満足して支払えるのレベルの対価で提供できるかどうかが勝負なのだ。

ATR機が日本の空を飛ぶ日は、それほど遠くないかもしれません。

(写真は日経ビジネス7月16日号より)
 

オフィスは遊び場

2007年08月22日 | インターンシップ
 
フランス&イタリアの合弁企業であるATR社で勤務をしていると、オフィスは基本的に退屈な場所であって、そこでいかに楽しく過ごすかに全力投球しているしている姿をよく目にする。その中でも今日の出来事は僕にとって少し衝撃的だった。

何が起こったかというと、ラジコンヘリコプターが僕の部屋の中へと進撃してきたのだ。犯人は同じくMarketing(マーケティング)部門で勤務するクリスティアンとギョーム。彼らは実際に顧客の元へと航空機の売り込みにいくセールスエンジニアだ。

ちょっと見えづらいかもしれないのだけど、写真では2機のヘリコプターが僕の部屋の中を旋回している。別に特定のミッションがあるわけではなくて、時々僕のパソコンの上に着陸したり、僕めがけて急降下で向かってきたりするだけだ。簡単に言うと、真面目に仕事に取り組む日本人の僕をなんとかして彼らの世界へ引き入れようと、あの手この手で「一緒に遊ぼう~!」と誘っているのだ。

ここまでやられるとさすがに仕事にならないので、僕も彼らの要求に応じてラジコンヘリで遊ぶことにした。プライベートでは実際のヘリコプターパイロットであるクリスティアンから大体の操縦方法を教わり、さっそく僕は人生の中での初フライトを経験した。

スロットルのレバーを上げるとヘリコプターのプロペラはどんどんと回転速度を上げ、やがてゆっくりと上昇していく。天井にぶつかってはいけないので、ある程度でプロペラの回転速度を落として機体を安定させる。ちょうどヘリコプターが空中に静止するホバリングの状態だ。

ホバリングが上手にできるようになったので、今度は左右のレバーを使ってゆっくりと左旋回、右旋回を繰り返してみた。レバーに加える力加減をちょっと変えるだけで、ヘリコプターは進路を変えて僕の意志とはまったく逆の方向に飛んでいく。やる前の印象とはまったく違って、これは本当に楽しい。雨の日には家の中でも遊ぶことができるスグレものだと思った。

聞いた話でしかないのだけど、インターネット検索大手のグーグル社では、会社の中に遊び道具を持ち込むのが当たり前になっているらしい。仕事と遊びとの境界を取り払うことで、遊び感覚から生まれるCreativity(創造力)を仕事のアウトプットへ進化させていこうという意図的な政策なのだ。今日僕がオフィスでやったことは、まさしくそれに近い。

仕事を楽しみ、クリエイティブな成果を出す。そのためには退屈なオフィスであってもとにかく遊ぶ。なんとなく理屈が通っているような気がするのは僕だけだろうか。

ラジコンヘリコプター、フランスで買うと40ユーロ(約7,000円)だそうです。日本のオフィスでやると間違いなく怒られると思うので、くれぐれもご注意ください。

(写真は僕の部屋を旋回するヘリコプター。仲間に誘われ僕も一台購入予定。)
 

航空マーケット分析

2007年08月17日 | インターンシップ
 
つい先日のことなのだけど、長らく日韓の行政当局によって規制されてきた日韓間の航空ルートが、基本的に自由化されることが決まった。これまでに小さな動きはいくつかあったものの、1967年に大枠が決められて以来の一大規制緩和だ。

今回の自由化によって、基本的に日韓の航空会社は、両国のどの空港にも自由に乗り入れができるようになる。ただし、一部例外も設定されていて、日本の羽田空港と成田空港だけは、あまりにも混雑しすぎているという理由で対象外となったらしい。その他、韓国のソウルにある仁川国際空港や日本の成田空港では、週73便までという制限内で自由にフライトが設定できる。つまり、これ以外の空港なら、両国の航空会社は自由に何便でも日韓間の空を飛ぶことができるのだ。

日本と韓国は最短距離で数百キロしか離れていないにもかかわらず、ヨーロッパでは既に常識となっているOpen Sky(オープン・スカイ)政策が全く進んでこなかった。おそらく、歴史的な背景に加え、様々な政治的要因が絡んでオープン・スカイ政策の進展を阻害してきたのだろうけれど、これでようやく両国の空に自由がもたらされたことになる。とても素晴らしいことだと僕は思う。

こういった大きな動きは、航空機メーカーのMarketing(マーケティング)担当者として、決して見逃してはいけない貴重な情報だ。なぜなら、当該地域のマーケティング戦略に大きな影響を与えるからだ。影響というより大きなビジネスチャンスをもたらすと言ったほうがいいかもしれない。当然、ATR社の情報ネットワークでも第一報が流され、追加の情報を調査するように僕に要請が入ってくる。

日本語での情報検索ならインターネットを使っていくらでもできるのだけど、問題は韓国側の情報をどうやって調査するかだ。僕は大学時代に中国語を勉強したものの、韓国語については全く分からない。日本側だけの情報では、一方に偏った判断をしてしまいかねない。それはとても危険なことだ。

僕は迷わずMBAのクラスメートである韓国人のJin-Wookに協力を求めた。こういうときに大きな力を発揮するのが、Aerospace MBAの国際ネットワークだ。ある人は、MBAへの投資の大部分は人的ネットワークへの投資だと言っていた。卒業後にどれほど役に立つかという基準でみた場合、ある意味当たっていると思う。

並行して僕も自分なりに分析を行い、ビジネスチャンスがあるかないかを見極めようとしている。そして、いろいろな分析を経て分かったことは、韓国のプサンから日本へのフライトが、現時点では成田、関空、名古屋、札幌のわずか4空港に限られていることが分かった。

プサンといえば、韓国第2の都市だ。その大都市プサンから日本へフライトするルートが、実際4ルートしかない。しかも、このプサンから400マイル以内の距離には、日本でも一定規模の人口を誇る中核都市がいくつも存在している。本当に現状の航空サービスで需要は100%満たされているのだろうか。僕にはそうは思えない。

それに、400マイル以内の距離といえば、Turboprop(ターボプロップ)機であるATR機が、その経済性において大きな威力を発揮するフィールドだ。スピードではジェット機に勝てないものの、この程度の距離であれば全体としてのフライト時間の違いは10分から20分程度でしかない。スピードが大きな違いを生む水平飛行の時間が、長距離フライトに比べて極めて少ないためだ。その一方で、燃料費をはじめとしたDirect Operating Cost(直接運行費)がジェット機よりも格段に安くて済むのだから、この程度の距離にターボプロップ機を使わない手はない。

こんなことを考えながら、データを精査して分析を行い、説得力のある結論を導き、最終的に航空機販売戦略という目に見える形にしていくのが、今の僕の仕事だ。

少しでも僕の仕事のイメージが伝わったなら嬉しいです。

(写真は分析の一部をビジュアル化したもの。プサンから日本へのフライトルート)