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宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

国際宇宙大学でのプレゼン

2007年10月07日 | インターンシップ
 
午前中の国際宇宙大学での授業を終えた僕は、さっそく午後2時からのプレゼンに備えることにした。会場はキャンパス内にある講義室だ。部屋も新しく、設備もしっかり整っている。快く場所を提供してくれた国際宇宙大学に感謝したい。Merci!

僕が今日プレゼンをすることは、国際宇宙大学の学生の間にもしっかりと周知されていた。ある日本のMBA学生がこういうテーマで講演をしにくるから、興味のある人はぜひ聞きに行ってください、という内容だったらしい。しかも、このメールは国際宇宙大学の教授陣にも展開されていて、後で知ったのだけど僕は大学内で「コイツは何者だ?」と話題になっていたらしい。それも当然といえば当然だ。国際宇宙大学に一度も来たことのない日本人が、ある日いきなり大学にやって来て、宇宙とはあまり関係のないテーマでプレゼンを仕掛けてきたのだ。前代未聞のことかもしれない。

僕のプレゼンには、結局20人近い学生の皆さん、それに、国際宇宙大学の教授にティーチングアシスタントが参加してくれた。実をいうとこの日は金曜日で午後の授業は一切予定されていなかった。つまり、皆さん僕のプレゼンを聴くためだけにわざわざ学校に残ってくれたのだ。彼らの好意に心から感謝しなければならない。Merci beaucoup!

予想以上の参加者に驚いた僕は、いつも以上に心を込めて、丁寧にプレゼンをするよう心掛けた。礼に対しては礼を尽くさなければならない。最高のプレゼンをすることこそが、彼らに対して今僕にできる最大の恩返しだ。僕はパワーポイントの最後のページの最後の一行までしっかりと、論理的に、かつ、分かりやすく説明をしたつもりだ。

僕が現在取り組んでいるテーマは「航空」に関するものなので、本当をいうと彼らの興味の的ではない。彼らは「宇宙」を学びたくてこの大学にやって来ている。しかし、彼らは実に熱心に僕のプレゼンを聴いてくれた。そして、プレゼン終了後も矢のような質問を次々と僕に浴びせてきた。午前中の授業での静かさがウソのようだった。結局、質疑応答も含めて全てが終わった時には、プレゼン開始から既に1時間半近くが経過していた。

驚いたのは、プレゼンも質疑応答も全てが終わった後で、何人もの学生さんが僕の周りにやってきたことだ。彼ら曰く、僕のプロジェクトに対してまだまだ質問したいことがたくさんあるらしい。この感覚、どこかで経験した記憶がある。そう、採用担当をしていた時のあの会社説明会が終わった直後の感覚だ。いつも学生さんが僕の回りにやってきて、説明会中に聞きそびれたことを僕に質問してきたのを覚えている。あのときのあの感覚と全く同じだ。とても懐かしい感覚だ。そして、僕にとって最高に嬉しい瞬間でもあった。少なくとも、彼らは僕のプレゼンに興味を示してくれたのだ。

一番僕の心に響いたのは、ある学生から最後に言われたこんな一言だった。

「いつもは全く講義のノートをとらない学生達が、あなたのプレゼンには熱心に耳を傾け、必死にメモをとっていた。本当に驚いた。」

僕が今使っている名刺入れは、フランス留学に際して会社の同僚達から心を込めてプレゼントされたものだ。その大切な名刺入れから、今回僕の名刺が大量に消えていった。その事実こそが、今回のストラスブース出張の成果を物語ってくれていると思う。

ストラスブールまで来て、本当に良かった。

(写真はライン川沿いの風景)
  

ストラスブール出張

2007年10月06日 | インターンシップ
 
パリ出張で予定されていたミッションを全てやり終えた僕は、次なる目的地ストラスブールに向かうことにした。ストラスブールは、パリからTGVで東に向かうこと約2時間の距離にある、ほぼフランスとドイツとの国境にある街だ。

今回のストラスブール出張を企画した一番の目的は、この街の郊外にあるInternational Space University(国際宇宙大学)において、学生さんの前で僕のプレゼンテーションを行うことにある。企業に対するプレゼンはパリでもう十分に行ったので、今度は学生さんとアカデミックな教授陣に対するプレゼンを行い、また違った角度からの新鮮なフィードバックを受けたいという思いがそこにはあった。そして、一連のプレゼンの結果を受けて、僕のATR社でのプロジェクト報告がついに完成することになる。

11時のアポイントに間に合わせるため、僕は眠い目をこすりながら朝6時54分発のストラスブール行きTGVに飛び乗った。本当は車内でもプレゼンの準備をしようかと思っていたのだけど、睡魔に負けて深~い眠りに落ちてしまい、結局気付いた時にはTGVは既にストラスブール駅に到着していた。人間、睡魔には勝てない。

ストラスブール駅に着いた僕は、早速市内を走るトラムに乗って国際宇宙大学のキャンパスに向かった。11時のアポイントというのは、実はプレゼンの時間ではなく、国際宇宙大学で行われている修士コースの授業に参加させてもらうための約束の時間だ。外部から来た聴講生の身分で授業に遅刻するわけにはいかない。途中で何度か道に迷ったものの、なんとか僕は11時前にキャンパスに到着することができた。

今日の授業のテーマはSpace Insurance(宇宙保険)。リスクの高い宇宙ビジネスには決して欠かすことのできない必須テーマだ。授業はまず、宇宙ビジネスの特殊性に関する一般的な説明から始まり、次第に保険ビジネスにおけるUndertaker(保険引受人)の存在、そして、Reinsurance(再保険)の重要性、さらには、リスクプレミアムと保険引受能力の相関関係について、かなり専門的な視点から講師が具体例を使って説明するという形式だった。

僕が参加したAerospace MBAの授業であれば、こんな興味津々のテーマであれば学生が矢のように質問を浴びせるし、学生と学生の間でも盛んに議論が行われるのが普通だ。当然、講師の先生もなかなか授業を先に進めることができず、いつも時間オーバーしていた記憶がある。しかし、国際宇宙大学の学生さんはちょっと大人しいようだ。1時間ちょっとの講義の中で、質問をしたのはたった1名だけだった。

それと、もう一つのMBAとの違いは、具体的に数字を使って自分の手と頭を動かしてシミュレーションする授業ではなかったということだ。MBAでは常に理論の理解と実践への応用がその場ですぐに求められる。ケーススタディにせよ、パソコンを使ったモデルの検討にせよ、理論だけを知ってそれで立ち止まることは決して許されない。2時間の授業の最初の40分で講義を受け、次の40分でチーム内で熱く議論し、最後の40分でプレゼンにまとめ発表する、といったスタイルの授業が日常茶飯事だった。授業は常に時間との戦いだった気がする。そんな緊迫感がここの授業にはない。それが僕としてはちょっと残念だった。

国際宇宙大学では、宇宙に関する2つの修士コースが提供されている。宇宙マネジメントコースと宇宙サイエンスコースだ。そのどちらを選択しても、最初は全員が全く同じ講義を受けることになるらしい。今年は約40名の学生が世界中から集まり、ここストラスブールで宇宙の専門家になるための特訓を受けている。

場所や手段は違っても、目指す方向性は皆きっと僕と一緒のはず。今回の訪問でできる限り彼らとコミュニケーションを図り、将来のためのネットワークを築いておこうと思う。

(写真は国際宇宙大学のキャンパス。Airchiguide Franceより。)
 

パリ出張(2日目)

2007年10月04日 | インターンシップ
 
パリ出張2日目の朝は、まだ薄暗いパリの風景から始まった。昨日の夜は外資系投資会社に勤める知り合いと夜遅くまで食事をし、様々なビジネスについて意見交換をしながら楽しい時間を過ごしたので、その余韻がまだ少し僕の中に残っている。自分とは全く異なる分野で活躍する人の意見というのは本当に面白い。見る視点も、角度も、何もかもが新鮮だ。日本に帰ってもこういう機会はどんどん増やしていきたいと思う。

今日は午前と午後で計2つのプレゼンをすることになっている。一つ目のプレゼンは、僕が日本で所属する機関のパリ駐在員事務所に対するプレゼンだ。僕はメトロに乗ってパリ駐在員事務所のある凱旋門の近くまで移動し、そこからは徒歩で事務所まで歩いていった。途中で在フランス日本大使館の前を通り過ぎる。幸いなことに緊急事態でここにお世話になることは一度もなかった。日本に帰国するその日まで、そんな事態がないことを願っている。

パリ駐在員事務所にやって来るのは実は今回で2回目だ。1回目は僕がまだMBAの受験生だった頃、キャンパスビジットでトゥールーズを訪問した際に、帰りのわずかな時間を利用してちょっとだけ立ち寄った。当時の駐在員の方はもういないのだけど、現在は日本で同じ部署で勤務していた先輩がパリ勤務をしており、久しぶりの再会に少し嬉しくなった。

パリ駐在員事務所では、僕が今ATR社で進めているプロジェクトについて、1時間半に渡ってプレゼンと意見交換をさせてもらった。業務多忙の中わざわざ時間を割いて鋭いコメントをしてくれた駐在員のお二人に感謝したい。Merci!僕の分析と提案に対し、同じ日本人の立場から鋭い指摘をしてもらうことができたのが一番の収穫だ。それが今回のパリ出張の大きな目的の一つでもある。

パリ駐在員のお二人と一緒にランチをとった後、僕は次のプレゼン先へと向かった。今度は一転してヨーロッパ系の宇宙航空企業に対するプレゼンだ。非公式なプレゼンなので企業名は伏せておくとして、僕としては彼らヨーロッパの視点から見た率直なコメントを聞きたかった。

人間の目というのは、常ににBias(偏見)に満ちていると僕は思っている。だからこそ、何かを正確に分析するときは決して片方に偏らないバランスのとれたインタービューをすることが大事なのだ。日本とヨーロッパそれぞれに対する今回のプレゼンは、まさにこの意見のバランスをとるために僕が計画したものだ。

プレゼンの内容について詳しく書けないのがとても残念なのだけど、今回の予備プレゼンを経て、僕の中でプロジェクトに対する答えがより一層ハッキリ見えてきた気がする。自分の目では決して見えなかったものが、人の目を介して見えるようになったといってもいい。僕一人の力でできることなど本当にごくわずかでしかない。しかし、プロジェクトに多くの人を巻き込むことに成功しさえすれば、その成果は何倍にも膨れ上がる。

僕のプレゼン修行の旅はまだまだ明日も続く。喉の調子を壊さないようにして、大きな収穫を得てトゥールーズへと帰りたい。
  

パリ出張(1日目)

2007年10月03日 | インターンシップ
 
今日から3泊4日の予定でパリ&ストラスブール出張。いろんな意味で僕のフランス留学生活の集大成になる出張だ。前回のパリ出張ではホテル関係でヒドイ思いをしたので、今回は高くてもちゃんとしたホテルを予約した。やはり、快適さが全然違う。

僕は午前中のATR社での勤務を終えると、急いでトゥールーズ空港へと向かった。空港とATR社の本社とは車を使えば3分とかからない。しかし、今回予約してあるフライトが格安航空会社のEasy Jet(イージー・ジェット)便であるため、決して時間に遅れることはできない。彼らはコストだけでなく、時間に関しても非常にシビアなのだ。

というのも、彼らにとって一番大切なのは、いかに長い時間飛行機を空に飛ばし続けるか、ということだからだ。すなわち、一度空港に着陸してから次に離陸するまでの時間が短ければ短いほど、彼らの売上げは理論上増えることになる。もちろん、80%以上の席は乗客で埋まっているという前提での話だ。

なんとか時間に間に合ったものの、出発の25分前になって信じられないアナウンスが流れた。フライトが1時間遅れるというのだ。当然、周りにいたフランス人からブーイングの声が上がる。そんなの出発の25分前にならなくても分かることじゃないか!とツッコミたいが、まあそれも仕方がない。自分でコントロールできないものに腹を立てても何の前進もないのだ。

結局飛行機は1時間以上遅れてトゥールーズに到着した。僕が今回イージー・ジェットを選んだのは、彼らのTurn Around(到着してから再離陸するまでの作業)をこの目で見てみたかったからだ。MBAで講義に来てくれたイージー・ジェットの元マーケティング部長の話によると、彼らもF1チームのピットイン作業をベンチマークし、このターン・アラウンド時間を25分にまで短縮することに成功しているそうだ。果たして本当に25分で乗客を降ろし、機内を掃除し、新しい乗客を入れ、離陸の準備をしっかり終えることができているのかどうか、この目で確かめてみたかった。

僕は自分の時計で時間を計っていたのだけど、結果は32分だった。25分には程遠いが、エールフランスや他の大手航空会社に比べれば格段に早い時間だ。かといって雑なわけではなく、作業を限りなくシンプルにしてあるだけだ。つまり、余計なことは一切しないが、必要なことはちゃんとする。それが彼らのスタイルだ。

機内に入って驚いたのは、男性のFA(フライトアテンダント)の多さ。エアバスA319という100人ちょっとしか乗れない小さな機体なのだけど、なぜかFAが6人も乗務している。その6人のFAのうち、なんと5名が男性なのだ。この違いにはびっくりした。日本の国内線とは大違いだ。

彼らの機内での動きや働き方もしっかりウォッチしておいた。本当にシンプルで動きにムダがない。加えて、有料での飲み物、サンドイッチ、お菓子の販売など、ありとあらゆる時間と空間をProfit(利益)創出のために費やしている。お金にならない時間は極力短くし、少しでもお金になる時間は決してそのチャンスを逃さない、そんな感じだ。

やはり授業で習ったことを実際にこの目で確かめるのは本当に面白い。新たな発見もいくつかあったし、MBAの教授陣が授業で言っていたことの真偽を確かめられたことが今回の一番の収穫だ。

Easy Jetで飛んでみて本当に良かった。機会があればぜひ一度トライしてください。勉強になります。

(写真はEasy Jetの機体)
 

日本食レストラン

2007年10月02日 | インターンシップ

今日はお昼をいつものATR社カフェテリアではなく、車で約10分の日本食レストランで食べることになった。前から同僚のギョームから「おいしい日本食レストランを見つけたから、皆で食べに行こう!」と誘われていて、ついに決行の日となったのだ。

トゥールーズにあるその日本食レストランの名前は、『寿司屋料理』。日本では絶対にありえないネーミングだ。それでも、レストラン名がちゃんと漢字で書いてあるのだからおいしいはずだ!と言い張るギョームに従い、お腹が空いていた僕達は急いでレストランの中に入った。ちなみに今日のメンバーは、フランス人のギョーム、コルシカ島出身のクリスティアン、モロッコのオスマン、インドのパラビィ、そして僕の計5人だ。

海外で日本食レストランに入る場合、僕の経験では大きく分けて2種類の経験をすることになる。一つは、ちゃんと日本人のオーナーやシェフが経営していて、本格的な日本料理を出し、日本人のアルバイトを雇っているところ。もう一つは、経営者が中国か韓国、もしくは、東南アジア系の出身者で、働いている人が一切日本語を話せないところ。今日行った『寿司屋料理』は、まさに後者の典型例だった。

メニューを見ると、寿司、刺身、うなぎ、天丼など、なるほど日本料理といえるものは一通り揃っている。ギョームとオスマンは「スシとサシミがどうしても食べたい」と言い張り、お昼のセットメニューを注文した。僕はこういうタイプの日本食レストランの「スシ」がどんなものか大体知っているので、あえてそれは避けて今回は「カツドン」を注文をすることにした。もちろん、こちらにもそんなに期待はしていない。クリスティアンとパラビィは、僕が注文したものを自分も食べてみたいと言い、同じく「カツドン」を注文した。

待つこと40分。いくら混んでいるとは言え、待たせすぎだろうと思う。でも、何を言っても「私に出来ることはありません」と言われるだけなので、皆で楽しく話をしながらひたすら料理が出来上がるのを待った。40分後、エビアンのボトルを6本もあけたところでやっと僕達の料理がやってきた。

最初に出てきたのは僕が注文した「カツドン」。といっても、白いゴハンの上にカツが載っていて、その上からウスターソースがちょっとかけてあるだけだ。タマネギも卵も何も載っていない。ここまでカツドンをシンプル化できたことにあえて拍手を贈りたい。IKEAの家具にも負けないシンプルさがそこにあった。

続いて、ギョームとオスマンが注文したお寿司&お刺身セットがやってきた。予想どおり、サーモンのオンパレードだ。海外、とくに、ここトゥールーズで寿司というと、皆揃ってサーモンを食べまくる。握っても、巻いても、常にサーモンばかりを食べ続けるのだ。

ギョームが自分の寿司を一口食べて日本人としての感想を言ってくれと頼んできたので、好意に甘えてサーモンの巻寿司を一口だけパクリ。う~ん、熱い。これは「寿司」と呼ぶより、「生魚入おにぎり」と表現したほうがふさわしい一品だ。それでも笑顔で「どうだ、おいしいだろ、ここの寿司は」と僕に詰め寄るギョームを見て、さすがにおいしくないですとは言えなかった。「日本にはないとても新鮮な味だね」と答えておいた。

日本に帰るまであと一ヶ月ちょうど。おいしい日本食はそれまで我慢しよう。

デモフライト

2007年10月02日 | インターンシップ
 
新しい市場の新しい顧客に、新しい航空機を新しい手法で売り込む。その壁の高さは十分に承知しているものの、やって出来ないことはないと自分の可能性を信てATR社で勤務している。勤務開始からもう3ヶ月以上が経過した。時間が経つのは本当に早い。

航空機の売り込み方というのは、国や地域によっても本当に千差万別だし、顧客である航空会社のタイプによっても多少異なってくる。彼らが航空機をどのようなルートで、どれほどの頻度で、どのような乗客に対して提供しようとしているのかまでを考慮して分析しないと、決して魅力的な提案をすることなどできない。前にこのブログで書いた『航空会社の成功こそが航空機製造メーカーの成功である』という言葉の本質は、まさにこのあたりにある。航空機メーカーのマーケティング担当者が決して忘れてはならない大切なことだ。

新たな航空機を世に送り出す時や、新規な市場に進出する時などは、デモフライトという手段が一番効果的だと言われている。実際に売り込む航空機とともに潜在顧客のいる地域を飛んでまわり、実物をもって航空機の良さをアピールするのだ。百聞は一見に如かず、ということで、デモフライト以上に航空機の良さを顧客に伝えられる手段は他にはないと僕も思う。

Airbus(エアバス)社が現在売り出し中の最新鋭超大型旅客機A380も、現在世界各地の主要な空港を回ってデモフライトを実施中だ。もちろん目的は航空会社の幹部や各国の政府関係者を招待してのA380アピールが中心なのだけど、その他にも超大型のA380が各地の空港で問題なく運行できるかどうかのテストも兼ねているようだ。1粒で2度おいしい、まさに戦術としてはお手本だといえる。

航空機は、1機あたり数十億から数百億円もする超高額商品だ。僕の勤務するATR社のATR-42が定価で$14Mくらい、そして、ATR-72が大体$18Mくらいだ。ただし、航空機の価格というのは、一度に購入する機数によって通常大幅なディスカウントが行われるのが普通なので、定価というのはあってないようなものだ。全ては交渉次第だといえる。

しかし、大体の価格が分かり、実際にデモフライトに乗って機体を確かめ、そしてすぐに『はい、コレください』ということには決してならない。必要な資金をどう調達するか、輸出や輸入の手続きをどうするか、航空機製造メーカーがどこまでリスクを負い、航空会社がどこまでリスクを負うか、予定する引渡し日が遅れた場合はどうするかなど、価格以外にも両者で話し合って決めなければならないことは山ほどある。

最近のトレンドとしては、大手航空会社が大量の航空機をまとめ買いすることが多い。一度に大量な注文を出すことによって、航空機製造メーカーにスケールメリットを与え、対価としてに大幅な販売価格のディスカウントを引き出すのだ。50機、100機まとめて数兆円という契約も最近ではもう珍しくない。

航空機が100機まとめて売れた時の気分は、一体どんなものなのだろう。その気分を実際に味わうには、僕の4ヶ月半というインターン期間はあまりにも短すぎる。

それが唯一残念だ。僕もいつかその気分を味わってみたい。
 

相手の仕事を理解する

2007年09月21日 | インターンシップ
 
ATR社のMarketing(マーケティング)部門で勤務をするようになって、相手の仕事を理解することの大切さをひしひしと感じるようになった。というのも、ヨーロッパの企業ではマーケティング機能とセールス機能が互いに独立した部門として存在していることが多く、マーケティング部門はセールス部門に対する支援をその主なミッションとしているからだ。

もっと分かりやすく言うと、マーケティング部門で勤務する者は、セールス部門で勤務する者がより成果を上げられるように「弾を込める」(Formica副社長談)ことのできる存在でなければならない。そして、今この瞬間に、どの地域で、どの程度の「弾」が必要かを事前に察知し、適切なタイミングで適切な量だけ届ける、それが僕達マーケティング担当者の仕事なのだ。

アメリカ系の企業では一般にMarketing & Salesとして同じ人物が同じ役割を同時に果たすことが多いのだけど、ここヨーロッパでは相互に独立した役割として並存している。もちろん、全ての企業にあてはまるわけではないと思うのだけど、それが一般的な傾向であり、アメリカ系企業とヨーロッパ系企業との違いだ。

話を元に戻すと、この「弾を込める」という仕事を進めるにあたって一番大切なのは、間違いなく相手がどんな戦場にいて、どんな武器を今使っているのかということだ。たとえが戦争っぽくなってあまりふさわしくないかもしれないのだけど、ライフルを使っている兵士に拳銃の弾を渡したって意味がない。同じように、大砲部隊からの依頼にマシンガンの弾を届けたってダメだ。とにかく、同じ「弾」という要求であっても、相手の使い方を知り尽くした上で最も適切な「弾」を用意する必要があるのだ。

僕が今日ATR社のある同僚から受けたデータ要求にも、全くこれと同じことが言える。彼が僕に依頼してきたのは、ある地域の空港に関するデータだ。空港に関するデータといっても、データベースを探せばいくらでも種類がある。滑走路の長さ、幅、駐車場の数、待機できる航空機の数、大きさ、航空管制無線の種類、許可されている最大の進入角度に最大離陸重量など、とにかくリストアップをしはじめたらキリがない。

なので、「相手の仕事を理解する」ことが極めて重要になる。僕に依頼をした彼の仕事はテクニカルセールスエンジニア。すなわち、ある空港でATR社の航空機が離着陸することが可能かどうかのフィージビリティスタディーをするのが彼の主な仕事だ。それを考えれば、少なくとも彼が今回必要としているデータが、空港の利用者数や経常利益高、パーキング施設や公共交通アクセスに関するデータでないことはすぐに分かる。

彼が欲しがっているのは、滑走路の距離と進入角度に関する規制、そして、離陸後の上昇やアプローチに邪魔になるような山や住宅地が周囲にないかどうか、さらには、その国の政府や地方公共団体が特殊な規制をかけているような形跡はないかどうかといったことだ。これらのデータに基づいて、彼はATR社の航空機の性能を考慮に入れつつ、この空港でのATR機のオペレーションが可能かどうかを判断するのだ。

マーケティング担当者は市場を分析するだけが仕事ではない。相手の仕事を理解し、その相手の仕事の成果を最大化できるような情報をどこからか探してきて相手に最も判りやすい形で提示する、それがマーケティング担当者の使命だ。少なくとも僕はここATR社でそう教えられた。

あとは日本での今後の仕事にこれをどう生かすかだ。それをしっかり考えたい。

(写真はタイからの留学生のPoonと。19歳には見えない。)
 

ビジネストリップ

2007年09月19日 | インターンシップ
 
ATR社でのインターン勤務も終盤に差し掛かり、MBAの修士論文も大詰めを迎えている。FASIAプログラムの卒業式も9月20日に控えていて、何かと朝から晩まで忙しい毎日が続いている。

そんな忙しい時こそ集中する、のではなく、あえて新しい世界に触れて狭くなった視野を広げる必要があると僕は考えている。ここヨーロッパに来てから特に強く感じるようになった、異質なものとの出会いによる新しい何かの創造だ。この新しい創造のパワーなくして、僕の中での進化はない。自分の中から自然発生的に何かを発生させるのではなくて、人に触れ、未知の何かに触発されて、自分の中に新しい何かを生まれさせるのだ。

なので僕は10月最初に独自のビジネストリップを企画することにした。パリとストラスブールを中心にいくつかの企業と大学を回り、僕が今進めているプロジェクトについて率直な意見を聞いて回ろうと思っている。僕の中にはない異質な視点からのコメントに触れることで、僕のプロジェクトの質はさらに高められるはずだ。そのための投資にムダは感じない。

僕はビジネススクールの教授にお願いして、昔ある航空機メーカーでターボプロップ機のマーケティング担当をしていたことがあるという研究者の方を紹介してもらった。その他にも、パリで宇宙航空企業に勤める知り合いにアポイントをとって、僕にプレゼンの機会を与えてもらうことに成功した。日本で僕が所属する機関のパリ駐在員事務所にも立ち寄って、同じ日本人の目から見た日本市場に対するコメントももらいたい。とにかく、3泊4日の強行日程の中で、できるだけたくさんの方にプレゼンさせてもらえるように今回のビジネストリップの日程を組むつもりだ。

前回のパリ出張ではホテル関係で本当にヒドイ思いをした。なので、今回は少し高くてもちゃんとしたホテルに泊まり、気力と体力を充実させたままいい仕事をし、実りある成果をトゥールーズに持って帰れるようにしたいと思う。それは最低限クリアしなければならないハードルだ。

すでに今回の出張計画についてはFormica副社長に提案し、承認をもらった。本当はこの時期にとても重要なアクションが僕の担当マーケットで予定されているのだけど、既に大方の調整は済んでいることと、一応MBAインターンなので自分のプロジェクトを優先させよということで、Formica副社長は快く許可してくれた。

ということで、僕は10月3日から6日まで、おそらくフランス生活最後になるであろうビジネストリップに出かける。今回もいい成果を出したい。

(写真はベルギーのルネ・マグリット作『心の琴線』。大好きな絵の一つだ。)
 

ライバル社の戦略

2007年09月16日 | インターンシップ
 
ATR社のライバルといえば、このブログでも何度か出てくるカナダのBombardier(ボンバルディア)社だ。世界の40席~70席のターボプロップ機市場をATR社と2分している。本当はスウェーデンのSAAB社やオランダのFokker社なども存在する、あるいは、したのだけど、現時点でまだ航空機の製造を続けているという意味において、この2社だけがターボプロップ機市場で生き残った。いわば勝ち組というわけだ。

そのライバルであるボンバルディア社のターボプロップ機DHC-8Q400が、今大変なトラブルに陥っている。スカンジナビア諸国で立て続けに発生したランディングギアトラブルを受け、カナダの航空当局が緊急耐空性改善通報を発令したのだ。これが出されると、その内容をしっかりとクリアするまでは基本的に航空機を空に飛ばすことができない。いわば、航空機業界のドクターストップといった感じだ。

カナダで発令された耐空性改善通報は、各国の航空当局を通じて世界中のどの国においても適用されることになっている。もちろん、日本でも国土交通省航空局を通じ、日本国内にある全てのDHC-8Q400機に緊急点検が命じられたのはニュースなどで報じられているとおりだ。安全性が確認されるまで、DHC-8Q400を使っている日本の航空会社は、全て運行をストップしなければならない。本当にイタイ打撃だ。

今回の突然の耐空性改善通報の影響は、僕が働くATR社にも少なからず影響を及ぼしている。端的にいうと、急に忙しくなった。社内も妙にあわただしいし、皆忙しそうに社内外を走り回っている感じだ。当然、僕に対するマーケット調査依頼も格段に増えてきた。自分のプロジェクトを今は中断して、こちらの一件に集中して対応している感じだ。

ボンバルディア社のターボプロップ機はDHC-8シリーズと呼ばれている。彼らの航空機戦略によれば、どうやらターボプロップ機の大型化に将来を見出しているようだ。ボンバルディア社のプレゼン資料についてはほとんど読み込んだのだけど、現在あるDHC-8の100、200、300、400というシリーズに加え、座席数を90席にまで増大したDHC-8Q400Xという新機種を開発中らしい。

ターボプロップ機の抜群の運行経済性に加え、座席数を増やすことでさらに一席あたりの運行コストをもっと引き下げる。それが今回の新規開発のねらいだ。それに加え、製品のラインナップを増やして顧客航空会社の選択肢を増やし、製品そのものの魅力度を全体的にアップするという効果も見込んでいるはずだ。このあたりの戦略は、ATR-42とATR-72という2機種に絞ってシンプルに高性能化を追求するATR社とは大きく戦略的に異なる部分だ。どちらがマーケットの心をより掴むことができるか、それは数年後に結果を見てみなければ分からない。

Simple is best. Simple is best. Simple is best.

僕は心の中でATR社は絶対に負けないと信じている。

(写真はボンバルディア社のDHC-8シリーズ。HPのプレゼン資料より。)
 

ラグビーランチ

2007年09月14日 | インターンシップ

今日のランチタイムはいつもと違った。ATRのカフェテリア全体を使って開催される、ラグビーランチだ。

といっても、ラグビーを観戦しながら食事をするとか、ラグビーのチケットが当たるとか、そんな類のスペシャルランチではない。カフェテリアの出迎えから、メニュー設定、デザートに至るまで、全てがラグビーのワールドカップに因んだ趣向が凝らされているのだ。

まず最初に驚いたのが、カフェテリアの受付で待ち構えるハワイアン美女。なぜハワイアンなのかは不明なのだけど、おそらく太平洋地域から出場しているフィジーやトンガなどの強国を意識したパフォーマンスだと思われる。ビキニ姿に腰ミノだけをつけた、いかにもポリネシアン系のお姉さんから花の首飾りをかけてもらう。彼女、わざわざ現地から呼ばれたのだろうか。とりあえず記念に同僚と写真を一枚パチリ。

次にカフェテリアの中に入って驚くのが、各国の国旗で埋め尽くされた天井と壁。順序とか位置とかはまったく考慮せず、ありとあらゆる国旗を天井と壁一面に貼り付けてある。日本の日の丸もあるかなあ~と思って探したのだけど、なぜか隅のほうに1枚あるだけ。やはりラグビー強豪国と比べて人気がない国はこうなるのだろうか。

さらにさらに驚くのがメニュー。こちらもラグビーW杯の出場国に因んだ品揃えがなされている。カンガルーのステーキ(打倒オーストラリア!)、ラムの香草蒸し(打倒ニュージーランド!)フィッシュ&チップス(打倒イングランド!)、メイプルシロップのパイ(打倒カナダ!)、トロピカルフルーツの盛り合わせ(たぶん打倒フィジー!)といった感じだ。とにかく、フランスとイタリア頑張れ!ということで、各国の名物料理を食べつくせ!という趣旨のランチなのだ。日本の寿司やてんぷらなど用意されているわけがない。

こんなにたくさん選択肢があると何を食べようか迷ってしまうのだけど、一応僕も日本人。オーストラリアに大敗したリベンジということで、カンガルーのステーキを選択。ピョンピョン飛び跳ねる姿はあまり想像しないようにして、恐る恐る人生初のカンガルーを実食。

感覚的にはビーフのような、羊のような、なんとも言えない歯ごたえ。ソースが濃いので味はよく分からないが、この感じは前に食べたことのあるトナカイに似ているかもしれない。

食後のカフェではラグビー関連グッズが当たるビンゴ大会。僕も同僚達も皆ハズレてしまったのだけど、運がよいとオールブラックスのシャツが貰えたようだ。とても残念!

そして一番驚いたのは、カフェの真上の一番目立つところに、なぜか日の丸国旗掲揚。食事をとる場所に大きな日の丸だけがなかったのは人気のせいだろうと思っていたのだけど、なんとここにあった。ただし、カフェと日の丸がどう結びつくのかは全く分からない。

フランス人とイタリア人の気まぐれは本当に面白い。