最近ある2冊の本を読んでいて、驚くほどその内容の本質が似ていることに気付いた。どちらも「成功」と「失敗」の本質に迫った本なのだけど、なぜ人が失敗するかという疑問を突き詰めると、結局は「成功したことがあるから」という答えに行きついてしまうのだ。つまり、「失敗は成功のもと」ならぬ「成功は失敗のもと」である。
僕が読んだ1冊目は『失敗の本質~日本軍の組織論的研究~』(野中郁次郎、他)だ。旧日本軍の戦略行動を複数の著者で徹底的に分析した結果、日露戦争における日本海海戦での勝利など、過去の成功体験を正しいと思い込み、これに依拠した意思決定を行ったことが後の作戦行動で大敗を生む遠因に繋がったというものだ。軍参謀などの作戦立案者は、軍専門の幹部学校で過去の戦いにおける戦略、戦術などを徹底的に叩き込まれるのが通常であるから、習ったことを活かしたら失敗してしまったというのは大いなる矛盾でしかない。しかし、歴史はそれを証言しているのだ。
もう一冊は、これも有名すぎるくらいに有名なのだけど、ハーバード大学ビジネススクールのクリステンセン教授が書いた『イノベーションのジレンマ』という本だ。彼の主張によれば、「偉大な企業は全てを正しく行うがゆえに失敗する」ということになる。すなわち、超優良と呼ばれている企業は、定石どおり一番利益をもたらす重要顧客の声を聞き、そのニーズを満たすために全力を尽くした結果、ターゲットと看做さなかった顧客層から沸き起こったイノベーションの存在に気付かず、やがて市場の敗者となっていくのだ。彼はこのようなイノベーションを「破壊的技術」と呼び、その特徴を「単純で、低価格で、性能が低く、利益率は低い。大企業にとって最ものうまみのある顧客は、通常、それらを利用できず、利用したいと考えない。」(同書P304)と述べている。
どちらの本も主張の本質は同じで、つまり「単純に成功を繰り返そうとするから失敗する」と言っているのだ。そう考えると、僕が学んできた経営戦略やマーケティングって何?ということになる。経営学は過去の成功事例や優良事例を集め、そこから導かれる共通原則を理論的フレームワークとしてまとめたものにすぎないからだ。MBAで学んだことを実践すると失敗するよ、と言われているに等しい。
僕はまだこの結論に納得できていないので、もうちょっと考えてみようと思う。