宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

全授業終了!

2007年06月30日 | MBA
 
昨年の10月末にスタートしたAerospace MBAの授業が、今日のSpace & Telecom(宇宙と通信)の授業をもって全て終了した。

トゥールーズ郊外のホテルでの合宿に始まって、パリにある航空宇宙系企業の本社訪問、全23科目のアカデミックコース、個人プロジェクトのプレゼンテーションにマルチカルチュラルなチームプロジェクトという、本当に全てを9ヶ月でやってしまったのかと疑いたくなるような盛りだくさんの内容だ。

思えば大学を卒業してからというもの、こんなに勉強に集中できる環境に身を置いたのは、本当に久しぶりだった。こんな貴重な時間は人生の中で二度とないのだからと自分に言いきかせ、僕は授業で出されるリーディングとケーススタディの予習のために、寝る時間を割いて可能な限りの準備をして授業に臨んだ。

翌日に控えたチーム発表のために、深夜までチームメイトと一緒に議論をし、明け方になってやっとプレゼンが完成するといったことも、一度や二度ではなかった。とにかく、僕に今できることは全てやった。MBAの勉強に関しては、この世の中の誰に対しても胸を張ってやりきったと宣言することができる。今の僕の心の中に悔いなんて一カケラもない。

それ以上に、今僕はこれまで僕を支え続けてくれた全ての人に心から感謝をしたい。僕がこうやってフランスのMBAで自分の勉強に夢中になれたのも、大きな事故もトラブルもなく無事に生活してこられたのも、全て周りで僕をサポートしてくれた人達のおかげだ。僕一人の力じゃ何もできなかったということは、今の僕自身が一番良く分かっている。本当に心から感謝したい。Merci Beaucoup!

MBAが僕に与えてくれたものは何か。そして、僕のこれからの人生にMBAはどんなインパクトをもたらすのか。落ち着いてそれらを振り返るには、今はまだちょっと早い。ATR社でのインターンシップがまだ残っている。

しかし、日本に帰国する飛行機の中では、僕は間違いなくそんなことを考えながらフライトをしていると思う。

MBAは僕にとって一体何だったのか。

成田空港に到着する瞬間までには、その問いに対する僕なりの答えを見つけておきたい。

(写真は僕が通ったトゥールーズビジネススクール。信号待ちの車から撮影。)
 

新CEO

2007年06月29日 | インターンシップ
 
僕がインターンとして勤務しているATR社(Avion de Transport Regional)では、この6月にCEO(最高経営責任者)が交代した。新CEOの名はStephane Mayer氏。なんと若干44歳の超若手CEOだ。僕と一回りちょっとしか年齢が違わない。僕は今インターンで、彼は今CEO。果たして、あと十数年で彼の地位まで僕は登りつめることができるだろうか。少なくとも日本で働いている限りはちょっとムリそうだ。

フランスは超エリート階級社会なので、年齢に関係なく政府幹部や企業幹部に若手が登用されることが多い。そのためのに特別に選抜された人材を教育する機関として、グランゼコールが存在する。もちろん、新CEOのMayer氏は、ナポレオンが創設したフランスNo.1の理工系グランゼコールを卒業している。すなわち、エコール・ポリテクニック出身なのだ。

さらに彼は、社会科学系のグランゼコールでFinance(ファイナンス)やEconomics(経済学)の学位をも取得しているらしい。理工系の知識に加え、ヒト・モノ・カネのマネジメント知識も豊富な人のようだ。また、3年前からはEADS Socataという小型航空機メーカーのCEOを勤めており、すでに経営トップとしての経験も十分にある。

さらに驚いたのは、彼はパイロットでもあることだ。商業運航を行うことはできないものの、プライベートで実際にコックピットに座り、フライトを楽しんでいるそうだ。一体どこまですごい人物なのだろう。本当にすごい人は、「スゴイ!」のレベルが一ケタ違う。

ということで、僕はこれからの4ヶ月、新CEOの下で頑張ります。若干44歳でヨーロッパを代表する航空機メーカーのCEOに抜擢されるような人材が、一体どんなことを考えて企業を経営していくのか、この目でじっくりと観察していきたいと思います。

(写真は僕の部屋で撮ってもらった一枚。CEOへの道は遠い。。。)
 

語学の壁

2007年06月28日 | インターンシップ
 
ATR社勤務2日目にして、いきなり語学の壁にぶち当たっている。昨日までは英語とフランス語を中心になんとか生活してこられたのだけど、今日からはフランス語とイタリア語が中心で、加えて、スペイン語まで飛び交うような環境に暮らしている。ヨーロッパの多国籍企業で勤務する以上ある程度覚悟はしていたものの、ここまで別世界に飛び込んでしまうことになるとは思いもしなかった。

まず、最初の壁は人事関係の手続き。これが全てフランス語。新たに結ぶ労働契約書や給与振込用の銀行口座の登録など、全てがフランス語で書かれ、担当者からフランス語で説明を受ける。僕のフランス語のレベルでそれらの内容を全部理解できると本気で思っているのだろうか。もうこれはATR社を信じてそのままサインするしかない。ええい、どうにでもなれっ!(本当は良くないけど)

次に、ATR社の社員証を発行してもらうのが大変だった。自分でセキュリティ・オフィスに電話をして、写真撮影のアポイントを取り、申請書に必要事項を記入した上で、時間ちょうどに担当者の部屋に行く。この最初の「電話でアポイントをとる」、というのが僕にとっては至難の業で、電話だと身振り手振りでの説明ができないので、僕の話すフランス語をあまり良く理解してもらえない。結局、ちょっとズルをして英語を交え、ようやくアポを取ることに成功した。

それから、休憩時間のコーヒー自動販売機前での会話タイム。これまたフランス語かイタリア語だ。フランス語ならなんとなく話の内容が50%くらい理解できるのだけど、イタリア語になるともうさっぱり分からない。もう笑ってごまかすしかない。でも、それもなんか典型的な日本人っぽくてイヤなので、フランス語を今勉強中なのでフランス語を教えてくれ、と試しに言ってみたら、結構みんなやさしく教えてくれた。トゥールーズ在住の人は本当に皆やさしい。パリだったらきっと無視されて、一人ぼっちになっていたかもしれない。トゥールーズに本社がある企業に採用してもらえて本当に良かった。

僕のATR社でのインターンシップは、まだあと4ヶ月もある。今の僕のフランス語のレベルでは、間違いなく社内のでの円滑なコミュニケーションに支障をきたしそうだ。早急になんとかせねば!

よし、あと1ヶ月でなんとかしよう。頑張ろう!
 

ATR社勤務スタート

2007年06月27日 | インターンシップ
 
パリ航空ショーから戻った僕は、今週からインターン先であるATR社(Avion de Transport Regional)での勤務をスタートしている。昨年の7月に日本を出発してフランスに来て以来、本格的に仕事をするのはほぼ1年ぶりだ。それに、海外の大学で学んだことは何度かあるものの、海外の会社で勤務をするのは、僕にとってこれが初めての経験だ。ワクワク感とともに、ドキドキ感が今の僕の体の中に充満している。

ヨーロッパの企業というと、とても優雅でスマートに仕事を進めるというのが、これまでの僕のイメージだった。事業規模のわりに社員の数は極めて少なく、少数精鋭を貫き、それぞれの社員が相応の責任と裁量権を持って仕事をしている。仕事に対する考え方もサバサバしていて、できるものはできるし、できないものはできない。他人の仕事は他人の責任で、自分は自分の仕事を100%達成するために全力を尽くす。そんな感じのイメージだ。

まだ働き始めたばかりなので、これらの僕のイメージが本当に当たっているのかどうかは分からない。しかし、ただのインターンにも関わらず僕に用意された部屋の豪華さにまず驚いた。マネージャー候補を採用するためのMBAインターンということこで、特別に配慮されているらしい。

こんなに広い部屋を使っていいなんて、ヒラ社員から部長クラスまでまとめて大部屋所帯が当たり前の日本では到底考えられない。それに、日本ではどう考えても役員クラスにならないと使わせてもらえないような豪華な机と椅子を使わせてもらっている。トゥールーズというフランスの地方都市に本社があるとはいえ、職場環境の違いにまずビックリした。ここでならいい仕事ができそうな気がする。

仕事の内容については、「秘密保持契約」というものにサインをしているので、このブログの中で大々的に公表することはできない。しかし、僕がこのATR社で行う仕事は、数年後に大きな成果となって皆さんの前に必ず現れると僕は信じている。そのために僕は、MBA最後のこの貴重な4ヶ月間使って、ATR社のために全精力を傾けて仕事をするのだ。地位も名誉もお金も何もいらない、とにかく、ATR社の利益ために全ての能力とエネルギーを注ぐ覚悟だ。それが、あえてリスクをとってまで僕を採用してくれたATR社への恩返しだ。

さっそく、マーケティング担当のFormica副社長から、1週間以内に仕上げろ!というミッションを一つ与えられた。まずは僕の腕試しといったところだろう。

ヨーロッパの多国籍企業で、果たして僕の実力がどこまで通用するのか。なんだか、僕も楽しみになってきた。

(写真はATR社が僕に用意してくれたオフィス。こんなスゴイの初めて。)
 

MRJのマーケット調査(その2)

2007年06月26日 | 宇宙航空産業
 
昨日は「航空機として」のMRJに対する一般的な意見を紹介したのだけど、今日はMRJのビジネスとしての可能性に関する意見を紹介。もちろん、パリ航空ショーの会場で僕が直接インタビューしてまわった汗と努力の貴重なマーケットインテリジェンスだ。
 
結論から言うと、航空機としてのMRJには肯定的な意見が多かった反面、肝心のビジネスとしての可能性については、ほとんど共通して否定的な意見ばかりが目立った。すなわち、皆一度は乗ってみたいと答えるのだけど、継続的に利用したいか?と問われると、やはり信頼性のあるボーイング社やエアバス社の航空機を利用したいと答えるのだ。少なくとも、航空機製造メーカーとして技術が成熟するまでの最初の数年間は、この日本が作った航空機に乗るのはまだ不安だという意見が圧倒的に多かった。

日本は自動車産業やエレクトロニクス産業などで世界を牽引し、その技術力の高さを世界に誇ってきた国だ。しかし、ひとたび航空機産業の、しかも、部品としてではなく完成機という意味での航空機産業となると、まったく世界から信頼されていない。自動車や電化製品なら「日本製だから買っても安心」となるところが、航空機の場合、「日本製だから不安」となるのだ。このギャップ、技術を誇りに生きてきた日本人にとってはちょっとショックな現実かもしれない。

革新をついているなあ~と僕が感じたのは、競合メーカーの一つであるブラジルのエンブライエル社のエンジニアからもらった意見。50席から100席までのリージョナル・ジェット市場の中で、中国のARJ21とロシアのSuper Jetは競争相手になり得るが、今の時点で開発するかどうかさえ決めかねているような日本は競争相手にもなり得ない、と彼は言い切っていた。

航空機開発は、莫大な初期開発投資が必要なとてもリスキーなビジネス。やると決めたら腹をくくって最初の十数年間は赤字覚悟で政府が支援し続けるくらいの強固なサポートがなければ、決して成功しないのだと。実物大の展示模型だけを示して、「こんな航空機が実現したら買いますか、もし買ってくれるのなら今から頑張って作ります」では、全く話にならないと言っていた。

確かに、僕が今度働く予定のATR社の副社長Gianni Tritto氏も、ATR社が航空機開発に参入した最初の10年間程度は、開発した航空機がほとんど売れず無収入状態だったと言っていた。それでも政府や親会社の支援を受けてじっと耐え、時間をかけて航空機製造メーカーとしての技術を成熟させ、やっと今の成功があるのだと。

市場の信頼という最も貴重なビジネス資産を手に入れるため、時間もお金もかけることなく、技術のみで勝負しようと考えている日本。世界の航空機ビジネスはそんなに甘くないということを、今回のパリ航空ショーで痛感して日本に帰ることになっただろうか。それとも、それに気付くことさえなく、MRJの機体デザインとしての良い評判に気を良くして、自信満々で日本の本社へと戻っていっただろうか。真相は彼らが出す結論を見るまで分からない。

僕は今回、競合メーカー数社の関係者の他に、航空会社関係者や空港関係者にまで範囲を広げて独自のマーケティング調査を行った。ボーイング社がB777の開発決定の際に用いたFinancial Simulation(財務シミュレーション)モデルを用いて、Break Eevn(損益分岐)分析もしてある。まもなくMRJに関して僕なりの結論を出す予定だ。

日本政府や三菱重工業が出す結論と僕の結論とがたとえ異なっていようと、それは僕にとって全く問題じゃない。僕なりの結論を、僕なりの分析に基づいて、僕のクオリティで世に送り出す出すことができるという事実が、Aerospace MBAで1年間学んだ僕の成長なのだと今は考えている。

結局、実際に作って販売してみないことには、誰にも正解なんて分からないのだ。

(写真は展示されていたMRJの小型模型。先端だけを見るとやはり新幹線かも。)
 

バナー広告に出演

2007年06月25日 | その他
 
パリに行っている間に、Financial Times(電子版)のバナー広告に僕が登場することになっていました。数分おきにバナーは入れ替わるようですが、Toulouse Business Schoolのバナーが出てきたときに注目していると、一瞬だけ僕が変なポーズで登場してきます。

ビジネススクール側がFinancial Timesといつまで契約を結んでいるのか分かりません。興味のある方はワンクリック↓をどうぞ。

Financial Timesはこちら

なお、さっきクラスメートに指摘されるまで、本人には全く知らされていませんでした。
 
 

MRJのマーケット調査(その1)

2007年06月25日 | 宇宙航空産業
 
パリから無事にトゥールーズに戻ってきました。暖かくて、人もやさしくて、南仏の心地よい風が吹くトゥールーズ。もう故郷に帰ってきた気分です。僕のパリでのホテルトラブルを心配してわざわざメールをくれた方もいたので、一言だけ帰郷のご挨拶。「帰ってきたぁ~!」

さて、パリ航空ショーに参加してみての全体の感想だけど、世界最大規模の航空ショーを謳うだけあってさすがにド派手だ。会場の大きさだけでなく、企業数の多さ、人の多さ、展示されている航空機の数、デモンストレーションの回数、それに加え飛び交うお金の額までケタ違いだ。今回の航空ショーでまとまったとされる航空機の確定発注だけで、今後数年間のうちに数兆円のお金が世界を動くことになるらしい。そりゃあ必死で接待したくなる気持ちも今の僕なら理解できる。

会場内では何台もの黒塗りの高級車の列見た。こんな人ごみの中をわざわざ車で、しかも、隊列を組んでまで走る必要はないだろうと正直思った。アラブ系のお金持ちは本当にやることが分かりやすい。黒いスーツにサングラスをかけた屈強そうなボディーガード達に警備をさせるなんて、逆に分かり易すぎて笑ってしまう。

そんなド派手な航空ショーの舞台で、ちょっと控えめに、でも精一杯頑張ってアピールしていたのが、日本のMitsubishi Regional Jet(MRJ:三菱リージョナルジェット)だ。日本の展示ブースの中で一番大きな領域を占拠し、機体の実物大模型を搬入してなんとか顧客へアピールしようと努力していた。

僕はある方からこのMRJについてのMarketing調査を頼まれていたので、可能な限りの時間を使って世界中の航空ビジネス関係者にこの国産航空機に対する率直な感想を聞いて回った。きっと三菱の関係者に対してなら遠慮して言えないようなことでも、MRJと全く関係がなく、しかも、トゥールーズのMBAで学ぶ一学生である僕になら、正直な感想を漏らしてくれるはずだと思ったからだ。

僕の読みは当たり、日本がこれから開発しようとしているMRJについて、かなり率直な感想を聞くことができた。今日はその内容を少しだけ紹介したい。

まず一番多かった意見は、「カッコイイ」というもの。デザインに関しては非常に好評だった。写真を見てもらえれば分かると思うのだけど、通常イメージする白い機体の航空機と違って、今回MRJは銀色塗装のまま展示されていた。それがメタリックでシャープな質感を見る者に与え、近未来的な航空機という印象をもたらしたようだ。

さらに、薄型シートを採用した独自デザインの座席「ZEN」も好評を博していた。日本らしさの魅力を存分に活かしたネーミング(禅)に加え、これなら一度は座ってみたいと思わせる高級感あるクリームホワイトの革張シート。見る角度によっては薄型でちょっと安っぽく見えるという意見もあったのだけど、日本が誇る最新テクノロジーが存分につぎ込まれたシートにぜひ一度座ってみたいという意見が多かった。

以上が航空機としてのMRJに対する一番多かった意見。まとめれば、大体この2点に集約できる。あともう一つ付け加えるならば、「日本のシンカンセンみたい」という意見もあった。確かに、他社の航空機に比べて先端がクチバシのようにとんがっているデザインなので、その感覚も理解できる。しかし、よく「シンカンセン」(新幹線)なんて知っているなあ~、このフランス人と思ってしまった。鉄道マニアだったのだろうか。

ただし、「航空機として」というところが今日のポイントで、明日はMRJの「ビジネスとして」の可能性についての意見をご紹介します。こちらがより重要。お楽しみに!

(写真は今回パリ航空ショーに出展されたMRJの実物大模型)
 

パリでまた路頭に迷う

2007年06月24日 | フランス
 
パリ滞在3日目、またまたホテルを追い出されてしまった。到着したその日に予約したはずのホテルの予約が入っていないことが判明し、ホテルを追い出されて以来、これで2回目のホテル追放になる。今回のパリ滞在は何かがおかしい。こんなに歯車がうまくかみ合わない出張は初めてだ。

今回は本当に突然の出来事だったので、前回追い出されてしまった時以上にびっくりした。僕はパリ市内からメトロを使って泊まっているホテルに帰り、自分の部屋の鍵をフロントで受け取って、僕の部屋がある6階まで歩いて階段を登った。部屋の鍵を開けると、なんとそこには僕のものではない誰か他の人の荷物が置いてある。当然、僕の荷物はどこかに消えている。なんだ、これは?一瞬、何がどうなっているのか分からなくなった。

こういうときは冷静に考えられるオプションを一つずつ検討していくのが僕のやり方だ。まずオプション①として、僕が部屋を間違えたのかもしれない。僕は部屋を一旦出て、ドアに書いてある番号を確認した。606号室、僕の部屋だ。鍵にも606と書いてあるので、部屋に間違いはないようだ。それに、僕の部屋の鍵で他の部屋の鍵も開けられるとしたら、そんな危険なホテルはない。この可能性はまずないといってよい。

次に考えられるオプション②は、部屋に泥棒が入って僕の荷物を持っていったという可能性だ。実際、今朝まとめて部屋の隅に置いておいたカバンもクローゼットの中のスーツ類も、みんな全て消えている。これは変だ。しかし、もし泥棒だとするなら、わざわざ自分の荷物を部屋に置いていくはずがない。いかにもビジネスマンらしい黒色のキャリーケースとパソコン用ケースが置いてあるので、泥棒でもないようだ。この可能性も消えた。

だとすると、オプション③として、何らかの理由により僕の部屋を変更することになったという可能性が考えられる。ホテル側の不手際によりホテルを移らざるを得なくなった僕へのお詫びとして、部屋をアップグレードしてくれたのかもしれない。だとすると、僕がパリの街に出ている間にホテルのスタッフが荷物を入れ替えてくれたのだ。そして、僕の荷物は既に別の部屋にセットしてある。この可能性以外、今のところ考えられない。

僕は誰か他の人の荷物が置いてある606号室の鍵を閉め、またフロントへと舞い戻った。そして、フロントで僕が見たことの一部始終を話し終わった後、予想さえしていなかった事実を聞かされた。なんと、僕の荷物はフロントに預けられていたのだ。なぜだ~?僕にはなぜだか全く分からない。

僕はフロント係になぜ部屋を追い出されることになったのかを尋ねた。すると彼は何の悪気も無さそうにこう答えた。「あ~今日はね、かなり前からもう満室になっていたんですよ。残念でしたね。」と。

こんなのあり得ない。これがフランスのサービス精神と責任感のレベルなのか。僕がチェックインする時には、あっさりと3日間OKですと言ってくれた。その時OKと言ってくれたのは別のフロント係だけど、それでもホテルなのだから情報くらい共有していてもいいはずだ。

それにもし数日後に僕を宿泊させられない可能性があるなら、それを僕がチェックインする時にあらかじめ言えよ!とツッコミたい。それが最低限のビジネスマナーだと思う。わずか1日間ホテルを満室にして利益を最大化するためだけに、連続して泊まれるホテルを探していた僕に彼らはウソをついたのだ。あの時は僕も最初に予約していたホテルを追い出されて、その夜の雨をしのぐためのホテルをなんとか探そうと必死だったので、その必死さにつけ込まれてしまったのかもしれない。つけこむスキを与えてしまったならば、それはそれで僕の落ち度だ。

しかし、今回ばかりは本当にヒドイ。また僕は今夜泊まるホテルを今から探さなければいけない。なんか少しパリが嫌いになってきた。

(写真は追い出されてしまったホテルの受付。2回めのほう。) 
 

デモンストレーション・フライト

2007年06月23日 | 宇宙航空産業
 
パリ航空ショーでは、様々な航空機や戦闘機、ヘリコプターのデモンストレーション・フライトが行われている。全部で25種類もあるのだけど、中でも僕が特に驚いたことを2つだけ紹介したい。それは、Airbus(エアバス)社が自信を持って世に送り出す最新鋭大型旅客機A380の静かさと、ロシアのミグ29戦闘機の飛行能力の高さだ。

A380については何度もこのブログで採り上げたし、成田空港にも先日テストフライトで飛来したので、少なくともこのブログを読んで下さっている方にとってはある程度はお馴染みの航空機になっているのではないかと思う。一度に最大で800人の乗客を乗せるために巨大なエンジンを翼の下に4つも抱えているのだけど、フライト中の騒音が驚くほど静かなのだ。

フライトする姿も非常に優雅で、普通の飛行機とほぼ同じスピードでほぼ同じ高度を飛んでいるにも関わらず、なぜかゆったりとのんびり大空を舞っているような印象を受けてしまう。例えるなら、宮崎監督のアニメ映画に出てくる大型飛行船が飛んでいるようなイメージだ。もっと言えば、クジラが空を飛んでいる、そんな感じだ。とにかく優雅で堂々としている。

もう一つの驚きは、ロシアのミグ29戦闘機の飛行能力の高さだ。今回の航空ショーで僕は初めてミグ29が空を飛んでいるのをこの目で見たのだけど、急上昇、急降下、急旋回、スパイラルターン、空中での急ブレーキ、宙返り、背面飛行など、とにかく次から次へと不安定な曲芸飛行をいとも簡単に軽くこなしていた。

ミグ29戦闘機はそれほど新しい最新式の戦闘機というわけではない。開発がスタートしたのは1970年代だし、他にもデモンストレーションを行ったアメリカのF-16戦闘機やフランスのRafale(ラファエロ)戦闘機、同じくフランスのMirage2000(ミラージュ)戦闘機などに比べれば、かなり古いタイプの戦闘機だと言える。にもかかわらず、軍事関係には素人の僕の目から見ても、今回のミグ29の飛行能力の高さは群を抜いていたと思う。そのくらい素晴らしいフライトだった。

当然、ミグ29戦闘機の飛行には会場からも歓声が上がっていて、各国の航空ショーを過去に何度も観ている空軍出身のクラスメートでさえ、今回のミグ29の動きにかなり驚いていたようだ。あそこまでの不安定きわまりない曲芸飛行の連続をミグ29でやってのけたのを観たのは、軍に入ってから初めての経験だったそうだ。冗談で「ウォッカでも飲んで操縦してるんじゃないか?」と言ったクラスメートもいたくらいだ。

ロシア人のクラスメートYuriの話によれば、ロシアでもあのミグ29であれだけの曲芸飛行ができるパイロットは数人しかいないだろうとのこと。想像を絶するG(加速重力)に絶えられるだけの強靭な体力と精神力、そして、抜群のフライトテクニック。それら全ての条件を完璧に備えるパイロットは、空軍の中を探してもなかなか見つからないのだそうだ。古いタイプの戦闘機だけに、逆にパイロットはその性能の限りを知り尽くして、それでミグ29の性能を120%引き出せているのかもしれないとも言っていた。

航空ショーでデモンストレーションを任されるパイロットというのは、やはりエリート中のエリートのようだ。そう言われると、余計にとてもすごいものを観ることができた気がして嬉しい。

(写真はロシアのミグ29戦闘機)
 

パリ・エアショー(一般公開日)

2007年06月22日 | 宇宙航空産業
 
Paris Airshow(パリ航空ショー)が始まって5日目の今日から、一般の人々を対象としたパブリック・デー(一般公開日)がスタートした。ビジネス招待客しか入場できない昨日までと違い、今日からは入場料(12ユーロ)さえ支払えば、大人でも子供でも誰でも自由に航空ショーに参加することができる。

朝からあいにくの曇り空だったのだけど、この程度の雲なら航空機のデモンストレーションも実行されるだろうと思い、僕はフライトが始まるお昼前には航空ショーの会場へに着くようにホテルを出発した。結局昨日のゴタゴタの後、パリでは北駅の目の前にあるHotel Aporoというホテルに泊まることになったのだけど、幸運なことに予約していたホテルよりも料金が安い上に、朝食までサービスでつけてくれた。さらに、部屋の中で無線インターネットが無料で使えるというサービスの充実っぷりだ。人生万事塞翁が馬とは、まさにこのことだ。

航空ショーの会場に着いてすぐ、さらにラッキーな事実を知らされた。一般公開日3日間のうち、初日である今日に限って学生は入場料が無料とのこと。そう、今僕は「社員証」も持っているが、「学生証」も同時に持っている身分。超ラッキー!今日一日タダで航空ショー見学だ。

僕は気分上々で入場ゲートを通過し、世界中の航空宇宙企業の展示ブースが並んでいる建物へと入った。そして、中を見て30秒もしないうちに、ビジネス・デーとパブリック・デーとのあまりにも大きな違いに驚かされた。

一言で言うと、パブリック・デーになると、もう航空宇宙企業の皆さんからやる気はほとんど感じられない。将来のお金のタネになる昨日までのビジネス客の相手でエネルギーを使い果たしてしまい、一般の人はどうぞ勝手に自由に見学してくださいという感じ。企業によってはもうブースに誰もいなくて、パンフレットさえ引き上げている会社もあったほどだ。

ビジネス・デーの昨日は、僕がフランス航空宇宙工業会の招待客のバッジをつけていたからかもしれないけど、どの企業を訪問してもとても愛想よく丁寧に説明してくれ、帰りにはお土産までくれるという厚遇ぶりだった。それが、日付が1日変わった今日は誰も僕の相手をしてくれない。寂しいけど、それが現実だった。

しかも、昨日に比べて格段に人の数が多い。一番人気のエアバス社が入っている建物は、人が多すぎて身動きが取れなかったほどだ。別にディズニーランドのように何かのアトラクションがその先にあるというわけでもないのに、通路に人が溢れかえっていて10分以上前に進めなかった。これではもう見学どころではない。

では、空いているエリアはないのかというと、一般の人が決して名前を知らないような中小企業エリアだけは全然OK!しかも、中小企業だけあって、航空宇宙に関するニッチなテクノロジーに果敢に挑んでいる企業が多かった。ブースの作りやアピールの仕方に派手さはないものの、どの企業も自社の技術をとても誇りにしていて、話かけるとちゃんと僕の相手をしてくれる。さらに、彼らの言葉からは、航空宇宙の未来を信じ、自分達の仕事を心から楽しんでいるような雰囲気が感じられた。

パリ航空ショーの主役は何千万円もの大金をかけてアピールする大手企業かもしれない。しかし、本当のお楽しみは、こういった名も知れない中小企業巡りにあるのではないかと僕は思う。今回僕がたまたま訪問した中小企業の中にも、キラリと光るセンスとアイデアで、必ず近い将来に芽が出てくるだろうという企業がいくつもあった。

こういった中小企業は、おそらくファイナンスや経営戦略をちゃんとフォローできる経営系の人材が不足しているはずだ。そこにAerospace MBAで学ぶ僕達の活躍の場がきっとある。