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宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

Creativityの源泉

2007年08月16日 | インターンシップ
 
最近のブログでは僕のATR社での勤務を反映してか、フランスだけではなくイタリアに関連した内容の記事も多い。会社自体はフランスにあってフランス人のほうが多いと思うのだけど、僕のボスはほとんどがイタリア人だということもあって、僕はどちらかというとイタリア人のマネジメント観を叩き込まれている気がする。日本とは全く異なる異質な考え方に直接触れることができて、イタリア人独特のセンスに感銘を受けっぱなしの毎日だ。

彼らが極めてCreative(創造的)に仕事を進めていることは前にも書いたのだけど、そのCreativeなスタイルが効果に結びつく要素として、僕はATR社内のある重要な特徴に気付いた。それは、計画されたミーティングが極めて少なく、かつ、突発的なミーティングが非常に多いのだ。

計画されたミーティングというのは、部門内の定例会議のほか、あらかじめ何月何日の何時からどこに集合して何について話し合うかが決まっているような会議のことをいう。いわば、自分の手帳に予定として書き込まれているミーティングのことだ。

それに対して突発的なミーティングというのは、全くスケジュールに入っていなかったにも拘らず、急に社内の誰かから呼び出しを受け、指定された部屋で特定のテーマに的を絞って意見を出し合うスタイルのミーティングだ。僕もアジア太平洋地域に関するテーマが上がっているときには、急に呼び出されることがある。

こういう突発的にスタートするミーティングというのは、当然僕としても資料も何も用意していないのだけど、その分過去の事例や業界のトレンドに縛られることなく、想像力の翼をいっぱいに伸ばして自由に発言することができる。その結果、出てくるアイデアも自然とDifferentiation(差別化)の方向にベクトルが働き、今まで思いつかなかったような斬新な戦略が頭に浮かんでくるのだ。

もちろん、計画された定例会議などに臨むときはしっかりと準備をして、どんな質問にも答えられるようにしておくのが当たり前だ。しかし、それでは過去の自分の常識のレベルを決して超えることができない。もう一ランク上の新しい考えに辿り着きたかったら、決して準備をしてはいけないのだ。自分の潜在的な才能と異質なものに触れることで発生する新たなChemistry(ケミストリー)を信じ、誰にも何にも縛られることなく、思いきって自由な発想の世界へと飛び込んでいく必要がある。

僕がヨーロッパ宇宙航空の中心地Toulouse(トゥールーズ)にやって来た目的の一つは、これまでにない宇宙航空の新しい用い方を発見し、日本の宇宙航空ビジネスに新しいドライバーをもたらすことにあった。そのための鍵が、今少しづつ見えてきている気がする。
 

空港でランチ

2007年08月10日 | インターンシップ
 
今日は午前中の仕事を済ませた後、車を運転してトゥールーズのBlagnac(ブラニャック)空港へと向かった。現在空港でインターンとして勤務しているMBAのクラスメート、ブラジル出身のLilian(リリアン)とランチをする約束をしていたのだ。

MBAのクラスメートとはいっても、前職がブラジル空港公社のディレクターであるリリアンは僕よりもかなり年上だ。学生時代の専攻は建築学で、ブラジル国内の空港のマスタープラン設計を担当していたらしい。とにかく空港ビジネスの専門家なことだけは確かだ。Airport Management(空港マネジメント)の授業では、クラス中が彼女の発言に耳を傾けていたことを思い出す。

空港の受付で待ち合わせをした僕達は、トゥールーズ空港の自慢の一つであるという展望レストランへと向かった。これは空港ターミナルビルの最上階にあって、食事をしながら滑走路を走り抜ける航空機を眺めることができる、航空機好きにとってはたまらないレストランなのだ。

食事をしながら話すテーマは、やはりお互いのインターンシップの話が中心になる。僕はATR社のMarketing&Commercial部門で新しい国へのビジネス開発を担当しているのだけど、リリアンは空港ビジネスにおけるSustainable Develepment(持続可能な発展)をテーマとして、このトゥールーズ空港の将来拡張計画を担当している。環境に対する意識がますます高まるヨーロッパでは、決して避けては通れない重要テーマだ。

現在のリリアンの仮説では、持続可能な開発を可能にする最も重要な要素は、技術でも金でもなく、あえて「人」だと考えているのだそうだ。空港で働く従業員の環境に対する意識をいかにして高め、いかにしてそれを維持していくか。この1点に集中して今回のプロジェクトの問題解決を図るらしい。

そのため、現在は空港各部署のマネジメント層のところを回って、彼らの環境に対する意識のレベルを調査しているのだそうだ。レベルの低いところにいきなり高いハードルを設置してもまず飛び越えられない。とにかく、まず一歩を踏み出せるレベルでプログラムをスタートさせ、意識が高まってきたらそれに合わせてハードルを上げていく計画らしい。

その他にも、フランス国内における他空港の優秀な事例をベンチマークするため、わざわざトゥールーズから数百Km離れたリヨン空港まで出かけて担当者にインタビューしたりしているそうだ。もう50歳になるというのに、このフットワークの軽さには本当に頭が下がる。クラスメートから学ぶことの多さも、またMBAの良さだと僕は思う。

お互いに情報交換するのは本当にいい刺激になる。明日からもまた頑張ろうと思える。

(写真はついに乗ったミディ運河の遊覧船から撮った一枚)
 

China Airline

2007年08月08日 | インターンシップ
 
China Airline(チャイナ・エアライン)と聞いた時に、一番に思い浮かぶ国は一体どこだろうか。おそらく、航空会社にあまり詳しくないほとんどの人は、中国の航空会社をイメージするに違いない。しかし、実際にこの世に存在するChina Airlineは、実は台湾の航空会社だ。日本では中華航空という名前で呼ばれている。この名を聞けば「あ~なるほど!」となると思う。

この中華航空に関して、数年前にAirbus(エアバス)社で実際に起こったというあるアクシデントの話を今日聞いた。アクシデントといっても航空機事故ではなく、あくまでマネジメント面におけるアクシデントだ。

今から遡ること約2年、その日は中華航空のCEOがトゥールーズにあるエアバス社の本社と工場を見学するため、わざわざ台湾からやって来る日だった。当然、アジア地区の重要顧客のトップが来社するとあって、エアバス社のコミュニケーション部門の担当者が朝から歓迎の準備をし、CEOの来社を待っていた。

この訪問は事前にマスコミ各社にも知らされていて、当日は新聞社やテレビ局といった各種メディアが、中華航空CEOのエアバス社訪問を取材するためにエアバス社の工場の外で待機していたらしい。もちろん、工場の中では担当者が必死になって歓迎の準備をしていたことだろう。

アクシデントは中華航空のCEOが到着してすぐに起こった。彼は歓迎会場である工場に入るやいなや、中をグルッと見回した後、何も言わず無言のままその場を去っていったのだ。一体何が起こったのだろうか。

勘の良い人はもう分かったと思う。アクシデントというのは、エアバス社の担当者が歓迎の意を示すつもりで工場内に張り巡らしておいた、真っ赤な中華人民共和国の国旗のことだったのだ。工場に入るや否やこれを目にした台湾の中華航空のCEOは、一言も言葉を発することなくその場を去っていったというわけだ。これは僕の想像でしかないが、おそらく、あきれて言葉も出なかったに違いない。

当然、このアクシデントの一部始終は当日その場に待機していたマスコミ各社によって大々的に報道された。その後どういう対応がなされたのか僕は知らないが、コミュニケーション部門の担当者と責任者が「お咎めなし」で済んだとは到底思えない。

もしも日本で同じようなことが起こったら、いや、日本ではたぶん起こらないと僕は思う。アジア人にとっては常識レベルのことが、ヨーロッパ人にとってはまだまだ専門知識レベルということなのかもしれない。

世界は狭いのか、それとも、広いのか。最近良く分からなくなってきている。

(写真はChina Airlineの航空機)
  

需要は必ずある!

2007年08月04日 | インターンシップ
 
航空機には本当に様々な用途があるのだけど、その中でも最近注目されているのがBusiness Jetと呼ばれる大企業向けの小型ジェット機だ。空港に関する規制が信じられないくらいに厳しい日本ではあまり普及していないのだけど、欧米のビジネスエグゼクティブの間では、既に移動手段として常識となりつつある。

ビジネスジェットの特徴は、10名から数十名程度の小型機でありながら、僕達が普段利用するようなボーイング機やエアバス機と同じようなスピードでフライトできることだ。しかも、全てオーダーメイドのフライト設定なので、出発時間やチェックインの時間を気にする必要はない。行き先も自分の目的に沿った一番近い空港に着陸することができる。超多忙なビジネスパーソンにとって、まさに時間をお金で買うことのできる理想的な移動手段だ。

実は、ATR社の航空機にも、Corporate Version(コーポレート・バージョン)というビジネスジェットもどきが存在する。通常の旅客機バージョンと違って座席を手狭に配置せず、高級感溢れる革張りの座席をゆったりとした間隔でぜいたくに配置したものだ。(写真参照)もちろん、機内にはバーや会議机などのも備えれられていて、空飛ぶオフィスとしての機能は十分に果たしてくれる。

しかし、よく考えてみれば、ATR社が作っているはTurboprop(ターボプロップ)機であって、ジェット・エンジンではあるものの、最高時速という面ではファン・ジェット機に遥かに及ばない。スピード重視のビジネスパーソンにスピードで劣るATR機が果たして売れるのかどうか、当然僕には疑問だった。いろいろ思考を巡らせてみたのだけど、やはりどう考えても売れる気がしない。そこで思い切って同僚の一人に「これまでに売れた実績はあるのか?」と聞いてみた。

彼の答えは、「もちろん!」と即答だった。どこの国の誰が買ったのかを教えてもらえるかと聞いたら、実際の顧客の会社名までは教えられないけど、どんな人がコレを買いたがるかヒントをあげよう、と言ってくれた。

彼からもらったヒントは、「ATR機の利点は、とても暑~い砂漠にある、舗装されていない、草の生えた、極めて短い滑走路でも、安全に離着陸できることにある」というもの。単純に考えれば、暑~い砂漠でビジネスをしていて、その現場にエグゼクティブがよく訪問するような大企業が、ATR機のコーポレート・バージョンを買うということになる。

そんな会社あるだろうか。IT企業では絶対に行かないだろうし、自動車業界も違う気がする。食料関係かと思ったが、原料の買い付けにわざわざエグゼクティブが現地まで足を運ぶとは思えない。う~ん、どんな業界だろう。

しばらく考えた僕は、ここなら可能性があるかもという業界をひとつだけ発見した。オイル業界だ。この業界は油田採掘のために未開の僻地にでも飛んでいかなければならないし、巨額の契約を締結するために企業のエグゼクティブが自ら足を運び、その国の政府高官と直接交渉することが多いと聞いたことがある。

中東やアフリカやロシアなどに存在するアスファルトで舗装されていない滑走路でも着陸できて、さらに1,000メートル程度の短い滑走路でも安全にフライトできる航空機、それが彼らの求めるものであるに違いない。だとすれば、ATR社のコーポレート・バージョンは彼らの需要にピッタリとマッチするということになる。

僕は思いついた「オイル系の世界的大企業」という答えを同僚に返してみた。どうやら僕の考えた答えは正解だったようだ。スピードではジェット機に劣るものの、どんな国のどんな飛行場にも安全に着陸できるATR機の性能が高く評価され、実際の購入に結びつくらしい。もちろん、オイル系だけでなく、天然ガスや鉄鉱石などの採掘企業も大事な顧客になると彼は教えてくれた。

「NOBU、需要がないと思ってあきらめたらビジネスはそこで終わりなんだ。どんなものにも需要は必ずある!何かが見えないとしたら、それは今お前の目に見えていないだけなんだ。」

彼の言葉が僕の胸に響いた。今日もまた大事なことを学ばせてもらった気がする。

(写真はATR機のコーポレート・バージョンの内部インテリア)
 

問題解決の仕方

2007年08月03日 | インターンシップ
 
ATR社で僕がプロジェクトを開始してからほぼ2ヶ月が経過したのだけど、このあたりで僕がどんな感じで作業を進めているのか、簡単に紹介したい。

今日上に示したのは、ATR社の幹部に僕がこれから行うプロジェクトについてプレゼンした際に、何よりもまず一番最初に使った図だ。テーマをどうするかとか、問題をどう特定するかとか、分析ツールは何を使うとかとかはまず置いておいて、大きな視点から僕がどうやってプロジェクトを進める人間かを理解してもらおうと心掛けた。

僕の基本スタンスはこうだ。まず、Survey(調査)を行ってできる限り多くの情報を集める。方法は直接ヒアリングであったり、アカデミックな文献であったり、インターネットであったり、市販のデータベースであったりと、とにかく何でもよい。自分が必要とするテーマに関する事項を、とにかく徹底的に調査する。ここでの最終アウトプットは、Information(情報)となる。

Information(情報)が十分に集まったら、今度はこれをCompile(統合)しなければならない。関連がある項目をまとめたり、繋ぎ合わせたり、あるいは、対比できる情報を相互に比較し、グラフとしてビジュアル化したりする作業だ。ここでの最終アウトプットは、Clear Picture(クリアーピクチャー)となる。対象について、明確に理解できる俯瞰図を頭の中に作り上げるという意味だ。

Clear Picture(クリアーピクチャー)が出来上がったら、ここでやっとAnalysis(分析)に移る。この時点で「何が問題なのか?」を特定し、その問題に一番フィットする分析ツールを選択する。よく、最初からSWOT分析を使って分析するとか、Fish-Bone分析を行うとか決め付けてから問題をみる人がいるが、それでは最短スピードで精度の高い問題解決はできないと僕は考えている。ネジの頭を見てプラスかマイナスかを識別してからでないと、使うドライバーを選べないのと一緒だ。ここでの最終アウトプットは、分析の結果として導き出されたCompetitive Advantage(競争優位性)となる。

Competitive Advantage(競争優位性)が何かが分かったら、今度はこれをベースにしてRecommendation(アドバイス)の内容を考える。今自分達にはこういう競争力があるのだから、こういう選択肢とこういう選択肢が具体的に考えられる。それを提案できるレベルにまで精度とロジックを高めていき、最終的に最も勝つ可能性が高いと思われる選択肢に絞りこむ。資源は限られているので、あれもこれも良いと思われるものは全て実行せよという勧告は、結局何も言っていないに等しく無意味だ。ここでの最終アウトプットは、Strategic Option(戦略オプション)となる。

ここまできたら、あとは最後の仕上げだ。僕の場合、10月16日に約1時間のプレゼン発表をしなければならないので、そのためにはパワーポイント(PPT)の発表資料が必要となる。加えて、MBAの学位を取得するためには、修士論文としてThesisをまとめなければならない。僕の目指す最終ゴールは、全てこの2つに集約される。

以上は、僕がこれまでのMBA生活で試行錯誤する中で完成させた、シンプルだけどあらゆる問題解決に適用できるプロセスだ。もちろん、個人によっては好き嫌いがあると思うので、皆さんも自分に一番フィットする方法で問題解決を図ればよいと思う。もし、解決すべき問題を目の前にして何から取り組めばよいか分からないという人がいたら、ぜひ参考にしてみてください。
 

耐空証明

2007年08月02日 | インターンシップ
 
今日は朝9時から始まるミーティングがあったので、いつもより少し早め家を出て、朝8時にATR社のオフィスに到着した。それでも僕が一番乗りではなく、すでに働いている人が同じフロアに数人いる。仕事を早めに切り上げて帰宅する人が多いぶん、朝仕事を早めにスタートする人の数も多い。うまくバランスがとれていると思う。

実は今日のミーティングは、初めて僕の側から仕掛けたものだ。これまで何度かミーティングに呼ばれることはあったものの、自分から声をかけてミーティングをセットアップするのは初めてだ。どうしても確認しておきたい懸案事項があったのだ。

フランスとイタリアの合弁企業の中で働き、フランス人とイタリア人を相手に自分からミーティングを仕掛けていく。1年前の僕なら想像さえできなかった行動だと思う。僕の中にあった言語や文化の違いに対する恐怖心という壁を、MBAプログラムから得た何かが取っ払ってくれたに違いない。Viva MBA!

ミーティングのテーマは、航空機を新たな市場に売り込む場合のAirworthiness Certificate(耐空証明)についてだ。これは車でいうところの車検制度のようなもので、当該国の政府機関によってその航空機が安全に飛行できることを証明してもらわなければ、航空機はその国の空を飛ぶことはできない決まりになっている。多少の例外はあるかもしれないが、世界のほとんどの国ではそうだ。

しかし、一度ある国で検査に合格した航空機が、また別の国でも同じような検査を受けなければならないとすると、それは二度手間でとても非効率な結果を生む。なので、耐空証明についてはできるだけ相互認定をして再検査の手間を省き、全体としての「努力のムダ使い」を減らそう、というのが国際的な常識になっている。

ただ、国によっては個別の事情を考慮せねばならない場合もある。例えば、ロシアなどでは、冬の厳しい自然条件を考慮して異なる滑走路コンディションに対応した航空機の性能を評価しておかなければならない。具体的には、滑走路が乾いている時、滑走路上に雨が降っている時、雪が降っている時、雪が降り積もっている時など、異なる自然条件ごとに航空機がどういう着陸性能を示すかを検証しておく必要がある。

この場合、例えば一年中暑くて雪など降らない国で出された耐空証明などは参考にならない。ロシアという特殊な自然条件に合致した基準で、航空機の性能をしっかりと評価しなければ耐空証明としての意味がないのだ。

耐空証明の手続きはとても煩雑なので、航空機メーカーの人なら誰でも頭を悩ませているはずだ。あるデータによれば、新規に航空機を開発する場合の総コストの10%程度は、その機種についての総合的な耐空証明である「型式証明」を取得するためのコストだと言われている。国のお墨付きをもらうのに莫大なコストがかかるのは、どの業界も同じのようだ。

手続きが煩雑だからといって簡単にすれば航空機が売れるかというと、僕はそうはならないと思っている。簡単したことで航空機の安全性に対する不安が増し、その不安が航空会社の自社による整備コストを押し上げ、整備コストの上昇が航空会社の財務状況を圧迫し、圧迫された財務状況のあおりを受けて航空機の売れ行きは次第に落ちてゆく。システム・ダイナミクスを使って考えると、そんな循環サイクルに落ち着くのではないかと思う。長い目でみれば、誰もが信頼するに足るレベルの検査制度は絶対に維持すべきなのだ。

ということで、今日は自分からミーティングを仕掛けたので、ちょっと疲れました。明日に備えて早めに寝たいと思います。

(写真はピレネー山脈上空を飛ぶATR機)
 

インターンの探し方

2007年07月31日 | インターンシップ
 
以前にインターンシップの探し方に関する質問があったので、今日はその回答です。質問をされた方、そして、これからMBAを目指そうとされている方の参考になれば幸いです。

僕の個人的な経験では、MBAプログラムの中で最もストレスフルな時間、それがインターンシップ探しの時間だ。3時間ぶっつづけの英語での筆記試験も大変だったけど、精神的なプレッシャーという意味では、インターン探しが一番キツかったと思う。

まず、一番大事なのは、企業の人とのネットワーク作りだ。希望するインターンシップを得られるかどうかは、このネットワーク作りに始まってネットワーク作りに終わると言っても過言ではない。そのくらい大事だ。とにかく、あらゆる機会を見つけて企業の人と知り合いになり、自分に対して好印象を持ってもらうことが必要だ。

大事なのは、この「好印象を持ってもらう」という部分で、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるでは、間違いなく本当のチャンスを逃す。アンテナは広く遠くまで広げつつも、自分が目指す本当の獲物(希望する企業)だけを見つめて、その対策を練る必要がある。

一番のチャンスは、その企業の人がビジネススクールに講師として来校した時だ。この瞬間を逃してはならない。しかし、同時にガツガツと攻めてもダメだ。なぜなら、人気のある企業の場合、クラスのほぼ全員が名刺を持って講師の前にならぶため、自己紹介のためだけに15分以上待たされることもあるからだ。

一度にそんなにたくさんの自己紹介をされた講師の側もたまったものではない。丁寧に名刺を返してくれるものの、きっと顔も名前も覚えてはくれないだろう。授業が終わった後の長~い列に並んでも、効果はほとんどない。

僕は日本にいるときに人事で採用担当をしていた時期があるので、このあたりの裏事情は知り尽くしている。企業の人間がどういう風に感じて、何をする学生が最も印象に残るか、実体験を通して学んだのだ。その経験が大いに役に立った。

一番の勝負時は、あくまで僕の個人的な経験に基づく考えなのだけど、ずばり授業中にある。授業の中でいかに企業側にとって“Added Value(付加価値)”を感じさせる発言ができるかどうか、それが勝負の分かれ目だ。すなわち、授業の中でその講師が抱えている業務上の課題を敏感に察知し(分からなかったら質問してもいい)、その課題に対して自分にしかできない情報提供の可能性を講師に感じてもらうのだ。

もちろん、その場で立派な解決策なんて思いつけるはずもないので、はっきりと断定的に答えを示すことなんてできない。それをやろうとすれば、逆に安易な考えになって、安っぽく思われてしまう可能性のほうが高い。ただ、その講師がまだ気づいていないであろう解決策の方向性だけでも感じてもらえれば十分なのだ。これに講師が興味を示して、授業を少し中断してでも話を発展させようとしはじめたらもう完璧だ。この講師は100%僕の顔と名前を覚えてくれている。

ということで、本当に意味のあるネットワークは、授業の前にも後にもなく、授業中にある。それが、僕の実体験に基づく結論だ。言い換えれば、授業の中で自分自身を差別化する、それが僕の戦略だった。フランス語も話せず、航空分野で働いたこともなく、マーティングの実務経験もない、日本人の僕が、ATR社でのインターンシップを獲得できたのはこの戦略の成果だと思う。

最後に、ちょっと長いのだけど、今年の11月からAerospace MBAに進学する日本人のMr.Bさんから、MBAの学校選びに関して的確なアドバイスと思われる情報を送ってもらったので、この場を借りて紹介したい。僕の考え方に極めてマッチしている。


『留学先を決める際にグローバル企業が本社を置く都市にある大学を選ぶことをすすめたい。それもできればNYのような大都市ではなく、中都市くらいならばなおよい。なぜか。その町で勉強する間に、そのグローバル企業に勤める人と知り合いになるチャンスが訪れるからだ。(中略)米国アトランタに本社がある事で有名なコカ・コーラ社。アトランタにはエモリー大があるがあまり有名ではない。ただし、コカ・コーラとはゆかりの深い大学であり、同社と深く密接な関係を築いているのだ。(中略)そこで、私が自費留学をするならば、高額の授業料を払ってハーバードに行ったりはしない。マーケティングでキャリアのショートカットを図るならエモリー大学ゴイズエタ・ビジネススクールで学び、在学中にコカ・コーラのアトランタ本社に勤める人々との人脈を作る。』
~『役に立つMBA 役に立たないMBA』小松俊明著 より抜粋~

Mr.Bさん、情報提供どうもありがとう!

(写真はピレネー山脈の湖で撮ったもう一枚)
 

仕事が2倍に

2007年07月28日 | インターンシップ
 
ART社での勤務をスタートさせてから、既に1ヶ月とちょっとが経過した。僕のプロジェクト自体は6月上旬にスタートさせたので、今のミッションに取り組んでからは約2ヶ月の経過となる。時間が経つのは本当に早い。ゴールまでの作業量と時間配分をしっかりと考えてから行動しなければといつも思う。

しかし、最近になってなぜか僕の仕事が2倍に増えてしまった。いや、3倍くらいに増えたといってもいいかもしれない。しかも、自分の本来のミッションではない範囲の仕事が増えてしまった。まあ、インターンの身分だから何を頼まれても文句は言えないのだけど、時間のマネジメントがより困難になったことだけは確かだ。

忙しくなった原因は、他のインターンの面倒を見てくれと頼まれてしまったからだ。ATR社には、僕以外にもインターンとして勤務する者がたくさんいるのだけど、その多くはフランスの大学やグランゼコールに通うマスターコースの学生達だ。2年間のマスターコースの中間にあたる1年目の夏休みに企業で実務を経験し、将来の就職活動の際のアピールポイントにするのが主な目的だ。

マスターの1年生ということもあって、みんな僕よりも小学校でいえば一回りくらい歳が若い。大体24歳から25歳くらいだ。これまで大学や大学院ではリサーチをした経験があるものの、会社の中で実際に働くのはこれが初めてという学生も多い。そんな学生インターン達がちゃんと価値ある成果を出せるように力を貸してやってほしい、というのが僕に課された新しいミッションだ。

事の発端は、僕が最近部内で行ったプレゼンにあるらしい。僕は、スーパーバイザーであるMarketing部門のFormica副社長の指示により、Commercial部門のTritto副社長、それに、Asia Pacificを担当するAlbertoセールスディレクター、たまたまトゥールーズ本社に戻ってきていた現在は中国駐在のDeaveuxディレクターの前で、これまでの分析結果をまとめたプレゼンを行った。

プレゼン自体は30分もしないうちに終了したのだけど、その後聞いていた全員から鋭い指摘やさらなる追加調査の指令が山ほどあり、僕が行った分析もまだまだATRの幹部を満足させられるだけのレベルに達していないなあ~と正直感じていた。

しかし、実際には僕のプレゼンは予想外にも皆さんに好評だったらしく、僕の分析レポートがMarketing部門とCommercial部門の中で展開されることになってしまったらしい。そして、そのレポートを読んだ部門内の他の人達が、「よし、NOBUにお願いしよう!」ということで、自らがスーパーバイザーをしている学生の面倒をみてくれと、僕の部屋に頼みにくるようになったのだ。

という事情があって、結局僕はインターンの身分でありながら、4名もの学生さんのプロジェクトの面倒を見ることになってしまった。仕事が2倍にも3倍にも増えた一番の原因は、まさにこれだ。

面倒を見るといっても、別に僕が彼らの上司となって自分のプロジェクトのために彼らの時間を使ってもいいという意味ではなく、100%彼らのプロジェクトのお手伝いだ。自分のプロジェクトに取り組む時間がどんどん削られていく結果に落ち着く。これは困ったことだ。

でもまあ、毎回彼らから感謝してもらえるのは気持ちがいいし、将来の人的ネットワークで役に立つこともあるかもしれないし、何より、僕にとっての良いマネジメント経験の機会だと思って、今は全てをありのまま受け入れ100%全力で対応している。僕がこれまでの社会人経験で学んだことや、MBAで身につけた理論やテクニックなどを、少しでも彼らの役に立てることができれば幸いだ。僕にとっても自分の理解の深さを反省する良い機会になる。

しかし、僕にインターン学生の面倒を見てくれと頼んできたATR社の皆さんは、例外なく揃って長期バカンスに出かけていった。しまった、これが彼らの作戦なのか!と気づいた時にはもう遅かった。

ということで、この夏はATR社で思いっきり働こうと思います。

(写真は週末を利用して登ったピレネー山脈のLac d’Oo)
 

システムダイナミクス

2007年07月26日 | インターンシップ
 
ビジネス開発における戦略オプションを検討する時、少なくとも現時点でどんな要素が既存マーケットを構成し、どの要素とどの要素が相互に絡み合っているかを理解しておくことは非常に大切だ。分析の結果最も勝つ可能性が高いと思われる戦略オプションを実行してみたところ、見落としていた第3の要素に予想外のインパクトを及ぼしてしまい、何もしないという選択肢よりも悪い結果をもたらすことだってある。

僕が今担当しているのは、ATR社の航空機ビジネスを新たなマーケットに投入するための市場戦略立案なのだけど、やはりどこをどう動かしたらこのマーケットの中で何がどう動くのかをしっかりと見極めてからオプションの優劣を決めたいと思っている。そのためのツールとして、今回System Dynamics(システム・ダイナミクス)という手法を採用することにした。

システム・ダイナミクスは、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した分析ツールで、主に複雑に絡み合うシステムの構造を理解するために用いられる。僕はこの分野の専門家ではないため、今ちょうどMITで学ぶBigakiraさんにメールを送り、教えを請うことにした。

メールでのお願いにも関わらず、24時間も経たないうちにBigakiraさんはシステムダイナミクスに関する資料を僕に送ってきてくれた。大学院の授業で多忙を極めるにも関わらず、僕の基本的な質問に対応してくれて本当に感謝だ。Merci!

送ってもらった資料を読み込んだ僕は、さっそくシステム・ダイナミクスの手法を使ってATR社の航空機に関する分析をしてみた。50席~70席クラスのターボプロップ機市場に関しては、今世界で2社しかプレーヤーがいない。カナダのボンバルディア社と“我が”ATR社だ。

以前はスウェーデンのSAAB社やオランダのFokker社もあったのだけど、この50席~70席クラスのターボプロップ市場は、Regional Jet(リージョナル・ジェット)と呼ばれる小型ジェット機に押されて、今後数年間で姿を消す運命にあると言われていた。SAAB社とFokker社が生産を中止してしまったのはそのためだ。

しかし現在、原油高に伴う航空燃料費高騰を受け、極めて低燃費かつ環境に優しいターボプロップ機の良さが見直されつつある。元々、ターボプロップ機は離着陸に必要な滑走路が短くて済み、ジェット機よりも低い高度を飛ぶのでフライト中の眺めが素晴らしいという良い点もあった。スピードさえ我慢すれば、ターボプロップ機のほうが優れている点はたくさんあるのだ。

そんなことを考えながら、僕はシステム・ダイナミクスの手法を使ってATR社の航空機がマーケットにもたらすインパクトを図(写真参照)のように考えてみた。たぶん、画像が小さすぎて読めないと思うけれど、これは非常に優れたツールだと実感した。このシステムの中に何をインプットすれば、どこが影響を受けて、その影響を受けた部分が次にどこに影響を与えるかまで、しっかりと一枚の紙の上で再現してくれる。使いこなせるようになれば、本当に強力なツールだと思う。

システム・ダイナミクスに興味のある方は、ぜひBigakiraさんのブログを覗いてみてください。専門家の立場から非常に分かりやすく説明してくれています。

より詳しく知りたい人はこちら
 
(写真は僕が行ったATR社のシステム・ダイナミクス分析)
 

Be creative!

2007年07月20日 | インターンシップ
 
僕がインターンとして勤務しているATR社は、本当に明るく陽気な航空機メーカーだ。イタリアとフランスの合弁企業だからかもしれないけど、とにかく日本では考えられないくらい皆Easy Goingな働き方をする。もちろん、自分独自のスタイルでだ。

自分独自のスタイルで働くというのは、当然僕にも要求される。日本のように決まった書類フォーマットや定期ミーティングに縛られることはなく、自分が何かいいアイデアを思いついたその瞬間に皆に声をかけ、皆を巻き込みながら独自のアイデアを進化させていくのだ。

僕が所属するMarketing & Commercial部門では、特にこの傾向が強い。世界的な航空機メーカーの一つであるとは言っても、ボーイング社やエアバス社と比べれば巨像とアリのようなものだ。当然、高いお金を払ってコンサルティング会社にマーケティングを依頼するようなお金はないし、使える有料データだって費用対効果を考えながら厳選しないとダメだ。余計なお金は1ユーロだってかけられない。このあたりがマーケティング予算が豊富にある大手企業とは違う。

日頃からよく言われているのは、「Be creative!」ということ。金がないならアイデアで勝負しろ!ということだ。クリエイティブに考え、クリエイティブに行動しろというのは、本当に毎日のようにボスから言われる。ミスはないか、誤字・脱字はないか、横並びはどうか、過去の事例はどうか、そんなことに力点を置いて評価される日本との違いを感じてしまう。

僕はこのイタリアン&フレンチなワーキングスタイルが大好きだ。日本にいる時も常に「Think Differrent」を意識して行動してきた。実際、日本での僕のオフィスには、「Think Different」と大きく書かれた一枚の紙がデスクマットの間に挟まれていた。毎朝それを見て、今日も一日「Think Different」で行こう!と自分を駆り立てていた。

今働いているATR社では、上下左右360度から「Be creative!」であることが求められている。もちろん、仕事の結果に対する要求レベルは極めて高いのだけど、そこに至るまでの道筋については白紙のまま僕に与えてくれる。ゴールに辿り着くまでの道は、僕のアイデア次第ということなのだ。

このスタイルが今の僕にとってはとても気持ちいい。最高に気持ちいい。