宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

Be honest!

2006年11月30日 | MBA
 
MBAにおいては、経営学の理論を学ぶこと自体が目的なのではなく、いかにそれを現実のビジネスに応用できるかが最も重視される。それは教授の態度にも如実に表れていて、マーケティングのMalavel教授などは、現実のビジネスを進めるにあたって“Don't have to be honest(正直である必要はない)”とまで授業中に言いきったりする。

誤解を生じかねないので正確に言うと、マーケティングを実行に移す際に、分析段階においてはデータや現実に対して“Honest(正直)”でなければならないが、Customer(顧客)にInfuluence(影響)を与える段階に至っては、必ずしも“Honest(正直)”であることに固執する必要はない、という文脈での発言だった。

すなわち、マーケティングの分析結果を踏まえていったん戦略を決めたならば、それを現実のものとするために、あらゆるデータを自分に都合の良いように加工(捏造は絶対ダメ!)し、顧客に最大のインパクトを与えることを常に目指さなければいけないのだ。

もちろん、Corperate Social Responsibility(企業の社会的責任)の議論やDisclosure(積極的な情報開示)の議論も別にあるだろうけれど、Market(市場)の中で勝ち組として生き残るためには、こういったビジネスの“厳しさ”もしっかり認識しなければいけない。Malavel教授はそう言いたかったのだと僕は思う。

一般的に極論に聞こえる発言に関しては、すぐに賛成とか反対とかではなく、その裏に込められた意味を自分自身の頭でしっかりと考えていかなければならない。何か大切なことを伝えたいからこそ、あえて教授はその発言をしているからだ。

“自分はいかに考えるか”。それこそがまさにMBAで一番大事なものだと最近思うようになった。

(写真はビジネススクールの教室から撮った一枚。目の前にあるのは、Palace de Europe(ヨーロッパ広場)。いつもこの風景を見ながらくつろいでいます。)
 

エアカーゴ

2006年11月29日 | MBA
 
今日は午後からエアバス社のマーケティングディレクターであるDidier Lenormand氏が来校して特別講義をしてくれた。こうやってヨーロッパ航空宇宙産業のキーマンから直接にノウハウを伝授してもらえるのも、このAerospaceMBAの大きな特長の一つだ。

話は主にセグメンテーション(市場の細分化)とそれぞれのカテゴリーにおけるビジネスの特徴に関するものだった。その中で僕が一番興味を持ったのは、Lenormand氏のエアカーゴビジネス(航空貨物の輸送ビジネス)に対する分析の仕方だ。

エアカーゴビジネスとは、簡単に言うと、飛行機で荷物を運ぶビジネスだ。花や魚といった鮮度重視の消費者向け物品から、コンピュータの半導体といった小型高額物品、さらには人工衛星といった大型の超高額貨物まで、世界中のSeller(売主)とBuyer(買主)を飛行機という手段で繋いでいる。

輸送手段としてのエアカーゴのメリットは、もちろんスピードの速さにつきる。船も鉄道もトラックも、スピードに関しては決して飛行機にかなわない。だからこそ、いかにしてスピードをアップするかが重要になる。

ここでLenormand氏から僕達にこんな質問が投げかけられた。「もし君達がCEOなら、どうやってスピードを最大化するかい?」

この問いに対して一番最初に思いつくのは、やはりスピードの速い航空機を導入するということだろう。飛行機のスピードが早ければそれだけ荷物も早く運べると考えれば、これは賢明な選択と言える。

しかし、結論から言えばこの回答は正解ではない。100%有り得ない選択肢だとも言えないが、投資対効果を最大にする経営の観点から考えるならば、最良の選択肢ではないのだ。

では、何がベストなのか。その答えは、エアカーゴビジネスにおける標準的なオペレーションの分析にある。

エアカーゴビジネスでは、通常、送り主から荷物を受け取り、それを空港まで運び、税関手続(国際貨物の場合)を経て、航空機に搭載する。そして、航空機で目的地まで運んだ後、今度は輸入にかかる税関手続を経て、再度トラックなどに積み込んで受取人の元まで運ぶというオペレーションが行われる。

ここで鍵となるのは、各オペレーションに要する標準的な業務処理時間だ。荷物が送り主から受取人に届くまでの総時間を100とすると、荷主から出発地の航空機に積み込むまでの時間が32、航空機で輸送している時間が12、到着地の空港から最終的に受取人の元に荷物が届くまでに要する時間が56といった割合なのだ。

すなわち、エアカーゴビジネスにおいて実際に航空機で荷物を輸送している時間というのは、全体の12%でしかない。ここにいくら投資をして改善したところで、全体に対するインパクトはそれほど大きいものにはならない。

なので、CEOとしては、残り88%を占めるグラウンドオペレーションをいかにして効率化してスピードアップするかを一番に考えるべきなのだ。エアカーゴビジネスの勝利の鍵はここにある。

こうやって第一線のビジネスパーソンから直接話を聞けることは、本当に有り難いと思う。
 

マーケティング

2006年11月28日 | MBA
 
今日から授業はMarketing&Sales(マーケティングとセールス)だ。僕がMBAの中で一番学びたいと思っていた科目だ。

使っている教科書はもちろんMBAマーケティング科目の定番であるP.コトラー教授の“Principle of Marketing”(マーケティングの原理)だ。全部で1,000ページ近くあるのだけど、読んでみると本当に内容が濃くて面白い。実際に企業で起った実例のケースなども豊富に掲載されていて、読む者を飽きさせない構成になっている。

このコトラー教授の超有名な教科書の他、マーケティングの主任教授であるMalavel教授の著書“Aerospace Marketing Management(宇宙航空マーケティングマネジメント)”も教科書として指定されている。

コトラー教授の教科書が一般的な民間企業におけるマーケティングの応用例を紹介しているのに対して、Malavel教授の教科書はエアラインやエアカーゴ、航空機製造メーカー、人工衛星メーカー、ロケットメーカーなど、宇宙航空ビジネスにおける様々なマーケティングの応用事例を数多く紹介している。こちらもまた読んでいて飽きない内容だ。

そしてこのAerospace Marketing Management、現在ではフランス語と英語と中国語(一部のみ)しかこの世に存在しないらしい。日本語版を作成する予定はないのですか?と教授に質問したら、『ぜひNOBU(僕のこと)がやってくれると有り難い。』との回答。

う~ん、500ページかあ。不可能ではないけど、結構ボリュームあるよなあ~。でも日本の宇宙航空産業の発展に貢献すると思えば、絶対にやるべきかなあ~。僕のマーケティングの勉強にもなるしなあ。

どうですか、皆さん読んでみたいですか?『Aerospace Marketing Management』。

読んでみたい!という声が多ければ、本気で翻訳に取り組んでみようと思います。

(写真は『Aerospace Marketing Management』の実物)
 

MBAの一日

2006年11月27日 | MBA
 
これからMBAを目指す人の参考になればということで、今日はMBA生活の一日のスケジュールを紹介したいと思います。先週は大体こんな感じでした↓。

07:00 起床(シャワー&朝食&着替え)
07:30 MBAの授業に向けリーディング
08:30 愛車RenaultでESC(ビジネススクール)へ向けて出発
09:00 ESCに到着(MBA学生のみ駐車場代を学校が払ってくれる)
09:30 授業①スタート
11:00 Break(もちろんカフェ)
11:15 授業②
12:45 Lunch(大体クラスメートと学校の外に食べにいく)
14:00 授業③再開
15:30 Break(今度は紅茶)
15:45 授業④
17:00 Break(最後は日本茶)
17:15 授業⑤
18:45 終了
19:00 IASキャンパス(自宅)に向けて出発(途中クラスメートを自宅まで送る)
19:30 IAS到着(とりあえず30分ほど休憩しつつ、メールをチェック)
20:00 一日を振り返ってブログの記事を書く(+メールの返事を書く)
20:30 夕食(最近は学校帰りにPour emporter(持ち帰り)をすることが多くなった)
21:00 明日の授業に向けリーディング(コーラとフリスクで一気に眠気を覚ます)
03:00 就寝(バタン&キュー)

という感じです。日本にいた頃よりも結構ハードな生活かもしれません。

まだマーケティングのリーディングが終わってないので、勉強に戻りたいと思います。

(写真はビジネススクールへ行く前に車で撮った一枚)
 

試験終了!

2006年11月26日 | MBA
 
Managerial Economics(経営管理経済学)の試験が終わった~!試験が終わった後のあのなんともいえない達成感と開放感を、今は心の底から味わっている気分だ。きっとこんな気持ちになったのは、大学卒業以来のことだと思う。

さて試験の出来はというと、僕としては結構よく出来たほうだと思う。3時間ぶっ続けで10ページ以上も英語で答案を書いたのでちょっと手が疲れてしまった。けど、全ての質問に回答することができたし、自信のない答案は今のところはない。たぶん核心ははずしてないと思う。

今日はこれからクラスメートとショッピングに出かけて、それから映画を観る予定だ。フランス語なのでたぶん全部は理解できないと思うけど、何事もチャレンジだ。(通っていればいつか理解できるようになるはず!)

ということで、久々にリラックスしたいと思います。皆さんもよい週末を!
 

Murray教授の言葉

2006年11月25日 | MBA
 
2週間にわたるMarnagerial Economics(経営管理経済学)の授業がついに終了した。MBAの授業では最終回の講義のときに、教授から生徒に向けて人生訓のようなものを伝えるのが慣例なのだけど、今日はManagerial Economicsの主任教授であるMurray教授からの話を少し紹介したい。

●常に明日を考えよ。我々は、今日既に存在しているものを変えることなどできない。

●より良き明日のために自分が何をできるかを考えよ。もしそこにより良き選択肢が存在するなら、今の自分の行動を変えることを恐れてはいけない。

●より重要なものから考えよ。我々は、全ての人について全てのことを知ることはできない。

●小さなことは忘れてしまえ。どんな時にもかならず制約条件は存在する。

●今、ここで、この瞬間からこのように考えよ。時間が止まってくれないように、経済も決して止まってくれはしないのだから。

MBAはまだ始まったばかりだけど、僕はこの2週間、毎日毎日が新しい発見と学びの連続だったような気がする。もちろん毎日課される膨大な量のリーディングや宿題のことを考えれば決して楽な時間ではなかったのだけれど、それでも僕がMBAのために投資した時間や労力(Total Cost)を補って余りあるだけの大切なもの(Total Benefit)を、僕はこのManagerial Economicsという授業から得たような気がしている。

次の科目は“Marketling & Sales”(マーケティングとセールス)だ。僕がMBAの授業の中で一番学びたかった科目だ。

しかし、その前に明日“Managerial Economics”の最終試験がある。9時30分から12時30分までの3時間、今の自分がどこまでできるか、思いっきり能力の限界を試してこようと思う。

Wish me Luck!
 

カーボントレード

2006年11月24日 | MBA
 
今の授業はEnvironmental Economics(環境経済学)。地球温暖化ガスの削減義務を定めたKyoto Protcol(京都議定書)の考え方のベースとなった学問だ。

従来、地球環境に悪い影響を与えるような経済活動に対しては、政府が税金などの規制を課すことで対応していた。しかし、政府規制によるコントロールでは、守っているかどうかを監視するために非常にコストがかかる上に、開発と環境保護の微妙なバランスを保つ適切な税率がどの程度かを設定するのが非常に難しい。

そこで経済学者のロナルド・コースは、市場メカニズムを利用することで、政府による直接規制に比べてローコストで経済活動をコントロールできることを証明してみせた。このコースの考え方(『コースの定理』という)を応用して考案されたのが、京都議定書に定めるCarbon Trade(二酸化炭素排出権取引)の仕組みだ。彼は後にこの業績によりノーベル経済学賞を受賞している。

京都議定書の仕組みについて詳細に説明すると長くなるので割愛するが、今日の授業でEnvironmental Economicsを勉強して初めて、なぜ排出権取引という仕組みが社会全体としての二酸化炭素排出量の削減につながるのかをようやく理解できた。本当にすごい仕組みを考えついたものだ。

そして午前中に環境経済学の理論とヨーロッパにおけるCarbon Tradeの最新状況を学んだ後、午後からはまたケースを使った授業を行った。今日のケースは昨日よりも複雑で、航空会社A、航空会社B、航空会社C、航空会社Dに分かれて、互いに自社の航空機から排出される二酸化炭素をカバーするために、仮想の市場で取引をするというものだ。

このケースで難しいのは、各航空会社に課せられた二酸化炭素排出量の削減目標に対して、自社内における努力(新技術の導入やオペレーションの見直しなど)により対応するのか、あるいは、市場でお金を支払って余裕のある他社からAllowance(排出権)を購入することで対応するのかの意思決定をしなければならないことだ。そして、その両方により対応するとした場合には、その割合も重要なキーになる。

市場で排出権を他社から購入すればコストがかかるし、自社内で努力をしてもそれに必要なコストは当然発生する。さらに、もし目標値が達成できない場合、削減できなかった二酸化炭素排出量1トンあたり100ユーロをEUに支払わなければならない(今日のケース上の設定)。これは排出権の市場価格よりも格段に高い金額なので、航空会社にとってはこの罰金だけは絶対に避けなければならない絶対条件だ。

そんな制約条件がある中で、最小のコストで目標とする二酸化炭素排出量の削減を達成するにはどのような経営判断をすればよいか、というのがこのケーススタディのテーマだった。

このケース、やってみると意外に奥が深くて面白い。僕はギリギリの駆け引きを強いられるカーボントレードという領域にますます興味を持ってしまったのでした。
 

エールフランスとKLMオランダ航空

2006年11月23日 | MBA
 
欧米のビジネススクールで最も盛んに用いられている教育メソッドと言えばCase Method(ケースメソッド)だ。これは経営に関する様々な状況が書かれたケース(20ページから30ページの文書)を読み、その中から経営に係る問題点を抽出し、経営者の立場に立って自分なりの解決策を導き出すというものだ。

今日のケースは2004年に起ったエールフランスによるKLMオランダ航空のM&A(企業買収)について。このヨーロッパ最大の航空会社を誕生させる大規模M&Aが、マーケットにいかなるインパクトを与えるかを、当事者である航空会社及び企業合併を監視するEC(European Commity)の立場に立って分析するのだ。

大規模合併がなぜ問題となるのか、それはMomopoly(市場の独占)につながるからだ。Monopolyは企業側のMarket Power(市場支配力)を増大させ、価格を自由に操作することによってConsumer Welfare(消費者の利益)をProducer Welfare(企業側の利益)へと容易に移し変えることができるMarket Structure(市場構造)なのだ。

さらには、Perfect Competition(完全自由競争)に比べてSocial Welfare(社会全体の利益)を最大化できない、そして、市場が求めるDemand(需要)よりも少ない量の商品やサービスしか生産しなくなるといった弊害を生む。

今日の授業はこのエールフランスとKLMオランダ航空のM&Aについて、いかにして独占の可能性を極力抑えながら、消費者の利益に叶う企業合併をデザインしていくかを議論するものだった。

最初にグループで1時間ほどディスカッションをした後、エールフランス-KLMオランダ航空側とEuropean Commity側のそれぞれが、Share Holder(株主)&Competitor(競合他社)&Consumer Organization(消費者団体)の3者が前にいることを想定して、自分達の主張の正当性をプレゼンすることになった。

そしてエアフランス-KLMオランダ航空側のプレゼンターとして選ばれたのが、なんと僕だ。理由はよく分からないが、とりあえず引き受けてみた。何事もチャレンジだ。

プレゼンの時間は15分。みんなで行った議論の結果をまずは箇条書きにして重要なものから説明した。いかにこの買収が互いの企業価値を高め、株主の利益につながるのか。そして、いかにこの企業合併の効果が消費者の利益につながるのか。さらには、なぜこの企業合併は公正で公平な市場競争を阻害しないかを、具体例を交えて説明したつもりだ。

正直うまくいったかどうかは分からない。その後の質疑応答タイムで反論コメントが相次いだところをみると、僕の説明ロジックはまだまだ未熟だったようだ。とくにエアライン出身者の指摘は鋭かった。さすがだ。この分野については僕はもっともっと修行しなきゃいけない。

ということで、今日はかなり疲れ果ててしまいました。それでも明日の授業のためにリーディングをこなさなければいけないのがMBAの真の姿なのでした。
 

アウトソーシング戦略

2006年11月22日 | MBA
 
エアバス社は航空機製造メーカーだが、航空機の製造に必要な全ての部品を自前で製造しているわけではない。機体に用いる鋼材は鋼材メーカーから買うだろうし、タイヤはタイヤメーカーなどから買っているはずだ。

すなわち、どの企業もビジネスを遂行する上で、どの部分は自社で責任を持って遂行し、どの部分は他社に任せるかの意思決定を必ずしているのだ。この他社に任せる部分を企業のOutsourcing(アウトソーシング)戦略という。

このアウトソーシングという概念が注目を浴びたのは、1980年代に米コダック社が自社のデータベースサーバーを一括してIBM社に委託したことに始まる。それまでは自社で責任をもって管理するのが当たり前と思われていたデータベースの管理を外部の専門業者に委ねることによって、コダック社は実に大幅なコスト削減に成功したのだ。

それから数十年、今日ではアウトソーシングは単なるコスト削減の手段のみならず、マーケットの中で競争優位を確立するための重要な戦略的手段となっている。戦略的アウトソーシングなくして、企業はもう勝ち残れない時代といってもいい。

今日授業でインド出身のKali教授が紹介してくれた面白いアウトソーシングモデルを紹介したい。健康診断などで撮るX線写真に関する話だ。

アメリカではX線写真を撮った場合、医師がその写真についてレポート(所見)を書いて患者にフィードバックすることがあるのだそうだ。しかし、このレポートを書くという作業、高級取りのアメリカ人医師にやらせると莫大なコストがかかる。

そこでITが発達した現代においては、アメリカで撮影したアメリカ人のX線写真をインターネット経由でインドまで送り、時間単価の安いインドの医師に英語で所見を書いてもらい、再度アメリカまで送りかえしてもらうという、なんとも手間のかかるオペレーションを実際にやっているのだそうだ。

僕なりに分析した結果、このアウトソーシングモデルを可能にしたのは主に以下の5つの要因だと思う。

 ①レポートを書くという、Face-to-faceのコンタクトを必要としないサービスであったこと
 ②インターネットという瞬時にして国境を越える強力なツールが出現したこと
 ③インド人医師の医療レベルが高いこと
 ④インド人医師が概ね英語に堪能であること
 ⑤インド人医師の労働コストがアメリカ人医師に比べて格段に安いこと

ビジネス環境もテクノロジーも国際情勢も、全てが日々変化し続けている。最新の情報に注意を払って何が今この瞬間のベストプラクティスなのかを常に考え続けていないと、すぐに時代に取り残されてしまうのだ。
 

オークション

2006年11月21日 | MBA
 
今日の授業はゲーム理論としてのオークションのメカニズムについて。

オークションと聞けば、サザビーズなどの絵画やプレミア品の競りを思い浮かべる人が多いと思う。しかし、実際には金額をどんどん上げていく馴染みのスタイルのオークションばかりでななく、様々なスタイルのオークションがこの世には存在する。

最も一般的なのはEnglish Auction(イングリッシュオークション)だ。これは品物に対して買い手がどんどん高い値段をコールしていき(これを“Bid”という)、最終的に一番高い値段をつけた人がその品物を落札するという仕組みだ。一昔前のテレビ番組で『ハンマープライス』というのがあったが、あれはこのEnglish Auctionスタイルを採用している。

それに対するのがDutch Auction(ダッチオークション)だ。これは売り手がまず高い値段をセットし、そこから売り手がどんどん安い値段をコールしていき、この値段なら自分が買いたいと手を挙げる買い手が表れるまで値段を下げていく仕組みだ。最終的には、売り手の値下げコールを一番最初に止めた人がその止めた値段で品物を手にすることになる。

このDutch Auctionは、買い手からのBidが1回で済んでしまうので、あまり時間をかけずに短期間に大量の商品をさばいてしまいたい魚や野菜のオークション(“競り”と言ったほうが分かりやすい)などに採用されることが多いらしい。

その他、First Price Sealed Bidというのがあって、これは他人に知られないように値段を付けて入札し、最終的に一番高い値段をつけた人がその品物を手にするという仕組みだ。政府関係物品の調達や公共工事の入札などがこれにあたる。

また、Second Price Sealed Bidというのもあって、これは他人に知られないように入札し、一番高い値段をつけた人がその品物を手にするという点ではFirst Price Sealed Bidと一緒なのだけど、その品物を手にした人が実際に払うのは、その1番高い金額ではなく、2番目に高かった金額でよいというものだ。

最初に聞いたときは、2番目に高い金額でOKにするなんて売り手にとっては大損じゃないか!と単純に思ってしまったのだけど、教授の説明を聞いてオークションの経済学的メカニズムに納得してしまった。

仕組みはこうだ。AさんとBさんがある品物Xを巡ってオークションで競っていたとする。Aさんは品物Xに1000万円の価値をつけ、1000万円までは支払うつもりでいたとする。それに対してBさんはその品物Xに800万円の価値しか見出せず、800万円までなら出すつもりでいたとする。

English Auctionスタイルでオークションが始まった。一番高い金額をコールした人が、品物Xを手にすることができる仕組みのオークションだ。

Aさん、Bさんが交互に値段をコールしていき、どんどん品物Xの値段が上がっていく。そして、Bさんが800万円をコールした後、Aさんが800万100円をコールしてこのオークションは落札となった。Bさんは品物Xに800万円以上出すつもりはないからだ。そして品物Xは最終的に800万100円でめでたくAさんのものになった。

ここで考えてみてほしい。Aさんは元々品物Xに対して1000万円の価値を見出していた。これは言い換えれば、もし金額を互いに知られないように紙に書いて入札していたら、Aさんは1000万円と書いて入札していたであろうということを意味する。

それが今回Aさんは、結果的に800万100円の値段で品物Xを手にすることができたのだ。この金額は、もし金額を互いに知られないように紙に書いて入札していたならば、まさにBさんが紙に書いていたであろう金額の800万円に限りなく近い。すなわち、イングリッシュオークションでの落札金額は、常に2番目に高い金額+α(ちょっとだけ増加)となるのだ。

ということで、1番高い値段をつけた買い手が品物を手にするルールであっても、売り手が手にするのはほぼ2番目に高い金額に限りなく近い金額でしかないという不思議な不思議なオークションのメカニズムなのでした。

ゲーム理論という分野から何人ものノーベル経済学賞が出ている理由を理解できた一日でした。

※注釈:どのオークション方式を採用しても、結果として売り手が手にする金額は2番目に高い金額とほぼイコールになります(買い手同士の共謀が無い場合)。なぜそうなるのか、分かった人はコメント欄に答えを書いてみてください。

(写真は退役後にオークションにかけられたコンコルドの先端部分)