最高のプレゼンテーションに巡り会えた。Avions de Transport Regional(ART)の副社長、Gianni Tritto氏のプレゼンだ。
話の内容が面白いだけでなく、聴衆とのインタラクション、的確な質疑応答、後に残る心地よさ、どれをとっても超一流だった。僕の人生の中でのBest of bestだ。
ATRという会社は、短距離航空輸送をターゲットにしたターボプロップ航空機(プロペラ機)の開発・製造メーカー。日本の航空機で言えば国産のYS-11みたいな感じの飛行機を作っている。(写真参照)
Tritto氏の話を聞く前はジェット機全盛の現代に今さらなぜプロペラ機?と疑問しか湧かなかったのだけど、彼のプレゼンが始まって5分もしないうちにプロペラ機のもつさらなる可能性にどんどん引き込まれていった。
そもそもなぜプロペラ機が敬遠されてきたかというと、プロペラが回転するためにジェット機に比べて機内での騒音、振動が大きく、乗客の快適性が損なわれるといった理由がある。さらにスピード面でもジェット機にはかなわない。
そんな欠点ばかりが目立つプロペラ機について、Tritto氏はまずデメリットについて近年の技術革新が快適性をジェット機以上のものにしたことを説明し、次にジェット機にはないメリットについて様々な数値を使って次々と説明し始めた。
例えば燃費。平均的なジェット機(RJ:Regeonal Jet)が約1,500kg/fuel・hourなのに対して、ART社のATR-42は約780kg/fuel・hour。年間フライト時間で換算すると、プロペラ機を使ったほうが72,000tonの燃料の節約になる。さらにこれを金額に直すと、5年間で5,000万USドルものコスト削減につながる。近年のオイル高騰を考慮すれば、これは航空会社の経営者にとってはかなり魅力的な数値だ。
コスト面だけではなく、Tritto氏はさらに京都議定書にまで言及した。二酸化炭素排出量の増加を危惧しているヨーロッパにとっては、燃料の消費は今最大の関心事のひとつなのだ。これもまた企業経営者の心に響くに違いない。
その他、ジェット機に比べて離着陸に必要な滑走路が短くてすむことや、着陸から次の離陸までの時間が最短で15分程度で済むこと、メンテナンスコストが安いこと、過去の実績で99.6%以上の運行可能率を維持していることなどを挙げて、いかにATR社のプロペラ機がジェット機に比べて優れているかを説得力をもって説明してくれた。
彼が用いた図や数値やグラフ、さらには言及した政治的・社会的背景まで、そのすべてが完璧なまでに彼の主張をサポートしていた。本当に見事としか言いようがなかった。
以前にMBAディレクターから“企業のCEOになるような人物はソフトスキルがケタ違いに高い!”と言われたことを思い出したが、あれはまさしく事実であり、真実なのだ。
ここまで感動するプレゼンを聞いて僕が黙っているわけはない。当然、彼の経営哲学や経営戦略を聞いてみたくなって、かなり深くっこんだ質問をしてみた。
その内容については明日また紹介したいと思います。
(写真はATR社のATR-72航空機)