『MBAは後から効いてくる』というのは、僕がまだMBAの受験生だった頃にあるMBAホルダーから言われた言葉だ。実際にMBAを取得して日本に帰ってきて、今まさにこの言葉が正しかったということを実感している。先輩はウソをついていなかった。毎日の仕事の中で「あの時、あの授業の中でやったアレはこのことを言っていたんだ!」という場面に毎日のように遭遇している。
例えば、今ある人工衛星の調達方法を決めるのに2つの方法があったと仮定する。MBAに行く前の僕なら、単純に総額とか、スケジュールとか、技術的な難易度を基準にしてある程度の比較分析を行い、最終的な提案をしていたと思う。しかし、MBA的な考え方が体に染み込んでいる今の僕の頭では、さらに複数の考えるべき要素が自然とアタマの中に浮かんでくる。金銭の時間的価値はどうか、リスクプレミアムは?、リアル・オプション的な要素は他にないか?、限界効用は?、Break Even、NPV、IRR、、、数えあげたらキリがないほどのコンセプトが次から次へと出てくるのだ。
もちろん、全てを詳細に検討するのは単なる時間の無駄使いなので、これらの中からケースに応じて最も分析に適したコンセプトだけを選び、一つづつ丁寧に考えを深堀りしていく。結果として、意思決定のクオリティは以前では想像もつかなかったレベルにまで高まっていると感じることが多い。以前の僕の意思決定のクオリティが低すぎたからかもしれないが、最近は特にそう感じるのだ。知らず知らずのうちに、僕は想像以上の何かを手にしていたようだ。
それと、日本に戻ってきてからふと気づいたのだけど、この国はミーティングが多すぎる。コミュニケーションはとればとるほど効果があると思っているのだろうか。毎日朝から晩までミーティングの連続で、実際にアタマを振り絞って落ち着いて戦略を考えるような時間は、どうしても夕方以降になってしまうのが今の現実だ。
僕の考えでは、コミュニケーションというのは洗濯用の洗剤みたいなものだ。入れなければ汚れは落ちないが、入れすぎても溶けきらずに残るだけ。洗剤が溶けずに残った衣服なんて、もう一度洗濯し直さなければならないという意味で、ムダな作業以外の何ものでもない。
一般的に「効果」というものは、ある一定レベルまではどんどん上昇するものの、そのある一定のレベルに近づくにつれて「効果」の増加量はどんどん小さくなり、やがてそのある一定のレベルに到達すると「効果」の量は増えもせず減りもしない均衡した状態になる。さらにそのある一定のレベルを超えると、逆にどんなに一生懸命努力をしたとしても、「効果」の量は減っていってしまう。それが現実だ。Managerial Economics(経営管理経済学)で習ったMerginal Effect(限界効用)の考え方は、まさにこれを経済的なモデルで証明したものだ。
ということで、来週からはミーティングの1回あたりの時間を減らしていこうと思う。どんなに時間をかけてもいい成果が出ないものは、勇気をもって早めに切り上げよう。「選ぶこと」とは、「捨てる」こと。時には勇気を持って決断しなければならないこともある。
とにかく、「効果」が最大化されるような動き方をしていこう。