宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

宇宙ビジネスインターン報告会

2009年03月16日 | インターンシップ
 
一ケ月ぶりのブログ掲載!心配してメールくれた方、どうもありがとう。

今年からスタートさせた新企画「宇宙ビジネスインターン」の成果報告会を先日開催した。これは日本全国のMOT(技術経営)スクールやMBA(経営学修士)スクールの学生の方のスキルとモチベーションを少しお借りして、宇宙航空ビジネスが抱える諸問題を解決に導いてしまおう!という企画だ。初年度で手探りの運営だったにもかかわらず、総計14名の学生の方が参加してくれた。本当にありがたい、Merci!

今回発表したテーマは全部で4つ。ナレッジマネジメントに関するもの、事業投資分析に関するもの、ブランドマネジメントに関するもの、インターネットビジネスに関するものだ。どれも僕が所属する組織にとっては異色かつチャレンジングなテーマで、学生の皆さんにはとっては宇宙への挑戦というレアな経験、そして、僕たちはフレッシュな頭脳で考え抜かれた目から鱗の解決策を得るという、相互にWin-Winな関係構築を目指したつもりだ。

もちろん、今年度中にゴールできなかったテーマや、独自のビジネスアイデアを含むので公開にはまだ時期尚早なテーマもいくつかあったのだけど、それでもR&D組織の中でビジネス志向・マネジメント志向のインターンを実施したことに大きな意義があったと僕は思っている。技術力の高さで勝ちながらビジネスでなかなか勝負できないこの国の宇宙に対して、僕なりに一石を投じるための企画でもあった。

成果報告会では、学生の皆さんに幹部の前で直接プレゼンしてもらうことを一番に重視した。自分が考えに考え抜いた分析結果とそれに基づく解決策の提案をその道のプロ達の前で堂々と話す、そんな経験はお金には代えられない価値を持つ。僕がフランスのATR社で行ったインターン経験からこれだけは胸を張って言える。だからこそ、僕と同じ経験を今回のインターン学生の皆さんにも提供してあげたかった。

想定外の成果もあった。今回インターンで取り組んだ課題テーマに興味を持ち、今後も修士論文のテーマとしてさらに深堀りして研究してみたいという学生さんが数名出てきたことだ。MOT/MBAと宇宙航空とのコラボレーションがついに日本でもスタートしたと言ってよい。

明後日にはいよいよ残る1テーマの発表が行われる。最後まで頑張ってほしい。

(写真は成果報告会に参加した立命館大学MOTの皆さん)
 

宇宙ビジネスインターン(PART2)

2008年07月26日 | インターンシップ
 
日本の宇宙開発に新たな風を吹かせるため、今年から新たな制度を試行的にスタートさせた。『宇宙ビジネスインターン』制度だ。以前に一度ブログで紹介したと思うのだけど、日本国内のMBA(経営学修士)やMOT(技術経営修士)の学生の中から有志を募り、宇宙ビジネスが抱える課題に対して、個人又はチーム単位でその解決にチャレンジしてもらおうという企画だ。

この企画が実行されることが決まってから、僕は日本全国のビジネススクールやMOTスクールを営業活動して回った。パワーポイントで企画書を作成し、まず各学校の産学連携担当者やインターンシップ担当の方にコンタクトして、プレゼンの機会をくださいとお願いして回ったのだ。

実際に会って話を聞いてもらえることもあれば、企画書だけ送ってくださいと言われる場合もある。自分では相互にWin-Winの関係を構築できる良い提案だと思っていても、どこの誰かも分からない人間が突然現れて、よい企画だから話を聞いてくださいとお願いしても、実際にはなかなか会ってもらえない。営業マンは本当に大変な仕事だとあらためて感じた。それでも、「断られてからが勝負」というアドバイスを信じ、僕は各スクールにアプローチし続けた。

その結果、複数のMBAスクール、MOTスクールが僕の企画提案に耳を傾けてくださり、既に3校から宇宙ビジネスインターンを受け入れることが決まった。その他、現在交渉中のスクールが4校あり、最終的には10名近いの学生さんをビジネスインターンとして受け入れることができそうだ。各スクールのご協力と学生の皆さんのチャレンジングスピリッツに心から感謝したいと思う。Merci!

現在のところ、宇宙ビジネスインターンに取り組んでもらうことが決定したテーマは以下のとおりだ。どれもチャレンジングなテーマばかりで、短い期間でどれだけの成果が出せるか本当に楽しみだ。大事なのは第一歩を踏み出すことであり、また、今後も継続させて検討していくことでどんどん質を高めていきたいと思っている。

 ○宇宙航空機関における戦略的ナレッジマネジメント(2スクール)
 ○極超音速旅客機に係る商業成立性の検討
 ○インターネットを活用した宇宙グッズ販売に係るビジネスモデル検討
 ○宇宙ブランドにかかるブランドコミュニケーション戦略
 ○小型衛星を活用した新たなビジネスモデル立案

宇宙ビジネスインターンはまだまだ募集中だ。夏休み、秋休み、冬休み、夜間、土日、その他の時間を有効に使ってコンサルティングのトレーニングを積みたい方は、ぜひ応募を検討してみてほしい。宇宙航空という分野は未知のフィールドであり困難なテーマが多いと思うけれど、だからこそ敢えてチャレンジする価値があると僕は思っている。山が高ければそれだけ登頂の喜びも大きいのだ。

年度末には宇宙ビジネスインターンの成果発表の機会として、「宇宙航空マネジメントシンポジウム」(仮称)を開催する予定だ。社会人の方も大歓迎なので、興味のある方はぜひ参加してほしい。

(写真はファーンボローで展示されていたBoeing社ファントム・ワークスが開発中の燃料電池飛行機。これはスゴイ!)
 

ATR最終プレゼン(その2)

2007年10月28日 | インターンシップ
 
ATR社での最終プレゼンを無事終えた僕は、待っていてくれた同僚達と一緒にカフェテリアへと向かった。最後のメニューはラビオリとパスタ。最初から最後まで僕のATRライフはイタリアンなもので埋め尽くされているようだ。フランスなのによりイタリアンな環境に身を置いていたここ数ヶ月間だった。

ランチタイムはゆっくりできるかなあ~と思っていたのだけど、同僚達からまた質問の嵐を受けることになってしまった。最後の晩餐ということで、トゥールーズでNo.1と言われているATR社のカフェテリアの雰囲気を味わいながら食事をしたかったのだけど、それは甘かったようだ。ランチタイムでも約1時間半、僕は話しっぱなしだった気がする。もう喉が痛くなるくらい今日はしゃべった。

ランチが終わった後は、“ポー”と呼ばれる軽いお別れ会を開催することにした。これはフランスの習慣らしく、会社を去る者が自分で料理や飲み物を用意して、同僚達に感謝の意を示すのが一般的なのだそうだ。外国人の場合、本来ならばその国の名物料理を持参するのが望ましいのだけど、僕にそんな料理の腕前はないので、とりあえず軽いスナック(日本製のおかき)と飲み物だけを用意することにした。

僕は皆のグラスにワインを注ぎながら、一人一人に感謝の言葉を言ってまわった。ATR社の同僚達は、本当にやさしく航空機ビジネスのイロハを僕に教えてくれた。分からないことはいつでも自由に聞けたし、アポイントを申し込めば他の部門の職員にもじっくりと話を聞くことができた。一部のトップシークレットを除いてほとんどの情報に自由にアクセスできたし、僕が職場環境に慣れたとみるや、矢のような仕事をふって僕を“鍛えて”くれた。僕が今日この日を最後にATR社を去り、数日後には日本に帰国するんだと言った時は、皆本当に残念そうな表情をしてくれたのがとても印象深い。

正直、スタートする前は期待よりも不安のほうが多かった。しかし、今インターンを終わってみれば、僕がこのATR社勤務から得たものの大きさに自分でもびっくりしてしまう。ヨーロッパ多国籍企業のMarketing&Commercial部門で、マーケット・ストラテジスト(市場戦略担当者)の一人として、突発的な業務も責任を持って任されるまでに信頼されるようになった。この事実が僕の自信となり、今後の僕の成長の糧となってくれるはずだ。目には見えないけれど、本当に大きなものを手にすることができたと思う。マスターカードでも買えない、Pricelessな宝物だ。

しかし、様々なヨーロッパ言語が飛び交う未知の職場に身を置くことは、新たな専門知識やマネジメントスキルを必要とするということ以上に、僕にとって気力も体力も精神力も要求されることだった。正直、最初は自分が5ヵ月後にこんなに充実した形でATR社を去れることになるとは思ってもみなかった。不安要素だらけの僕を、可能性だけを信じて採用してくれたATR社に心から感謝をしたいと思う。Merci beaucoup!

この会社で勤務をすることができて本当に良かった。今、心の底からそう思う。

Au revoir, ATR! Merci, ATR!

(写真は僕が勤務していたATR社の本社の夜の姿。僕の部屋は3階の一番はしっこ。)
 

ATR最終プレゼン(その1)

2007年10月27日 | インターンシップ
 
今日はATRにおける僕の最終プレゼンの日。この日のために5月下旬からずっとあるプロジェクトを進めてきて、その最終的な成果発表をするという位置づけだ。Formica副社長の配慮により、ATR社のMarketing&Commerical部門だけではなく、Finance(財務)部門やCustomer Support(カスタマーサポート)部門の責任者など、複数のATR社幹部を前にして発表をすることになった。

ビジネススクールでのプレゼンは成績評価がされるという意味で緊張感があったが、ATR社でのプレゼンは、本物のその道のプロフェッショナルを前にして意見を主張しなければならないという点で、プレッシャーのレベルは比べものにならない。しかし、相手にとって不足はない。MBAで学んだこと、僕がこの5ヶ月間で一生懸命に情報収集し、必死になって分析した結果を、自信を持って堂々と発表しようと心に決めていた。

僕のプレゼンは11時ちょうどからスタートした。会場は、ATR社の本社最上階に位置するサンテグジュペリと名の付けられた多目的ホールだ。『星の王子様』の作者サンテグジュペリにちなんで名づけられたのは、彼が実はパイロットだったからだ。ヨーロッパの航空機製造メーカーとして、世界的に有名なパイロットに敬意を表している。

僕はまず、ATR社の幹部とスタッフに対する感謝を述べることからプレゼンをスタートさせた。航空機ビジネスの経験もない、日本人でフランス語もイタリア語も流暢には話せず、かつ、Marketing部門でもCommercial部門でも勤務したことがない僕を、ATR社はリスクを承知の上であえて勇気を持って受け入れてくれた。まず、僕はそのことに対して心から感謝をしなければならないと思う。彼らにとっては一種の“賭け”だったと思う。

今回のプレゼンは、ベースとなる内容はビジネススクールでの最終プレゼンと同じなのだけど、やはり聴衆がプロフェッショナルということで、よりビジネスの実行面にフォーカスして話をすることに決めた。つまり、アカデミックな戦略分析はやや薄めにして、ではどうすればより高い確率でその戦略を成功裏に遂行することができるかにより多くの時間を割いたのだ。現場で実際にビジネスを遂行するATR社の幹部にとって、一番重要なのはビジネスのImplementation(実行)だ。実行面での実現可能性なくしては、あらゆる戦略はただの絵に描いた餅でしかない。

前回のビジネススクールでの最終プレゼンを終えた後、Gianni副社長から僕の修士論文とプレゼンを全てConfidential(極秘扱い)にしたいという要請があった。つまり、僕の修士論文もプレゼンも、ビジネススクールにも図書館にも提出できなくなってしまったのだ。今回の成果は100%ATR社の中で保持され、より深い詳細な実行レベルの計画を検討することにしたらしい。成果を高く評価して認めてくれたことは嬉しい反面、ビジネススクール側への貢献があまりできなさそうで少し残念だ。僕に経営知識とマネジメントスキルを与えてくれたお礼に、そして、まもなくスタートする新しい世代のMBA学生のために、僕としてできるかぎりの貢献をしたいと思っていた。とても残念だ。

僕のプレゼンはその後1時間半にわたって続き、結局質疑応答も含めて全てが終わった時には、午後1時近くになっていた。こんなに長い時間一人で舞台に立ち、英語でしゃべり続けたのは、僕としても初めての経験だ。一つ一つの質問に分析データを添えながら丁寧に答えていたら、こんなに長くなってしまった。というよりも、質問の数がビジネススクールの時の比ではなくらい多かった。皆さん、本当に興味深々といった感じで、どんどん僕に深く鋭い質問をしてきた。中には手持ちのデータで応えられない質問もいくつかあり、改めて僕の分析もまだまだ不完全だなあ~と感じてしまった。

全てのプレゼンと質疑応答が終わった後、Formica副社長から僕に対してねぎらいの言葉があった。ATR社で唯一の日本人として大変なこともたくさんあっただろうけれど、キミは我々の期待をはるかに上回るレベルの成果を残してくれた。キミを採用したことはATR社としても本当に正解だったと思うし、特にキミの仕事の進め方や分析の仕方、Out of Boxな思考の仕方など、ATR社の職員も大いにキミから影響を受けたようだ。ATR社を代表してキミに感謝をしたいと思う。グラーツィエ!そんな、とてもとても嬉しいFormica副社長からのねぎらいの言葉だった。

全てを終えてプレゼン会場を去ろうとした僕は、再びFormica副社長に呼び止められた。後で15分程度二人きりで大事な話がしたいので、午後の空いている時間にオフィスまで来てほしいという。なんだろう、またまたイタリアンなごほうびでもくれるのだろうか。先日はGianni副社長からイタリアンなチューインガムを貰った。今度は一体何だろう。

とりあえず、お腹が空いたのでカフェテリアへ行こう。今日が最後なのだ。

(写真はATR-42とATR-72のフォーメーションフライト。ATR社のHPより。)
 

仕事は山のように

2007年10月18日 | インターンシップ

ビジネススクールでのMBA最終プレゼンを終え、ほっと一息ついて今日からは少しゆっくりできるだろうと思って出勤した僕は、ATR社に着くなりGianni副社長に呼び出された。何事だろう、まさか、昨日のプレゼンに何かご不満な点があって呼びつけられたのだろうか、と少し不安になりながら、僕は副社長の部屋のドアをノックした。

一応イタリア語で「ボンジョルノ!」と挨拶して中に入ると、Gianni副社長は僕が昨日提出した修士論文を持ってきて、いきなりさらに深く突っ込んだ質問をし始めた。朝一番からこれは予想外だ。しかし、カフェを飲んで一息つくまで待ってくださいとも言えず、僕は副社長からの矢のような質問に一つ一つ答えていった。こんな時のために担当するマーケットの数字データと分析結果は全て頭の中にインプットしてある。技術的なことを除き、ビジネス面でのことならば大体答えられる。

全て答え終わると、副社長は「OK分かった。グラーツィエ!」といって僕に愛用のチューインガムをくれ、部屋に戻ってよいと指示を出した。とりあえず急場はしのげたようだ。イタリアンなチューインガムもゲットできた。朝から予期せぬ地震に襲われたような感覚だった。

しばらく経って、今度はテクニカル・ディレクターのジャン・フランコに呼び出された。僕はチェックし始めていたばかりのメールボックスを閉じ、急いで彼の部屋に向かった。部屋に入るなり驚いたのは、彼が僕の修士論文とプレゼン資料を既に手元に持っていたことだ。話を聞くと、Gianni副社長からの指示で、僕が提案した戦略プランのテクニカル・フィージビリティを検討せよとの命を受けたらしい。ということで、一度じっくりと僕の戦略プランを説明してほしい、との依頼だった。

もちろん、僕は喜んで昨日提案した戦略プランの内容を説明した。そして、彼と1時間ほど議論をした。さすが航空エンジニア出身だけあって、戦略レベルの計画がどんどん技術的な面で実行レベルの課題へと落とし込まれていく。彼との議論で僕のプランの中身がどんどん具体的に進化していくのを感じた。本当に有意義な時間だった。全ての説明と議論を終えた僕は、必要があればまたいつでも説明に来ます、と言って彼の部屋を後にした。

お昼のランチを同僚と食べた後、今度はマーケティング担当のOlivierに呼ばれる。今日はなんて忙しい日なんだ。自分の席に着いて落ち着く暇がない。するとOlivierからは、明日から季節外れのバカンス休暇に出かけるのだけど、飛行機の中での読書代わりに僕の修士論文とプレゼン資料を読ませてほしいとのことだった。もちろん、喜んで贈呈。ただし、カラー印刷するのに時間がかかるので、仕事がまたひとつ増えた。

Olivierに資料を渡してようやくこれで一息つけると思っていたら、今度はアジア担当のセールス・ディレクターがなぜか僕の部屋にやって来た。いつもは海外の事務所で勤務しているのだけど、たまたま顧客のトゥールーズ訪問に同行して帰ってきていたらしい。これまでに何度も話をした仲なので「お久しぶりです!」とフランス語で挨拶すると、Gianni副社長に渡した資料を一式ほしいのと、明日の朝一番に時間を作るので一度説明してほしいとのことだった。またカラー印刷か!と心の中で思いながらも、「はい、すぐにお持ちします。」と笑顔で返事をした。そして、再びカラープリンターのある部屋へと舞い戻った。

どうやら急に忙しくなった原因はGianni副社長にあるようだ。彼が朝のイタリアン・カフェの時間に、昨日の僕のプレゼンについて何らかの話をしたらしい。それに反応して皆が僕のプレゼンについて詳しい話を聞きたいと言い始めた。これまでは、僕の側からアポイントをとってアドバイスをもらっていた関係だったので、逆にこんな風に僕の考えを求められるようになったことが少し嬉しい。僕にとっては大きな進歩だ。

自分でもまだまだ未完成だし、足りないものがいっぱいあることは十分にわかっている。でも、こうして何かが一つ一つ埋まっていくことが、僕の新たな成長に繋がり、最後には僕の目指すべき場所に僕を導いて行ってくれそうな気がする。

ATR社での勤務もあと10日。最後の1日、1時間、1分、1秒まで、精一杯働き、学び、そして、少しでもこの組織に貢献していきたいと思う。それが、あえて僕を採用してくれたATR社への数少ない恩返しだと思っている。

とにかく、仕事はまだ山のようにある。気を抜かずに最後まで走り抜こう。

CEOプレゼン

2007年10月13日 | インターンシップ
 
去る10月の初旬、アメリカ合衆国でATR社のCEO(最高経営責任者)主催のプレスカンファレンスが開催された。今回ATR社が満を持して世に送り出す新型航空機ATR-600シリーズの初披露プレゼンをするためだ。今後も世界最大の航空市場であり続けるであろう米国をメインターゲットとするため、あえてヨーロッパではなくアメリカから第一歩をスタートする道を選んだ。航空機ビジネスがいかにワールドワイドに物事を考えているかが分かると思う。

当然今回の一件は社内でも極秘に作業が進められていて、インターンの僕にイベントの詳細が知らされたのは直前になってからのことだ。こういう一大発表は株価にも大きな影響を与えるし、ライバル社を出し抜くためにはギリギリまで極秘のほうがよい。社内であっても、ごく一部の幹部だけが知らされていたようだ。

発表前は極秘で進められていても、発表後は迅速かつ積極的に今回の発表内容を社内に周知しなければならない。ATR社は、ある意味で今後の社運をかけ大きく舵を切ったのだ。その方向性は全社員でしっかりと共有する必要があるし、逆に、そうしなければ競争の厳しいこの業界では生き抜いていけない。

ATR社がどのようにして社内に周知しているかというと、まず、社内専用のホームページのトップ画面からCEOプレゼンの様子をダウンロードして閲覧できる。さらにプレゼンの映像は、カフェテリアの入り口と出口に設置されたテレビで延々と流され続けている。ここは皆が一日に必ず一度は立ち寄る場所だ。入り口と出口で合計2回、僕達は毎日CEOのプレゼンを聞くことになる。

さらに、来客用の受付にもテレビが設置され、CEOプレゼンの様子が映し出されている。僕達社内で働く人間だけでなく、顧客や取引先企業などにもしっかりと周知しようという意図だ。受付に座っているイタリア人のお姉さんは、一体何度CEOのプレゼンを聞いたのだろうか。毎日朝から晩までずっとCEOのプレゼン漬けだ。ちょっと可哀想な気がする。

ここまでATR社の社内周知が徹底しているのには理由がある。それを担当する専門の部署が存在するのだ。Communication(コミュニケーション)部門といって、対外的な広報活動を展開するPublic Relation(パブリック・リレーション)部門とはまた別に、社内への情報周知と徹底に特化した部隊が編成されている。いわば、社内広報のスペシャリスト達だ。

コミュニケーション部門のミッションは、いわゆる社内での「風通し」を極限まで良くすることにある。そのために、今回のようなCEOの重要なスピーチなどは職員がうんざりするまで徹底的に流し続けるし、一方で、何か大きな業績を達成した後などは、社内をあげてのバーベキューパーティーなどを企画したりする。とにかく、円滑な社内コミュニケーションを実現するために、ありとあらゆる努力をしている部署なのだ。そして、この部署にはなぜか女性が多い。やはり細やかな気配りが要求されるということなのだろうか。

日本にはそんな部署はない気がするが、イベント好きな人間にはもってこいのポジションだと僕は思う。僕がもし将来会社を設立したなら、まず一番に設置したいポジションの一つだ。

CCO(Chief Communication Officer)なんて作ったら、本当に面白いと思う。

(写真はATR社の現CEOであるStéphane Mayer氏。ATR社のHPより。)
 

ヨーロピアン・メンタリティ

2007年10月12日 | インターンシップ

今日のランチは久々にコルシカ島出身のChristian(クリスティアン)と一緒に食べた。ATR社の仲間と一緒になんちゃって日本食を食べに行って以来のことだ。僕は彼と話をするのがとても好きだ。彼のコルシカ人としての誇りがフランス人とはまた一線を画していて、議論をすると本当に面白いのだ。

今日話したのは、ボーイング対エアバスの競争についてだ。既に有名だと思うのだけど、世界の大型航空機市場はこの2社によってほぼ独占状態にある。つまり、ボーイングを買うのか、それとも、エアバスを買うのかの2プレーヤーゲームなのだ。しばしばMBAの経営戦略やゲーム理論の教科書にも題材として載る、有名なライバル関係でもある。

エアバスはそもそもボーイングの独走を食い止めるためのチャレンジャーとして誕生した。アメリカに対抗し、そして勝つために、あえて協力することを選んだヨーロッパ航空業界の汗と努力の結晶だと言ってもいい。とにかく、まず業界2番手としてスタートしたのがエアバス社なのだ。

しかし、クリスティアン曰く、ヨーロッパ、特にフランスのメンタリティでは、どんな状態にあっても自分達が2番手に甘んじているとは決して考えないのだそうだ。自分達ヨーロッパは、文化においても技術においてもとにかく何においても世界最高のものを有していて、常に先頭を走るリーダーとして存在しなければならない。そんなヨーロッパの伝統とプライドが、ある時期にはエアバス社を世界一の航空機メーカーへと押し上げ、ある時期には落ちた底から這い上がる足かせとなってエアバス社を苦しめている。それがクリスティアンの見解だった。

確かにそうかもしれない。ヨーロッパというのは、そして、特に僕が勤務するATR社と関係の深いフランスやイタリアというのは、自分達が決して世界で負けているとは考えていない気がする。とにかく、自分達のやり方は世界一で、自分達の真似をして栄えているのがいわゆる先進国と呼ばれる国々なのだと考えている。フランス人やイタリア人の目から見れば、アメリカも日本も、ヨーロッパが生み出した文化と伝統のおかげで今日の発展がある。100%正しくはないにしろ、ある部分で間違ってはいないかもしれない。

しかし、今のヨーロッパはチャレンジャーであるにもかかわらず、このリーダー的メンタリティを持ち続けるのは正直どうなのだろうと僕は思う。このままエアバス社は、ボーイング社に先頭を奪回されたまま、また数十年2番手であり続けるのだろうか。逆にアメリカは、リーダー的なポジションにありながら、常にチャレンジャーのメンタリティで勝負に挑んでいる気がする。ヨーロッパとは全く逆のメンタリティだ。これがアメリカの強さに繋がっていると僕は思う。

リーダーであってもチャレンジャーとしてのメンタリティを持ち続ける。これはとても難しいことだ。僕もできることなら常にそうありたいと思っている。

エスニック・トラフィック

2007年10月11日 | インターンシップ
 
航空ビジネスでは、“Ethnic Traffic(エスニック・トラフィック)”というあまり普段聞き慣れない言葉が存在する。新しい航空路線を開拓する際には、決して無視することのできない重要なキーワードだ。

Ethnic(エスニック)とは、日本語に訳すと「民族の」とか「人種の」とかいった意味になる。つまり、今どこに住んでいようと、現在どこの国籍を取得していようと、決して人間が変えることのできない生物学的な特質のことだ。僕がたとえフランス人女性と結婚してフランス国籍を取得したとしても、僕のEthnicity(エスニシティー)は、依然として日本人のままだ。言語や文化はフランス風に同化することができても、生物学的な日本人としての特質だけはフランス化できない。そんな存在がEthnicity(エスニシティー)だ。

なぜエスニシティーが航空ビジネスで重要な意味を持つのか。それは、航空旅客需要に大きなインパクトを与えるからだ。具体的な例として、北アフリカのモロッコに住むフランス人を想像してみてほしい。この地域は旧フランス領で、未だに多くのフランス人が住み、また、フランス系住民がモロッコ人として生活をしている。ATRでの同僚Othman(オスマン)もそんなフランス系モロッコ人の一人だ。

この場合、モロッコからフランスへの帰郷フライトもあれば、祖国に住む親戚を訪ねる訪問フライトだってある。逆に、フランスに住む親戚がモロッコを訪問するパターンだってあるだろう。とにかく、現在住んでいる国家と自分のEthnicity(エスニシティ)が一致しない場合、そこには極めて大きな航空需要が自然と発生するのだ。

日本と韓国との間のフライトにも同じことが言える。外務省のデータによれば、在韓国の日本人は21,968人(2005年)とあまり多くはないものの、在日の韓国人の数は598,000人(2005年)と非常に多い。彼らが自分達のEthnicな故郷に戻るためのフライトや、親戚を訪ねるフライト、そして、彼らの親戚達が日本を訪問するフライトを考えれば、日本―韓国間のフライトがいかにドル箱路線かが分かると思う。実際、日本―韓国間の1年間の総旅客数は、8,520,000人(2006年)にも達している。

そして、これは国際線だけではなく、国内線についても十分あてはまる。東京に住むある地方の出身者の数が2倍に増えれば、当然その地方と東京間のフライトは2倍の旅客需要を得ることになる。お正月やお盆の里帰り、親戚の訪問、慶事・弔事の急な帰郷など、自分が生まれた故郷への移動というのは予想以上に多いものだ。すなわち、新規な路線を開設したり、既存の路線にフライト数を追加したりする際は、現在の都市の人口とともに、その都市人口のうちの何%がそのフライト先の都市の出身者であるかがかなり重要な決め手になる。

これが、航空ビジネスにおけるEthnic Traffic(エスニック・トラフィック)の基本的な考え方だ。僕が今取り組んでいる航空機ビジネスには直接関係はないのだけど、顧客である航空会社のビジネスには大きなインパクトを与えるコンセプトであることに間違いはない。もちろん、航空機メーカーのマーケティング担当者として、これを理解しておかねばならないことは言うまでもない。

(写真はオスマンの出身国モロッコの風景。いつか必ず遊びに行くく約束だ。)
 

ランディング・ギア

2007年10月10日 | インターンシップ

Landing Gear(ランディング・ギア)とは、航空機の着陸装置のことだ。通常は翼の下に付いていて、離陸時と着陸時のみ外側に出ている航空機の「足」のような存在だ。目立たないように見えて、実はこれが航空機システムの中でかなり重要な位置を占めている。ランディング・ギアがしっかりしているかどうかで、航空機の売れ行きが左右されることだってある。そのくらい大切な部品だ。

ランディング・ギアにはトラブルが多い。小さな故障もあれば、着陸時にポッキリと折れてしまうことだってある。折れてしまった場合や、それ以前の問題としてランディング・ギアが出てこなかった場合などは、航空機は胴体着陸を余儀なくされる。2007年に高知空港で起こったボンバルディア社のDHC-8 Q400の胴体着陸事故は記憶に新しいのではないかと思う。

なぜ、それほどまでにランディング・ギアのトラブルが多いのか。もちろん、ランディング・ギアの構造的な問題もあるのだろうけれど、一概に設計ミスばかりが原因だともいえない。それは航空機が着陸する場面を想像してもらえれば分かりやすいと思う。時速数百キロのスピードで上空から進入してきた何十トン、何百トンという航空機の重量が、あの細い3つの「足」に一気に圧し掛かってくるのだ。ランディング・ギアは、そのとてつもない一瞬の圧力に耐えうるだけの強さを、あの細い軸の中に備えていなければならない。

しかし、今日同僚から聞いた話によると、着陸の上手なパイロットの場合、ランディング・ギアへの負担をかなり減らすことが可能なのだそうだ。すなわち、下手なパイロットならドスンと着陸して一気に大きな衝撃を与えてしまうところを、上手いパイロットはできるだけ静かに、かつ、スムーズに航空機を滑走路に着地させることができる。パイロットの技量次第で、ランディング・ギアへの負担は相当違うらしい。

ということは、ランディング・ギアのトラブルを少なくする手段というのは、ランディング・ギア自体の構造を強化したり、特殊な衝撃吸収システムを採用することだけではない。パイロットの着陸技能向上もまた、ランディング・ギアの信頼性を高める手段の一つでもあるのだ。そのために、航空機製造メーカーとして追加のトレーニングをしたり、より丁寧なマニュアルを整備したりと、何かしらできることはある。

しかも、パイロットの技能向上というのは、航空機の重量になんら影響を与えない。もし、ランディング・ギアの構造を強化したり、あるいは、特殊な衝撃吸収システムを装着したりすれば、それは航空機の重量アップとしてフライト・オペレーションに少なからず影響を及ぼす。最大離陸重量は変わらないので、乗客を少なくするか、あるいは、搭載する燃料を少なくして短い距離のフライトで我慢するか、とにかくオペレーション上の制約が増えることは間違いない。

空を飛ぶ航空機にとって、重量は想像する以上にクリティカルな要素だ。問題の解決に至る道は必ずしも一つではないことを肝に命じて、解決策を考えていかなければならない。

着地点

2007年10月09日 | インターンシップ

パリ&ストラスブール出張から戻った僕は、いつものようにATR社での勤務を再開している。ヨーロッパの多国籍企業で働けるのも本当にあと少しだ。採用してくれたお礼に最大限の成果をプロジェクトで出しつつ、僕自身としては日本では決して得られないマネジメントスキルを身に付けて帰りたいと思っている。

特に、Strategy(戦略)分野とMarketing(マーケティング)分野は、僕が今最も力を入れて取り組んでいる分野だ。ATR社でMarketing&Commercial部門を志望したのも、理論とともに実践の中で本当に使えるスキルを身に付けて帰りたいと考えたからだ。幸い僕の上司となってくれたFormica副社長、Toritto副社長のイタリアンな熱血指導にも恵まれ、僕は思い描いたとおりの着地点にまもなく到達しつつある。

一方で、これから新たに取り組みたいテーマもどんどん見えてきている。フランス留学の総まとめをしなければならない時期なのだけど、全てが終了した後で動き始めるのではスピード感が感じられない。構想だけでも今のうちに練っておき、日本に帰ったらすぐにヒト、モノ、カネを集めて、プロジェクトをスタートさせたいと思っている。

今僕が一番取り組みたいと思っているのは、「宇宙航空マネジメントスキルの体系化」だ。これこそが、ビジネスレベルでの航空宇宙先進国と技術レベルでの航空宇宙先進国とを分ける、決定的な鍵になると僕は思うようになった。アメリカやヨーロッパには存在するものの、少なくとも今の日本には存在しない。その違いが、今の日本の状況を生んでいるような気がしてならない。

僕はこの「宇宙航空マネジメントスキル」に関して、徹底的にユーザーフレンドリーなまとめ方をしたいと思っている。スキルの体系的な整理というとよく全体を網羅することがまず大事だと勘違いするのだけど、スキルというのは使われて初めて価値があるものだ。使われないスキルや知っているだけのスキル、文字になって整理されているだけのスキルなど、全く何の価値もないと僕は思う。使うためのスキルだ。

技術で勝って、ビジネスでも勝つ。そして、相手の動きを読みながら勝ち続ける。そのために必要なことを整理し、最もインパクトの大きい分野からスピード感をもって前に進めていこうと思っている。

(写真はストラスブールの風景。建物はドイツ風建築になっている。)