宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

成功と失敗

2009年06月24日 | MBA
 
最近ある2冊の本を読んでいて、驚くほどその内容の本質が似ていることに気付いた。どちらも「成功」と「失敗」の本質に迫った本なのだけど、なぜ人が失敗するかという疑問を突き詰めると、結局は「成功したことがあるから」という答えに行きついてしまうのだ。つまり、「失敗は成功のもと」ならぬ「成功は失敗のもと」である。

僕が読んだ1冊目は『失敗の本質~日本軍の組織論的研究~』(野中郁次郎、他)だ。旧日本軍の戦略行動を複数の著者で徹底的に分析した結果、日露戦争における日本海海戦での勝利など、過去の成功体験を正しいと思い込み、これに依拠した意思決定を行ったことが後の作戦行動で大敗を生む遠因に繋がったというものだ。軍参謀などの作戦立案者は、軍専門の幹部学校で過去の戦いにおける戦略、戦術などを徹底的に叩き込まれるのが通常であるから、習ったことを活かしたら失敗してしまったというのは大いなる矛盾でしかない。しかし、歴史はそれを証言しているのだ。

もう一冊は、これも有名すぎるくらいに有名なのだけど、ハーバード大学ビジネススクールのクリステンセン教授が書いた『イノベーションのジレンマ』という本だ。彼の主張によれば、「偉大な企業は全てを正しく行うがゆえに失敗する」ということになる。すなわち、超優良と呼ばれている企業は、定石どおり一番利益をもたらす重要顧客の声を聞き、そのニーズを満たすために全力を尽くした結果、ターゲットと看做さなかった顧客層から沸き起こったイノベーションの存在に気付かず、やがて市場の敗者となっていくのだ。彼はこのようなイノベーションを「破壊的技術」と呼び、その特徴を「単純で、低価格で、性能が低く、利益率は低い。大企業にとって最ものうまみのある顧客は、通常、それらを利用できず、利用したいと考えない。」(同書P304)と述べている。

どちらの本も主張の本質は同じで、つまり「単純に成功を繰り返そうとするから失敗する」と言っているのだ。そう考えると、僕が学んできた経営戦略やマーケティングって何?ということになる。経営学は過去の成功事例や優良事例を集め、そこから導かれる共通原則を理論的フレームワークとしてまとめたものにすぎないからだ。MBAで学んだことを実践すると失敗するよ、と言われているに等しい。

僕はまだこの結論に納得できていないので、もうちょっと考えてみようと思う。
 

パリ航空宇宙ショー100周年

2009年06月12日 | 宇宙航空産業
 
世界最大級の航空宇宙イベントがいよいよ来週からスタートする。今年で100年目の記念大会となるパリ航空宇宙ショーだ。フランスのパリ郊外にあるル・ブジェ空港で6月15日~21日まで開催されることになっている。

今回のパリ航空宇宙ショーには僕も参加する予定でいたのだけど、残念ながら今回の参加は見送ることになった。100年記念のメモリアルイベントが目白押しだっただけにどうしても行きたかったが、別の仕事が入ってしまい断念せざるを得なくなったのだ。今回のパリ航空宇宙ショーに参加する人がいたら、ぜひ後で感想を聞かせてほしい。2年に一度のお祭り騒ぎなので、きっと不況の中でも盛り上がっているに違いない。

前回の2007年大会には僕はフランス宇宙工業会GIFASのGuestとして招待され、Chaletと呼ばれる眺めの良い展望ブースでシャンパンを飲みながら最新鋭機のデモフライトを眺めることができた。今回はMBA時代のクラスメートがいろんな航空宇宙企業に勤めていて、それぞれのChaletに招待してくれていたので、もし参加していたなら毎日豪華な料理とシャンパン三昧で航空宇宙ショーを楽しむことができたはずだ。もちろん、ヨーロッパ航空宇宙ビジネスの最前線について情報収集する絶好の機会にもなる予定だった。

さらに、今回のパリ航空宇宙ショーでは、僕の母校であるトゥールーズ・ビジネススクールの学生達が自らセッションを主催するらしい。パネリストの中には僕の同期で現在EADS KoreaのDirectorを務めるJin-Wookもいる。彼はMBA時代に同じプロジェクトチームのメンバーで、よく一緒に酒を飲みながらアジアの航空宇宙ビジネスについて語り合った仲だ。

もし今年のパリ航空宇宙ショーに参加する人がいたら、僕の後輩達が主催するセッションにぜひ参加してみてほしい。きっと熱い議論と価値ある情報を入手できるはずだ。

June 18, THURSDAY, 2:00 – 6:00 PM

(2:00 – 2:40) Business Model for a new aircraft designed and dedicated to Air Transport Supply Chain Services to Airlines

Abstract: This study describes how a new aircraft model can be designed in order to satisfy, and be dedicated to, a full service package, including leasing of the aircraft to the airlines.
This would involve a dramatic change and impact on the supply chain of an aircraft manufacturer, to make all stakeholders' business models coping with high value added services needed by the Airline customers.

(2:40 – 3:20) Customer Services Questions / Round Table

(3:20 – 4:00) A new vision of the airlines industry

Abstract: Airline industry is one of the most dynamic industries in the world. The sector has gone through drastic changes in the past decades; these changes had impacts on its regulations, infrastructure, and market of the supply and the demand.
The study projected the future of the airlines industry in the next 20 years, description of the future scenarios, challenges airlines will face, and what system needs to be created to sustain traditional airlines business.

(4:00 – 4:40) Airlines industry Questions / Round Table

(5:00 – 6:00) Cocktail

END OF DAY

波に向かって走れ

2009年06月05日 | その他
 
今日も「航海と経営」の続きの話。

海図やコンパスを使いこなし、そして、自然の流れを読み切れば、少なくとも航海において前に進むべき道を意思決定することができる。しかし、実際に船を前に進めるためには、その意思に従って船を操縦しなければならない。つまり、思い通りに船をコントロールする力がさらに必要になってくる。

この船のコントロールに関して学んだことの一つが、「波に向かって走るべし」という事実だ。一般的に言うと、追い波を受けて船を操船するよりも、向って来る波に対して操船したほうがはるかに船をコントロールし易い。つまり、波や海流が船の後方から来ている時というのは、舵が効きにくくなったり、思わない方向に船体が流れたりするのだ。

実際に瀬戸内海などの細く流れの早い海路においては、潮の満ち引きが変わるタイミングまで待って船を進める“潮待ち”という行為が行われている。潮の満ち引きの関係で船の後方から流れを受けるときは安全な場所に船を停泊させて待ち、潮の流れが逆方向に変わってから出航するというものだ。流れが急な場所ではプロの漁師でさえそういう対策をしている。

常識的に考えると、僕たちは自分が進む方向に対してフォローしてくれるような力は進んで求めるが、逆に自分に向かってくるような力は敬遠する傾向にある。「追い風が吹いてきた!」とか「逆風の中を進む」といった表現はまさにその例だ。エネルギー効率を考えれば当然の行為なのかもしれない。しかし、自分自身をコントロールし易いかどうかという視点はそこにはないような気がする。

今の経済状況のように向い風の中をあえて前に進むことは確かに大変だし、効率が悪くて結局損しているんじゃないかと思える。しかし、そんな時代からこそ前だけを向いて集中することができ、自分自身をコントロールし易くなるのかもしれない。人生の長い道のりの中で、正しい判断をするには絶好の機会ではないだろうか。

海図とコンパス、自然の流れを読む、そして、波に向かって走る。船舶の操縦を習っただけなのだけど、本当に意義のあるチャレンジになった思う。
 

自然の流れを読む

2009年06月04日 | その他
 
昨日の続きで「航海と経営」の話。

僕が感じた2つ目のポイントは「自然の流れを読む」ということ。未来を読むと言っていいかもしれない。ここで言う「自然」とは航海に影響を与える要素、すなわち、風、波、潮、雲などの自然現象ことで、人間の力でコントロールできないものを指す。

海図とコンパスは進むべき道を決める際には大きな助けとなるが、それは僕たちにとってあくまで過去と現在でしかない。航海者の過去の経験を1枚の紙に凝縮したものが海図であり、船の現在位置を知るためのツールがコンパスだ。従って、海図とコンパスだけでは未来のことは分からない。僕たちは他の何らかの手段を使って未来の情報を入手するしかないのだ。

風や波といった自然現象は毎日、毎時、毎分変わっていく。五感をフルに働かせて情報を収集し、過去の知識に基づいて類推・評価し、必要なアクションの意思決定を行わなければならない。正しい意思決定が行われれば安全な航海の先に目指すべき目的地が見えてくるが、一歩間違えれば命の危険さえ発生する。過去だけに依存する者は失敗し、果敢に未来を読み切る者だけが成功を手にするのだ。

経営学というのは、まさに海図とコンパスのような存在だと僕は思う。ビジネスにおいて進むべき道を選択する際の大きな助けとはなってくれるが、決して未来を教えてくれることはない。正しい意思決定を下すためには、未来を読む力を別途に身に付ける必要があるのだ。そして、この未来を読む力を身に付けるには、僕の考えでは繰り返しのトレーニングが必要で、MBAの価値はまさにここにあると思っている。

海図の読み方やコンパスの使い方のように、経営学のエッセンスだけなら本からでも十分に学べる。しかし、「未来を読む力」というのは決して本から学ぶことはできないのだ。

(明日へ続く)
 

航海と経営

2009年06月03日 | その他
 
久々のブログ更新なのにテーマは宇宙航空ではなく「航海」。なんでだろう?と思う人がいるかもしれない。実は、僕は前から海にもかなり興味があって、人生のリタイヤを迎える際に「陸・空・海」の3要素がそれぞれ10年づつくらい僕のキャリアの中に含まれていれば面白いな~なんて考えてきた。その想いを少しでも実現すべく、僕は船舶操縦士免許の取得にチャレンジしたのだ。

僕が取得したのは1級小型船舶操縦士免許。原則として、20トン以下の船舶なら世界中のどの海へでも航海できる免許だ。もちろん、国際航海には特殊な専門知識が必要なので僕一人が単独で外洋航海に出られるわけはなく、機関(エンジン)を担当する海技士の乗船が必要になる等の条件がある。それでも、世界の海を航海できるライセンスには変わりない。

このライセンスを取得する過程で僕は非常に興味深いことをたくさん学んだ。航海術と経営学の交差点でいろいろな思いを巡らせたと言ったほうが正しいかもしれない。その一つが「海図とコンパス」の存在であり、もう一つは「自然の流れを読む」ということ、さらには「波に向かって走るべし」という事実だ。

まず、海図とコンパスはコロンブスの時代から航海の必須アイテムだ。進むべき進路を決めるにあたって絶対的に貴重な情報源であり、この精度をいかに高めるかが航海の安全を決め、結果としてのミッション達成の成否を分ける。一方、経営においては少なくとも紙に書かれた海図のようなものは存在しないし、道に迷った時に方位を教えてくれるコンパスのような便利な道具もない。つまり、知識と経験に基づいてこれらの機能を全て頭の中で処理できるようにしておかなくてはならない。それが経営者の役割だ。そして、それをサポートするために経営学やMBAは存在する。

もし、この世に「ビジネス海図」とか「ビジネスコンパス」といったものが存在するなら、皆が競ってそれを求めるようになるだろうと思う。研究テーマの一つとして、そういう分野を開拓してみるのも面白いかもしれない。

(続きはまた明日)