宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

フォーミュラ 1

2007年02月28日 | 宇宙航空産業
 
フランスでFormula 1(フォーミュラ・ワン)と言った場合、そこには2つの意味がある可能性がある。一つは、オペレーションが限界まで自動化されたフランスのホテルチェーン『Formula 1』を意味する場合で、もう一つは、自動車レース最高峰のあの『F1(エフワン)』を意味する場合だ。

ホテルチェーンの『Formula 1』は、日本では全く知られていないと思うけれど、本当にすごい。僕が住んでいるトゥールーズにも数軒あって、従業員による直接のサービスを極力排したローコスト経営で今注目を浴びている。その評価は非常に高く、今やオペレーション戦略のお手本としてMBAの教科書に載っているほどだ。

具体的にホテルでどんなオペレーションが行われているかというと、特定の時間帯を除き、チェックインとチェックアウトは全て機械によって自動的に処理されている。さらに、各部屋に設置されているシャワーは毎使用後に自動洗浄され、毎日の清掃に必要な時間とコストを大幅に削減している。

ホテル自体の作りもかなりシンプルで、コンテナのようなボックスをいくつか積み重ねたようなプレハブ構造になっている。このボックスは工場で大量生産され、その中に全く同じ家具を、全く同じレイアウトで配置していくのだそうだ。しかも、滞在客の快適さを一番に考えたレイアウトではなく、掃除のし易さを一番に考えたレイアウトらしい。

話は変わって、なぜ今日突然にF1の話を書くことにしたかと言うと、たまたまインターネットのニュースでHonda(ホンダ)の最新F1マシン(写真参照)に関する記事を発見したからだ。なんと、Hondaの今年の最新モデルは、ボディーデザインに人工衛星から撮影した地球の画像を使っているのだ。

記事によれば、青は海を、緑は大地を、黒は宇宙を表しているとのこと。昨年までF1の大口スポンサーだったタバコ産業が全て姿を消し、今年から複数の企業で共同してEcology(エコロジー)をアピールするキャンペーンを組むことになったのだそうだ。F1レースへの参戦に必要な莫大な資金を確保し続けるための、新たなマーケティング戦略だ。

もっと詳しく知りたい人はこちら(←クリック)

目的はどうあれ、AeroDynamics(空気力学)以外の分野で宇宙航空とF1とのコラボレーションが始まったような気がして、僕はなんだかとても嬉しかった。技術のポテンシャルを限界まで引き出そうとする者同士、デザイン以外にも絶対に何か強力なコラボレーションが実現できるはずだ。

宇宙航空とF1、もっともっと追求していきたいテーマだ。

(写真はHondaのホームページより)
 

パイロット不足

2007年02月27日 | 宇宙航空産業
 
Pilot(パイロット)はいつの時代も男の子の憧れの職業だ。将来なりたいものランキングでも毎年上位に位置することが多い。

人気の秘密は、年齢によって多少変わってくると思うのだけど、パイロットの制服姿への単純な憧れから、最先端のハイテク飛行機を操縦できることへの好奇心まで、本当に様々な理由があると思う。

そして、ビジネスとしてのパイロットという職業を見た場合、彼らが航空会社から受け取る高額の報酬もその魅力の一つであることは間違いない。特に日本はパイロット天国と言われていて、給与が世界的に見ても突出して高いことでも有名だ。

例えば、日本の大手航空会社のCaptain(機長)となった場合、平均して約3000万円もの年収を手にすることができると言われている。機長を補佐するCo-pilot(副操縦士)クラスでさえ、年収1300万円程度は固いのだそうだ。乗客の命を預かる大変な仕事だとはいえ、う~ん、うらやましい。

その憧れの職業であるパイロットが、今世界的に不足しているという。そして、特に不足して困っている国が中国とインドだ。両国とも近年急激な経済成長を遂げており、それに伴って航空輸送に対する需要がうなぎ登りで止まらないのだ。パイロットの需要に供給が全く追いつかないといった状況らしい。

実際にどのくらい不足しているかというと、2010年までに発生する需要の全てを満たすためには、中国で約1,000人、インドで約4,000人のパイロットが不足すると試算されている。特にインドでは日々の高速鉄道の利用者数が1,600万人とも言われており、経済成長に加えてこれら鉄道輸送の一部が今後さらに航空輸送にシフトすると、パイロットの不足はますます深刻になる。

ただし、これらの国々における問題はパイロットの不足だけに限らない。必要な数の航空機をどう確保するかという資金的な問題に加え、空港などのインフラ整備をいかに迅速に行うかという社会政策的な問題をも抱えている。

とにかく、勤務する国や航空会社にこだわらなければ、パイロットとして空を飛ぶチャンスは世界中に存在するのだ。どうしてもパイロットになりたいという人は、今から中国語とヒンドゥー語を勉強しておきましょう。もちろん、英語も忘れずに!

卒業旅行

2007年02月26日 | その他
 
先週の木曜日から、僕の住むトゥールーズに6人組のお客さんが来ている。この4月から日本の宇宙航空機関で働く予定の学生さん達だ。学生最後の卒業旅行先として、ヨーロッパ宇宙航空の聖地トゥールーズを選んでくれたのだ。Merci !

今回はエールフランス航空を使ってパリ経由でトゥールーズに到着したらしいのだけど、国際線での機内サービスに皆少し驚いてしまったようだ。良いとか悪いとかいった話ではなく、食事時以外の飲み物や食べ物のサービスが、全てセルフサービスだったというのだ。

確かに、僕が一昨年、昨年とフランスにフライトする時にはいつもエールフランス航空を使ったのだけど、機内サービスはかなり簡素化されていたような気がする。飲み物は航空機の一番後ろのドリンクバーまで取りにいく仕組みだったし、途中お腹が空いた時のカップヌードルも全て自分で作らなければならないルールだったと思う。

前に出張でアメリカのワシントンに行った時にはANAを使ったのだけど、その時はキャビンアテンダント(CA)さんが席までカップヌードルを持ってきてくれて、しかも、しょうゆ味とシーフード味かを選ばせてくれて、お湯も入れてくれて、お箸もお手拭も一緒にくれて、何から何まで至れり尽くせりだった気がする。サービスの質という意味では、エールフランス航空はかなりシンプルなものを志向しているようだ。

話を彼らの卒業旅行に戻すと、できるだけトゥールーズの宇宙航空産業のことを知ってもらいたいと思い、一昨日はAirbus(エアバス)社の工場に一緒に行き、A330/340の組立工場、さらには、最新鋭の超大型総2階建て旅客機A380の組立工場を見学してもらった。

皆、就職活動中に三菱重工業など日本企業の工場を見学してきたようだけど、エアバス社の工場の広さと大きさには、正直ビックリしていたようだ。4月に行われる新入職員研修とともに、欧州と日本の現状を直視し、比較するための機会にしてくれれば幸いだ。

そして、トゥールーズ滞在の最終日である今日は、少し童心に戻って学生最後の卒業旅行を存分に楽しんでもらいたいと思い、宇宙のテーマパークであるCite de L’espace(シテ・ド・レスパス)に一緒に行ってきた。このシテ・ド・レスパスは、トゥールーズの中でも僕が大好きな場所のひとつで、僕は年間フリーパス(51ユーロ)を購入している。今回も僕の随行者割引(10%)でお得にチケットを購入することができた。僕としても投資の元がとれて嬉しい。

彼らは明日トゥールーズを発つ。学生最後の卒業旅行にふさわしい旅になっただろうか。

僕が日本に帰国する頃に、ひと回り成長した彼らに会えることを楽しみにしている。

(写真はCite de L’espaceのアリアン5ロケットの前で)
 

フランス対ドイツ

2007年02月25日 | MBA
 
ルイ・ガロワCEOが就任して順調に進むかに見えたAIRBUS社のRestructuring(リストラ)が難航している。日本でも新聞報道などで多少は情報が届いていると思うけれども、今トゥールーズの航空宇宙業界はこの話題で持ちきりだ。

今回のリストラの規模は1万人と言われている。この削減人数を、エアバス社を構成する仏、独、英、西の各国でどのように分担するかというのが、今回まだ解決策を見出せていないシビアな問題だ。特に、エアバス社の主要組立工場が多数存在するフランスとドイツとで、どのように痛みを分け合うかというのが最大の焦点になっている。

このリストラ問題の影響は、エアバス社だけに限った話ではない。当然、エアバス社に部品を供給するサプライヤー企業にも大きな影響が及ぶ。実際、フランスのドビルパン首相は、今回のリストラがエアバス社従業員の直接解雇に繋がらないようにすることを強くガロワCEOに求めたそうだ。文字通りに解すれば、エアバス社に直接雇用された従業員ではなく、間接的に雇用された者がターゲットとなる可能性が高い。

そして、僕の通うAerospaceMBAにも少なからず影響が出始めている。Airbus社は、今後当面の間、正規職員としての雇用を原則として凍結すると表明したのだ。ビジネススクールに来校して講義をしてくれたエアバス社の人事担当責任者から聞いたので、おそらく今後しばらくの間は正規職員としてエアバス社に就職することは難しいだろう。

これに関連して、7月から始まる僕達のインターンシップにも影響が出ている。ヨーロッパでは採用活動の一プロセスとしてのインターンシップが主流になっているのだけど、どうも今年はエアバス社に対して提出したProposal(提案)の反応がイマイチ悪いようだ。

今は正規職員として雇用される可能性が限りなく低くても、それでもなおヨーロッパ航空業界の雄であるエアバス社でいつかは働きたいと考えるクラスメートは多い。彼らにとっては、今回のインターンシップは、エアバス社での業務経験の蓄積であり、自分の理想とする未来への投資なのだ。

半分冗談に近いのだけど、クラスメートとの会話の中では、エアバス社でのインターンポジション獲得に今一番近いのは僕だろうということになっている。過去にHuman Resource Management(人的資源管理)を唯一業務として遂行したことがあり、その経験と専門知識をエアバス社のリストラに活用できる、というのがその理由だ。

う~ん、そんなこと言われても絶対にやりたくない。授業料を払って、しかも、自分の貴重な研修の時間を提供してまで、なぜあえてフランスとドイツの皆さんからの袋叩きにされる役を請け負わなければならないのか。それに僕は、諸事情によりインターンシップをしても企業からお金を受け取ることができない(通常のMBAのインターンには給与が支給される)。無給で奉仕した上に袋叩きなんて、僕はそれほどできた聖職者じゃない。

ということで、僕がエアバス社でインターンシップを行う可能性は、今のところ限りなくゼロに近いです。

(写真はゴタゴタの原因となったA380を真正面から見た図)
 

宇宙航空クラスター

2007年02月24日 | MBA
 
Cluster(クラスター)とは、塊(かたまり)という意味の英語で、同じ産業分野に属する企業や研究機関、大学などが一箇所に固まって存在しているような状態を表現して使われることが多い。ここフランスでは、国家戦略としての産業のクラスター化が非常に進んでいて、ある産業をフランス国内の特定の地域に意図的に集中させることによって、より大きな相乗効果が出ることを狙っている。

ここToulouse(トゥールーズ)も例外ではない。宇宙航空関係の企業や研究所、学校が集中して存在していて、ご存知のとおり、『宇宙航空クラスター』を形成している。フランスという国が有する宇宙航空のあらゆるヒト・モノ・カネを一箇所に集中させることによって、分散させていたのでは決して実現できないほどのValue(価値)を生み出しているのだ。

過去数年間のエアバス社の躍進ぶり(現在はA380問題でゴタゴタしているけど)を見れば、クラスター化の効果は明らかに+(プラス)に作用したと僕は考えている。

もちろん、フランスだけではない。宇宙航空クラスターは世界中に存在していて、その他の有名な地域としては、アメリカのシアトルやカナダのモントリオールなどがある。

Network and Clusters(ネットワークとクラスター)の授業を担当してくれたドイツ人のChristian Lechner教授によれば、クラスター化を進める一番のメリットは、Spillover(スピルオーバー)効果にあるのだそうだ。うまい日本語訳が見つからないのだけど、同じ分野に属する企業と企業、あるいは、企業と大学などが近接することによって、それぞれが発信する情報が薄まることなくダイレクトに他に伝わっていくのだ。

しかも、受け取った情報にはさらなる情報が付加され、あふれ出るようにまた外部へと発信されていく。そして、その新たな情報にまた別の情報が付加され、また外部へと広がっていくのだ。

クラスター地域では、こういった一連の情報の流れと進化が継続的に繰り返されるGood Cycle(グッドサイクル)が自然発生する。これに魅力を感じてより多くの企業がこの地域に集まってくる。これがまさにクラスター化のSpillover(スピルオーバー)効果だ。

残念ながら、日本にはまだ『宇宙航空クラスター』と胸を張って呼べるような地域はない。あえて言うならば、筑波宇宙センターのあるつくば市や三菱重工業の工場のある名古屋が候補になるかもしれないが、宇宙航空クラスターとしてのトゥールーズの規模とエネルギーを考えれば、まだまだ足元にも及ばないと僕は感じる。

今後の長期的な宇宙航空戦略を考えるならば、国家戦略としての日本の宇宙航空産業のクラスター化は避けて通れない課題だ。何度も議論のテーブルに上がっては、いつの間にか消えていくのがちょっとさみしい。

(写真はフランスの宇宙航空クラスターであるToulouse)
 

EXITプラン

2007年02月23日 | MBA
 
他の企業とAlliance(アライアンス)やPartnarship(パートナーシップ)を組む時には、相手のCapability(能力)やCompatibility(相性)などを十分に分析してから意思決定をするのは当然のことだ。しかし、事前にしっかり考えておかねばならないことがもう一つある。Exit Plan(撤退計画)だ。

Exit Plan(撤退計画)を考えるということは、すなわち、そのアライアンスやパートナーシップから抜け出すための方策や基準を、事前にしっかりと練っておくということだ。どんな状況になったら撤退すべきか、その場合の最善の方法は何か、予想される反応は何か、被害はどれくらいでそうか、などだ。

実際、何かを始める意思決定をするよりも、すでに決められた何かを中止する意思決定をする時のほうが、何倍も大変なことが多い。過去に行われた宇宙航空プロジェクトをみれば、一度決定されたプロジェクトをキャンセルすることがいかに摩擦を生じる意思決定であり、解決に相当の時間と労力を必要とする作業であるかが分かる。

だからこそ、アライアンスやパートナーシップに加入する際には、あらかじめ撤退計画をしっかり考えてから実際の行動を起こす必要があるのだ。

なんだか、結婚する前から離婚の条件や方法を考えているようで、ちょっと思考がネガティブに感じられるかもしれない。しかし、Strategic(戦略的)であるということは、想定しうるあらゆる事態を考え、その発生確率に応じて、それぞれに対する適切な対応策を事前に考えておくという意味でもある。

僕の中の定義では、Strategy(戦略)とは、『勝つ可能性を0.1%でも高めること』に他ならないので、このような考え方は必要不可欠な要素だ。いつもOptimistic(楽観的)に考えてばかりでは、少なくとも勝率の高い戦略を立案することは難しい。

何かをスタートする時には、必ず撤退のシナリオを考えてから行動に移しましょう。No Exit(出口なし)の標識には要注意ということで!
 

ユニーク JAPAN

2007年02月22日 | MBA
 
JAPAN(日本)は世界的に見ても変わった国だなあ~と前から思っていたのだけど、今日Alliance and Partnarship(アライアンスとパートナーシップ)の授業で定量分析に基づくデータを各国ごとに見せられて、さらにその確信を強めた。教授は、パートナー選びをする際の参考にするようにという意図で紹介したらしい。

日本は世界で最もUnique(ユニーク)な国だ。間違いない。といっても、ユーモアがあるとかクリエイティブという意味ではない。世界の平均から極端に離れたキャラクターを有しているという意味だ。

図は、米IBM社の支援を受けた研究者(Fofsted)が行った各国の特徴分析だ。ある国が全体として、①Masculine(男性的)かFeminine(女性的)か、そして、②Uncertainty Avoidance(不確実なものを避ける傾向)が強いか弱いか、という2軸で分類し、表のように各国をプロットしたものだ。

これを見ると、日本はMasculinity(男性的)という基準で世界第1位であり、これは社会がよりCompetitive(競争的)であることを意味している。受験戦争、出世競争、日本社会は競争に満ちていると世界から見られているのだ。

さらに、不確実なものを避ける傾向でも世界のトップクラスに位置しており、事前に何かをしっかり決めてからでないと行動しない社会だという結果がでている。個人的な感想としては、まあ当たっているかなあと思う。

日本とちょうど対角線に位置するのは、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドなどの北欧諸国だ。これらの国々ではCompetitive(競争的)であることよりも、Cooperative(協力的)であることのほうが社会規範として重要視されている。高い税金を徴収してでも社会保障を充実させるという国家戦略は、きっとこのあたりからきているのだろう。

格差社会是正だとか、再チャレンジとか、日本ではいろいろ議論がなされているようだけど、国の根本的な社会規範はそんなに短期間に変わるものじゃない。ひとつの政権がどんなに頑張ったって、数千年かけて築きあげてきた日本のUniqueness(ユニークネス)、すなわち、世界からみて日本の『特殊なるもの』はそう簡単には変えられない。

企業がその戦略を選択するときにはCore Competence(コア・コンピタンス)に注目しなければならないが、国がその戦略を選択するときには、長い歴史が築き上げてきた国としての社会規範をしっかりと考慮すべきだと思う。

(図の右下の孤島のようなのがJAPAN)
 
 

パートナー探し

2007年02月21日 | MBA
 
Alliance and Partnarship(アライアンスとパートナーシップ)の授業の中で、戦略的なパートナー探しのための道具を教わった。3Cというフレームワークだ。

昨日も紹介したように、ヨーロッパ主要企業のCEO(最高経営責任者)のコメントによれば、アライアンスに失敗する一番の原因は、『相手を選び間違えた』(85%)というものだ。従って、いかに最高にフィットする相手を選ぶかがアライアンス成功の重要な鍵になる。

この3Cというフレームワークでは、Capability(能力)、Compatibility(整合性)、Commitment(誓いの強さ)という3つの異なる観点からパートナー候補を評価する。さらに、評価の軸としてImportance(重要性)とLevel(レベル)の2つを用いる。

例えば、Airbus(エアバス)社が新型航空機の開発に参加するパートナーを探していると仮定する。この場合、まずパートナー候補の能力、すなわち、技術がその航空機開発にとってどれほど重要かということを評価し、同時に、その技術に関するパートナー候補のレベルは業界全体でどの程度なのかを評価する。

カーボン複合材技術といった現在の航空機開発の鍵となる技術を持つ企業は、もちろん技術の重要度という意味では「High」のランクに位置する。後はパートナー候補となっている企業のカーボン複合材の技術レベルをみて、業界内において相対的に「High」ランクなのか「Midium」ランクなのか「Low」ランクなのかを評価すればよい。

しかし、これだけでは十分ではない。技術レベルが格段に高いからといって、エアバス社と相性があうかどうかはまた別の問題だ。企業が違えば文化も違うし、意思決定プロセスも当然異なる。あらゆる観点から企業と企業のCompatibility(整合性)を評価していかなければならない。

さらに、Commitment(誓いの強さ)を確認することも重要だ。どんなに能力があって、どんなに相性がよくても、エアバス社との共同作業に対する情熱やモチベーションが低くては、決して高いパフォーマンスは期待できない。Human Resource Management(人的資源管理)の授業で教わった、Performance(パフォーマンス)=Capability(能力)×Motivation(やる気)×Opportunity(機会)という法則に似た考え方だ。

実際の企業間のパートナー探しでは、もう一つ重要な要素があるらしい。それは、CEO(最高経営責任者)の個人的な交友関係だそうだ。最終的に決定を下すのは取締役会だとしても、実質的にパートナー選びに一番大きな役割を果たすのは、やはりトップの一言だということだろう。

それでは、明日のディスカッションに向けて予習に戻ります。明日のケーステーマは『スターアライアンス』。とても楽しみです。
 

アライアンス

2007年02月20日 | MBA
 
今週からAlliance and Partnarship(アライアンスとパートナーシップ)の授業が始まった。Competitive Advantage(競争優位)を確立するために、企業と企業がいかに協力すべきかを学ぶ科目だ。

授業はStrategy(経営戦略)のコア・モジュールを担当してくれたGudmundsson教授が担当している。最終試験にJAXAのSST開発に関するケースを出題したあの教授だ。

Alliance(同盟)というのは、僕はずっとStrategy(戦略)の一つだと思っていた。しかし、Gudmundsson教授によれば、アライアンスとは戦略を実現するための手段のひとつであって、戦略そのものではないらしい。

例えば、ハーバード大学ビジネススクールのマイケル・ポーター教授によれば、経営戦略と呼ばれるものには、差別化戦略とコストリーダーシップ戦略、そして、集中戦略の3つが存在する。これら3つの戦略は、どれも競争優位に結びつくための「ある状態」を表したものであって、決して手段そのものではない。その意味で、アライアンスは決して戦略ではなく、よりTactics(戦術)に近い存在と言える。

では、宇宙航空業界でアライアンス戦略が重要とされる理由は何か。それは、航空機にしても航空機エンジンにしても新型ロケットにしても、1社だけで開発プロジェクトの全てを遂行することが不可能なほど技術が複雑化・高度化し、その結果、開発コストも開発リスクも上昇し続けているという現状がある。

加えて、多くの企業がコア・コンピタンスに特化した経営をするようになり、新規開発に必要な専門技術やノウハウが、複数の企業、複数の地域に分散するように散らばっていった。ボーイング社やエアバス社といえども、企業内に存在する技術だけでは、もはや世界最高レベルの航空機を作れないのだ。

ただし、いくら外部に存在する最高レベルの技術や人材にアクセスできるからといって、アライアンスの構築はそれほど簡単な仕事ではない。M&A(経営統合)のように各企業の統治権が一本化されないぶん、よりマネジメントの難易度が増す。

まず、企業文化や意思決定スタイルの違いを乗り越えなければならないし、さらには、国を超えたアライアンスであれば文化や言語の違いも乗り超えなければならない。教授によれば、統計的にアライアンスが成功する確率は30%~40%程度でしかないそうだ。

最後に、これも統計的なデータなのだけど、アライアンスに失敗したヨーロッパの複数のCEO(企業経営者)にその原因を聞いたところ、一番多かった回答はこんなシンプルな内容だったそうだ。

『相手を選び間違えた』(85%)

どんなレベルであれ、アライアンスを構築する際には十分に注意しましょう。

(写真は航空会社同盟のひとつ『スターアライアンス』)
 

コア・モジュールを終えて

2007年02月19日 | MBA
 
Aerospace MBAのコア・モジュール(MBA基礎科目)が全て終了した。昨年10月末にスタートしてからここまで全速力で走り続けてきた気がするのだけど、ようやく折り返し地点に到達した感じだ。

今日はこれまでに僕がMBAで経験した全ての科目について、僕が感じたそのままを表現した「一言コメント」のコーナー。

①Team Building Seminar(チームビルディングセミナー)
『多様性とは、それをうまくマネジメントする能力があって初めて価値が生まれる。』

②Paris Business Trip(パリ宇宙航空企業見学)
『それはPeace of mindだよ。』(Dassault Aviation社の副社長が「宇宙航空開発に携わる者にとって一番大切な資質は何か ?」という僕の質問に答えて)

③Managerial Economics(経営管理経済学)
『とるべきリスクをしっかりととること。それがマネージャーの最大の仕事だ。』

④Marketing & Sales(マーケティングとセールス)
『それに最大の価値を見出す人を、最小のコストで探し出し、最短の時間で到達すべし。』

⑤Strategy(経営戦略)
『ビジョンはあるべき姿、ミッションは変わらぬ姿勢、そしてそれを実現するのが戦略。』

⑥Finance & Accounting(ファイナンスとアカウンティング)
『金銭の時間的価値とリスクの価値。この2つが分かれば投資はできる。』

⑦Human Resource Management(人的資源管理)
『それでもやはり、人事はすべて人を幸せにするために存在する。』

⑧Operation Management(オペレーション戦略)
『家族3人でピクニックに出かける時、歩く速度は決して子供の速度以上にはならない。』

今週からはProcess Workshop(プロセスワークショップ)が始まる。基礎科目で得た知識と経験と武器に、より宇宙航空ビジネスに即した実践的訓練の中で、さらに僕自身の戦略立案力とチームワーク能力を高めていきたい。
 
(写真は一番好きなルネ・マグリットの作品『無限の感謝』1963年)