宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

軍用機の寿命

2007年05月31日 | MBA
 
航空機の寿命を知っている人は、この世に一体どれくらいいるだろうか?一般的に約25年~30年が限界と言われていて、それ以降にフライトすることは、安全面や整備面の懸念によって飛ぶのが難しくなるとされている。

この寿命は航空機そのものに関する寿命なのだけど、航空機メーカーにとっての航空機の寿命と言った場合、一般的に約50年と長くなる。航空機を開発し、市場に送り出し、さらにその航空機の製造をストップするまでに約30年。そして、製造を完全にストップしてからも約20年間はスペアパーツ等を供給しなければならないため、航空機製造メーカーにとっての航空機の寿命はやや延びて約50年となるのだ。

この約50年というライフサイクルは、他のビジネスと比べても極端に長い。こんな長い期間をかけて投資を回収することを想定したビジネスなんて、航空機ビジネスをおいて他にはあまりないと思う。大規模かつ長期間にわたる投資を要求されるのが、航空機製造ビジネスの特徴だ。

しかし、この約50年というのは、民間の商業旅客機の場合にあてはまる数値だ。軍用機の開発となると、さらにこれが伸びる。具体的な例を挙げると、F-15戦闘機で51年、C-130輸送機で79年、そしてなんと、あのB-52爆撃機に至っては、1946年の開発スタートから数えて94年目の2040年までの使用を予定している。100年近いライフサイクルを想定した商品なんて、にわかには想像し難い。しかし、これは事実なのだ。

もちろん、これらの超長期ライフサイクルは、初めから想定していたものではない。当初はやはり民間の航空機と同じように30年程度のライフサイクルを想定していたのだ。それが、いつの間にか次の世代の航空機の投入が伸び伸びになって、50年から100年近いライフサイクルとなってしまったのだ。

防衛ビジネスは、基本的な考え方が極めて保守的な分野だ。現在の航空機がしっかりと役割を果たしているのならば、あえて新しい技術を用いた航空機を開発して既存のものに取って代ええようというダイナミクスが働きにくい分野でもある。昔のままの航空機が今もずっと使われて続けているのはそのためだ。

軍用機の世界で有名なジョークが一つある。それは、「祖父が操縦していた飛行機をその孫が操縦する」というものだ。94年のライフサイクルを想定したB-52爆撃機なら、そんな事だって十分にありうるのだ。

20世紀の古いテクノロジーで、21世紀のより複雑なミッションを遂行することを要求される。空軍の兵士の皆さんがちょっと気の毒に思えてきたのでした。

(写真はB-52爆撃機。長距離、高高度、大量爆撃を可能にした超大型爆撃機だ。)
 

防衛ビジネス

2007年05月30日 | MBA
 
今週のAerospace MBAでは、Defense and Acquisition(防衛と調達契約)に関する授業が行われている。戦闘機やミサイルや偵察衛星に関するビジネスを学ぶもので、これらは僕の人生の中でもあまり触れたことのない、実に未知の世界な分野だ。

しかし、Aerospace Business(宇宙航空ビジネス)に限って言えば、防衛に関する契約ほど長期安定的に利益をあげられる分野はない。契約を締結する前の段階では、技術力、コスト、スピード、サービス等を比較した総合的な入札競争が行われるのが普通だが、機密保持という大義名分の下、単純な価格競争にはならないことが多い。どの国でも政府関係の防衛契約を受注できる企業というのは極めて限られていて、その限られた小数の企業の中でパイの奪い合いをするというのが防衛契約の典型的なパターンだ。

防衛ビジネスの一番のメリットは、自国政府による一定量の購入が最初から見込めるために、少なくとも開発費だけは十分に回収できる見込みが最初から立つというところにある。民間航空機の開発の場合、航空会社からの将来的な需要を予測し、今後もある一定量の航空機が継続的に購入されていくだろうとの予測を基に開発Goサインを出すが、軍用機の開発の場合、少なくとも初期開発費を回収をするのに十分な額の政府契約が最初から存在し、開発プロジェクトとしてのBreak Even(ブレイクイーブン)を保証してくれる。言い換えれば、開発に必要な初期投資さえ回収できないというリスクは、政府調達によってしっかりヘッジされているのだ。

一般的に、この初期投資の回収にリスクがあるかないかというのは、投資家の心理にとって非常に大きなインパクトを与える。具体的には、このリスクの有無が投資家のExpected Return(期待利益率)となって表れる。投資家はリスクが高ければ高いほどそれに見合った高い利回りを期待し、リスクが低ければ、それ相応の低い利回りで我慢するのだ。

防衛ビジネスが有利な点はまだある。軍事機密の流出という制約が許しさえすれば、他国に兵器や武器や軍事サービスを輸出することによって、さらなる追加的な利益を手にすることができるのだ。米国やロシアやイスラエルなどの軍事企業は、まさにこの他国への軍事技術の輸出によって莫大な利益を手にしていると言っても過言ではない。戦争はそう簡単に国境を越えることはないが、国土防衛という大義名分の下に、武器や兵器は簡単に国境を越えていってしまうのだ。

僕が学んでいるのはMBA(Master of Business Administration:経営学修士号)なので、武器や兵器を他国へ輸出することの是否や戦争に使用することの是否を議論することはしない。あくまで防衛産業というカテゴリーにおいて、いかにして企業としての競争優位を築くか、いかにして利益を最大化するか、いかにして顧客である各国の軍隊の満足を得るか、それだけを考えていく。

そう頭では分かってはいるのだけど、僕の心の奥には何か腑に落ちないものがある。それが何だか、分かっているようで分からない。

(写真はAirbus Military社が開発を進めるA400M軍事輸送機。エアバス社のHPより。)
 

ガリレオ計画迷走

2007年05月29日 | 宇宙航空産業
 
ヨーロッパが独自に開発を進めているGalileo(ガリレオ)計画がちょっとピンチだ。先日発表されたさらなるサービス開始の遅れに加え、計画推進の中核となるべきコンソーシアムの行方が資金難で迷走し始めてしまったのだ。

ガリレオ・コンソーシアムは、元々、ヨーロッパを代表する宇宙航空企業で構成される予定だった。EADS社、アルカテル・アレニア社、インマルサット社など、そのメンバーだけを見てもヨーロッパの命運を賭けた一大事業であることが伺える。アメリカのGPSシステムに対抗するために、ヨーロッパが意を決してスタートさせた巨大国際プロジェクト、それがガリレオ計画だった。

ガリレオ計画では、全球に約30基の人工衛星を配置し、携帯電話や特別な受信機を使って地上での位置を特定するヨーロッパ版のGPSシステムを構築するのが目的だ。米国のGPSシステムが軍の統制下にあるのに比べ、ガリレオ計画は完全に民間のプロジェクトとして管理され、戦時などにおいても安定したサービスを受けられることを売りにしている。

しかし、アメリカのGPSシステムよりもクオリティの高いサービスを受けられるぶん、ガリレオシステムの利用者はサービスの利用に対して料金を支払わなければならない。一方、米国のGPSシステムは全く無料で使うことができる。果たして、世界中のユーザーが無料のGPSを捨て、お金を払ってまでガリレオ計画に乗り換えるかどうか。そこが、ガリレオ計画の一番の課題だ。

ガリレオ計画のビジネスとしての成立性に疑問の声が上がったのは今に始まったことではない。元々、無料で提供されるサービスを有料に変えようというのだから、ビジネスの基本原理に逆行している戦略であることには間違いないのだ。

例えば、携帯電話やインターネット通信などでは、元々有料で提供されていたサービスが、広告事業者の介入などによって最近では一部で無料で提供されるようになった。つまり、ビジネスの一般的な力学は、ビジネスの成熟度に従って「有料」→「無料」の方向に作用するのが普通だ。ガリレオ計画は、その根本思想からビジネスの基本原理に逆行していたのだ。

そんなガリレオ計画の不透明な先行きを見て、コンソーシアムのメンバーが企業としての資金負担を渋り始めた。採算が取れるかどうか分からないのだから、民間企業としては当然の行動だと僕は思う。いくらヨーロッパの誇りを賭けた一大プロジェクトだからといって、株主から預かった大切なCapital(資本)を、採算性の見えない事業に投資するような意思決定は許されるわけがない。

困ったのは、世界戦略としてガリレオ計画を位置づけているヨーロッパの各国政府だ。なかなか決まらないガリレオ・コンソーシアムの経営体制に業を煮やし、ついに更なる公的資金の注入を決断するに至った。本来、ガリレオ計画の総予算6,000億円のうち、4,000億円をコンソーシアムに参加する民間企業からの独自負担でまかなう予定になっていたのだけど、これら全ての民間負担分を公的資金で肩代わりすることに決めたのだ。

喜んだのはコンソーシアムに参加するヨーロッパの宇宙航空企業だろう。予定どおり製造契約は履行され、人工衛星の製造代金やロケットの打上げ代金などが、以前の予定と変わらず収入として懐に入ってくる。しかも、自分の財布が傷むことは全くない。企業にとって本当においしいビジネスだ。

ガリレオ計画は、元々、ヨーロッパの威信をかけた民間主導による宇宙開発計画だった。それが、いつの間にか単なる公共事業へとレベルダウンしてしまったように思えるのは、果たして僕だけだろうか。

今回、民間主導による宇宙開発の難しさを改めて思い知らされた気がする。

(写真はガリレオ計画の人工衛星。ESAのHPより。)
 

ドリームリフター

2007年05月28日 | MBA
 
ついにBoeing 787ドリームライナーの最終組立が米シアトルの工場で開始された。まだ販売前にもかかわらず、既に世界中の航空会社などから600機近い受注を得ている、まさに航空機製造メーカーにとっては夢のような航空機だ。

前にも一度ブログで書いたのだけど、このボーイング787の開発・製造には、三菱重工業、川崎重工業などの日本企業が深く関わっている。航空機全体の35%にも及ぶ部品を日本企業が製造し、米シアトルにあるボーイングの最終組立工場に納入しているのだ。

製造面だけではない。今回のボーイング787を世界で最初に受け取るファーストゲストは、なんと全日本空輸(ANA)だ。オプション契約も含めると、既に100機近いボーイング787の購入を予定している大口顧客だ。とにかく、このボーイング787の成功が、日本企業、そして、日本社会に与える影響は極めて大きい。

日本で製造された主要部品は名古屋から米国のシアトルまで空輸されるのだけど、そのために開発された特別な輸送機がある。ドリームリフター(写真)だ。ボーイング747機を改造し、航空機の翼や胴体などの巨大な部品もそのままの形で運べるようになっている。とにかく、一目見ただけでは、本当に飛ぶのかどうか疑ってしまうくらい大きく、かつ、変な形の飛行機だ。

このドリームリフター、さらに面白いことに、胴体が中央で真っ二つに分かれる構造になっている。巨大な部品をそのまま積み込む際は自らの胴体をパカッと空けてL字型になり、荷物を積み込んだ後はまた合体して元の航空機の姿になるのだ。まさに、子供の頃テレビで見た戦うロボットの合体シーンのようなイメージだ。合体したものが空を飛ぶのだから、テクノロジーの進化は本当にすごいと思う。

世界中から集められたボーイング787の部品は、シアトルのボーイング社工場で一気に組み立てられる。従来のように何ヶ月もかけてライン組立をするようなことはせず、ある程度モジュールとして完成した部品をシアトルに集結させて、合体させるのだ。ちょうど、工場である程度完成させたプレハブ住宅を、現場で一気に合体させて組み立てるイメージに似ているかもしれない。

ボーイング社は、この短期間集中型の組立システムを開発するにあたり、日本企業の生産システム技術を大いに研究し、参考にしたそうだ。とくに、ムダや中間在庫を全く許さない日本の製造哲学を学び、これまで数ヶ月かかるのが当たり前だった航空機の組立を、わずか3週間で完成させることに成功した。そして、最終的には、なんと3日間で航空機の組立が完了させることを目指しているのだそうだ。そのために、今後とも日本企業の製造方式を継続的にベンチマークしていくらしい。

世間にはほとんど認知されていないのだけど、日本は世界の航空機産業に多大な影響を与えているの国なのだ。もっともっとアピールしてもいいと僕は思う。

(写真は日本から部品を米国まで運ぶドリームリフター。世界一へんな形の飛行機だ。)

ビジネスプラン非公開決定

2007年05月27日 | MBA
 
いつもAerospaceMBAブログをお読みいただき、どうもありがとうございます。今日はちょっと残念なお知らせがあります。

許可が取れ次第ブログ上で公開すると決めていた僕達の会社Green O.N.E.のビジネスプランですが、諸事情により公開できなくなってしまいました。その一番の理由は、今回MCTP(Multi Cultural Team Project)のクライアントとなってくださった宇宙航空企業の方からストップがかかってしまったためです。本当に残念ですが、ビジネスに絡む話なので仕方ありません。

もう少し詳しく経緯を説明すると、このクライアントである宇宙航空企業の方が、この夏に僕達が作成したビジネスプランを携えてアメリカ大陸へと飛ぶことに決めたそうです。アメリカのベンチャー投資家にビジネスプランを説明して回り、感触がよければ製造メーカーであるSky Wind Power社を動かし、この常時滞空型風力発電ビジネスの実現を一気に加速させたいらしいのです。

新ビジネスにとって一番の成功の鍵は、マーケットの中で一番乗りになることです。特に、今回のような他に類を見ない革新的技術を用いたビジネスの場合、大企業が豊富な資本力を背景に市場参入しようとする前に、マーケット内に確固たる地位を築いておき、できるだけ参入障壁を高くしておく必要があります。情報の秘密性とスピードが命であるため、現時点において僕達のビジネスプランを一般に公開することは、あまり望ましくない結果をもたらす可能性が極めて高いのです。

という理由から、今回作成した『常時滞空型風力発電ビジネス』に関するビジネスプランを皆さんに公開できなくなってしまいました。本当にごめんなさい。ビジネスレベルで通用する事業計画を作成することができたという意味では喜んでいいと思うのですが、アンケートやコメント等でご協力いただいた皆さんに結果を公開し、皆さんからフィードバックを受けられなくなったという意味で、僕はかなり残念に思っています。

ビジネスプランの公開を楽しみにしていた皆さん、本当にごめんなさい。Pardon!

いつの日か日本の空にFEG(Flying Electric Generator)が飛んでいるのを見つけたら、フランスのトゥールーズで必死になってビジネスプランを考えていた日本人が一人いたなぁ~、と思い出してもらえると嬉しいです。僕は、FEGがきっと世界中の空を飛ぶ日がいつか来ると信じています。
 

トゥールーズマラソン

2007年05月26日 | フランス
 
以前にボルドーのマラソン大会の話をブログに書いたのだけど、なんと今年からToulouse(トゥールーズ)でもマラソン大会が開催されることになったらしい。もちろん、今回が記念すべき第1回大会だ。

コースはさすが宇宙航空の町トゥールーズ!といえる設定になっていて、まずランナーはAirbus(エアバス)社のA380組立工場からスタートを切る。途中で宇宙のテーマパークであるCite de L’espaceを経由し、さらに町の中心地Capitol広場をも通過して、最終的にゴールのSesquiersを目指す。ボルドーのマラソン大会を「ワインマラソン」と呼ぶならば、こちらはまさに「宇宙航空マラソン」だ。少なくとも僕はそう呼びたい。

先日、国際宇宙ステーションに滞在中の宇宙飛行士が米ボストンマラソンに参加して完走したというニュース記事があった。宇宙航空とマラソンのコラボレーションはまだまだ未知の可能性を秘めているのかもしれない。スタート地点や途中の中継ポイントでどんなイベントがあるのかはまだ未定だけど、きっと宇宙航空の風を肌で感じられるような何かが用意されているに違いない。僕はそう信じている。

大会の日時は今年の10月28日。僕が日本へと帰国するちょうど直前だ。MBAの卒業式やインターンシップ先でのコンサルティング結果の発表などで忙しい時期かもしれない。でも、宇宙航空の町トゥールーズで過ごした最後の思い出に、ちょっと参加してみようかなあ~と考え始めているのでした。

興味がある方は、以下の情報を参考にして挑戦するかどうか考えてみてください。

 ●電話番号: 05 34 41 92 92
 ●E-mail: marathon@grandtoulouse.org
 ●HP: www.lemarathondugrandtoulouse.org

(写真はトゥールーズマラソンのHPより)
 

日本航空

2007年05月25日 | MBA
 
今日のケースは、なんとJapan Airline(JAL:日本航空)について。JALが部分的に導入したE-ticketing(電子チケット)システムを全社的に導入すべきか否かというのがメインテーマだ。

授業を担当してくれているSvinne教授によれば、今日は僕は議論に参加しなくてもよいから、各チームを回って日本人としての考え方やメンタリティーのようなものを説明してくれ、とのこと。ラッキー!今日は僕の負担は減るかもしれない。そう考えていたのが甘かった。

議論は、まずサブグループに分かれてのディスカッションから始まる。僕は各チームを順々に回って以下の3点をポイントとして説明することにした。

1. 日本人は大きな変化を避ける傾向にある。むしろ、小さな変化が継続的に続くことを好む。すなわち、ある日突然に大変化がやってくると大きな抵抗感を示すが、日々少しずつ進歩して継続的にレベルアップさせるようなやり方だと意外と抵抗を示さないことが多い。新しいサービスや手法を日本人にうまく受け入れさせるにはどうすればよいかを考える際の参考にしてほしい。

2. 日本ではクレジットカード決済はあまりメインではない。小さなレストランやショップではクレジットカードが使えないことも多く、日本人は毎日多額の現金を財布にいれて持ち歩いている。クレジットカード決済によって航空チケットをオンライン販売することに対して日本人がどう感じるか、そこも考慮してみてほしい。

3. 日本にはKeiretsu(系列)という独特の社会システムがある。JALやANAなどの大企業の元には複数の関係の深い企業がぶら下がっていて、これらの企業のビジネスに対する影響も考慮しながらJALは戦略的意思決定をすることを求められる。例えば、系列といわれる旅行代理店があるとすれば、JALが顧客と直接取引を開始することによって、彼らのビジネスチャンスを大きく奪ってしまうことになる。この点にも注意してJALとして最良の意思決定を考えてみてほしい。

以上が僕が各チームに伝えようとした日本人のメンタリティーとビジネス慣習なのだけど、みんなすごい勢いで僕を質問攻めにする。なぜ日本人は現金支払いを好むのか?クレジットカードの便利さが理解できないのか?日本人はなぜ株主利益の追求よりも消費者利益の追求を優先させるのか?小さくてもよいから継続的な変化を好むのはToyota(トヨタ)のKaizen(カイゼン)と関係があるのか?そもそも、日本人はどうして全体のバランスをあんなに気にするのか?とにかく、各チームとも質問が止む気配がなくて、僕はなかなか次のチームへ行くことができなかった。

極めつけは、クラスでのディスカッションの時だ。ケースの中のメインテーマはJALの電子チケットサービスについてなのだけど、そのテーマを離れて、日本という資源もなく国土も狭い国がなぜ世界の中であそこまで強くなれるのかについて議論する時間が圧倒的に多かった。当然、僕の発言時間や質問に答える時間も多くなる。今日の授業に関していえば、Sveinn教授よりもはるかに長い時間を僕はしゃべり続けていたと思う。

世界中からやってきたクラスメート達にとって、日本という国はとてもユニークで、かつ、興味が尽きない国らしい。僕は全く意識していなかったのだけど、それは普段の僕の行動にも表れているらしく、少なくとも効率的に確実にターゲットを達成するということに関して、みんな揃って僕の動き方に感心して見ていたらしい。僕にとって日本人として当たり前の行動が、彼らにとってはこれまでに見たことのないベストプラクティスに見えたそうだ。

授業の最後にSvinne教授から、今日のクラスディスカッションは過去に例をみないくらいFruitful(実り多い)なものだったとコメントがあった。僕達はケースのテーマを超え、それよりもはるかに上のレベルで議論を熱く戦わせていたらしい。それが教授にとっても僕たちの成長に見えて、嬉しかったのだそうだ。

当然、クラスメートはとても満足そうな顔をしている。僕は、、、もう今日はグッタリだ。ただ、MBAのクラスに少しでも貢献できたことが、心の底から嬉しかった。

(写真は日本航空の飛行機)
 

サウスアフリカ航空

2007年05月24日 | MBA
 
今日のケースはサウスアフリカ航空について。日本語に訳せば「南アフリカ航空」になる。正直、この授業でこのケースを扱うまで、僕はサウスアフリカ航空の存在を知らなかった。Aerospace MBAの学生として、ちょっと反省だ。

サウスアフリカ航空は、元々、アフリカ大陸最南端の南アフリカ共和国にある政府系航空会社だった。世界的な航空自由化の流れを受けてIPO(株式公開)を済ませ、今では立派な民間航空会社になっている。国内線、国際線ともに、南アフリカ共和国の航空輸送を支えるフラッグキャリアであることには変わりはない。そして、現在では、世界的な航空連合であるスターアライアンスの一員でもある。

しかし、サウスアフリカ航空は、1990年代の後半までは経営危機に直面していた。国内線では新規参入組の格安航空会社にシェアを奪われ、国際線ではブリティッシュ航空やシンガポール航空といった、世界のトップ10に入るような主要な航空会社と肩を並べて国際競争に打ち勝つことを要求されていた。

にも関わらず、社内の体質は依然として古く、硬直化した組織体制、国際感覚に欠ける経営陣、顧客サービスに関心がない従業員など、どう考えても世界と戦う航空会社とは言えない組織だった。そして、その死にかけた組織を立て直すため、新CEOを外部からヘッドハントすることになった。それが、Andre Viljoen氏だ。スタンフォード大学ビジネススクールを卒業したMBAホルダーだ。

Andre氏は、政府が先を急ぐサウスアフリカ航空の株式公開や世界戦略よりも、まず企業としての赤字体質を根底から立て直すことを最も重視した。いくら政府に保護された企業とはいえ、財政的な再建なくして、さらなる成長はありえないと考えたのだ。彼の言葉によれば、『血を流している間に動いても意味はない。次にどこへ行くべきかを考えるのは、まず血を止めてからだ。』赤字続きで成長して税金(=「血」)をどんどんタレ流すよりも、最初は少々成長のスピードが鈍ったとしても、まず企業として利益を追求できる体質にすることを選んだのだ。

僕達は問題が発生すると、すぐに次の対応策を考えようとする傾向がある。問題の本質的な原因にメスを入れることなく、時には応急処置さえすることなく、問題の表面的な解決に乗り出すことが多い。

それで一時は問題が治まったように見えるのだけど、時間の経過とともにやはり同じ問題が再び顕在化する。そして、また問題の本質的な原因を追究することなく、次の対応策を考えることで乗り切ろうとする。人間が同じ失敗をいつも繰り返すのはこのためだ。

問題が発生したら、まずは急いで血を止めること。血を止めた後で、「なぜ今回血が流れたのか?」を考えること。そして、最後に「次に血を流さないようにするためにはどうすればよいか?」を考えること。

意識しておかないと決してできないことだと僕は思う。いつも同じ失敗ばかりを繰り返していて悩んでいる人は、ぜひ参考にしてみてください。
 
(写真はサウスアフリカ航空の飛行機)
 

航空会社マネジメント

2007年05月23日 | MBA
 
今週のAerospace MBAでは、Airline Management(航空会社マネジメント)の授業が行われている。授業を担当してくれるのは、Core Module(コア・モジュール)で経営戦略を担当してくれたアイスランド出身のSveinn教授だ。本当にこの学校の教授陣は国際色豊かだなあ~とつくづく思ってしまう。

Svienn教授の授業はいつもどおりケーススタディ中心だ。しかも、ただ単にケースを読んできてディスカッションするだけではなく、チーム毎にコンサルタント、企業経営者、クオリティチームの3つの異なる役割を与えられ、それぞれの視点でケースに取り組む。

一番変わっているのは、クオリティチームの存在だろう。このチームは、前日に当然ケースの予習をしてこなければならないものの、当日はディスカッションには一切参加しない。その代わり、コンサルタントチーム、経営者チームのディスカッションの様子を細かく観察し、議論の進め方や、問題解決の手法、チームワーク、コミュニケーション、各種ツールの用い方など、MBAの学生が常に向上させなければならないスキルに対して、各チームごとに改善提案をするのが仕事だ。

実際、一番難しいのがこのクオリティチームの役割で、自分達のクラスメートの作業の進め方を評価し、時には辛い批評も加えなければならない大変な作業なのだ。評価が甘すぎてもクラスメートのためにならないし、かといって、厳しすぎてもクラスの雰囲気を悪くしてしまうだけだ。この間の微妙なバランス感覚が非常に難しい。

実際のビジネスの現場では、マネージャーの大きな役割の一つとして、スタッフの評価という仕事がある。Sveinn教授によれば、自分が評価しなければならないスタッフに対して、いかに正確に問題点を指摘し、いかにモチベーションを下げることなくアドバイスを与えるかの訓練でもあるそうだ。確かに、人事評価の訓練でも似たようなシミュレーションをすることがある。理に適ったケーススタディの進め方だと僕は思う。

そして、今日のケースはエミレーツ航空。アラブ首長国連邦のアブダビを本拠地とする航空会社で、豊富な資金力と安い労働コストを背景に、世界シェアをどんどん伸ばしている航空会社だ。

エミレーツ航空のような小さな国の航空会社の場合、世界で戦うためにはハブ空港化するしかない。もちろん、ビジネス目的や観光目的でアブダビを訪問する人も中にはいるだろうけれど、乗客の半分以上は乗り継ぎ客だ。すなわち、アジア-ヨーロッパ間、オセアニア-ヨーロッパ間など、超長距離路線の中継基地としての競争優位性を築くことが、世界の航空市場における生き残りの鍵となる。シンガポールのシンガポール航空や香港のキャセイ・パシフィック航空なども同じ戦略で世界と戦っている。

僕がフランスに来る際にも、エールフランス航空の直行便で東京からパリへとフライトするか、エミレーツ航空のアブダビ経由でパリへと飛ぶかの2つの選択肢があった。結果として、僕は前者を選んだのだけれど、今日エミレーツ航空のケースを勉強して、ますますこの会社に興味を持つようになった。21世紀の世界の空の主役を張るだけの可能性が、このエミレーツ航空にはあるのだ。

まだ帰りの飛行機のことなんて何も考えていないのだけど、もしチケット代金が安ければ、エミレーツ航空のアブダビ経由で帰ってもいいかも!と思ったのでした。

(写真はエミレーツ航空とアブダビ)
 

ビジネスプラン完成

2007年05月22日 | MBA
 
MCTP(Multi Cultural Team Project)で挑戦した僕達のビジネスプランがついに完成した。本文はビジネス戦略の結論のみを中心に30ページ程度に抑え、分析そのものや分析のバックデータ、さらに、経営者(僕たち)のプロフィールなどは全てAppendixとして巻末に掲載した。全50ページにもわたる力作だ。

本格的にビジネスプラン執筆に取り組んだのは、僕にとってこれが始めての経験だ。今回の一連の作業を通して、ビジネスプランの作成に必要なコンテンツ、書き方のフォーマット、魅力的にみせるポイント、陥りやすいミスなど、非常に多くのことを学ぶことができたと思う。

やはり、『ビジネスプランの書き方』という本を読んだだけでは、決して見えてこない部分が多かったと思う。本当にビジネスプランの作成能力を身に付けたかったら、自分のアタマをフルに使ってアイデアを絞り、何度何度も仲間と議論を戦わせながら戦略とロジックの質を高め、納得できるレベルにまでビジネスプランを一度書き上げてみるしか方法はない。今は心の底からそう思う。本当に貴重な経験をすることができた。

今回の作業の中で僕達のチームが特にこだわったのは、Investor(投資家)が”聞きたいこと”に焦点を当てるということ。僕達がアピールしたいポイントではなく、あくまで投資家の興味を中心に据え、ビジネスプランを構成したつもりだ。ビジネスプラン自体のCustomer(顧客)はあくまで投資家であって、彼らを中心に据えて全てを考えることが成功への近道になる。僕達はそう信じて行動した。

今回のビジネスプランが僕の第1作目なので、荒削りな部分もあるだろうし、プロの経営者が読んだらどんどんツッコミを入れたくなる箇所がたくさんあるだろうと思う。そういった貴重なフィードバックを受けてビジネスプラン作成能力を向上させていくことも大切なので、今回顧客となってくれたヨーロッパの宇宙航空企業の方々の許可をとった上で、なんと僕達のビジネスプランを公に公開することにした。

まだ時期ははっきり決まってないのだけど、許可が下り次第、PDFファイルでダウンロードできるようにしたいと思います。僕達のビジネスプランに興味のある方は、お楽しみに!
 
(写真は僕達のビジネスプラン。カラー両面印刷でプロフェッショナル仕様。)