宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

宇宙からのABC

2009年04月27日 | その他
 
衛星画像を使った世界で最も有名なサービスと言えば、米Google社が提供するGoogle Mapだろう。専用のソフトウェアをダウンロードしさえすれば、世界中のどこでも好きな場所を宇宙から写真で眺めることができる。もちろん、地上に近づけば航空写真にとって代わるが、それでも街中を行き交う人や車を無料で上空から眺めることができるサービスは、ある意味で衝撃的だと思う。人間はついに鳥の目を手にいれたのだ。

そのGoogle Mapの新しい使い方を発見した。言葉で説明するまでもなく、本当に斬新な発想なので思わず紹介したくなった。これなら宇宙人とも言語でコミュニケーションできるかもしれない。

興味のある方は↓からどうぞ。

詳細はこちらから
 

Royal Air Morocco

2009年04月20日 | 宇宙航空産業
 
とても嬉しいニュースを聞いた。MBA時代の同級生であり、フランスの航空機メーカーATR社で共にインターンとして働いたOthmanが、ついに6機のATR機の販売に成功したのだ。おそらく契約額にして100億円以上、ATR社にとっても彼にとっても大成功のプロジェクトだ。

Othmanはフランス系のモロッコ人で、現在はATR社のTechnical Sales Managerとして働いている。フランス語、英語に加えて、アラビア語も話すトリリンガルだ。ただし、敬虔なムスリムではなく、お酒も飲むしタバコも吸うし、食べ物は何でも食べる。僕にとっては普通のMBAクラスメート以上に苦楽を共にした戦友でもある。

その彼が進めてきたプロジェクトがついに成就したのが何よりも嬉しい。僕は彼に頼まれていつも戦略立案をサポート、というか、半分肩代わりしていた。Othman曰く、自分は戦略の実行には自信があるのだけど、分析や立案となるとどうも苦手意識があって、同じMBAに通いながら日本人の僕には到底叶わないと感じていたのだそうだ。なので、迷いがあるといつも僕の部屋に来て、一緒に問題を特定して、何時間も二人で議論し合ったのを覚えている。

今回のATR社のプレス発表を見る限り、あの時に提案した戦略プランはどうやら結果として実を結んだようだ。僕は既存の航空会社に最新鋭機を直接売り込むのではなく、地方政府を巻き込みながら大手航空会社の子会社として新たに地域会社を設立し、そこにATR機を販売する戦略を提案した。大手航空会社に直接販売して運航させたのでは、大手特有の高コスト体質からおそらくATR機の低コスト運航性を十分に発揮できないと読んだからだ。航空機という商品を売るのではなくビジネスモデルを売る、これも僕がMBAで学んだ大切なことの一つだ。

確定発注6機+オプション2機の販売成功という結果を見ると、あの時に立案した戦略は外れていなかったのではないかと思う。もちろん、戦略の「実行」が得意だと自負するOthmanの実力の結果であることに疑いの余地はない。この結果を生み出したのは間違いなくOthmanの汗と努力だ。とにかく、戦友の勝利が何より今の僕にとっては嬉しい。

Felicitation, Othman! 僕もさらなる飛躍に向けて頑張っていくよ!

ATR社のプレス発表はこちら

(写真はRoyal Air MoroccoのATR-72 600Series)
 

衛星ブロードバンド

2009年04月16日 | 宇宙航空産業
 
人工衛星「IP STAR」によるブロードバンドサービスがついに日本でも始まった。これはタイの衛星通信事業者であるタイコムの日本法人が提供するもので、簡単に言うと、宇宙を経由してインターネットにアクセスするサービスを日本国内に提供するものだ。

わざわざ宇宙を使って?という部分に疑問を持つ人もいるかもしれない。しかし、世界には光ファイバーなど地上での高速通信インフラが整備された国はまだ多くはなく、宇宙を使うことで一気に広大な地域をターゲットとしてブロードバンドサービスを提供することが可能になる。もちろん、人工衛星の開発コストや打上コスト、運用コスト、保険コストなども膨大な投資になるので、地上インフラとして整備した場合の総コストと比較した上での意思決定が必要だ。

宇宙を使ったインフラ構築が特にその効力を発揮するのは、ヒト・モノ・情報といった資源が、それぞれは少量づつながら広範囲に分散して存在している場合だ。そして、資源それぞれの経済的価値が高ければ高いほど、高額な人工衛星によるコストを負担してでも各資源を結び付けようという需要がそこに生まれる。すなわち、宇宙インフラにとって大事なのは、需要の量ではなく、その質(価値の高さ)と分散性だと僕は考えている。

具体例を挙げれば、離島や過疎地における遠隔医療などはその良い例だ。これらの地域にあらゆる専門分野の医師を配置してトータルな医療サービスを提供することは、物理的に不可能ではないにしても、経済的に成立しない可能性が非常に高い。しかし、一方で人の命というのは何にも代え難い高い価値を持ち、さらに、離島や過疎地にはそれらの高い価値が分散して存在している例がほとんどだ。こういうモデルが成り立つ状況こそ、宇宙インフラの出番だと僕は思っている。

IP STAR社が日本で提供するサービスは単なる通信サービスなので、遠隔医療といったアプリケーションが出現するのはこれからだろう。あとは時間とコストの問題で、低価格化が進めばそれだけ利用者・利用地域が増えて、スケールメリットによる低価格化がさらに進むという好循環が生まれる。インフラは構築するだけでは全く意味がなくて、その上に成立するアプリケーションの良し悪しがその後の発展性を決める。地上での高速通信インフラが整備された日本においては、新たなアプリケーションが今後生まれるかどうかがIP STARの成否を分けるだろう。

ただし、このサービスを利用するためには、直径120cmの衛星用パラボラアンテナを設置する必要があるそうだ。マンションのベランダに設置するにはちょっと大きいかもしれないが、将来的には84cmのアンテナも販売するそうだ。設置価格は1件あたり30万円で、通信速度によって月々3500円~5500円の利用料金が課金される。このくらいのレベルであれば、僕はビジネスとして成立するアプリケーションが多数出てくるのではないかと思っている。

日本市場における今後のIP STARの活躍に注目していきたい。

IP STARのホームページはこち

(写真はIP STAR社のブロードバンド衛星)
 

航空マーケティングセミナー

2009年04月04日 | 宇宙航空産業
 
日本の航空宇宙は「技術で勝ちながらビジネスでなかなか勝てない」と僕は前から言ってきた。その背景には技術開発に対する日本独特の自負や信念のようなものがあって、よい製品を開発すれば市場は必ずそれを求めるであろうというプロダクト・アウト(Product Out)の思想がそこにはあった。そんな環境で育つ人材は結局過去と同じ技術重視の戦略をとり、今後もずっと変わらぬ状況が続くのだろうと僕は考えていた。

しかし、最近になって少しづつ変化が出始めてきた。将来の技術開発を担う人材に対して、最終ゴールであるビジネスの仕組みまでしっかり教えようという動きだ。言いかえれば、市場が技術に対して何を求め、その要求に答えるためには技術は何をすればよいのかというマーケット・イン(Market In)視点での人材教育だ。

具体的な例としては、東京大学航空イノベーション研究会が航空宇宙工学を学ぶ学生に対して、専門的なエンジニアリングのみならず、マーケティングやビジネスの仕組みまでを教える講座を開こうとしている。前期・後期に分けて産業界からも第一線のビジネスマンを講師に迎えるようなので、きっと中身の濃い教育プログラムになるだろう。僕がフランスで学んだAerospace MBAに近い存在になるかもしれない。

記事によれば、将来社会人向けの短期セミナーとしてスピンアウトする可能性もあるという。航空ビジネスに興味ある人にとっては、その上流から下流までを体系的に学べる絶好の機会になるのではないだろうか。日本国内においてそれが可能になるのだから、まさに時代は変わりつつあるのだと思う。

記事はこちらから
 

暗黙の協調

2009年04月02日 | MBA
 
経営戦略には本当に多種多様な理論やコンセプトがあって、どれが一番優れているかと聞かれても困るのだけど、僕が一番好きなのは何かと聞かれれば、間違いなく「ゲーム理論」と答える。僕はこの理論を応用して修士論文を執筆したので、ある意味で僕の専門領域だと言える。

「ゲーム理論」は数学の分野としても数々のノーベル賞を生み出した非常に面白い領域で、ジョン・ナッシュのナッシュ均衡などはその後映画にもなっている。「囚人のジレンマ」という言葉は、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないだろうか。お互いに協力すれば全員の利益を最大化できるのに、人間は個々に自分の利益だけを最大化しようとするために、結果として、協力した場合よりも少ない利益しか手にすることができない。逆に、協力することを全員で最初に合意できていれば、全員の利益を最大化できる可能性が高まるのだ。

この「ゲーム理論」が航空ビジネスで上手く適用されている事例を紹介したい。記事の執筆者は一橋大学の沼上教授で、日経新聞の「経営学のフロンティア」という記事の中の一文からの引用だ。

「価格競争に苦しんでいたアメリカ航空業界で、ある航空会社がマイレージサービスを開始した。飛行距離に応じて同社のマイレージ(距離に応じたポイント)がたまり、一定レベルを超えると、例えばハワイまでの航空券をもらえるというサービスである。

航空会社にとっては、閑散期にハワイまで1人を追加輸送してもほとんどコストはかからない。顧客にとってはハワイへの無料航空券は魅力的である。それ故、他の航空会社も競って類似のサービスを導入した。

このサービスを各社が導入すると、顧客は簡単に航空会社をスイッチしなくなった。マイレージを貯めるために、同じ航空会社を使い続けるようになったのである。『あと1回乗ればハワイまで行ける』のであれば、運賃が多少高くても他社に乗り換えることはない。こうして、マイレージサービスのシステムが一般化すると、顧客は運賃の高低に対して敏感でなくなり、少なくとも当時は業界全体が低価格化競争から脱して利益を上げられるようになったのである。

1社がマイレージサービスを導入すると、他社が追随し、顧客の購買行動が変わり、業界全体の価格水準が上がる。このようなダイナミックな相互作用の解読がゲーム理論的なアプローチの特徴である。しかも、この事例から分かるように、このアプローチは敵対関係にある企業間でも協調が可能であることを強調する。マイレージサービスを模倣し合う『競争』により各社に忠実な顧客が生み出され、その結果、徐々に運賃を高めていく『暗黙の協調』が行われるようになったのである。」

『暗黙の協調』は、皆が賢く生き延びていくために自然発生する均衡点だということもできる。意図的にやればカルテルや独占禁止法違反となってしまう可能性があるが、競争の結果としてそうなったのであれば法にも問われない。逆境や苦境に立たされると人間はそれを乗り越えるための新しい術を生み出す生き物なので、今の経済不況も楽しみながら何が起こるかを観察していきたいと思っている。

(引用は平成21年4月2日付の日本経済新聞より)
 

コンコルド再び空へ!

2009年04月01日 | その他
 
今年6月にフランスで開催されるパリ航空宇宙ショーの目玉イベントとして、なんとあのコンコルドがデモフライトをするらしい。100周年の記念大会ということで、2003年の墜落事故以来6年ぶりの超音速フライトになる。

詳細はこちらのサイトに掲載されているのだけど、僕もぜひ乗ってみたい。絶対にフランスまで観にいこうと思う。