宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

ガラパゴス現象

2009年02月17日 | 宇宙航空産業
 
最近、「ガラパゴス現象」という言葉が流行っているそうだ。どうやら発信地は日本で、絶海の孤島ガラパゴス諸島に因んで名づけられた現象らしい。

ガラパゴス諸島はダーウィンの進化論で知られている中南米の島の一つだ。独自に進化を遂げたその生態系はあまりにも有名で、巨大なリクガメやイグアナ、コモドドラゴンなど、他の地域では見られない多種・多様な生き物が生息している。何千年にもわたって他の島などとの交流が全くなく、生態系が完全に隔離されたきたおかげで、生き物達は他に見られない独自の進化を遂げたのだ。

しかし、日本における「ガラパゴス現象」というのは生き物のことではない。携帯電話のことだ。NTTドコモ、au、Softbankなど、日本には通信サービスを提供する携帯電話各社と、日本電気、三菱電機、シャープなど、携帯電話機そのものを製造・販売するメーカー会社がある。これらの日本の会社が提供する通信サービスの規格は、実は日本でしか通用しない独自規格が中心で、世界標準とは全く異なった通信方式を採用している。すなわち、日本の携帯電話業界は、世界の大きな流れとは離れて独自の進化を遂げ、独自の規格を発展させてきたのだ。これが日本の携帯電話業界を指して言う「ガラパゴス現象」の真の意味だ。

日本の携帯電話業界がこのように独自の進化を遂げてしまったのは、やはり日本国内に十分な市場と成長機会があり、その中だけで競争していても十分に生き残ることが可能だったからだ。もし、日本国内に十分な市場がなく、世界に出て戦わなければ生きていけないような状況に追い込まれていたならば、決して日本でしか通用しないような規格の製品のみが開発されることはなかっただろう。おそらく、携帯電話の製造メーカーは、世界に受け入れられるために、世界標準に合わせた規格での携帯電話開発を進めたはずだ。

身近なところに十分な成長機会があることは、とてもラッキーなことだと思う。しかし、機会に恵まれすぎていると、反って進化のチャンスを逃すことにもつながるのだ。

(写真はガラパゴス諸島のイグアナ、だと思う。)
 

コンコルド効果

2009年02月08日 | MBA
 
心理学や行動経済学の分野には「コンコルド効果」という言葉が存在する。英語ではCondorde Fallacyというのだけれど、ここで言うコンコルドとは、あの英仏共同開発による超音速旅客機コンコルド(Concorde)のことを指す。ただ、世界初の偉業を実現するとか、常識を打ち破る、とかいったポジティブな意味で使われているのではなく、むしろ「失敗」に繋がる心理的状況を表した用語だ。

「コンコルド効果」とは、簡単に言うと、「過去に行った投資を惜しむあまり、将来に損失が発生することが分かっているにもかかわらず、投資継続を決定してしまうような人間の心理状態」のことを指す。英仏共同プロジェクトであったコンコルド開発は、将来における商業的な成立性がほとんど見込めないことが明白であったにもかかわらず、過去に超音速機開発に対して行った経済的・時間的な投資をもったいないと考え、結局イギリスもフランスも開発の継続を決定してしまった。結果として、数兆円もの開発投資が行われ実機が完成したものの、英仏を除いて世界中の航空会社から買い手がつかず、製造されたのは20機だけとなってしまった。航空機製造ビジネスとしては完全な失敗だったと言える。

同じような事例は、きっと異分野・異業種でもたくさん存在するだろう。過去の先行投資を惜しむあまり、現実を直視せず、将来に対してとるべき正しい意思決定ができないことは多い。こういった行動現象は、実は人間の幼少期には見られず、大人だけに見られる行動なのだそうだ。確かに、小さな子供の行動を見ていると、新しいオモチャが見つかるといとも簡単に過去のオモチャから興味を失う。そこには過去のオモチャに対する先行投資が惜しいという感情はないのだろうと思う。

僕が通った宇宙航空MBAの授業では、どの科目よりも先にこの間違いを起こさないための教育を受ける。それが「Managerial Economics」(経営管理経済学)だ。投資活動を行うにあたって一番重要なSunk Cost(埋没費用)やOpportunity Cost(機会費用)の考え方を体に叩き込み、経営判断において現実を直視し、過去に捉われない正しい意思決定を行えるようにするのだ。

子供は何も知らないから教育が必要だと大人は言う。でも、大人だからこそ必要な教育もまたあるということを覚えておきたい。

(写真はエールフランス航空のコンコルド。エールフランス社のHPより。)