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ヴードゥーの悪魔

2006年02月17日 | JDカー
カー最後の未訳本だった「Papa La-bas」が刊行されました。ニューオリンズ三部作(「亡霊たちの真昼」「死の館の謎)のひとつとして書かれたものです。著者本人による創作ノート(好事家のためのノート)によると、探偵役上院議員や事件の発端となるヴードゥークイーンも実在の人物だそうです。たしかにカーの他の歴史物でも実在の人物を使っているので不思議じゃないですね。探偵役となる上院議員はおとなしいフェル博士みたいでしたし。マーク・トゥェインの本名、サム・クレメンスがちらっと会話に出てきます。

さて、カーの作品としては下ですね。「月明かりの闇」や「仮面劇場の殺人」といった最晩年のものと比べればまだましですけれど。老人性饒舌体が炸裂するあまり、キャラクターが混沌してしまいます。誰だったっけ?みたいに。ミステリとして狙い方は最盛期のころとあまり変わらないようですが、小説の展開が緩みっぱなしで途中2、3回居眠りしかけました。ヴードゥーの呪いと、不可思議な出来事の雰囲気はまあ良いのですが、じゃそれがどんな風にミステリ的に生きてくるのかと期待すると、尻つぼみで終わってしまいます。主人公が雑踏で拳銃で狙われることの種明かしがこれでは、カーの名前が泣きます。

しかし、犯罪の根は過去にありと、陰惨な歴史を開陳するところは雀百までというか「赤後家の殺人」を彷彿とさせて、老いたる中にも溌剌とするのはこういう歴史のお話ではないでしょうか。

ところで日本には二階堂黎人という偽ミステリ作家がいますが、この人の作品に「カーの復讐」というものがあります。「カー」というのはエジプトで「霊魂」の意味だそうで、つまり霊が殺人をする、みたいな話なんでしょうね。この人は日本で一番、デイクスン・カーを理解しているような立場にいると思っているようです。最初、このタイトルを見たときは、あまりに頓珍漢なデイクスン・カーの紹介文に、とうとう泉下のカー本人が怒りのあまり霊魂となって二階堂黎人に復讐したのでは?と想像してしまいました。
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