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バベルの謎 ヤハウィストの冒険

2007年11月11日 | ノンフィクション
たぶん今年一番の興奮本です。
とはいえ元版は10年ほど前に出ているので、そのときに読んでいればとは思うのですが、たぶんこちらの頭がついてゆかないでしょうね。それにこの文庫は新仮名遣いに直してありますが、元版は旧仮名遣い、読み通すのにずいぶん時間がかかったでしょうね。

旧約聖書の「創成記」、いわくアダムとイブの楽園追放、カインのアベル殺し、ノアの方舟、バベルの塔のエピソードなど、そのウラに隠された著者のたくらみを大胆な推理で謎解きます。

その1 聖書の成立には多数の書き手が関わっていることが分かっているのですが、著者はその中で「ヤハウィスト」と名付けた人物を追います。

その2 なぜか。彼こそ人類文学史上始めて「孤独」「絶望」「希望」を物語にした人物でありました。今風に言えばリミックスの先駆とも言える作業も。

その3 しかもそれは神の「孤独」「絶望」「希望」というテーマを描いていました。人の、ではないんですね。

神は自ら創造したヒト、アダムとイヴに失望し、その子どものカインとその末裔にも絶望し、いったんは大洪水でヒトを地上から一掃します。が、ノアに希望を託します。

「ヤハウィスト」と著者が呼ぶ人物の書いたパートは、先行するシュメール文化の神話を取り込みながら、換骨奪胎させて「いかにもオリジナルな様相」を見せているのはとっても面白いです。

神はひたすら「ヒト」と「ヒトを縛りつける地」の間を切り離し、自分のいる高みまで上ってこいとヒトに促しますが、血のめぐりの悪いヒトはその意味を解しそこねてン千年。

通説を見事に逆転させた解釈に驚愕というか、聖書という最古の文学がなんとモダンに蘇ったのでしょうか。門外漢による門外漢のための話、というスタンスがこのしなやかさのもと、そう思いたい。横山光輝「バビル2世」といっしょに読みたいですね。

【バベルの謎 ヤハウィストの冒険 長谷川三千子著 中公文庫】
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