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ディクスン・カー試論 ネタ蔵 その2

2022年09月07日 | JDカー
助手役の変遷
探偵付きの助手役は、最初期はモラトリアムの青年を配しています。
バンコランにはジェフ・マール、フェル博士にはタッド・ランポール、
この二人の共通点はアメリカ人でイギリスやフランスに遊学、旅行できる裕福な家の生まれであること、
学校を卒業後なにもしていない高等遊民であること、です。
早い話が著者カーの分身ですね。
そう思ってバンコランものを見てみると、パリへ法律の勉強に来たはずのカーは、
法学なんぞそっちのけで小説を書いてみたり、夜のパリで遊んでいたんだろう、と想像できます。
夜遊びは芸の肥し、その夜遊びの体験が『蝋人形館の殺人』ににじんでいます。
 で、ジェフ・マールくんはその後どうなったのかは不明です。
『毒のたわむれ』でアメリカの故郷に帰ったことは分かりますが、どんな仕事に就いたのかは書いてありません。
同じようにタッド・ランポールくんも、『帽子収集狂事件』以後にアメリカへ帰っているらしく、
『三つの棺』でロンドンに戻って以降作品には登場せず、アメリカでは何をしているのか不明のままです。

フェル博士もの『剣の八』よりあとは、助手役には作家だったり、学者、警察官といった職業人が作品ごとに助手役になります。
いっぽうHM卿には、最初から職業軍人(諜報部員?)のケン・ブレイクが助手として付きます(『黒死荘の殺人』)。
どの作だか忘れましたが、名前だけ登場して「大尉」と呼ばれていたので、そういう地位にあるということが分かります。
その後はやっぱり作家や医師、退役軍人、新聞記者などが交代で助手役をつとめます。

『剣の八』と『黒死荘の殺人』はともに1934年発表、その年から探偵の助手にモラトリアムを使わなくなったというのは、
33年にカーに最初の子どもが生まれたからではないか、と。
じつはヒロインの設定も40年ごろを境にして、それまではただの未婚の若い女性だったものが、
人妻や職業婦人(奇術師、学者など)へと変化していきます。
カーも年齢を重ねていき、1940年には二人目の子どもも生まれ、視点と趣味が変わってきたのでしょうね。
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