(1959/アラン・レネ監督/エマニュエル・リヴァ、岡田英次、ベルナール・フレッソン、アナトール・ドーマン/91分)
ネタバレあります。
アラン・レネ、37歳の時の長編第1作。
原作・脚本は「かくも長き不在」のマルグリット・デュラス。
反戦映画の撮影にフランスから広島にやってきた女優が、日本人の建築家と知り合いベッドを共にする。女は自らを“道徳懐疑者”と言い、一夜の情事を楽しむが、男との話に戦後封印していた戦時中の苦い過去を思い出し、知らないうちに身につけていた殻を剥がしていく、というお話。
通常のドラマ仕立ての構成ではなく、主人公の意識の流れを中心に描いた作品で、1960年アカデミー賞では脚本賞にノミネートされ、NY批評家協会賞では外国映画賞を受賞したそうです。
映画は、暗がりの中で肌を重ねる二人の腕や背中のアップで始まる。そして、二人のモノローグのような会話が流れてくる。
(男)『君は広島で何も見ていない。なにも。』
(女)『いいえ。私はすべてを見たわ。』
スクリーンでは、彼女が訪れた原爆資料館、彼女が見た被爆者の写真や映像が流れていく。カメラは病院の中にも入って行き、原爆病で苦しんでいる女性達の姿が彼女の視線で写される。当時のドキュメンタリー・フィルムでしょうか、被爆当時の広島の街、被災者などの生々しい姿も出てきます。
そして、それらの間に挿入される暗がりの中に浮かぶ男と女。
(先日、「ヒロシマ、ナガサキ」という日系アメリカ人が作った原爆に関するドキュメンタリー映画が公開されて話題になっていますが、このレネ作品は上記のような男女の情事が背景になっているので、子供たちには薦められないという難点を持っています。)
翌朝、先に目覚めた女は、男の寝姿を見ながらかつて愛した男の最期を思い出す。
故郷ヌベール。青春を過ごした町。しかし、其処は思い出したくない場所でもあった。
女は戦時中に駐留していた敵軍のドイツ兵士と恋に落ち、やがて二人の逢瀬が村人に知られるようになる。非国民とのそしりを受け、娘の行動を恥じた両親は彼女の髪を短く刈り、ヒステリックになった時には地下室に閉じこめたりもした。娘は壁に爪を立て、傷ついた指先の血を舐める。壁までも舐める。それはまるで狂人のような姿だった。
一方、建築家は原爆で親兄弟を亡くした男だった。
(女)『あなたも広島に居たの?』
(男)『まさか。その頃私は戦地にいた。』
(男)『あの時、パリは快晴だったって?』
(女)『そう。私は20歳だった。』
「二十四時間の情事」のタイトル通り、その後ホテルを出た二人は、女優の映画の撮影シーンを挟んで、再び男性の家でも愛を確かめ合う。男の奥さんは旅行に出かけていて不在だった。お互い配偶者のいる身なのだが、明日にはフランスへ帰る予定の女優に、忘れられそうにないからもう少し日本にいてくれと男は言う。女は『ダメ。帰るわ。』と言う。
男は愛した女の過去を知りたがる。女は数時間前に脳裏をよぎった故郷での思い出を話し出す。ヌベールでの出来事を現在の夫にも話していないと言う女の言葉に、男は秘密の共有者になれたと喜び、更に離日を先に延ばすように頼む。『愛してるんだ。』
単純な話なのだが、二人の会話をモノローグのように使い、彼女の過去の思い出をフラッシュバックのように挿入しながら、揺れ動く女性の意識を描いている。今ならなんの抵抗もなく見れるが、公開当時は斬新な手法だったのではないでしょうか。
映画の撮影に来たと言いながら、彼女以外のフランス人撮影スタッフは全然登場せず、二人が彷徨う夜の広島の繁華街も非現実的な世界のよう。
はたして女はフランスへ帰るのか・・・?
終盤は、段々と男が忘れられなくなりそうな予感に、フランスへ帰るのか、広島に残るのか迷い続ける女の気持ちのように、映画も混乱してしまった感じでした。まさか、ソレ(混乱を体感させること)が狙いだった?
女優も建築家も、戦争で失われた時間を取り戻すように、安らぎを求めた結婚だったのでしょう。純粋に男と女として惹かれた二人の物語でもあります。
もう一度見ると、お薦め度が上がりそうな予感もする作品でした。
尚、ネットのデータによると、現在は「ヒロシマモナムール【HIROSHIMA, MON AMOUR】」という原題通りにタイトル変更されているようです。
[07.08.14 加筆修正]
ネタバレあります。
アラン・レネ、37歳の時の長編第1作。
原作・脚本は「かくも長き不在」のマルグリット・デュラス。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/d4/1cce2a4234a35646085a27c863b0296c.jpg)
通常のドラマ仕立ての構成ではなく、主人公の意識の流れを中心に描いた作品で、1960年アカデミー賞では脚本賞にノミネートされ、NY批評家協会賞では外国映画賞を受賞したそうです。
映画は、暗がりの中で肌を重ねる二人の腕や背中のアップで始まる。そして、二人のモノローグのような会話が流れてくる。
(男)『君は広島で何も見ていない。なにも。』
(女)『いいえ。私はすべてを見たわ。』
スクリーンでは、彼女が訪れた原爆資料館、彼女が見た被爆者の写真や映像が流れていく。カメラは病院の中にも入って行き、原爆病で苦しんでいる女性達の姿が彼女の視線で写される。当時のドキュメンタリー・フィルムでしょうか、被爆当時の広島の街、被災者などの生々しい姿も出てきます。
そして、それらの間に挿入される暗がりの中に浮かぶ男と女。
(先日、「ヒロシマ、ナガサキ」という日系アメリカ人が作った原爆に関するドキュメンタリー映画が公開されて話題になっていますが、このレネ作品は上記のような男女の情事が背景になっているので、子供たちには薦められないという難点を持っています。)
翌朝、先に目覚めた女は、男の寝姿を見ながらかつて愛した男の最期を思い出す。
故郷ヌベール。青春を過ごした町。しかし、其処は思い出したくない場所でもあった。
女は戦時中に駐留していた敵軍のドイツ兵士と恋に落ち、やがて二人の逢瀬が村人に知られるようになる。非国民とのそしりを受け、娘の行動を恥じた両親は彼女の髪を短く刈り、ヒステリックになった時には地下室に閉じこめたりもした。娘は壁に爪を立て、傷ついた指先の血を舐める。壁までも舐める。それはまるで狂人のような姿だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/a9/5374c5077d5efc8781095de19665bf18.jpg)
(女)『あなたも広島に居たの?』
(男)『まさか。その頃私は戦地にいた。』
(男)『あの時、パリは快晴だったって?』
(女)『そう。私は20歳だった。』
「二十四時間の情事」のタイトル通り、その後ホテルを出た二人は、女優の映画の撮影シーンを挟んで、再び男性の家でも愛を確かめ合う。男の奥さんは旅行に出かけていて不在だった。お互い配偶者のいる身なのだが、明日にはフランスへ帰る予定の女優に、忘れられそうにないからもう少し日本にいてくれと男は言う。女は『ダメ。帰るわ。』と言う。
男は愛した女の過去を知りたがる。女は数時間前に脳裏をよぎった故郷での思い出を話し出す。ヌベールでの出来事を現在の夫にも話していないと言う女の言葉に、男は秘密の共有者になれたと喜び、更に離日を先に延ばすように頼む。『愛してるんだ。』
単純な話なのだが、二人の会話をモノローグのように使い、彼女の過去の思い出をフラッシュバックのように挿入しながら、揺れ動く女性の意識を描いている。今ならなんの抵抗もなく見れるが、公開当時は斬新な手法だったのではないでしょうか。
映画の撮影に来たと言いながら、彼女以外のフランス人撮影スタッフは全然登場せず、二人が彷徨う夜の広島の繁華街も非現実的な世界のよう。
はたして女はフランスへ帰るのか・・・?
終盤は、段々と男が忘れられなくなりそうな予感に、フランスへ帰るのか、広島に残るのか迷い続ける女の気持ちのように、映画も混乱してしまった感じでした。まさか、ソレ(混乱を体感させること)が狙いだった?
女優も建築家も、戦争で失われた時間を取り戻すように、安らぎを求めた結婚だったのでしょう。純粋に男と女として惹かれた二人の物語でもあります。
もう一度見ると、お薦め度が上がりそうな予感もする作品でした。
尚、ネットのデータによると、現在は「ヒロシマモナムール【HIROSHIMA, MON AMOUR】」という原題通りにタイトル変更されているようです。
[07.08.14 加筆修正]
・お薦め度【★★★=一度は見ましょう】 ![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
わがブログの中ではアクセス数の比較的多い作品です。
単純な話ですが、内容はかなり難解で、広島が彼女の故郷と重なるのは良いとしても、岡田英次自身が広島に同一化すると解釈される幕切れはどうにも解りません。
映画としては潜在意識の顕在化を狙った恐らく史上初の試みであり、その狙いは完成度高く実現しています。現在まで本作ほど上手く行った例は他にないでしょう。映像も大変良いですね。実際に広島を映画を撮りにきた連中が自分たちの話を映像化するといった合わせ鏡のような面白さもあります。
これはロマンスの形を借りた反戦映画と思います。
そんな話でもあるのに、自分の文章を読み返すとそんな部分には触れてなかったですネ。
終盤の展開は、一度では理解できないですね。
プロフェッサーの仰るように、難解なようですが反戦映画というテーマ性ははっきりしており、「去年マリエンバードで」より数倍印象的です。
エマニュエル・リヴァさんも岡田英次さんも気品があってよろしいです。
3連作の、詳細なストーリー紹介と綿密な分析。
記事を書く時は、他の方のを事前に読まないようにしているのですが、書いた後に貴女の記事を読んだら、あまりに自分のが貧弱だったので、修正しました。(笑)
自分の感じたとおりに書くのが難しかった映画でした。
邦題から私好みの18禁映画かと勘違いして観はじめましたが、映像美・音楽・脚本・テーマとこれほど完璧に近い映画はそうそうないかと思います。
私の映画ベスト10に入ります。
”忘却”というテーマがあるとのご指摘、なんとなく分かりますが、この映画を観た当時を思い出しても、そこまで僕に読み取れたかは自信が無いですね。でも、なんとなく分かります、仰られていること。
コメント&TBありがとうございました。
レネは、次はミュージカルか、モンタン主演の「戦争は終わった」が観たいですね。