テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ボウリング・フォー・コロンバイン

2006-12-08 | ドキュメンタリー
(2002/マイケル・ムーア脚本・監督・共同製作/マイケル・ムーア、チャールトン・ヘストン、マリリン・マンソン/120分)


 30年前のジャーナリスト(「大統領の陰謀」参照)はメモと鉛筆で取材をし、証言者に了解を得ながら記事にしていたけれど、現代のジャーナリストはビデオカメラ一つで取材が出来る。ビデオ・ジャーナリストなんて肩書きも通用する時代だ。そして、『百聞は一見にしかず』。映像は文字に表せない微妙なニュアンスまでも表現してしまう。

 1999年4月20日火曜日、アメリカ合衆国コロラド州ジェファーソン郡で発生したコロンバイン高校銃乱射事件を元に、アメリカ銃社会のあり方に疑問を持つジャーナリスト、マイケル・ムーアが作ったドキュメンタリー映画である。2002年のアカデミー賞ではドキュメンタリー長編賞を受賞し、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールにノミネート、フランスのセザール賞でも外国映画賞を受賞したそうである。

 冒頭では、1995年に発生したオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件が軽く紹介される。犯人のティモシー・マクベイがムーア監督の出身地であるミシガン州に居たことがあったからだが、それはコロンバイン高校で銃を乱射した高校生の一人が、やはりミシガン州のある町の出身者であったことに繋がっていく。
 原題は【BOWLING FOR COLUMBINE】。犯人の二人の高校生は無差別殺人を犯す前に地元の遊技場でボウリングをしていたらしいし、コロンバイン高校ではボウリングをする事で体育の単位が取得できたとも語られていた。

 無性髭を生やして大きな体のムーア監督は自らカメラを持つのではなく、インタビュアーとして出演。そのドキュメント映像と、他の人が作ったアニメーションやフィクション映像などを絡めて、アメリカの銃社会の実体などを紹介していく。銀行口座を新規に開設すると銃が手に入ったり、スーパー・マーケットで簡単に銃弾が購入できる様子も紹介される。2時間というのは少し長すぎる感もあったが、意外性のある映像や鋭い切り替えの編集は面白い効果を生んでいたように思う。
 コロンバイン高校での犯行も当時のニュース映像と音声によって伝えられるが、被害者のインタビューには背筋の凍るような思いもした。

 興味深かったのは、3000万人の人口に対して700万丁の銃を保有しているらしいカナダが、銃による殺人事件がアメリカに比べて極端に少ないことだ。銃殺事件が、他のヨーロッパの先進国に比べてもアメリカの発生率は飛び抜けて高いんだが、隣国のカナダと比べても桁違いに多い。五大湖に流れる川を隔ててデトロイトの対岸にあるカナダの都市もデトロイト程の銃犯罪は起きていない。
 失業率も銃の保有率も変わらないのに、何故アメリカの銃犯罪はこんなに多いのか。終盤でのこの問いかけは、アメリカという国の成り立ち、ネガティブなニュースを取り上げるマスコミのあり方など考えさせられることが多かった。何故なら、日本の現状も可成り近いと感じるから・・。

 チャールトン・ヘストンはNRA(全米ライフル協会)の会長として、記録映像と共にムーアの突撃取材の相手として出てくる。コロンバイン高校の事件、小学1年生の黒人少年が同級生の白人少女を射殺した事件の直後、それぞれの地元でNRAの大会を開き演説をしているので、ムーア監督はその意図を探ろうと取材を敢行したわけだが、映像では明確な答えは引き出せなかった。銃メーカーとの癒着なのか、何かの信念があるのか、はたまたボケか。古くからのヘストンファンには幻滅を与えただけかも知れませんな。

 コロンバイン事件の被害者の二人の青年が、ムーアと共に銃弾を売っているスーパー(ウォルマート)に銃弾の販売を止めさせることに成功するシークエンスは感動的だった。
 そして、サッチモの名曲「♪What a wonderful world(この素晴らしき世界)」が流れる中、アメリカが国家として行った世界各国での殺人行為のニュース映像が次々に紹介されるシーンも印象深いものでした。

・お薦め度【★★★★=ちょっと長いけど、友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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2 コメント

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ボウリングは危険?! (ぶーすか)
2006-12-10 21:36:43
マイケル・ムーアの作品はまだこれしか観た事がありませんが、大好きな1本です。これを観た後はチャールトン・ヘストンがかなりの悪党に見えて、嫌いになってしまいました。コロンバイン高校を襲撃した少年達が事件前までボウリングをしていたのにボウリングは危険でなくて、何故マリリン・マンソンは危険なのか?って世間の考えに疑問をかけるところなどイイですねー。
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ぶーすかさん (十瑠)
2006-12-11 09:15:27
マリリン・マンソンは全然知りませんでしたが、キッスのような扮装をしたパンクロックバンド?なんでしょうか?
マンソンのインタビューシーンも面白かったですね。
日本のミュージシャンの口から、マンソンのような話は聞けない。
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