府中美術館 ファンタスティック江戸絵画の夢と空想
前期2016.3.12~4.10、後期2016.4.12~5.8
前期後期、全入れ替え。後期展に行ってきました。
会場後半になんと、葛飾北斎「富士越龍図」が! ずっと見たかった、絶筆と言われる絵。
が、帰宅後気づいたのですが、あれ?美の巨人で紹介されていた絵↓↓と落款の位置が違う、佐久間象山の賛もない…。
今回の展示は、個人蔵の別のものでした。
美の巨人で紹介されていたものは「嘉永2年1月(1849年)」と日付があり、亡くなる三ヶ月ほど前。署名は「九十老人卍筆」と。絶筆はそちらなのでしょう。
今回のは日付がなくいつ描かれたのかわかりませんが、何度も画号を変えた北斎が、75歳から亡くなるまで用いた「画狂老人卍」と記載されているので、晩年の作なのではと。
ともかく、今回の富士越龍図も、肉筆に引き込まれました。 龍の体のくねり具合、かっ開いた手足の指。
北斎の最後の言葉が「天我をして五年の命を保たしめば 真正の画工となるを得べし 」(あと5年長生きできたら、本当の画工になることができたのに)。
これまでの画業の軌跡のような黒雲も、アクセルとブレーキを踏みまくっているかのように折れ曲りって富士を登り、ついには頂きも越え。天命によって否応なく残り時間はカウントダウンされつつも、絵に取り憑かれた老人の「もっと描きたい」という妄執が爪を立てるように。
改めて二枚を比べて見ると、絶筆のほうの絵は、富士山はデフォルメされてずっとシャープな形に。龍も、もう富士の頂を高く超えてしまっった。すでに天に昇っていく途にある自分を、北斎が遠くから見ているよう。
柴田是真「三日月図」を見られたのも、とても嬉しい。
濃い墨と水筆のにじみだけで現れた雲。 照らし出された雲の強い表現に、月の明るさも感じた気が。光景を描いたというよりは、それを見たひとの脳裏を抽出したような。
柴田是真は「月下布袋図」も。
丸いおなかの布袋さんが月を見上げるファンタジー。足元の水の線がすてき。
私も空を見上げてみようか。まだこの布袋さんのような邪のない表情だろうか(._.)?。この章のタイトル「見上げる視線」には感じるものがありました。
円山応挙もひかれる作品が。「残月牽牛花図」
解説によると、賛は六如という天台宗の僧の漢詩で、「眠れぬ夜、立ったまま月を眺めていると偶然朝顔が花を開かせた」。
うす闇で朝顔が開くのかわかりませんが、もしそうならステキな出来事。この朝顔は、見る者もなくても、蔓も意思を持って伸び進み、月を浴びている。
円山応挙「雲峰図」
青墨がとてもきれいでした。むくむくと育つ入道雲。飛行機から見たように雲と目線の高さが一緒で、気持ちがぽーんと大きく。床の間にこんな入道雲の掛け軸がかかっていたら、なんて楽しいだろう。
応挙の作品はどれも視点がフレッシュ。伝統的なモチーフだけでなく、そこにある自然万物から感じている応挙にひかれました。
応挙の弟子の長沢芦雪も、抜け感がいいです 。
「朧月図」は、朦朧体の元祖?
「諸葛孔明図」は、机の下で寝る丸い顔の子ども。諸葛孔明の優しい顔。
問題児弟子だった芦雪と、穏やかな人柄の応挙みたいかな。
芦雪の「蓬莱山図」も、全体的にとっても好きな世界。
広やかで穏やかな世界と、そして細かく見たら細部の一つ一つに愛ある発見ができて。
蓬莱山へと皆が集結。 波打ち際の松までが、蓬莱山へ向かっている。
海から上がり、先を急ぐ亀(歩みは遅いけど頑張ってます)。
鶴で乗り付ける仙人たち。
蓬莱山にかかる赤い手すりも好き。
奥のほのかなピンクの桜も、ストライプの波も好き。
好きとイイしか言ってませんが。 全景へひいたり、細部へズームしたり、交互の自分の心のストレッチが心地よい。
岡本秋輝「日々歓喜図」は不思議な一枚。
幽玄夢幻な蝶と波のかたち。
酒井鶯蒲「浦島図」も。
意外と近くの竜宮城。亀がやってきた。浦島太郎のたそがれた感じが、普通の漁村の人間らしくていいと思う。
強烈に異彩を発していたのが小泉斐「竜に馬師皇図屏風」
な、なんじゃこの絵は??。壁みたいに大きな絵なので、目の前にこの竜の大顔面が。
馬の医師の馬師皇のところに、竜が治療に訪ねてきた。一度見たらみょうちくりんすぎて忘れられないこの笑顔。
ちょうど目が合うのです。画面構成も現代画のようです。小泉斐(1710~1854)ってなにもの。
仙義梵「柳に牛図」
「気に入らぬ風もあろうに柳かな」と。気に入らない風もあるけど、と。柳がそれをどう流すのかはわかりませんが、 牛の後ろ姿がマイペース感がいいです。禅画なので、黒牛にこめられたもの、この背中、このしっぽ。
ほかにも森一鳳「満月図」、東東洋の「富士・足柄・武蔵野図」、 長文斎栄之「孟宗図」、土佐光貞「吉野・竜田図」、歌川国芳の「一休和尚と地獄大夫」、河鍋暁斎なども、じっくり見入ってしまった作品でしたが、きりがないので、ここでひとくぎり。
前期に来れなかったのも惜しまれる、楽しい展覧会でした。
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