hanana

二度目の冬眠から覚めました。投稿も復活します。
日本画、水墨画、本、散歩、旅行など自分用の乱文備忘録です。

●東博 下村観山「弱法師」、小林永濯

2016-12-23 | Art

この日の東博

展示中の下村観山の「弱法師」を見に行きました。

初めて見たときは、金地と梅があまりに美しい屏風に、言葉もないほど。年が明けて初詣イベントで混まないうちに、目の前ばーん、視界遮蔽物なし、で観たかったのです。


下村観山(1873-1930) 「弱法師」1915年

 

能の淑徳丸(ストーリーはこちら)。

能に疎く、実は初めて見たときには、この美しい梅にひたるあまりに、人物は描かなかった方がよかったんじゃ。。。などと不埒なことを思ったもの。

でもこの日は、淑徳丸の姿に泣きそうなくらい。

淑徳丸とその周囲が、とにかくやさしい。慈悲という言葉が浮かぶ。

淑徳丸の眼は、見えない日の光を感じているし、花びらが舞い降りるのも、香りも感じている。辛い中にいるのに、美しいものを感じている。

淑徳丸の手は、仏のよう。線描も仏画のように優しい。

花散る足元も美しく。でも少しさされた青色が少し悲しい。

望まない様々なことが降りかかるけれど、そこにある自然はいつも優しく、変わらない。辛いことがこれでもかとあったその向こうに気づくことであるならば、決して望ましいことではないのに、その境地にいるものはこんなに仏性のように清らかなんだろうか。なにかもう悲しくもあり、たったひとつの救いでもある。根源的なものは荘厳でかつ悲しい、というのは戸嶋靖昌の絵のような。

梅もどこを観ても、夢のよう。

細い枝先は触った感触まで感じる。たらしこみがほんのり。

大きな日輪は、筆目がわずかに見えて、観山が丁寧に心を澄ませて描いている姿が浮かんでくる。

屏風の左側から歩いていくと、次々に花枝が現れて、夢心地の体験だった。

三渓園の臥竜梅に着想を得たもの。原三渓の援助を受けた観山は三渓園に住んでいたこともあった。

観山の描く人物の顔は、独特で少しくせがあるんだけれども、いつも見入ってしまう。表情や左右それぞれの眼に、その人の人格や内面、感情、バックグラウンドといったものを、観山はものすごくつきつめているんだと思う。

 

それから、観山とその周辺の日本美術院系の画家たちの合作の絵巻も。

「東海道五十三次絵巻 巻一」1915 横山大観・下村観山・今村紫紅・小杉未醒

少し前には別のバージョンが展示されていたけれども、何巻あるのだろう。皆で旅しながらのリレー作。道中お金が無くなって、高島屋の社員さんがお金を持ってきてくれたという話も聞いたところ(「高島屋と美術展」)なので、親しみがわく。

そして当時の町の様子や生活もかいまみえてる。

好きなシーンがいくつもある。

日本橋から出発。今も日本橋の柱にいるあの"羽のある麒麟”がすでに描かれている!今の日本橋にもこんな行商人がいたらステキだ。 未醒画

調べるとこの麒麟像は、1911年に設置されたらしい。100年ずっとここに!

品川に帆船がいた時代 紫紅画

 大森もこんなに牧歌的。桜のころに、農家の庭先の鶏がかわいい。お洗濯ものもいい感じ。 観山画

川崎では、張り子の犬? 大観画

 保土ヶ谷は、山の中の畑がいい情感。観山画

戸塚まできました。小杉未醒の犬がめちゃくちゃかわいい。

未醒は面白いなあ。金太郎の絵もかわいいものね。

絵巻でエア旅、楽しかった☻。

 

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こちらも、当時の様子が見える作品

前田青邨の、題は忘れてしまったけど、温泉の三幅

左幅は、昼の草津温泉

空の青さを映しこんだような温泉。白い湯気とのコントラストが明快で。青空の露天風呂って開放感がいいのよね。

湯けむりの中、お客さんがお着きです。

真ん中は、まだ明けきらない朝の修善寺。ふわりと立ち上る湯気。朝ぶろも、気持ちいいのよ。

 日が暮れたころの伊香保を墨の濃淡で。川にもうもうと立ちのぼる湯けむり。とがったところのない墨の色。

通りを歩く人影も、蓑に傘。雨が線で描かれている。

温泉行きたい。

 

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他に心に残った作品。

小林永濯(1843~1890)に再会できて感激。練馬美術館のプチ展覧会以来。

「美人愛猫」

名古屋帯など江戸の風俗を映しつつ、さすが小林永濯、どうどうとした人物像。

体つきも、着物の内側に人体を意識しているようだし、何か現代的。後ろの黒い着物の女性は、顔もふっくら、手もぽっちゃり。

基本は浮世絵や歴史画。そこから西洋画の影響をとりいれつつも、ぶれず、新しい段階に進む。

幕末生まれの絵師は、強いと思う。

女性は浮世絵風なのに、ねこは写実的のふんわり毛並み。練馬美術館で見たちょっと妖しい猫を思い出す。永濯は相当な猫好きなのか?、今みたいに当時も猫ブームだったのか?

穏やかな人柄で、河鍋暁斎と仲良しだったという小林永濯。穏やかな中にも、ヒトクセありげで興味ひかれる。小林永濯展を熱望します。

 

時間がなくて18室しか見られなかったけれど、満足でした。



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