はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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説教将軍 7 注・おばか企画

2018年06月28日 15時53分41秒 | 説教将軍
おばか企画・あなたはわたしのおともだち

孔明の見舞いにいってから、どうも体の節々が痛いな、と思いつつ、趙雲は、なぜだか部将たちの目線が、いつもと違って、奇妙なことに気がついた。
興味深そうにじいっと見つめるもの。
あからさまに嫌悪の表情を見せるもの。
裏切ったわね、といわんばかりに切ない表情を見せるもの(こいつはあとで腕立て伏せ百回だな、と趙雲は思った)。
すれちがいざま、「やはり」と妙に納得しているもの。
そして最たるものは、双眸に昴のごとき輝きを放たせている陳到である。
とたん、嫌な予感に襲われて、趙雲は言った。
「俺はなにかしたか」
自分でもひどい鼻声に驚きつつ言うと、陳到は、さきほどすれ違った部下と同様に、やはり、と言った。
「とある情報通により、趙将軍がついに開き直られたというお話をお伺いいたしました」
「開き直り?」
と、いわれても、趙雲には思い当たる節がない。
はて、禁酒をあきらめたことであろうか。
「あなたさまの献身ぶりには、我ら一同、頭の下がる思いでございます」
そこまで言われ、ようやく趙雲は納得した。
「ああ、軍師の見舞いに行ったことか? しかし、開き直りとはなんだ?」
陳到は、手と首を激しくぶんぶんと振りながら、判っている、というふうに言う。
「いえいえ、お答えくださる必要はございませぬ! 叔至めもいろいろ勉強し、一定の理解ができたつもりでございます。嗚呼、末はカナダかスペインか」
「赤毛のアンと闘牛がどう繋がる」
「カナダのツアーに行くと、大橋○泉のお土産物屋に強制的に連行されるという噂は、本当ですかねぇ。ハッパフミフミ」
「?? ほかの連中までなにやらカナダだスペインだと言っているのはなぜだ? すまぬが、うちの慰安旅行は、そんなところまで行く予算がないぞ」
「当然でございますとも。もちろん、我らはお祝儀片手に、お二人のあらたな門出を祝うほうでございますれば、まあ、旅費なんぞはなんとでも。で、お話はどこまで」
「なにが」
「またまた。われらと趙将軍の仲ではございませぬか。昨日、みなで緊急会議を開きまして、もはやお二人の仲がそこまでならば、心から祝して差し上げようと意見が一致したのでございます。まあ、その盛り上がりといえば、金八先生の最終回スペシャルにも勝る、涙、涙の盛り上がり」
言いながら、陳到は♪くれーなずーむまちぬぉー♪と勝手に唄いだした。
俺は感冒のせいで、叔至の言っていることが理解できなくなっているのであろうか、それとも、こいつら、何か勘違いをしているのか?
「すまぬが、わけがわからぬ。なぜおまえたちが俺を祝す?」
すると、陳到は、勘の良いところでなにかを察したらしく、怪訝そうに、逆に尋ねてきた。
「は? ご結婚されるのでしょう?」
「だれが?」
「将軍が」
「…だれと?」
「将軍と」
そこへきて、やはり同じく勘の良い趙雲は、ぞくりと背筋を震わせて、答えの予想をつけた。
「どこの将軍だ」
「軍師将軍。趙将軍がお見舞いされたおり、軍師将軍に趙将軍が」
「が?」
照れて先を言おうとしない陳到に、趙雲はずいっと側によって続きを迫った。
すでに剣の柄に手はかけてある。
「その…寝顔に口付けをなさったがゆえに、風邪になったと」
「貴様ら! 総員そこになおれ!」
とたん、趙雲は周囲にいた部将たちを片っ端から捕まえて暴れだし、陳到は逃げるわ、物は飛び交うわ、馬は怯えて喚くわ、家屋は倒壊寸前にまで傾くわで大騒ぎとなった。
この大暴れが原因で、趙雲の熱は上がり、寝込むこととなったのである。

某陳家

「と、いうわけでぇ、うちのパパ、趙将軍がこわくって、しばらく失踪しちゃって、おうちに帰ってこれないのねー。とりあえず、口座のお金は動いているみたいだから、生きてるのはまちがいないんだけどぉ、おじさん、行方しらなぁい?」
「お兄さんだ。ふん、叔至殿も、案外根性なしだな。というか、まともに本人に聞く馬鹿があるか。こういう噂は、本人のいないところでこっそり楽しむところに意味があるのに」
「おじさん、せーかくわるーい。友だちいないでしょー?」
「お兄さんと呼べ。二回目だぞ。で、もちろん、わたしの名前は出ていないだろうな?」
「たぶんー。でもパパ、いざとなったら逃げるから、マジで趙将軍にバラされそうになったら白状しちゃうかもー」
「なんでハンパにヤクザ言葉を知っているんだよ、Fカップ小学生が。しかし、周囲に理解者を増やし、雰囲気を固めてから、あのお方の想いを成就させてやろうという、この心遣い、どうして理解されぬものか」
「まったくの見当ちがいだからじゃないの?」
「そうなのかな…いや、そんなわけはない」
「わかんないんだけどぉ、どうしておじさん、なんでもかんでもレンアイに結びつけて考えるのかな? 銀、そういうの古いって感じがするのね」
「古いぃ? ちょいと若いからって、わたしの考えが古いというのか。これだから今日日の小学生は。恋愛に関することに古いも新しいもないだろうが。ま、小学生には、この心の深淵はわからぬか」
「真の永続的恋愛は、尊敬というものがなければ成立しない」
「へ?」
「逆もあるんじゃないの? 最良の尊敬は、永続的恋愛にまさるとも劣らない」
「………」
「男女だろうと女同士、男同士だろうと、肉体的に結びつくことが至上のハッピーエンドとは限らないんじゃないのぉ? 恋は肉体を欲し、友情は心を欲す。
そして友情は其の果てに永劫的な未来を確信し進む感情。恋愛は、絶えず未来を語り約束するものだけれど、其の果てに、未来が確信できるものはなにもない」
「なんだそれ、道徳の時間に習ったのか」
「ううん。なんとなく名言をくっつけてみました。でもぉ、互いの心を求めてそこに永遠を確信し前に進む快楽と、先の見えない恋愛のために、短い時間を濃密に過ごす刹那的な快楽と、両方を得ることはむずかしいとおもうわけ。
ほーら、仲のいい夫婦って、最初は恋愛で、つぎに友達みたいになるってよく言うじゃん。恋人というより友だちみたい、とかさー。うちの親もそれなんだけどぉ。
だから、そううまくシフトできる人もいれば、やったら生真面目に、この人だけ! 性別関係なし! って人もいて、恋愛とか友情とか枠も超えて、相手の心だけを愛しぬいちゃう人もいるんじゃないのかなー? 
そりゃあさあ、傍から見れば、ちょっと変かもしれないけどー、銀は、好きだ、好きだって口ばっかの人より、そういう人に好きになってもらえたほうが幸せだなー」
「おまえ、小学生の癖に、そんな小難しいこと考えてるのか。でも、お子ちゃまの理想論だな」
「肉体的快楽に溺れたことがないから、そんなことが言うんだ、って言うつもりでしょ? でも、そんなの結局、恋愛の副産物じゃん。キャラメルのオマケだよ。なんともいえない充足感がある? 心の絆が深まる? それこそまやかし。そんな気持ちになるってだけだよ」
「………そうかな」
「そりゃあさ、男女で恋愛して、長い時間をかけてだんだんと友だちみたいになっていって、っていうのが、本当は理想というか、最高に幸せなんだろうけどね、そうじゃない幸せのありようを探しているっつーか、実践している、つーか、実践せざるをえない人もいるっつーことだよ。いいじゃん、それで。うちらが口出すことじゃないよ。大人気ないよ、偉度っち」
「偉度っち言うな! ったく、まさか小学生に説教を喰らうとは…まあ、たしかにおまえの哲学もわかったけど、わたしはやはり、それには納得できないな」
「しなよ。でないと苦しいよ。だって、肉体と心の両方の充足をある永遠が欲しいなんて無理だよ、贅沢だよ。虚しいよー」
「…だんだんおまえと話すの、怖くなってきた。変なバイトとかしてないだろうな」
「してないよぉ。偉度っちこそ、あんまり自分をいじめちゃだめだよ。労わってあげなきゃ」
「……小学生に泣かされそうになっている自分って一体……」
「偉度っち、泣くなー。ほらぁ、うちに、銀輪が家庭科実習でつくった激うまプリンあるから、一緒に食べよ? それからさ、あとでパパ捜すの手伝ってね?」

そういって陳到の娘、銀輪は、ベソをかきそうになっているのを必死でごまかしている偉度の手を引いて、プリンを食べにおウチに帰ったのでした…

その後、カプセルホテルで蛹のように隠れていた陳到は、無事発見された。
感冒は、うまい具合に趙雲から不愉快な(?)記憶をともども連れ去って行ったらしく、しばらく部将たちはびくびくしたものの、その後、だれかが降格されたり、左遷されることはなく、ほっと胸をなで下ろしたことであった。

ただし陳到には新たな悩みが発生した。
なぜだか偉度が、たまにプリンを食べにやってくるようになったことである。
その過去を知るだけに、家で一人でぷっちんしてろ! と無碍に追い返すわけにもいかず、陳到は柱の影から、どうしたら追い出せるものかと思案するばかりであるという…

まだ続く、おばか企画の嵐!


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