はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は躍る 三章 その7 戦の支度をしたものの

2024年05月29日 09時53分56秒 | 赤壁に龍は踊る 三章



その後、孔明は仮屋にもどり、江夏《こうか》からもってきた甲冑を取り出すと、それを身に着けはじめた。
趙雲のほうは手早いもので、さっと自分の甲冑を身に着け終えている。
それでもなお、怪訝そうな表情を崩さず、孔明をちらちら見てきていた。
「子龍、すまないが、うしろの紐を結ぶのを手伝ってくれないか」
言いつつ孔明が背中を向けると、趙雲はうなるような返事をして、紐を器用に結び始めた。


「軍師、重ねて問うが、ほんとうに聚鉄山《じゅてつざん》を攻めるつもりか。
五千の兵がどれほどのものなのかわからない状態で、曹操がそれこそ固く守っているだろう聚鉄山に突っ込んでいって、とても勝てるとは思えない」
「だろうな。まともに行けば、みな討ち死にだろう」
「わかっていて、なぜ周都督の要求を呑んだ? 策があるのか?」
「策か、あるような、ないような」
「どっちなのだ」
「まあ、急くな。昼間のことだが、仮にあそこで要求を呑まなければ、都督はここぞとばかりに、劉豫洲の軍師はへっぴり腰だのなんだのと嘲弄しただろうよ。
それはさせてはならない。わたしの名誉の問題ではなく、わが君の名誉の問題だからだ」
「名誉のために死ぬのか。
あの男のほんとうの狙いは、おまえを自分で消すことができないから、戦にかこつけて曹操に始末させることだろう」
孔明はおかしくて、声をたてて笑った。
「そこまでわかっているなら、安心するがいい。重い甲冑が役に立つ」
「刃をかわすのに?」
「そう。ただし、この場合、悪意の刃だがな」
「部隊長の洪啓《こうけい》というやつが、ほんとうに聚鉄山に行くのかと問い合わせてきているぞ」
「ふむ、かれらも不安だろうな、ちょっと話してこよう」


さっそく甲冑の音をがちゃがちゃさせつつ、孔明は五千のつわものたちの前に姿をあらわす。
甲冑に慣れていない孔明の着こなしは、褒められたものではなかったらしく、五千の兵たちは、いちように『こんなひょろっとした若者が、おれたちの大将か』という表情を浮かべた。
それにはかまわず、孔明は五千の顔ぶれを見る。
なるほど、みごとに老兵ばかりであった。
周瑜は孔明とともに、無情にも、あまり主戦力にならないだろう老兵を死地に追いやるつもりなのだ。
あるいは、孔明と趙雲だけを聚鉄山に追いやり、老兵たちは逃げるよう、こっそり指示を授けているのかもしれない。


「そなたが洪啓か」
問うと、鼻の下に見事な灰色の髭をたくわえている目のつぶらな老将が、ぴしっと姿勢を正した。
「おっしゃるとおり、わたしが洪啓でございます」
「こたびの戦のこと、どこまで聞いているであろうか」
「曹操の兵糧がたくわえてある聚鉄山に、総攻撃をかけると聞いております」
「ふむ、そのとおりだ」
とたん、それまで厳しい顔をしていた洪啓は、不安そうに孔明を伺い見る。
「あのう、もちろん、軍師どのには策がおありなのでしょう?」
「ある。安心するがいい、ここにいる五千の仲間の命は保証しよう」
孔明が自信たっぷりに言うと、洪啓以下、五千の兵は、ほっと安堵した顔に転じた。


しかし、孔明に付き従っている趙雲は、こそっと忠告してくる。
「軍師、大言を吐かないほうがよいぞ」
「おや、わが主騎は、友を信頼しないようだな」
「策とやらを教えてもらえていないからな」
「じきにわかるよ。ほら、ひずめの音が聞こえてきた。魯子敬どのがいらしたぞ。
子龍、調子を合わせてくれよ」
趙雲は、わけがわからないようで、生返事しかしない。


つづく


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