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ウーハーの矛盾2

2020年10月10日 10時55分01秒 | ひのきスピーカー日誌
ひのきスピーカー日誌【0010回】は、前回に引き続き「ウーハーの矛盾」がテーマです。

ウーハーに限らず、スピーカーの振動板は、
入力信号に対して忠実に動くべき、という考え方があります。

そうした思想に対して、「振動板の変形」は大きな阻害要因となります。




前回の記事では、ウーハーの「エッジ」に注目しては話をしました。

前回記事の要点は3つ。
・エッジは振動板の一部といえる。
・エッジのような柔らかい素材は、振動板として好ましくない。
・しかし、ウーハーが動くためにはエッジが必要。

これが、前回お話した「ウーハーの矛盾」です。
望ましくない構成要素であるエッジですが、構造上無くすことができないのです。


この影響を軽減するためには、
「振動板を大きくすることで、エッジの相対的な面積を減らす、のが良い。」
という結論に至りました。

   




さて、ここからが本日のお話です。
「振動板を大きくする」作戦、これも大きな難点を抱えているのです。

ここにスピーカーの断面図を用意しました。

 

スピーカーから音が出ると、その内部には強大な圧力変動が生じます。
(これは密閉型でもバスレフ型でも同じです)

  

この内圧の影響を受けて、エンクロージュアは振動します。

しかし問題は、この内圧が「ウーハーの振動板」にも加わっているということです。

内圧は、エンクロージュアと、ウーハーの振動板の
双方に平等に影響を及ぼします。

  

エンクロージュアは、厚い材料(主に木材)でできているために、かなり頑丈です。

その一方で、ウーハーの振動板はどうでしょう?
カタログでは強靭であると謳っていても、基本は紙一重です。

ウーハーの振動板は、入力信号に対して俊敏に動くことが求められるため、
剛性一辺倒で設計を進めることができない部品になります。




ここで、一つの仮説が生まれます。
「エンクロージュアに比べると、振動板は内圧に対しての弱点になるのではないか。」

上記の構造上の話からすれば、正しいように思えますが、
振動板には「電磁制動」がかかるという指摘もあるでしょう。



スピーカーがアンプに接続されると、スピーカーからの逆起電力をアンプが受け止めることで、振動板の制動がなされます。これは想像以上に強力で、この制動があるか無いかでスピーカーの特性は大きく変化します。

しかし、この電磁制動は最低域には有効でも、中高域には殆ど影響がありません。また、振動板が大きくなると、その制動が難しくなる傾向があります。
大口径の振動板が「雑味のある音」としばしば称されるのはそのためです。

そして、電磁制動が効かない振動板変形もあります。
非軸対称モードと呼ばれるもので、コーン型振動板の剛性が著しく低下する中低音域で発生する現象です。
(参考)「JAS Journal 2016 Vol.56 No.1」
http://www.jas-audio.or.jp/jas_cms/wp-content/uploads/2016/01/2016-084-092.pdf

周波数特性には表れにくい非軸対称モード共振ですが、聴感への影響は大きなものがあります。近年ではA&Cオーディオ社の島津氏が主張し、私も再現実験で聴感・測定共に確認できている現象です。
(参考)A&Cオーディオ「最新版・超硬振動板 その5 本当の問題点」
https://blog.goo.ne.jp/ac-audio/e/e02cefc45da8cdbc88de71907ee6d9e8


このように、電磁制動があるとはいえ、ウーハーの振動板に内圧がかかることは、
入力信号以外の振動・共振を生み、好ましくない結果を生み出してしまいます。


ちなみに、タンデム駆動と呼ばれる方法では、ウーハー振動板にかかる内圧を軽減することができます。しかし、構造上の特殊さ、2倍の数のウーハーユニットが必要なことから、総合的なコストパフォーマンスを考えると、その用途は限られてくるという印象です。




さて、今までの話をまとめると・・・

・エッジの面積を減らすために、振動板を大きくしたい。(前回のお話)

・振動板は、エンクロージャーと比べると内圧に弱い。

・振動板を小さくして、内圧の影響を軽減したい。

・小さな振動板で、同じ音量を出すには、振幅を増やす必要がある。

・振幅を増やすには、エッジを大きくする必要がある。


・・・結局エッジが大きくなってしまいました(笑)






さて、長々と続いてしまう「ウーハーの矛盾」。
次回は、その打開策について提案できればと思っています! お楽しみに!!









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