「踏まれた蟻の気持ちヲ知らない」
・第壱 忘れたモノ
俺はしがないただのサラリーマンだった。
昨日までのことだ。
四十七にしてリストラの対象となり、言われるままに辞表を出した。
何の感情もなく、何の後悔もない。
それが虚しい。
いま、未練がましく会社の近くの公園にいる。
自分を知る者もなく、自分が知る者もなく、まるでこの公園には、俺は存在していないような錯覚を覚える。
空腹感だけが俺を現実に引き止めているようだ。
ふと気づくと、公園のすみで、一人の少年が、まるで地団駄を踏むように、何かを踏んでいた。
蟻だ。
俺は恐怖を覚えた。あの子が将来、ああやって人を踏みにじる人間になるのだろうかと。
そして、今ごろになって気づいた。
「蟻を踏んでいるのは会社・・・踏まれているのは・・・俺だ!」
気づいたときには少年の腕を引っ張っていた。
「お前には、踏まれる蟻の気持ちもわからんのか!」
俺はこの時、誰に向かって叫んだんだろうか?俺にはわからないが、そう叫ばずにはいられなかった。
・第弐 無くしたモノ
振り向いた少年に俺は驚いた。
泣きはらした顔をしていたが、分かる。
そこにいたのは、間違い無くあいつだった。
「そうだったな。お前はどうしようもなくつらくて、悲しくて、憎い時、そうやって蟻を踏み殺していたな・・・」
「・・・・・・・」
少年は、人前では平然としているが、誰もいないとき、こうやって憂さを晴らしていた。
何の抵抗もできない蟻は、いや、何の抵抗もしない蟻は、少年を離した後も、仲間の死体を乗り越えて目標を目指す。
人間で言えば、不幸な事故で死んだ人間の後を継いで昇進するのと同じようだ。
俺も、あまり変わらない。
係長の昇進にあわせて年功序列で係長になり、部長が亡くなって部長になった。
まるで人の屍の上で、お山の大将をしているようだった
「つらいのか?悲しいのか?悔しいのか?でもな、そんなことをした所で、蟻を殺したところで、今が変わるわけが無いだろう?」
「・・・・・」
少年は口をつむいでじっと立っていた。
・第参 戻らないもの
朝のニュースで、昨日までいた会社の社長が自殺したことを聞いた。
断行したリストラの罪滅ぼしと、遺書には書かれていた。
実は同期の仲間で、エリートだったが人付き合いがよく、誰にでも打ち明けて話す男で、誰にも好かれ、特に前社長に好かれていた。
だからこそだろう。
同期や親しい人間に辞職を頼んだのも。
そして全員が従った。
おかげで会社は倒れずに済んだが、あの社長を失ってあの会社は持たないだろう。
「なぜ?」
少年が言った。何がと言いたかったが、頭に何かが引っかかって言葉が出ない。
「なぜ?」
少年の言葉が頭をかき乱す。やめてくれ・・・
「なぜ?」
記憶が蘇る。
翌日、ある会社の社長の死体が発見された。
自分の会社のビルの屋上から飛び降りたようだ。
なぜか朝になるまで誰にも発見されず、大量の蟻が集っていた。
まるで蟻達がこの男を眼の敵にしているように見える。
猫や烏が近づくのを躊躇うほどの量で、警察が蟻を除去する頃には、骨だけしか残っていなかったという・・・
蟻達は進む。
餌に向かって。
たとえ仲間が、たとえ同類が道端で踏まれて死んだとしても。
「違う。蟻達は自分の家族のために戦っている。人間なんか比べ物にならないほどの、本能の愛の元に。」
「社長?どうしましたか?・・・それでなんですが、リストラの対象者を、ピックアップしてほしいのですが・・・」
「・・・夢か?・・・ああ、そのことだが・・・彼らにも生活がある。」
「次の働き口が見つかるまで、絶対にクビにするな。負債は全て私名義にしろ。」
「・・・おまえがそう言ったら、引かないんだろうな・・・」
「分かった。同僚のよしみだ。何とかしてやるが・・・覚悟しろよ?これから先は、きついぞ。」
「ああ、ありがとう・・・これでいいんだろう?後悔しない方法でやれば・・・」
俺は道端の蟻を見た。懸命に自分の使命を果たす彼らの姿に、俺は自分を取り戻した。
「踏まれた蟻の気持ちは誰にも分からない、だが、理解しようとするものがいるのなら、捨てたもんじゃないはずだ。」
公園の隅にいる少年は、蟻を眺めながらこう、つぶやいた。
あとがき
蟻を踏む行為とは、ある意味その人間の心理を剥き出しにします。
自分より弱い存在を殺すことにより、優位に立った自分に優越感を得る。
すなわち、人間の持つ「破壊衝動による、ストレスの発散」です。
実際、そんなことをしている子供に同じようなことを言いました。
しかし、その原点は、セロテープを無駄遣いする私に、母の、
「セロテープさんは、そんなことのためにいるんじゃないの。」
「ちゃんとやることをやるためにいるのよ?」
と言う言葉からです。
それ以降、モノに対する考えが変わり、そのモノが生きているように思うようになりました。
おかげで、チョット変な奴に見えますが、それが小説の原点でもあります。
無機質な主人公をあたかも生きているように動かすこと。
つまり、主人公の気持ちになって考えることで、こんなよく分からない内容になっています。ややこしいかな?
さて、主人公ですが、やはり社長です。
一瞬の夢の中で、リストラされた人間の気持ちになり、また、自分を嘲笑する存在として、過去の自分が現れます。
そしてその結果訪れた自分の死に、蟻達が群がり復讐するようなイメージを見ます。
悩んでいたんですね。
そして、少年=自分の弱さに「なぜ?」と問いただされて思うのです。
順番前後しているかもしれませんが、つまりは、リストラされた人間の気持ちはわからないが、少年=自分に踏まれる蟻と変わらないと言う事です。
蟻を見ると、踏まないように気をつけます。
特に理由は無く、ただ踏みたくないのです。
そんな気持ちが、社員の首を切ろうとしている社長とリンクしています。
いやはや、本当にそんな人が、どれだけいるのでしょうか?
それに、もしこのまま進んで、ほかの社員が路頭に迷ったら、どうするつもりでしょうか?
この答えが正しいかどうかは・・・踏まれた蟻の気持ちヲ知らない、と言うことでしょう。
ちなみに、なぜ三話構成かと言うと、携帯でメール小説を嫌がらせ(w)で、
ダチに送りつけようと思ったからですw
・第壱 忘れたモノ
俺はしがないただのサラリーマンだった。
昨日までのことだ。
四十七にしてリストラの対象となり、言われるままに辞表を出した。
何の感情もなく、何の後悔もない。
それが虚しい。
いま、未練がましく会社の近くの公園にいる。
自分を知る者もなく、自分が知る者もなく、まるでこの公園には、俺は存在していないような錯覚を覚える。
空腹感だけが俺を現実に引き止めているようだ。
ふと気づくと、公園のすみで、一人の少年が、まるで地団駄を踏むように、何かを踏んでいた。
蟻だ。
俺は恐怖を覚えた。あの子が将来、ああやって人を踏みにじる人間になるのだろうかと。
そして、今ごろになって気づいた。
「蟻を踏んでいるのは会社・・・踏まれているのは・・・俺だ!」
気づいたときには少年の腕を引っ張っていた。
「お前には、踏まれる蟻の気持ちもわからんのか!」
俺はこの時、誰に向かって叫んだんだろうか?俺にはわからないが、そう叫ばずにはいられなかった。
・第弐 無くしたモノ
振り向いた少年に俺は驚いた。
泣きはらした顔をしていたが、分かる。
そこにいたのは、間違い無くあいつだった。
「そうだったな。お前はどうしようもなくつらくて、悲しくて、憎い時、そうやって蟻を踏み殺していたな・・・」
「・・・・・・・」
少年は、人前では平然としているが、誰もいないとき、こうやって憂さを晴らしていた。
何の抵抗もできない蟻は、いや、何の抵抗もしない蟻は、少年を離した後も、仲間の死体を乗り越えて目標を目指す。
人間で言えば、不幸な事故で死んだ人間の後を継いで昇進するのと同じようだ。
俺も、あまり変わらない。
係長の昇進にあわせて年功序列で係長になり、部長が亡くなって部長になった。
まるで人の屍の上で、お山の大将をしているようだった
「つらいのか?悲しいのか?悔しいのか?でもな、そんなことをした所で、蟻を殺したところで、今が変わるわけが無いだろう?」
「・・・・・」
少年は口をつむいでじっと立っていた。
・第参 戻らないもの
朝のニュースで、昨日までいた会社の社長が自殺したことを聞いた。
断行したリストラの罪滅ぼしと、遺書には書かれていた。
実は同期の仲間で、エリートだったが人付き合いがよく、誰にでも打ち明けて話す男で、誰にも好かれ、特に前社長に好かれていた。
だからこそだろう。
同期や親しい人間に辞職を頼んだのも。
そして全員が従った。
おかげで会社は倒れずに済んだが、あの社長を失ってあの会社は持たないだろう。
「なぜ?」
少年が言った。何がと言いたかったが、頭に何かが引っかかって言葉が出ない。
「なぜ?」
少年の言葉が頭をかき乱す。やめてくれ・・・
「なぜ?」
記憶が蘇る。
翌日、ある会社の社長の死体が発見された。
自分の会社のビルの屋上から飛び降りたようだ。
なぜか朝になるまで誰にも発見されず、大量の蟻が集っていた。
まるで蟻達がこの男を眼の敵にしているように見える。
猫や烏が近づくのを躊躇うほどの量で、警察が蟻を除去する頃には、骨だけしか残っていなかったという・・・
蟻達は進む。
餌に向かって。
たとえ仲間が、たとえ同類が道端で踏まれて死んだとしても。
「違う。蟻達は自分の家族のために戦っている。人間なんか比べ物にならないほどの、本能の愛の元に。」
「社長?どうしましたか?・・・それでなんですが、リストラの対象者を、ピックアップしてほしいのですが・・・」
「・・・夢か?・・・ああ、そのことだが・・・彼らにも生活がある。」
「次の働き口が見つかるまで、絶対にクビにするな。負債は全て私名義にしろ。」
「・・・おまえがそう言ったら、引かないんだろうな・・・」
「分かった。同僚のよしみだ。何とかしてやるが・・・覚悟しろよ?これから先は、きついぞ。」
「ああ、ありがとう・・・これでいいんだろう?後悔しない方法でやれば・・・」
俺は道端の蟻を見た。懸命に自分の使命を果たす彼らの姿に、俺は自分を取り戻した。
「踏まれた蟻の気持ちは誰にも分からない、だが、理解しようとするものがいるのなら、捨てたもんじゃないはずだ。」
公園の隅にいる少年は、蟻を眺めながらこう、つぶやいた。
あとがき
蟻を踏む行為とは、ある意味その人間の心理を剥き出しにします。
自分より弱い存在を殺すことにより、優位に立った自分に優越感を得る。
すなわち、人間の持つ「破壊衝動による、ストレスの発散」です。
実際、そんなことをしている子供に同じようなことを言いました。
しかし、その原点は、セロテープを無駄遣いする私に、母の、
「セロテープさんは、そんなことのためにいるんじゃないの。」
「ちゃんとやることをやるためにいるのよ?」
と言う言葉からです。
それ以降、モノに対する考えが変わり、そのモノが生きているように思うようになりました。
おかげで、チョット変な奴に見えますが、それが小説の原点でもあります。
無機質な主人公をあたかも生きているように動かすこと。
つまり、主人公の気持ちになって考えることで、こんなよく分からない内容になっています。ややこしいかな?
さて、主人公ですが、やはり社長です。
一瞬の夢の中で、リストラされた人間の気持ちになり、また、自分を嘲笑する存在として、過去の自分が現れます。
そしてその結果訪れた自分の死に、蟻達が群がり復讐するようなイメージを見ます。
悩んでいたんですね。
そして、少年=自分の弱さに「なぜ?」と問いただされて思うのです。
順番前後しているかもしれませんが、つまりは、リストラされた人間の気持ちはわからないが、少年=自分に踏まれる蟻と変わらないと言う事です。
蟻を見ると、踏まないように気をつけます。
特に理由は無く、ただ踏みたくないのです。
そんな気持ちが、社員の首を切ろうとしている社長とリンクしています。
いやはや、本当にそんな人が、どれだけいるのでしょうか?
それに、もしこのまま進んで、ほかの社員が路頭に迷ったら、どうするつもりでしょうか?
この答えが正しいかどうかは・・・踏まれた蟻の気持ちヲ知らない、と言うことでしょう。
ちなみに、なぜ三話構成かと言うと、携帯でメール小説を嫌がらせ(w)で、
ダチに送りつけようと思ったからですw