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「リスク」の定義と諸使用法

2012年08月29日 23時16分17秒 | 生命生物生活哲学
2012年8月29日-7
「リスク」の定義と諸使用法

 中山竜一「リスクと法」を読む。

 1. 広義のリスクは、意思決定理論や組織理論に見られる用法で、
  リスクを、不確実性や非知とほぼ同じ意味に用いる(104頁)。
 2. 狭義のリスクは、工学、生物学、医学などの自然科学における用法で、
  リスクを、統計データや確率と結びつけて理解する(104頁)。
 3. 「リスク社会における「新たなリスク」は、〔略〕潜在的リスクが現実のものとなって際の損害規模と影響の大きさを事前に把握することがきわめて難しく、信頼できる統計データの不在、ないしは測定方法それ自体が有する限界のため、その発生確率も負の期待値もおよそ算定不可能であるようなリスクである。
 こう理解すれば、原発事故、地球温暖化、〔略〕BSE汚染などの「新たなリスク」に直面した際、専門家の意見に基づく行政的手法による未然防止も、無過失責任原理と保険的手法を通じた事故費用の事後的回復もなかなか機能しにくい理由もよくわかる。」(104頁)。
 4. precautionary principleには「予防原則」の訳が当てられているが、因果関係の解明を前提とする「未然防止」との違いを明確にするため、「予防=事前配慮原則」を使うとしている(105頁)。
 予防=事前配慮という、等号の意味がわからない。直訳的に、precautionary principleは事前警戒原理または事前警戒原則がよい。「cautionaryは、警戒の;注意を促す, 警告的な」で、配慮とはだいぶ異なる。
 5. 事前警戒原則に対する批判(107頁)として、
  ア.「疑わしいものは一律禁止」といったゼロリスクの発想である。
  イ.科学技術の発展を萎縮させる。
  ウ.自由な経済活動を妨げる。
  エ.費用便益分析に基づく合理的選択の可能性を無視する。
  オ.一般大衆の非合理な恐れに安易に迎合する誤ったポピュリズムを招く。
を挙げている。
 6. 事前警戒原則への批判を受け止め、運用可能性を検討したのが、2000年2月の『Communication from the Commission on the Precautionary Principle』(Commision of the European Communities, 2000)である(107頁)。

 検索すると、たとえば、
 高津融男「予防原則は政策の指針として役立たないのか?」
http://www.cs.kyoto-wu.ac.jp/bulletin/7/takatsu.pdf
があった。

中山竜一.2007.7.リスクと法.『リスク学とは何か』: 87-116.岩波書店.