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マリオ ブーンゲ(2013)『医学哲学』、システム的接近

2016年08月11日 00時27分40秒 | システム学の基礎
2016年8月11日-1
マリオ ブーンゲ(2013)『医学哲学』、システム的接近


 以下は、マリオ ブーンゲ(2013)『医学哲学』の、システム的取り組みの部分の訳出である。

  「
2.3 システム的接近〔取り組み〕The Systemic Approach[p.43]

 現代医学に特有なことの一つは、外傷学から精神医学までと、数十もの専門分野から成っていることである。すなわち、医学は多くの学問領域にわたる学である。しかしながら、その各分野はすべて、多少とも他の分野に強く関連している。たとえば、近代外傷学は、骨接ぎと切断の昔の技巧とは違って、解剖学と生理学を集中的に使う。対照的に、原始的医学と古代の医学は、いわゆる代替医学も同様に、信念と実践の孤立した集まりである。とりわけ、それらは科学に基づかず、それら自身の哲学的前提を検討しないのである。
 人体は一つのシステムであるというのは、比較的最近の発見である。二つ以上の器官が一つのシステムの部分であるかどうかをどうやって見つけ出すのか?。それらの間の結合を探し求めることによって、そしてひとたび見つけたら、そのような連結を切断することによってである。糖尿病に集中した、その類いの斬新で実りのあった一対の実験を思い出そう。糖尿病は、深刻で不治のシステム的(身体全体の)病気で、世界中で増加している。1887年、Oskar Minkowski は、膵臓がインシュリンを作ることを発見した。また、膵臓を取り除くと、身体の燃料である糖を代謝するのに必要なインシュリンが生産されないので、動物は重い糖尿病になり死ぬことを発見した。はるかに後で、下垂体または脳下垂体腺が、支配的な内的腺であることが見つけられた。それは、恒常性、代謝、成長、などを制御する9つのホルモンを分泌するのである。
 ほぼ1世紀前に、アルゼンチンの生理学者である Bernardo A. Houssary は、ブエノスアイレスから遠くはなれたところで、驚くべき発見をした。すなわち、脳下垂体腺を取り除くと、少量のインシュリンを注入したら、動物は低血糖症になるのである。インシュリンは膵臓から分泌されるから、脳下垂体と膵臓の間に密接な繋がりがあるに違いなかった。この繋がりが切断されたならば、何が起きるだろうかと問うのは、自然なことであった。それで1929年、Houssayとその同僚は、膵臓を取り除かれていた犬から、その脳下垂体腺を切除するという実験を遂行した。確かに、このような二つの過激な外科手術の後で、なにか劇的なことが起きた。そして、そうなったのである。すなわち、犬は意外なことに、糖尿病から回復したのである。もっとも、その犬は長くは生存しなかった。一度きりだが、二つ間違えば、一つの正しいことが生じたのだ。
 膵臓と脳下垂体は、互いに遠く離れているが、一つの単一システムである内分泌システムの構成要素であるという、重要な発見が行なわれたのである。その結果、内分泌学は一夜にして、個々の内腺の研究から、内分泌系についての多数の専門分野にわたる科学へと、一変したのである。これは、システム主義のもう一つの勝利である。ほぼ同じ頃、モリトリオールでハンス セリエ Hans Selye は、別の総合を手作業的に作った。すなわち、内分泌学と免疫学の総合である。基礎科学におけるその二つの発見が、医学に衝撃を与えた。内分泌学では、糖尿病の管理であり、免疫学ではストレス〔負担となる刺激〕の管理である。
 科学的な諸専門分野または医学的な諸専門分野の連合は、単なる並列ではなく、整合的な総合であって、《有機的全体》またはシステムである。そして、このようなどんなシステムでも、構成要素を繋ぎ合わせる接合剤は、物質的な橋とそれらの概念的対応物、たとえば精神病は脳の以上であるという仮説(ここで、生物学は精神医学に大いに関連するし、精神患者は他の者たちから隔離されるべきではない)によって構成される。
 言い換えれば、近代医学は、専門分野の集合体ではなくてシステムである。そして実践者たちは、互いに相互作用する。なぜなら、各々はその同じ全体の一部分だと知っているからである。同様に、この認識的統一は、すべての医学的専門は同一の物を扱っているという事実によっている。これが、ルネ デュボワ Rene' Dubois (1959) が、影響力のある本で、患者は一つの全体性として、またその人の社会的環境に入れられているものとして扱われるべきだと強調した理由である。」
(Bunge, Mario. 2013. Medical Philosophy: Conceptual Issues in Medicine. pp. 43-44.)[20160811 零試訳]。

 この後に、システム的分析が掲載される。