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生態系「集成規則」

2010年05月19日 16時38分07秒 | 生態学
2010年5月19日-3
生態系「集成規則」ecosystem "assembly rules"

 ecosystem "assembly rules"は、生態系「集成規則」または、生態系「組み立て規則」と訳されよう。

 Lekevicius〔cは正しくは、cの上にv〕 (2009: 170右欄)によれば、ロシアでは、「全体論的(システム的)アプローチ」がいまでも流布しているとのことである。その生態学と進化生物学におけるロシア流パラダイムの核心は、
  「生態系だけが、生きている」、あるいは、
  「生命は、生態系(=栄養循環)の形でのみ、 無期限に存在できる」
と言う。そのパラダイムを代表する者(たとえば、Zavarazin 2000やLekevicius 2002)は、空きニッチを使っている。ただし、空きニッチという用語をときには、生態的自由免許 ecological free licenseという用語で置き換えたりする。

 Lekevicius (2002 :78) [Lekevicius 2009: 170rにより引用]によれば、生態系「集成規則」は、次のように定式化される。

  「生命出現のそもそもの瞬間以来、生態系と栄養循環が形成されるような、きわめて単純なメカニズムがあったはずである。なんらかの生物体の代謝の最終産物は、廃棄物となった。それはつまり、何者にも使われないが、潜在的に使用可能な資源である。このような空きニッチは、これらの資源を開拓することができるような生物体の進化を誘発した。その最終的結果は、廃棄物食者〔デトリタス食者〕の代謝の最終産物が、生産者にとっての主要な材料となったことである。同様に、生態的ピラミッドが形成されたはずである。すなわち、生産者は草食者の進化を誘発したし、草食者は一次捕食者の進化を誘発した、などなど、とつづき、ついには進化は、最上位に大型捕食者を持つ(知っての通りの)ピラミッドを産出したのである。」(Lekevicius 2009: 170r)。

 メカニズムを想定することは良いことだと思う。しかし、物語またはシナリオは、理論と呼ぶわけにいかない。大型捕食者がいない地域については、どう説明するのか? 絶滅したとすれば、なぜ生態系も縮退しなかった(たとえばピラミッドの構成数の縮小)のか、という問題に答えなければならない。しかしそもそも、潜在的に使用可能な資源があることは、生物体の進化を誘発する必要条件であっても、十分条件ではない。それに、「誘発する provoke」必要条件ではない場合もあるかもしれない。単なる可能性を、必然性にまで誇張してはならない。「因果性を証言している」なんて、とんでもない。

 ましかし、そういうわけで(上記の生態系「集成規則」)、空きニッチは多様化を刺激するだけでなく、その方向も決定するのだ、と言う。
  「この考えは、進化理論の要石として見ることができる。なぜなら、空きニッチのデータにもとづいて、多様化の結果を説明し、また少なくとも部分的に予測することは、それほど難しくないからである。」(Lekevicius 2009: 170r)。

 「生物体が出現する前には、なんらかの空きニッチまたは適応帯が存在した事実に注意されたい」と表の説明(Lekevicius 2009: 171)にある。生物体がいなければ、空きニッチも適応帯も、それらが生物体に関係する概念である限り、考えることが不可能である。空きニッチを実際に定義したり、或る環境が種〔に属する生物体〕で飽和していることを定めることは困難だということではなかったのか。


□ 文献 vacant niche/ref

*Herbold, B. & Moyle, P.B. 1986. Introduced species and vacant niches. American Naturalist 128: 751-760.

*Lekevicius, E. 2002. The Origin of Ecosystems by Means of Natural Selection. Institute of Ecology.

Lekevicius, E. 2009. Vacant niches in nature, ecology, and evolutionary theory: a mini-review. Ekologija 55: 165-174.

Rohde, K. 2008a. Vacant niches and the possible operation of natural laws in ecosystems. Rivista di Biologia / Biology Forum 101(1):13-28.

Rohde, K. 2008b. Natural laws, vacant niches and superorganisms. A response to Woodley. Rivista di Biologia / Biology Forum 101(3):340-346.

Woodley, M.A. 2006. Ecosystems as superorganisms: The neglected evolutionary implications. Frontier Perspectives 15: 31-34.

Woodley, M.A. 2007. On the possible operation of natural laws in ecosystems. Rivista di Biologia / Biology Forum 100(3):475-486.

Woodley, M.A. 2008. A response to Rhode: natural laws, vacant niches and superorganisms. Rivista di Biologia / Biology Forum 101(2):172-181.