2010年6月1日-1
ニッチ構築の定義1
「生物体は、進化において二つの役割を演じる。一番目は、遺伝子を運ぶこと〔保持する carry これはあいまいな言葉やなぁ。佐倉ほか訳では「遺伝子をになう」としている〕から成る。生物体は、その環境のなかで偶然〔機会 chance〕と淘汰圧にしたがって、生存し、生殖する。……生物体はまた、環境と相互作用し、環境からエネルギーと資源を獲得し、環境に対して小生息場所と大生息場所を選好し、環境のなかで加工物を構築し、廃棄物を排出し、そして死ぬ。すべてのこれらのことをすることによって、少なくともそれ自身の局所環境とお互いの環境において存在する淘汰圧のいくらかを修正する modify。」(Odling-Smee et al. 2003: 1)〔20100601試訳〕。
進化とは、その生物体の環境下において、生物体自身の振る舞い、生物体どうしの相互作用的振る舞い、生物体とその環境との相互作用、それらの総合的結果の或る側面を、われわれが取り出して言うものである。そうであるならば、「役割 role」といった、全体が先立つような言い方はおかしい。進化の舞台、という言い方ならばよいかもしれない。その場合も、生物体を含む物体自身とそれらの相互作用の結果である(太陽から地球へのエネルギーはほとんど一方向的だが)。お互いが舞台となっている。要は、進化という概念を祭り上げて、そのなかのものとか一部を構成するといったような、生物体という主体を埋没させるような言い方あるいは捉え方は、本質を捉えられなくなるかもしれない。
"This second role for phenotypes in evolution ..."
「進化における表現型のための〔に対する〕、この二番目の役割は、……」〔とも取れるが、〕
「表現型が進化に果たす、この2つめの役割は、……」(佐倉ほか訳 1頁)。
「for」をどう解釈すればよいのか? しかしそもそも、環境のなかで様々なことを生物体が行なったり、環境と相互作用したりすることが、そのまま役割と捉えることはできない。すぐ後で、生態系エンジニアリングという概念を持ち出すことから考えると、生態系のなかでの役割といいたいのだろうか。
ともあれ、著者が「ニッチ構築」と呼ぶのは、二番目の役割であり、それは生物体と環境との関係に関わることになるだろう。きちんとした言葉で定義を明瞭にしてもらたいものだ。中尾(162頁)が指摘するように、ニッチ構築とは生態系エンジニアリングと本質的に同じだと言っている。おやおや、ニッチ構築とは役割を指すのではなく、生物体が行なうなんらかの行為なのか?
"Jones et al. 〔1994, 1997〕describe organisms that choose or perturb their own habitats as "ecosystem engineers," where "ecosystem engineering" is essentially the same as "niche construction." Jones et al. claim that when organisms invest in ecosystem engineering they not only constribute to energy and matter flows and trophic patterns in their ecosystems but in part also _control_ them. The propose that organisms achieve their control via an extra web of connectance in ecosystems, which they call an "ecological web," and which is established by the interactions of diverse species of engineering organis,s (Jones et al. 1997)." (Odling-Smee et al. 2003: 6).
「そこでは、「生態系工作」は「ニッチ構築」と本質的に同一である」(試訳)。
whereは何を指しているのだろうか。Jonesらが書いている論文では、ということなのか。わが英語力の不足。
また、著者はニッチ構築の「結果」として、生態系エンジニアリングを挙げている(中尾 2008: 162頁)らしい。今度は、何かの結果である。生態系を制御することは、ニッチ構築の結果なのであり、ニッチ構築は生物体による生態系制御の結果であると、時間軸で述べたということなのだろうか。
(ナタナエル、君に情熱を教えよう。悲痛な日々を送るより、情熱に溢れた楽しい日々を創ることだ。)
中尾央.2008.[書評]Odling-Smee, F. J., Laland, K. N. and Feldman, M. W. Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. Princeton University Press, 2003. (邦訳:『ニッチ構築:忘れられていた進化過程』佐倉・山下・徳永訳,共立出版,2007年.). 科学哲学科学史研究 (2): 162-164.
Odling-Smee, F.J., Laland, K.N. & Feldman, M.W. 2003. Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. xii+472pp. Princeton University Press.
Odling-Smee, F.J., Laland, K.N. & Feldman, M.W. 2003.(佐倉 統・山下篤子・徳永幸彦訳,2007.9) ニッチ構築:忘れられていた進化過程.viii+400pp.共立出版.[R20080404r, y5,040]
ニッチ構築の定義1
「生物体は、進化において二つの役割を演じる。一番目は、遺伝子を運ぶこと〔保持する carry これはあいまいな言葉やなぁ。佐倉ほか訳では「遺伝子をになう」としている〕から成る。生物体は、その環境のなかで偶然〔機会 chance〕と淘汰圧にしたがって、生存し、生殖する。……生物体はまた、環境と相互作用し、環境からエネルギーと資源を獲得し、環境に対して小生息場所と大生息場所を選好し、環境のなかで加工物を構築し、廃棄物を排出し、そして死ぬ。すべてのこれらのことをすることによって、少なくともそれ自身の局所環境とお互いの環境において存在する淘汰圧のいくらかを修正する modify。」(Odling-Smee et al. 2003: 1)〔20100601試訳〕。
進化とは、その生物体の環境下において、生物体自身の振る舞い、生物体どうしの相互作用的振る舞い、生物体とその環境との相互作用、それらの総合的結果の或る側面を、われわれが取り出して言うものである。そうであるならば、「役割 role」といった、全体が先立つような言い方はおかしい。進化の舞台、という言い方ならばよいかもしれない。その場合も、生物体を含む物体自身とそれらの相互作用の結果である(太陽から地球へのエネルギーはほとんど一方向的だが)。お互いが舞台となっている。要は、進化という概念を祭り上げて、そのなかのものとか一部を構成するといったような、生物体という主体を埋没させるような言い方あるいは捉え方は、本質を捉えられなくなるかもしれない。
"This second role for phenotypes in evolution ..."
「進化における表現型のための〔に対する〕、この二番目の役割は、……」〔とも取れるが、〕
「表現型が進化に果たす、この2つめの役割は、……」(佐倉ほか訳 1頁)。
「for」をどう解釈すればよいのか? しかしそもそも、環境のなかで様々なことを生物体が行なったり、環境と相互作用したりすることが、そのまま役割と捉えることはできない。すぐ後で、生態系エンジニアリングという概念を持ち出すことから考えると、生態系のなかでの役割といいたいのだろうか。
ともあれ、著者が「ニッチ構築」と呼ぶのは、二番目の役割であり、それは生物体と環境との関係に関わることになるだろう。きちんとした言葉で定義を明瞭にしてもらたいものだ。中尾(162頁)が指摘するように、ニッチ構築とは生態系エンジニアリングと本質的に同じだと言っている。おやおや、ニッチ構築とは役割を指すのではなく、生物体が行なうなんらかの行為なのか?
"Jones et al. 〔1994, 1997〕describe organisms that choose or perturb their own habitats as "ecosystem engineers," where "ecosystem engineering" is essentially the same as "niche construction." Jones et al. claim that when organisms invest in ecosystem engineering they not only constribute to energy and matter flows and trophic patterns in their ecosystems but in part also _control_ them. The propose that organisms achieve their control via an extra web of connectance in ecosystems, which they call an "ecological web," and which is established by the interactions of diverse species of engineering organis,s (Jones et al. 1997)." (Odling-Smee et al. 2003: 6).
「そこでは、「生態系工作」は「ニッチ構築」と本質的に同一である」(試訳)。
whereは何を指しているのだろうか。Jonesらが書いている論文では、ということなのか。わが英語力の不足。
また、著者はニッチ構築の「結果」として、生態系エンジニアリングを挙げている(中尾 2008: 162頁)らしい。今度は、何かの結果である。生態系を制御することは、ニッチ構築の結果なのであり、ニッチ構築は生物体による生態系制御の結果であると、時間軸で述べたということなのだろうか。
(ナタナエル、君に情熱を教えよう。悲痛な日々を送るより、情熱に溢れた楽しい日々を創ることだ。)
中尾央.2008.[書評]Odling-Smee, F. J., Laland, K. N. and Feldman, M. W. Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. Princeton University Press, 2003. (邦訳:『ニッチ構築:忘れられていた進化過程』佐倉・山下・徳永訳,共立出版,2007年.). 科学哲学科学史研究 (2): 162-164.
Odling-Smee, F.J., Laland, K.N. & Feldman, M.W. 2003. Niche Construction: The Neglected Process in Evolution. xii+472pp. Princeton University Press.
Odling-Smee, F.J., Laland, K.N. & Feldman, M.W. 2003.(佐倉 統・山下篤子・徳永幸彦訳,2007.9) ニッチ構築:忘れられていた進化過程.viii+400pp.共立出版.[R20080404r, y5,040]