9月27日朝日新聞朝刊は「PCR検査、日本は少ない?」(デジタル版では「PCR検査、日本は不足していない」と言いきっている。)という記事を載せている。
その中で、名古屋市立大鈴木貞夫教授の作成した「世界各国・地域の人口あたりPCR検査数と感染者数」という下記のグラフを載せている。このグラフからは、鈴木の言うとおり、「感染者数が多い国は検査数も多いという相関関係が」あるのが分かる。そして鈴木は「集合体の」左側の国は検査不足、右側の国は検査は充足していると言い、記事では日本の位置は全体からずれていない、とするのである。
その後に、「国は、PCR検査体制を拡充した」(これは朝日新聞の見方であり、鈴木のものではない)ので、鈴木の「第1波のときは局所的に不足していたが、第2波でも大幅に不足していたとは言えない」という意見を載せている。
確かに、「感染者数が多い国は検査数も多い」という世界的な傾向からは、日本は大きくずれているわけではない。しかし、この世界的な傾向で、グラフの中で例えば比較的検査が充足している位置にある英国は、英BBCによれば、必要な検査が受けられない状況だと報道している。また、世界で2番目に感染者が多いインドは、政府が感染確認例をアメリカより少なくするためにPCR検査数を抑えているという疑惑があると報道されている(インドNDTV)。また、感染確認例が少ない東アジア地域でフィリピンなどの国は、医療体制そのものが脆弱でPCR検査の体制が整っていない。グラフ上では異常な位置にあるわけではないが、充分な検査がされいるとは言えないのだ。
どういうことかと言えば、世界的な傾向グラフのどこの位置にあろうと、検査数が充足していることを示してはいないのだ。ただ単に、そういう傾向があることを示しているだけである。比較的に感染確認例が少ない日本は、世界の傾向と比較して「大幅に少ない」とは言えない。このことは、論理的に整合性がある。しかし、それをもって、「PCR検査が少ないとは言えない」と主張することは、現状より検査数を増やす必要はないと言っているのと同じである。
また記事では、相変わらず検査拡大不要論の検査の「見落とし」や「偽陽性」を問題にしている。そもそも、あらゆる健康上の検査で、100%正確に陽性者を見つけ出すなどというものはない。がん検診ひとつとっても、「見落とし」や「偽陽性」は当たり前である。朝日新聞は、「だから、がん検診は意味がない」と言うのだろうか。
ソフトバンクの孫正義が2千円という低価格でPCR検査事業を始めると発表した。これは、PCR検査数を大幅に増やす必要があるのに、国が拡充すると言いながら、実際には大幅な拡充をしないからである。
第2波の最中にあっても、緊急事態宣言のような厳しい行動抑制を国民に要請するのは難しい。だからこそ、PCR検査の大幅な拡大によって、陽性者を早く見つけ出し、その先の感染を予防するのが重要なのである。そのことを孫正義は見抜いているのである。
朝日新聞は少なくとも7月頃までは、専門家の意見としては、政府の専門家会議のメンバー以外のものは掲載しなかった。PCR検査については、政府方針どおり、その必要性を軽視した記事しか載せてこなかった。今回の記事もその流れにあるのだろう。
朝日新聞は、コロナ危機の初期に、他のメディアがクルーズ船の政府の対応を批判した記事を載せていた時、最も批判的に掲載したのは、中国の「全体主義」的なウイルス封じ込め政策についてである。それは、ほとんど今のトランプの主張と変わらないものだ。日本政府の対応はそのまま否定も肯定もせず流し、中国政府については徹底して批判する。こういった姿勢を、今も崩してはいない。
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