夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ウクライナ侵攻1年「欧米の論理では、ロシアを壊滅させない限り戦争は終わらない」

2023-02-24 10:10:50 | 社会


 2月20日、ロシアの軍事進攻から1年を前に、アメリカのバイデンは、ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキーと会談した。ロシアによるウクライナ侵攻から1年となるのを前に、ウクライナへの全面支援を印象づける狙いからだ。そして、この全面支援とは、同時にアメリカホワイトハウス が「砲弾や対装甲システム、対空監視レーダーなど重要装備の新たな供与を行う」と発表したように、「必要な限り」の強力な兵器を供給するということである。
 ウクライナへの軍事支援の増強は、アメリカだけでなく、NATOに加盟するヨーロッパ諸国も同様に、戦車の提供をはじめ、武器・弾薬の共同購入を検討するなど、その動きを活発化させている。
 
 それに対してロシアのプーチンは、2月21日年次教書演説で、「西側は、戦場でロシアを打ち負かすことは不可能だ 」と述べ、戦争継続への強い意思を表明した。
 この状況での西側の軍事専門家の見解は、総じて言えば、戦況は膠着状態で、NATOの戦車供与などの強力兵器で、ウクライナ側はいくらかは有利な展開になるが、1,2年の短期間でロシア軍を駆逐することはできない、というものだ。つまり、ロシアは勝つことはできないが、ウクライナも、ゼレンスキーの言う勝利が、クリミア半島までの奪還と主張する限り、勝つことはできない、ということである。
 バイデンは、21日にポーランドで、プーチンの演説に「ウクライナでロシアが勝利することは決してない 」、「(西側の)ウクライナへの支援が揺らぐことはない」 と述べたが、ウクライナが勝利するとは言っていない。このことは、アメリカ政府も、ウクライナ全土奪還というウクライナの勝利は、短期間ではおとずれず、戦争は5年、10年と長期化すると認めていることを意味している。
 多大な犠牲を払いながらも、戦争継続を支援する西側の論理は、ロシアは一時的に停戦しても、ウクライナ全土を支配する野望を捨てることはなく、停戦は次の戦争準備に過ぎないので、ウクライナ全土からロシア軍を駆逐するまで、ウクライナへの軍事支援を続けなければならない、というものである。アメリカの前駐ロシア大使ジョン・サリヴァンが、22日BBCに 「『特別軍事作戦』の失敗にもかかわらず、ロシアは目標を変えていない」と言ったことでも、西側は、「 軍事支援を続けなければならない」という意思を表している。

「ロシアを壊滅させない限り戦争は終わらない」という西側の論理
 しかしこの論理では、仮に、長い年月をかけてウクライナ全土をゼレンスキー政権が掌握したとしても、西側は軍事力でロシアに対抗しなければならないという必然性が生じる。なぜならば、ロシアの周辺国への支配の野望が、独裁政権とロシアの巨大な軍事力から来ていると見なしているからだ。それはこの戦争を、バイデンが「専制主義と民主主義」の戦いと位置づけていることからも明らかだ。そして、その戦いに勝利することを目標に掲げているのである。
 ロシアでのプーチン政権の支持率は、独立系調査会社の調査でも80%と高い。それは、プーチン政権に取って代わる勢力が、極めて小さいことを意味し、ロシア国内から「専制主義」政権を打倒する勢力が現れることは少なくとも近い将来には期待できない、ということである。ウクライナ戦争後も、「専制主義」は変わらず、ロシアの軍事力による周辺国支配の野望は継続する、ということである。それを阻止するためには、「独裁政権」と軍事力の弱体化を、外部からの力で変えるほかはない。つまり、NATOがロシア軍を壊滅し、政権交代を力づくで行うしかない、ということである。最近では、アメリカがイラク戦争でフセイン政権を打倒したこと、第二次大戦では、連合軍がドイツのナチ政権を、日本の軍部政権を打倒したこと、それと同様の方法でしか、「独裁政権」を打倒することはできない、ということである。ロシア全土を破壊し、NATO軍が駐留する、それ以外の方法で、「独裁政権」を確実に葬ることはできない。
 ロシア国内で、未だにプーチンへの支持率が高いのは、多くのロシア国民がこの戦争を西側からの脅威に対する祖国防衛と感じているからである。ウクライナで負ければ、ロシア本土まで西側は攻め込んでくるかもしれない、という恐怖感である。それは、第二次大戦での日本国民が、「一億総玉砕」とまで言った軍部に従い、アメリカ軍に徹底して抗戦したことに似ている。徹底抗戦する日本に、アメリカ軍は、日本の軍部を降伏させるために原爆を投下し、降伏後も占領しなければならなかったのだ。
 
 このようなことが可能かどうかと言えば、ロシアに対しては、絶対に不可能である。そのような事態になれば、ロシア側は核兵器を使用することを公言しているのである。このように、西側の掲げた目標への論理は、始めから破綻しているのである。

 ロシアもウクライナもどちらも負けるわけにはいかない、と確信している。西側がどんなに、道徳的に侵略した側は負けなけれならない、と言ったところで、その現実は変わらない。結局のところ、現実は、「どちらも負けたとは言えない」という妥協点を探る以外に、戦争は終わらないのである。

 
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