羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

アルスラーン戦記 5

2015-06-03 22:40:31 | 日記
村外れの井戸の側の茂みからエラムが忍んで現れた。「誰もいないようです、急ぎましょう」小走りで井戸に向かうエラム。アルスラーンも茂みからモソッと現れた。「よかった。まだ水は枯れていないようです」アルスラーンはおもむろに手近にあった釣瓶を井戸に落とした。「よしっ」釣瓶と繋がった縄を持つアルスラーン。「殿下? 私が」「何、これくらい、私にだって」縄を思い切り引っ張るアルスラーン。しかし滑車に掛かった縄は千切れてしまい、勢い余ったアルスラーンは尻餅を突いた。「うわぁ?!」「殿下ぁ、大丈夫ですか?」助け起こすエラム。「平気だ。それより!」起き上がり井戸を見るアルスラーン。「すまない、桶を落としてしまったようだ」「大丈夫です、すぐに替わりの物を探して参りましょう。殿下はあそこで待っていて下さい」端にあった小屋を差すエラム。「あ、私も」アルスラーンは周囲を見回し小走りに去るエラムに付いてゆき損なった。
窓が破られ、家畜も一匹もいない、人気の無い家畜小屋の2階で、アルスラーンは一人佇んでいた。(少しは役に立たないとなぁ。今の私はただの足手まといだ)考え込んでいると「やめてくれぇ!」外から声がする。「娘の命が欲しかったら、金目の物を持ってこいッ!」窓から伺うと、ルシタニア兵が村人を脅している。「財産は既に差し出し、改宗もした! 私には娘しか残っていない!!」「嘘をつけ!」「本当だ!」「娘の命が惜しくはないのか?」「やめてくれぇ」アルスラーンは外へ駆け出したが、自分の持つ煌びやかな剣が目立ち過ぎるのに気付いた。アルスラーンは『手近な替わる物』を探し、兵士達の元へ駆け付けた!「止めないかぁ!!」アルスラーンは『鍬』を構えた。「なんだお前?」困惑するルシタニア兵。「その人を離せ!」「へっ、なんだそんなもん構えて」失笑するルシタニア兵達。
     6に続く

アルスラーン戦記 6

2015-06-03 22:40:22 | 日記
「やるってのか、俺達と?」全員抜刀するルシタニア兵達。「離してくれれば、危害は加えない」真顔のアルスラーン。「なんだと? 状況わかってんのか? オイ」呆れ気味のルシタニア兵達。そこへ「待て!」馬に乗った『隊長』が駆け付けた。「何をしている?」「エトワール様?!」女を離す兵士。「お前達、今の行いをイアルダボート神の御元で申し開きできるのか?!」小型の聖典を手に叱責する『隊長』エトワール。「いや、あの」「隊に戻れ!」兵士達は剣を納め、下がって行った。「お前達も行け!」村人を逃がすエトワール。「いつまでそんな物、構えておる」鍬持ちのアルスラーンに突っ込むエトワール。エトワールはアルスラーンに馬を近付けると驚いた。「な?! お前もしや」「ああ?!」アルスラーンも気付いた。「やはり、あの時の甘ったれ坊っちゃん!」「ルシタニアの少年兵?」思わぬ再開だった。
「お前よく生きてたなぁ」家畜小屋の2階に戻った。アルスラーンとエトワールは話していた。「真っ先に死ぬと思っていたぞぉ?」嬉しそうなエトワール。「あはぁ、まあ、なんとか」「腕に自信も無いクセに、金持ち一家を助けようとしたのかぁ? 相変わらずお人好しだな」「あ、いや」「ただ、部下の無礼は謝罪する」真面目になるエトワール。「あの者達は部下なのか?!」「ああ、小隊を預かっている。あの時とは立場が真逆だな!」小気味良いらしいエトワール。
「もう我々を奴隷にできまい」「奴隷には、しないよ」アルスラーンは茶化さず答えた。「お前がしなくても、アンドラゴラスやアルスラーンはするだろう?! 何せ邪悪な異教徒供の大将だ! あいつら、2本の捻れた角が生えて、口は耳まで裂けて、黒い尻尾が生えていると聞いたぞ!!」怪物のような話になっているらしく、身振り手振り付きで言ってくるエトワール。アルスラーンは脱力した。
     7に続く

アルスラーン戦記 7

2015-06-03 22:40:13 | 日記
「パルスの愚民供は悔い改め、皆、イアルダボート教に改宗しなければならない」「もしも、私も主達の神を信じられなかったら? どうする?」「はぁ? そんなことは起こり得ない! イアルダボート教に触れれば、その偉大さがわからないはずが無い!」唖然とするアルスラーン。
王都でもナルサスがダリューンにイアルダボート教の解説をしていた。「イアルダボートとは、元々古代ルシタニア語で、聖なる鞭の意味だった。知ってるか、ダリューン。彼らがパルスに進行してきたのは聖典に、世界でもっとも美しく豊かな土地はイアルダボート教の信者の物であると書かれているからだそうだ」「勝手極まる話だな。それでルシタニア人供はその神の教えとやらを心から信じているのか?」「さて、信じているのか? 信じるフリをして、自分から侵略を正当化しているのか?」ナルサスにも判断つきかねた。
「人を平等というのなら、何ゆえ、エクバターナに攻め入ったのだ?」小屋の2階で、アルスラーンはまだエトワールと話していた。「何?」「パルスの奴隷制度を差別というなら、王都にいる民へのルシタニアの行いはなんと説明する」「何を訳のわからないことを言っている?! パルスは異教徒だから差別していいのだ!! イアルダボート教の教えに従わぬ者に、存在意味は無い!」「矛盾していないか?」エトワールはアルスラーンに詰め寄った。「なんだと?!」そこにエラムが入って来た。「見付けました! 殿、」エトワールとアルスラーンが振り向く、襟巻きで口許を隠しながらエラムは剣を抜いた。「まて!」エトワールも剣を抜いた!「この者は旧知の友人だ!」「友人?」「友人なのではない!」「ではない?」困惑するエラム。「とにかく敵ではない!」間に入るアルスラーン。両者構えを解いた。安堵するアルスラーン。
     8に続く

アルスラーン戦記 8

2015-06-03 22:40:04 | 日記
「いつぞやはお前を人質にして、逃げ延びることができた。礼を言っておく」剣を納め、エラムを無視するようにして立ち去ろうとするエトワール。「生きていたければ無茶は控えろ。それから最後に」出入り口で立ち止まるエトワール。「一つ聞きたい」「ああ、なんだ?」「あの時、私と一緒にいたルシタニア人を知らないか?」思い返すアルスラーン。「全員殺された」「そうか」腰元に手をやるエトワール。エラムは小剣を構えた。エトワールは剣ではなく、聖典を取るとアルスラーンにそれを投げ渡した。「それを読んで、イアルダボート教を学べ!」エトワールは去った。アルスラーンは紐で閉じられた聖典を見詰めた。
夜の王都で、酒場に入り切らず店先でも呑んだくれているルシタニアを物陰から見るダリューンとナルサス。「覚悟はしていたが、ここでルシタニア軍がデカい面をしているのを直に見ると、負けたことを痛感するな」ダリューンは苦々しく呟いた。「どうやって取り戻す?」ダリューンはナルサスに問うた。「そうだな。例えば王子の名で、パルス全土の奴隷を解放し、奴隷制度を全廃すると約束する。その内1割が武器を取っても、50万からの大軍を編成できる。この場合、自給自足が前提になるがな」「なるほど」「ただし、そうなれば、奴隷を所有する領主や貴族の支援は期待できなくなる。それに奴隷を解放しても、それで全てよしとはいかんのさ。その後の方が大変でな、机の前で空想しているような訳にはゆかぬ」二人が歩いていると、酒場から酔って出てきたカーラーン隊のいつかのモヒカン頭とぶつかった!
「おい、道を空けろ、このボンクラ! 誰にぶつかってんのかわかってんのか? 俺はエーラーンカーラーンの」ぶつかった相手がダリューンと気付くモヒカン!「ダ?」酒壷を落とすモヒカン!「ひぇあッ! ダリューン!!」
     9に続く

アルスラーン戦記 9

2015-06-03 22:38:47 | 日記
悲鳴を上げて逃げるモヒカン!「戦いもせずに逃げ出すとは、よく己の力量をわきまえている」端的に評価するナルサス。「追うか?」「まずは俺一人で行こう」ナルサスは頭巾を除けた。
ナルサスが一人で街を進むとカーラーン隊の残党らしき者達が物陰で合図しあい、後ろに回り込んだ。「やっぱりナルサスだ」「てめえらのせいで、俺達は居場所がねーんだ!」「死ぬ前にアルスラーン王子の居場所を吐いてもらおう」ナルサスは軽く笑い、息を吐き、振り向き様の抜き打ちと二ノ太刀で残党二人を斬り伏せた!「ぐぇあッ!」「わぁあ!」斬り口が浅く、すぐには死ねず苦しむ残党二人!「私一人なら、与し易いとでも思ったか?」残る二人の内、一人は背後からダリューンの手刀で昏倒させられ、残るはモヒカンのみとなった。モヒカンは剣を捨て、両手を上げた。
「うへぇ」「死ぬ前に、アンドラゴラスの居場所を吐いてもらおうか?」「し、知らん」ダリューンに剣を突き付けられるモヒカン。「はぁッ?! 本当に知らんのだ! 俺も命が惜しい、知っていれば教えるぅ!!」「単なる噂でも構わん。お前自身の為に思い出せ」モヒカンに顔を近付けるナルサス。「アンドラゴラス王は生きている。どこかに幽閉されているらしい。元々カーラーン様はごくごく側近にしか、それを教えていなかった。ルシタニアの将軍達ですらそのことを知らない!」「タハミーネ王妃は?」「イノケンティス7世と結婚すると、ルシタニア兵が噂しているのを聞いた。王の一目惚れだったと」顔を見合わせるダリューンとナルサス。
モヒカンはボコボコにされて縛られて樽に放置された。一応生きてる。「王妃様の美貌も罪なものだ」「しかしどうする? 例え陛下が生きておいででも結婚の障害なるとして、害されるかもしれぬ」「あるいはルシタニア国王は、
     10に続く