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1986年ごろの埼玉県大里・滑川の茅葺き民家はザシキ・カッテ・ヘヤ・デイが間取りの基本だった

2017年01月29日 | studywork

 いろいろなところを旅していると、その地方、その地域に特有の民家を見つけることができる。そのことは先人が数多くの研究成果をあげているが、自分なりに実証しようと考えた。その一つが、埼玉県大里・滑川での調査である。

1986「茅葺き農家における間取りの型について-埼玉県大里・滑川」 日本建築学会関東支部研究報告会 /1987.3 図はホームページ参照
1 はじめに
 歴史的な集落の居住空間においては、住居の作り方と対する使われ方に、数多くの類似性・規則性を見ることができる。
 この伝統的といえる作り方・使われ方が、定着し、継承される要因として、作り方・使われ方が、風土的条件・生活内容の発展・生業形態の変化等に柔軟に対処し得ていることの他に、地域的な成員の共同的な生活のくり返しのなかで、これらが一定の型として人々に広く了解され、伝承されていることがあげられる。
 それ故、歴史的な集落における新たな居住空間の計画には、この伝統的な空間の作り方・使われ方への認識を欠かすことはできない。

 本稿は、伝統的な集落居住空間の構成の仕組みを実証的に明らかにする一稿として、埼玉県内の水田を主体とする2地域の、伝統的な農家住宅の典型である茅葺き農家を対象に、主として住居の型について 考察し、報告するものである。
 ・・略・・
2 茅葺き住戸の特質
 建築年代をみると、江戸時代36%、明治・大正時代57%と、少なくとも60数年以上の-なかには200年に及ぶ-住戸が大半を占めるが、構造的にはしっかりしており、甚だしい傷みはあまり見られない。
 しかし、居住意識は、永住指向の100%に対し、満足68%、不満32%と、一部に住居への不満度がみられる。この大きい原因は茅葺き屋根で、夏涼しい100%、冬暖かい33%と快適性をあげながらも、葺き換え時の職人不足68%、茅不足26%あるいは経済的負担や時代遅れを理由に、文化財の指定を希望する2戸を除き全戸が、将来は茅葺き以外の屋根を希望するほどである。
 一方、相当数の住戸で間取りや設備等の面での増改築がみられたが、必ずしも不満としては表れていない。例えぱ、間取りに関しては、将来も伝統的な形式を25%、伝統を基本として54%と、また外観に関しては、将来も伝統的な様式を25%、伝統を基本として42%と、伝統的な作り方を継承しようとする指向をうかがうことができる。
 以上のことから、茅葺き換えの問題点を解決できれば、住居の間取り等に機能的・性能的な改良を加えた伝統的な作り方で、充分に現代的な生活に対応し得ると考えられる。           
3 部屋の構成と部屋名称 
 調査事例33戸のいずれも、方位の多少の振れを含めて通観すると、南側の作業・鑑賞庭に向いてトボグチと呼称される(以下、呼称名はカタカナで記す)出入口をとり、東側を土間空間、西側を床上空間としている。既調査事例では西側を土間空間とする例も幾つかあり、結論づけられないが、東側土間空間の指向性が極めて高く見られる。
 ・・略・・ 土間空間と床上空間の間には、おおむね奥行3~6尺の板間を設け、アガリハナ(またはハリダシ・ヨリツキ各1例)と呼称する住戸が30例見られる。
・・略・・アガリハナが、土間空間と床上空間とをつなぐ結節空間、あるいは緩衝空間として欠かせない構成要素であることがわかる。
 ・・略・・
 また、床上空間の南側にエンガワを付設する例が、32例見られる。・・略・・エンガワがアガリハナ同様、床上空間と外部空間をつなぐ結節空間あるいは緩衝空間として欠かせない構成要素であることがわかる。・・略・・
 土間空間・・略・・
 床上空間は、2~8部屋、平均5部屋であるが、整型四間型14例、整型六間型9例で大半を占める。・・略・・
 出現率の高い7部屋を、便宜上、整型四間型を例に位置と対応させて傾向をみると、土間側南の部屋aにはザシキ、土間側北bにはカッテ、北側奥cにはヘヤ次いでナンド、南側奥dにはデイ、またはトコノマ、次いでコザの呼称が集中する。
 ・・略・・
4 間取りと部屋の使われ方
 間取りに対応する使われ方の規則性を知るため、特徴的な生活行為と部屋の対応を見ると、以下の一定の傾向をうかがうことができる。
 便宜上、上記四間型abedを例に、まず結納に使われる部屋をみると、有効回答のうちdは74%、aは26%、法事ではd96%、a 88%、アガリハナ21%となる。またdには100%が床の間を備えていることから、dが儀式空間の中心であり、規模内容によってa、時にはアガリハナまで用いられることがわかる。

 一方、会合・宴席などの人寄せの場合は、a 90%、d60%、次いでアガリハナ25%と、中心がaに移る。また大切な客を招く部屋のd 67%に対し、親しい客を通すa 94%、世間話しをするアガリハナ100%と、dに比べaは格式性の低い接客空間の中心であること、規模内容によってはd及びアガリハナまで用いられることがわかる。
 ・・略・・ 食事に使われる部屋はb67%、次いでa14%及びダイドコロ、また家族の集まる部屋はb 58%、a37%である。仏壇の置かれる部屋はbが63%と高く、また神棚もdの35%に対し、bに55%が備えており、aを含めたbが家族のための空間であり、bがより中心的な空間といえる。
 夫婦の寝室に使われる部屋として、c 56%の他にd25%やa・その他、老人に使われる部屋として、d 50%、c 21%・その他である。総じてcの居室としての使用がやや低いのは、特別な行事にd・その他が使用される時以外は、より居住性の良いd・その他を指向するためと考えられる。
・・略・・
 使われ方と空間認識が間取りに対応して固定化していることがわかる。
5 おわりに 
1)部屋の構成は、床上四部屋に土間空間、結節空間としてのアガリハナ・エンガワの基本的な作り方があり、
2)それぞれの部屋は位置に対して、地域による若干の差があるが、固有の名称がつけられ、
3)儀式・接客・家族・私室の固有の使われ方が間取りに対し固定しており、
4)使われ方の規模内容に応じて、柔軟に一定の空間が転用される仕組みを持ちながら、
5)空間の格式性・序列性・分節性・方向性が明確に認識されていることから、空間の作り方・使われ方が、地域的に型として人々に了解され、伝承されていることがわかる。

 

コメント
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