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2004年台風23号で円山川の堤防は計画水位を超えて決壊、教訓=身近な避難所整備

2017年01月27日 | studywork

 私たちは自然災害と暮らしあっている。報道で甚大な被害を知るといつもそう思うが、のど元過ぎれば・・いつの間にか備えがおろそかになる。2005年ごろ、建築学会で災害復興・再建に関する研究会を立ち上げた。その一環で、2004年に円山川破堤で大きな被害を受けた豊岡を訪ね、聞き取りを行った。

「2004年 台風23号の大雨で円山川が破堤、豊岡に甚大な被害」 /2006.3(写真図はホームページ参照)
                             
1台風・大雨・洪水
 2004年10月13日にマリアナ諸島付近で発生した台風23号は超大型の強い勢力に発達し、10月20日昼過ぎに高知県土佐清水付近に上陸、夕方には大阪府泉佐野市付近に再上陸し、東日本を横断して、21日朝方に関東の東海上で温帯低気圧となった。
 台風23号の接近に伴い、本州南側にあった秋雨前線が押し上げられたことから極端な大雨となり、四国や大分では総降水量が500mmを超え、近畿北部、東海、甲信越でも300mmを超えた。
 兵庫県豊岡市(合併により旧豊岡市、旧城崎町、旧竹野町、旧日高町、旧出石町、旧但東町を含む市域)では、20日正午ごろから雨足が強まり、18時までの総雨量は旧豊岡市162mm、円山川上流の和田山で169mm、出石川上流の出合で228mm、稲葉川上流の栗栖野で215mm、奈佐川上流の辻で226mmに達した。
 その結果、国土交通省管理区間で25カ所の越水、23時過ぎには円山川と出石川で破堤し、大きな被害に見舞われた。
 右図上段は円山川の水位を示しており、10月20日21時に最高水位8.29mを記録した。しかし、立野あたりの堤防の計画水位は8.16mで、越水、破堤を免れなかった。
 下段は立野観測所における年別最高水位図で、8.29mが記録的な水位であることを裏付ける(右図は円山川とその支流の越水、破堤箇所、および浸水状況を示す)。

 この結果、現豊岡市での被害は、死者7名、負傷者51名、全壊333棟、大規模半壊1082棟、半壊2651棟、一部損壊292棟、床上浸水545棟、床下浸水3326棟に及んだ。
 とりわけ豊岡地域(旧豊岡市)に被害が集中し、被害家屋総数はなんと5847棟にのぼる。これは豊岡地域の16472世帯のおよそ1/3に相当する。(数字が見にくいが被害一覧を以下に紹介する)。
 これに伴い、10月21日に災害救助法、31日に被災者生活再建支援法、12月1日に激甚災害の指定を受けることになった。


2避難

 旧豊岡市は市街地の大部分が円山川の河川堤防よりも低く、これまでもたびたび水害に見舞われてきた。下図は円山川13km地点の断面で、市街地が堤防よりもかなり低い様子がよく分かる。
 大雨で円山川の水位があがると支流に逆流することになる。これまでもたびたび洪水が発生した。表は、1959年伊勢湾台風による洪水以来、2004年10月20日台風23号までの洪水一覧であるが、45年間に7度もの洪水が起きている。
 およそ7年に一度の割で洪水を経験しており、この経験から、洪水時には水門を閉め、ポンプで内水を円山川に排出し、浸水被害を防いできた。

 しかし、今回の大雨による急速な水位上昇は排水能力を上回り、やむを得ず内水の排出を停止せざるを得なくなり、旧豊岡市全域に浸水被害が広がった。
 それでも円山川の水位は上昇を続け、ついには最高水位8.29mに達し、本支流あわせ25カ所の越水が発生した。越水は堤防を弱め、23時には堤防が決壊し、甚大な被害になった。
 右上写真は円山川決壊、右下写真は1階部分が全損した堤防脇の住居(上は破堤直後、下は1年3ヶ月後、いずれもインターネット転載)。

 旧豊岡市では、10月20日18:05に一部を除く市内全域に避難勧告を発令した。さらに、排水ポンプを停止した19:13に一部を除く市内全域を避難指示に切り替えた。
 避難指示の対象は15119世帯で、全世帯16472世帯の92%に及んだ。20:35に早急な避難の呼びかけ、20:40に裏山崩壊の危険区域に避難の呼びかけ、22:55に厳重な警戒の呼びかけ、23:45に円山川決壊に伴い2階への避難の呼びかけ、0:15には外に出ず自宅2階への避難の呼びかけが行われた。

 しかし、避難所の収容数は20日22時に最大で3753人であったそうだ。言い換えれば、多くの住民は事態を傍観するうちに逃げるに逃げられなくなり、2階や屋根に逃れ、救助を待つことになってしまったそうだ。
 いくつか原因があげられるが、一つは、避難勧告がきちんと理解されなかったこと、続いて出された避難指示との混乱があげられる。

 避難勧告とは、当該地域又は土地,建物などに災害が発生するおそれがある場合に出され、避難準備をして様子をみる、あるいは自主的な避難が望ましい。
 避難指示は、状況がさらに悪化し,避難すべき時機が切迫した場合又は災害が発生し,現場に残留者がある場合に出され、すみやかに避難をする、あるいは避難が難しい状況になり救助を要請する段階にある。
 しかし、通常の考えでは勧告と指示の差が分からず、住民のなかには避難勧告が出たので避難の準備をしたが避難指示になったので、危険が去ったと勘違いし、逃げ遅れた例もあったそうだ。
 豊岡市内では2.4mの水位が記録されており(写真はその後に設けられた水位表示)、気づいたときは一面水びたしで逃げられなくなってしまう。水害は早め早めの避難がよい。

 これを経験に、豊岡市では分かりやすい用語に切り替えるとともに、職員の研修や市民への啓発に取り組み始めた。ハザードマップを見直し、身近な避難所の整備充実を図るとともに、ショッピングセンターと打ち合わせ、緊急時には上階の駐車場を避難所として開放することになった(写真は緊急時受け入れのショッピングセンター)。災害から学ぶ教訓は少なくないし、次への取り組みが期待される。

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