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2005年韓国慶尚南道九満面の14集落で風水観の基本となる主山-案山の聞き取り調査

2017年01月14日 | studywork

 2005 「韓国慶尚南道固城郡九萬面の集落と風水」 /2005.9 (写真はホームページ参照)

 韓国南部・慶尚南道固城郡九萬面には、中央に盆地状の水田が広がり、その周囲を山並みが囲んでいて、山裾に14のマウル(日本の農村集落に相当)が点在する。
 集落の空間構成や住居の空間構成には韓国南部農村住居の典型がよく保全されていることから、1995年から1998年まで、韓国留学生・S君と、韓国南部農村住居の空間構成と住み方、ならびに現代化に関する調査を実施した。
 その一部は日本建築学会や農村計画学会で発表してある。これに先立ち、韓国・慶尚大学のR教授との学術交流が続いており、九萬面の調査でも調査地選定に助言を得ており、このときの調査でもR研究室の学生の支援を受けた。

 
 一方、2004年度から文部科学省科学研究費の助成を受け、「東アジアにおける共生の仕組みに関する研究」(代表・西日本工業大O 助教授)が始まった。
 2004年度は中国・トン族を対象に中国少数民族における共生の仕組みに関する調査を実施し、成果の一部は日本建築学会に発表している。2005年度は韓国の風水観に着目した農村集落における共生の仕組みをテーマとし、2005年にR 教授の助言を得て実施した予行調査を踏まえ、風水観が形態的にもよく表れている九萬面の14マウルを対象に、2005年9月、NI大学、NN大学、NS大学の10人の学生も参加した総勢16名による調査が実施された。

 主な調査項目は、風水観と集落構成・住居構成・社会組織に関する聞き取り、もっとも古いマウルとされる盆地北側の南斜面に位置するファチョンマウルの集落構成に関する実測採図調査、ファチョンを除いて盆地に直面している10マウルの住居の向きに関する観察調査、風水の基本となる主山・案山に関する聞き取りである。
 うち、実測採図、観察記録はまだ整理中なので、聞き取りから得られた知見の概要を紹介する。
図は九満面:中央の盆地を囲んで四方を山並みが囲み、その麓に主山を背に水田を望むかたちで14マウルが並ぶ

 九萬面14マウルの主山は盆地を囲む山並みのさらに北に位置するキッテボン(標高522m)で、ここから流れる九萬川が盆地を貫き、下流のシルボンに向かって流れる。
 このシルボン(標高239m)が案山になる。風水の構図としては盆地北側に位置する主山から発する気(エネルギー)が盆地を囲む東側、西側の山並みを伝わり、盆地南側に位置する案山に至ることになり、盆地として山並みに囲まれたところが明堂として居住適地になる。
 九萬面はまさにこの風水の構図に合致する。明堂のなかでも主山に近い場所が最上地であり、もっとも古いファチョンマウルがこれに相当し、やはり風水観と一致する。

 そのうえで、各マウルの主山・案山を確認したところ、盆地の東北に位置するジュピョンマウルでは盆地を囲む山並みの一つ、東北にあるチョクソクサン(標高498m、上写真)を主山とし、盆地の東に位置するヒョデマウルは東の小キッテボン(標高435m、下写真)、盆地東南に位置するガンアムマウルは東南のボンバイサン(標高358m)、盆地の南に位置するヨンダンマウルは西南のマルムドサン(標高286m)、盆地の西南に位置するワリョンマウルは西南のワリョンサン(標高不明)、盆地の西に位置するチョドンマウル、および西北に位置するヨンドンマウルは西北のピルドボン(標高419m、写真)と、ほぼ盆地に向かって背面の方向に位置する山を主山と認識している。
 この空間構成は風水観の基本である背山(=主山)臨水(水田・九萬川)に一致する。盆地周囲には山並みが幾層にも連なっていてどの山でも主山になるようにも思えるが、人々はそれぞれのマウルからの山の形の見え方を吟味しているようで、チョクソクサンにしろ、キッテボンにしろ、ボンパイサンにしろ、ピルドボンにしろ、特徴的な形を見せている。
 風水観では気の流れが重視されており、気の勢いが山の形に表れていると考えられているようである。

 そもそも風水は蔵風得水の略で、古代中国で風を制御し水を得やすい居住立地を選ぶ地理学として成立した。
 主山は冬の寒風を制御し、案山は夏の強風を押さえ、主山を源流とする豊かな川の流れを得る、これが風水の基本になる。
 これに陰陽説の気が重なり、コンロン山脈から生まれる気(生気=エネルギー)が龍脈とされる山並みにのって伝搬されていくと考えられた。
 龍脈の気を受けるのが主山であり、特徴的な、高い山ほど気が強い。気はマウルを囲む山並みを伝わり明堂にあふれ出て、生気を活発にする。
 気の流出を防ぎ、居住地の生気を保つのが案山になる、はずである。しかし、九萬面では主山がキッテボン、案山がシルボンと認識され、盆地周囲のマウルの背後を山並みが包み込んでいるため、各マウルで案山を聞き取ると、マウル正面にある盆地反対側の山を指す場合もあるが、むしろ主山が右手側であれば案山は左手側と、マウルを左右に挟み込む形で主山・案山を意識しているマウルも少なくなかった。
 また、盆地に入り込んで位置するシンゲ(漢字では新渓となる)では、案山に代わって川の流れを意識し、背山臨水の形を構えるとのことであった。
 つまり、風水の基本を意識しつつも、それぞれの立地状況にあわせて風水を読み替え、背山臨水の形を作っているようである。

 
 さらに、各マウルの住居の向きを確認すると、ファッチョンマウルでは南向きが大勢を占めたものの、ジュピョンマウルでは南向きと南西向きが多く、ヒョデマウルは南向きと西向きヨンダンマウルでは南西と東向き、以下同様に、それぞれのマウルの主山と盆地の軸線に規定されつつ、南を向こうとする傾向がうかがえた。これも風水観の基本をよく示している。
 社会組織や空間配置の詳細な分析を待たねば結論を出せないが、風水観に基づいた空間構成による形態的秩序によって共同体的な結束を表していると言えそうである。


 

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