book478 虎の城 上 火坂雅志 祥伝社文庫 2007 (斜読・日本の作家一覧)
織田信長・豊臣秀吉・徳川家康のころの歴史小説を読むと、藤堂高虎(1556-1630)がしばしば登場する。2018年10月に高松~松山あたりの城巡りでも藤堂高虎築城の宇和島城、今治城を見た。どんな人物だろうか、高虎を主人公にした本を探し、この本を読んだ。
高虎は戦場では勇猛果敢に戦い、誠意をもって主君に仕え、多くの城を築き、伊予今治藩主を経て、伊勢津藩32万3千石の初代藩主まで出世し、75才まで生き抜いた。
いきなり巻末の亡骸に関する記録を転載すると、P684・・すきまもないほどの傷・・弾傷、槍傷など・・右手薬指、小指は切れて爪がなく、左手の中指も一寸ほど短い・・右足の親指も爪がなく、たいへんなご苦労を重ね・・たそうだ。
第1章 落城 藤堂家は近江国犬上郡=現滋賀県甲良町の小土豪で、浅井軍に属した戦いで兄が流れ弾で死に、高虎が跡取りになる。1570年の姉川合戦で手柄を立てるが浅井軍は負け、小谷城に籠城する。1573年、織田・徳川軍によって落城、慕っていたお秋の方は自刃、逃げ延びた高虎は、P54負けほどみじめなものはない、二度と負けぬぞ、と誓う。
第2章 秀長 牢人だった高虎は・・生きるためには人は変わっていかなければならない、人は生きねばならないと、P62・・浅井の家臣だったが信長に寝返り新庄城主になった磯野家に仕官する。
信長の越前攻めで、高虎は敵が籠もる小山城の縄張をあらかじめ調べ・・P79土木技術に長じた直感力があった・・、大手柄を上げる。
高虎は、P102信長の新しい城である安土城普請のため比叡山の石垣を調べていた秀吉の弟・羽柴秀長を野盗から助ける。秀長は高虎を逸材と判断し、高虎も秀長に好意を持つ。
第3章 新天地 高虎は手柄を上げたにもかかわらず、信長の命で新庄城の城主に就いた織田信澄と意見が合わない。またも牢人となるが秀長から声がかかり、300石で仕えることになる。
長浜城本丸御殿で近江出身の石田三成と対面する。P137三成は力にまかせて槍を振りまわすのは馬鹿もの、才知を持って馬鹿ものを自由自在に動かすと考え、高虎はもったいぶった面をしたいけすかぬやつ、と思う。この後、二人はとことん対立する。
高虎は、秀長からP140兵法、築城術、兵糧の調達、金銭の出納を身につけること、もっとも大事は高い志と諭され、光明が差す。安土城築城現場では、秀長からP142大工頭、宮大工、寺大工、塗師頭、白金大工、瓦職人、石工のことを学び、P148上から見下ろすのではなく職人と同じ地面に下り、思いを汲むことが肝心と教わる。
P151高虎自身が仕事を身体でおぼえようとし、P165秀吉、秀長の前の石工対決で、槍で石を割る。秀吉は現実的な利が大事、人を動かすのは米、国を動かすのは銭と言い残す。
第4章 一色家の姫 高虎は、P173秀長が米の価格差に目を付け手米を動かし利を得る方法を知る。中国攻めに秀長配下で出陣したときは、金銭出納、兵站を引き受け、さらに秀長から但馬国大屋郷の明延銅山の復興を命じられる。
大屋郷に入ったとき、のちに嫁となる名門一色家の娘・久を賊から助ける。
第5章 三千石 高虎が掘り出した銅を軍資金に、秀吉は軍勢を立て直す。大屋郷の銅を狙う一味を倒した高虎は、秀長とともに三木城攻めに加わる。秀長は高虎にp250おのれのなかに揺るぎなき信念があれば人はあとをついてくる、と話す。
著者火坂氏は前半の随所で高虎の行動を語りながら、高虎の生き方を決定づけていることばを織り込んでいる。
三木城を落とした秀吉は播磨、但馬64万五千石、秀長は出石城主となり、大手柄をあげた高虎は3千3百石に出世する。
第6章 米買い 高虎は久と祝言を挙げた翌日、秀長に合流し鳥取城攻めに加わる。長期戦になり、高虎は秀長の命で因幡国の米を買い占め、籠城戦では堀と柵の土木工事で敵を孤立させる。
高虎は、P317先進的な土木技術を身につける、同じ価値観に固執せず自分を高める努力が道を切り拓くと確信する。
第7章 天王山 高虎の土木工事による水攻めで備中高松城あわやの時、本能寺の変が起きる。明智光秀との戦いで秀吉は戦略上の用地である天王山を占拠、明智を倒し、秀吉は天下統一へ走り出す。
さまざまな本や歴史ドラマ、テレビで取り上げられているが、火坂氏も秀吉の智恵=狡猾さを描いている。
第8章 土木の虎 秀吉に信頼され出世していく実務家石田三成に対し、高虎もP366自分にだけしかできない技を身につけよう、と考える。
天下を手中にした秀吉は、石山本願寺あとに黒田官兵衛の縄張で大坂城をつくる。秀長の屋敷づくりを担当した高虎は、大坂城築城を見てP377自分しかできない仕事は城造りだと決意する。
信長の次男・尾張清洲城主織田信雄は秀吉の天下が許せず、家康と同盟を結ぶ。秀吉軍と家康・信雄軍が小牧山でにらみ合うが、信雄が降伏し、家康が撤退し、秀吉体制が決定的となる。
秀吉を総大将とする秀長軍は和泉・紀伊を攻め、秀長が和泉・紀伊の領主となる。雑賀衆ににらみを効かせるため、秀長は高虎の縄張で紀ノ川に岡山=現和歌山城を造る。工事が進むが大坂城普請で大工がいない。
単身、信長の焼き討ちに恨みを持つ粉河大工に乗り込み、P410上に立つ者にふさわしいと認めさせる。ここで粉河大工の娘・綾羽が登場する。
第9章 山霧 和歌山城築城のさなか、四国の長宗我部が反乱を起こす。秀長軍は鳴門の木津城を落とし、徳島の一宮城を攻める。高虎は銃で撃たれるが、綾羽からもらった銅鏡で命拾いする。
和歌山で謀反が起き、偵察に出た高虎は供とはぐれ、敵に襲われるが綾羽に助けられ、二人は深い仲になる。
第10章 菊の屋形 紀州平定、和歌山城築城の功で高虎は粉河一万石を領し、猿岡城を築く。高虎は粉河の復興に力を入れる。
父白雲斎と後添いのお六、乳飲み子高丸=高虎の弟、妻お久が粉河に移ってくる。
秀吉は次に九州攻めを考えていて、東の家康に妹・朝日を嫁がせ、懐柔する。
菊の屋形とは秀長の隠れた恋の相手の屋形のことで、お藤と生まれたお菊が登場する。
第11章 一期一会 家康が大坂城に上洛しているあいだに、高虎は二条堀川に家康の屋敷を普請する・・のち、拡張されて二条城・・。家康は行き届いた土木技術に感心し、高虎を歓待する。
秀長は総大将として九州に攻め込む。島津軍が反撃に出て、秀長配下の宮部軍が孤立、あわや全滅の時、高虎がわずかな手勢で加勢し、島津軍を撤退させる。秀吉ばかりでなく家康も高虎の武功を賞賛する。
島津は秀吉に降伏するも、石田三成らの取りなしで旧領が安堵された。総大将秀長の面目がつぶれ、高虎は三成への敵愾心燃やす。
九州攻めの功で高虎は二万石に加増される。新たな家臣の召し抱えで、1苦労人である、2心がねじ曲がっていない、3腹がすわっているを基準にする。
一方で自らを律するため、1上に立つ者として自分の言動に責任を持つ、2家臣を差別することなく正当に評価する、3家臣の悩みや困りごとに心を配る、三箇条の掟を決めた。
秀長には跡を継ぐ養子・仙丸がいたが、秀吉は姉の3男・辰千代を跡取りにせよと言ってきた。高虎は秀長の使者として秀吉、三成に会い跡取り辰千代の件を断るが、天下の秩序に従わないなら、排除すると一括される。高虎は仙丸を自分の跡取りにすることで、秀長に辰千代を養子にするよう懇願する。仙丸を養子にした藤堂家は実質三万石になる。
第12章 こごり雲 高虎は粉河の再興に力を入れる。高虎が、P558町がよみがえったのはわしの力ではない、民の力だ、領主は民が持っている力を引き出す存在といえば、大工の棟梁はP559役立たずと思われる木でも取り柄がある、よい大工は良さを引き出してやる、と応える。
淀殿に秀吉の子・鶴松が生まれる・・その後、病死・・、秀吉が小田原を攻め、北条家が降伏、秀吉は家康を旧北条領の関八州に移封する、高虎の主君秀長が病死、13才の辰千代=秀保が跡を継ぎ、高虎が支える、家康が悔やみに寄り、高虎に困ったことがあれば相談に乗ると話す、利休が切腹する、などが起きる。
第13章 唐入り 秀吉は大名たちに所領を与え臣従を誓わせていたが、天下を取ると与える所領がなくなる。三成の勧めで、秀吉は朝鮮出兵を発する。後半、高虎の活躍を含めた朝鮮での戦闘が語られる。
跡継ぎが生まれない秀吉が姉の長男である秀次を世継ぎに指名した・・辰千代=秀保と兄弟・・。
2年後、淀殿が男子・拾=のちの秀頼を出産する話と、情報入手の重要性に気づいた高虎が忍びを味方にする話が織り込まれる。
第14章 主家消滅 綾羽が男子を産むが、高虎は跡継ぎは養子の仙丸と言い切り、綾羽・男子と会おうとしない。綾羽は高虎を恨みながら、失踪する。
石田三成は、秀次が拾に天下を譲るよう画策し、弟の秀保が説得にいくよう高虎に働きかける。高虎はこれを断るが、策略で秀保は命を落とす。
上巻はここまでで、高虎が秀長の元で実力を付けていく話に石田三成との対決、家康の好意が下巻への伏線として織り込まれる。