yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

1986年風の強い御前崎で集落・民家調査=空間の作り方・使われ方が風土に規定される

2017年01月26日 | studywork

いまから30年前、1年中風が卓越する御前崎で集落・民家の調査をした。確か、社務所に泊めていただいた。おかげで、研究の方針が固まり出すきっかけになった。大勢の方にお世話になった。懐かしく思い出している。

1986 「住空間の型と風土-静岡・御前崎」 日本建築学会北海道大会 /1986.8 (図はホームページ参照)

1 はじめに 
 歴史的な集落においては、空間構成の様々な面に類似性・規則性を顕著に見ることができる。この要因として、空間の作り方と対する使われ方が風土的条件に適合していること、生活・生産の変化・発展に柔軟に対応していること、地域的な成員に型として広く継承されていることが考えられる。
 すでに「住居の型とオモテ認識-周山街道-」「葺き農家における間取りの型-埼玉大里・滑川-」で事例的に居住空間の構成の仕組みについて考察を進めているが、引続き本稿では、風の卓越する静岡・御前崎の農家を対象に、部屋の並びと名称、部屋の使われ方・オモテ・ウラ認識、屋敷の囲みの考察から、住空間の型ついて事例的に明らかにする。
2 部屋の並びと名称 
 37例を通観すると、いずれもおおむね南側を作業庭とする平人・右土間形式であるが、間取りは多様である。そこで、床上空間側と土間空間側に分けて、部屋の並びを類型的に見ると、床上で3群(図1)、土間で4群(図2)に分けることができる。この類型毎に部屋名称の傾向を見たものが表1で、以下のごとくおおむね部屋の位置に対応して名称が固定していることがわかる。
 床上空間の第1群は、ウワゼまたはイワデ、デイ(グチ)、カツテまたはイマ、ナンドが整形四ツ間に並ぶ形式の11例である。
 第2群は四ツ間のナンドに並んでナカナンドが取られる整形五ツ間の5例である。
 第3群は整形六ツ間の14例で、デイ・ウワゼの間にナカノマが、ナンドの奥にウワゼと並んでオクナンドが取られる形式である。
 五ツ間と六ツ間は形式的に異なっているが、部屋の位置と名称からは四ら間を基本とした発展形と見ることができる。

 土間空間の第1群は、土間一部屋形式の5例であるが、作業庭側をニワ、流し・コンロのある裏庭側をスイジバと呼称する例も多く、土間の分節化がうかがえる。
 第2群は炊事部分が部屋化され、スイジバまたはダイドコロと呼称される4例である。
 第3群は炊事部分が床上化され、入り口脇の妻側にムカイダナが取られた7例である。
 第4群は、第3群のスイジバがさらに二分される18例で、妻側の炊事の部屋はスイジバまたはダイドコロ、イマ側の部屋はカッテ等と呼称される。

 ムカイダナについては解明が不十分であるが、炊事場の形式から1群=土間→2群=部屋化→3群=床上化→4群=機能分化と、発展をうかがうことができる。
 多様な形式に見える間取りも、床上空間の四ツ間を基本とした発展形土間空間が部屋化・床上化される発屋形の組み合せの結果であることが分る。

3 部屋の使われ方と空間認識 
 それぞれの部屋がどのように使われるかを表2から見ると、以下のごとくおおむね部屋の位置及び名称に対して、使われ方も一定していることがわかる。
 隣り近所の人との世間話にはデイが用いられ、人寄せなどの場合はデイを中心に、内容によってナカノマやウワゼが続き間として使われる。
 一方、大切な客を通す、あるいは結納・法事にはウワゼが中心で、人数によってナカノマやデイが続き間として使われる。
 床の間・神棚・仏壇の傾向とあわせ、ウワゼが格式の高い接客儀式、デイが日常的な接客、ナカノマが中間的な性格の空間として位置付けられていると考えられる。
 これらの部屋はまた作業庭側に並んで位置しており、通常は大戸口、特別時は縁側と、部屋の使われ方に応じた出入口の使い分けが見られる。

 家族の集まる部屋としてはイマ、食事の部屋としてはカッテまたはスイジバに回答が多く、イマに続くカッテ・スイジバが、日常的な家族の空間として位置付けられているといえる。
 ナンド・オクナンドは主として寝室空間に用いられているが、ムカイダナや別棟・2階の部屋を夫婦・老人・子どもの部屋とする新たな機能要求に対する空間的対応例も少なくない。

 さらに、オモテ・ウラの空間認識を見ると、ウワゼ・デイ等の作業庭側をオモテ、ナンド・イマ等の裏庭側をウラ、六ツ間でオクナンド・ウワゼをオクとする回答が多い。
 土間空間に床上の部屋が取られない場合は、オモテ・ウラの認識が見られないこと、四ツ間ではオク、六ツ間のウワゼ・オクナンドではオモテ・ウラの認識が低いことから、四ツ間のオモテ・ウラ分節認識が間取りの発展と共に拡大したものと考えられる。

 以上のごとく、部屋の使われ方と空間認識(図3・4)には、部屋の並びと名称に重なる一定の傾向が見られ、間取りが型として広く共有されていることが分る。

4 屋敷の囲み 
 母屋への入りとなる大戸口の向きは(図5)、極めて南面指向が高い。これは、オモテにあたる部屋と、続く作業庭の南面性を規定する。敷地への入りとなる門口の向きは(図6)、接道条件に影響されながらも母屋の入りに応じて、東南~西南に集中し、門口→作業庭→大戸口・縁側→オモテの部屋の連続した配列を作り出す。
 一方、屋敷林の囲みを見ると(図7)、東~北~西南は椎・モチ・翌檜・松・竹などのこんもりした喬木で囲まれる率が高い。南~東南は、やや率は低いが刈り込まれた槙の生垣が設けられ、率の低い分、附属屋が配置され(図8)、四周を囲む形式となる。
 御前崎は、特に西風の卓越するところであるが、季節風・台風・海からの風など、年間を通じ四方からの風が強い。風を防ぐために敷地を道より下げる例も多く、屋敷の四周の囲みが安定した敷地条件確保のための空間的仕組みであることが分る。

5 おわりに 
 個別的には、部屋名称や使われ方、間取り規模、屋敷構え等に差異が見られるものの、屋敷の囲み、母屋の配置や間取り等の空間構成に一定の作り方・使われ方を見ることができる。空間更新の際にはこうした空間の型が規範となり、固有の景観構成が発展的に継承されていくと考えられる。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする