1995 「築地松民家の景観特性」 農村計画学会 /1995.3記
島根県出雲地方には、築地松と呼ばれる屋敷林を備えた散居景観が卓越する。
出雲空港に着陸するとき、あるいは離陸するとき、気をつけて眺めていると築地松の民家を見つけることができる。あるいは、農村をゆっくり走るとあちらこちらに見つけることができる。
しかし、松枯れや生活様式、建築工法の変化に伴って築地松のある田園景観の衰退が始まってしまった。
1990年ころから、築地松散居の景観保全対策の検討が始まり、私も参画して、築地松民家と散居集落の空間と意識に関する調査を重ねた。
この報告は築地松を備えた民家の景観特性を景観の文脈の観点から明らかにすることを目的にまとめ、1995年度の農村計画学会に報告したレポートである。
住宅平面の特性 /母屋はいずれもおおむね南向きを基準とし、道路や敷地の区画にあわせて若干向きを振る。
間取りは、ゲンカンに続いて表側にはナカノマ・オモテの続き間が並ぶ。
ゲンカンの奥はいずれもダイドコロがとられ、ナカノマの奥にイマ、オモテの奥にナンドが配置される。
おおむね、母屋平面の南側にゲンカン・ナカノマ・オモテ、北側にダイドコロ・イマ・ナンドとする間取りが標準である。
ゲンカン・ダイドコロを東側に、オモテ・ナンドを西側としており、間取りに東西方向の空間概念がみられる。
屋敷配置の特性 /母屋はいずれも屋敷地のほぼ中ほどに南面して建つ。母屋のほかに、屋敷内には数棟の付属屋が建つ。付属屋は、母屋の東側、西側、北側に配置されていて、母屋の中心性に対する付属的な位置関係を示す。
門を屋敷入り口に構えるものは4事例ある。いずれも南側、ゲンカンにほぼ対面する位置に構えられる。
墓を屋敷地の一隅にしつらえているのは7事例あり、うち5事例が屋敷地の南西隅に位置する。
屋敷地一隅に屋敷神を確認できたものは5事例あり、多くは屋敷地の北、あるいは北西に祀られている。
庭の西側には造園が施され母屋のオモテと連動した格式性を象徴する。一方、庭の東側は機能性が重視されていて、ゲンカンや東側に位置する納屋と動線が連動する。
屋敷外観の特性 /南側は1.5~2.0mほどの生け垣が設けられる。南から遠望すると、生け垣、庭の樹木、母屋が重なり、田園の特徴的な風景をつくっている。
東側は比較的開放されているが、付属屋が境界に沿って建つか、一部に生け垣や樹木が並び屋敷地を囲い込む。
北側は、築地松、雑木などと生け垣が混用され、閉鎖性は高く、屋敷地内をうかがうことはできない。
西側は主として直線的に剪定された築地松が覆い、緑の屏風然としている事例が多い。いまは築地松が減少しつつあるが、かつてはいずれも屏風状の築地松を備えていたことが推測される。
築地松は、高さは10.0~12.0mほど、母屋の屋根高さ+3~4mとなり、母屋と屋敷構えを西の強風から防ごうとする役割がうかがえる。