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台湾漫遊鉄道のふたり 楊双子

本書内で語られるこの本の来歴は非常に複雑だ。まず、日本の女性小説家が日本統治時代の台湾滞在中の出来事を綴った紀行文があり、それを小説家の娘と紀行文に登場する紀行文を翻訳した台湾人の娘の2人が母親たちの遺志を継いで戦後になって中国語版を書籍化。本書はその本の新訳で、さらに今自分が読んでいるのはその日本語版だと言う。本書が台湾で刊行された際には、日本人の小説家の書いた文章の他、推薦の序、翻訳者である台湾女性、そして2人の娘によるあとがきが掲載されていたという。ここまでの来歴は日本語版の本書の本文を読んで明らかになるのだが、その後に作者の日本語版のための作者によるあとがき、さらには日本語版の翻訳者の解説が付いていて、衝撃の事実が明らかになる。その3重4重の虚構の構造に唖然とするばかりだが、本書が何故このように複雑な仕組みになっているのか、その裏に隠された著者の意図は何か、これらが全て本文の中にあるのだ。一方、紀行文は台湾のグルメ、鉄道、百合という3つの要素が満載。これについては、日本語版のあとがきで著者の好きなものだと説明されているが、グルメに関しては中国・台湾・日本・西洋の食文化がどのように台湾で息づいてきたか、鉄道は清国や日本による台湾のインフラ整備の歴史、百合については当時の日本台湾における女性の困難さや他国の統治下では本当の友愛はありえないことなど、それぞれに深い意味が込められている。構成も内容も本当にすごい一冊だと思った。(「台湾漫遊鉄道のふたり」 楊双子、中央公論新社)
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