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思い出は満たされないまま 乾緑郎

高度成長期に建設された大規模団地を舞台にした連作短篇集。登場人物は、老人から若い夫婦とその子どもたちまで様々だが、皆長年そこに暮している住民で、それぞれがその団地にちょっと不思議な思い出を持っている。不思議な出来事が不思議なままで終わる話はいくらでも不思議に出来てしまうので、自分は基本的にそうした話があまり好きではない。最初の短編を読んだ時、この本もその類いかと思って少しがっかりしたのだが、二つ目の話を読んで、話を膨らませるだけ膨らませて無責任に終わる話とは何かが違うなと感じた。短編を読み進めていくうちに登場人物がどんどん増えていくのだが、それぞれが次の話で別の役割を担っていく。そうした重層構造の短編が次第に一つに収斂していくのが大変面白かった。(「思い出は満たされないまま」  乾緑郎、集英社文庫)

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