水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

ハケンアニメ(2)

2022年05月28日 | 学年だよりなど
2学年だより「ハケンアニメ(2)」




 泣きながら出て行った声優を、プロデューサーの行城が、なだめに向かう。
「……あなたは今、相手に言いたいことを言ってすっきりしたかもしれませんが、フォローしなければならないこちらは大変、不愉快です」と舌打ちしながら。
 もどってきた行城が言う。「監督が謝罪してくれれば戻るそうです……」。
 なんで、こんな子の機嫌をとらないといけないの……。
 アイドル的人気を誇る声優さんを起用するのは、会社の方針だった。
 名前で数字をとれるわけではない新人監督に、それを拒否することはできない。
 その後もどってきたものの、現場の空気はぎくしゃくしたままだった。




~ 雑誌の表紙もそろそろだという週、作画現場は混乱していた。
 何日も眠れない、修羅場がざらなアニメ業界の中にあっても、二日徹夜すると毎回体がボロボロになる。頭の真ん中が白く鈍り、視界にまでそれがはみ出したように、目の前が実際に薄く膜を張って見える。
 このところ、現場の作業と別に、これまで行城だけが出ていた打ち合わせや調整会議に瞳も駆り出されることが多くなっていた。出なくてもいいんじゃないかと訴えたものもあったが、行城が頑として譲らなかったのだ。
「一度だけでもいいから、顔を出してどういうものか知っておいてください。玩具メーカーやスポンサーと話ができるようになっておいた方がいいですよ」
 同席したところで現場は行城が仕切るのだし、瞳は座って流れを見るだけだが、そのせいで大きく時間を取られる。何日も家に帰れず、眠れず、不規則な時間に食事を摂るせいで、胃が痛み、色が細くなる。
             (辻村深月『ハケンアニメ』マガジンハウス文庫)~




 プロデューサーの行城は、意図的に斉藤瞳監督を連れ回していた。
 瞳の才能を高く評価していたからだ。
 あまりにも強引なやりかたにムカつきながら、瞳自身も行城を信頼していた。
 金の亡者とか、全部自分の手柄にしようとするとか、裏で行城の悪口を言う業界人がいることも知っていた。しかし、どんな手を使ってでも、多くの人に作品を届けようとする行城の気持ちは、ひしひしと感じていた……、という話が、ものすごくリアルに描かれている。
 原作の小説『ハケンアニメ』を先に読んでから映画を観てもいいし、映画を観てから吉岡里帆さんや中村倫也のイメージで小説を読むのも楽しいはずだ。尾野真千子さんもよかった。
 アニメ界にくわしい人は、本物の声優さんが声優の役で出演しているのを楽しめる。
 とくに高野麻里佳さんは、「ウマ娘」にも出ているし、歌も歌えば、グラビアにも出る。
 高野さんは代々木アニメーション学院大宮校の出身だという。
 エガちゃんが言うように、夢をおいかけ、夢をかなえている声優さんだ。

コメント
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