透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

市民交流センター審査 傍聴記

2006-10-08 | A あれこれ

昨日の原稿を加筆修正しました。改めてお読み下さい。



■ 塩尻の「市民交流センター」の2次審査が昨日(10/07)の午後1時から公開で行なわれた。各案のプレゼンテーションと質疑応答がまず行なわれ、その後提案者全員と審査員全員との間で質疑応答が繰り返された。予定時間の5時頃をかなり過ぎて、審査員の計3回の投票によってこの②案に決まった。審査が公開で行なわれることは最近ではめずらしいことではないが(審査の透明性を高めるということで最近行なわれるようになった)、長野県内の大きなプロジェクトでは始めての試みだった。

前稿に一次審査を通過した5案の模型写真を載せた。⑤案以外の4つの案は印象がよく似ていることが分かる。審査員による1回目の投票で②案と④案が同数で選出された。
①案には新しい構造的なシステムの提案が無く一般的なラーメン構造で解いたところが評価されなかった。建築の中に大通りを造ってその両側が図書館になっている。通りと図書館との間に視覚的な交流を生むという提案が他の案にないオリジナルな提案だった。

②案は構造的には壁柱をランダムに建てている。壁柱のシステムそのものは別に新しい提案でもない。ただそれが鋼板とコンクリートとの組み合わせによる厚さ18cmのPC(プレキャスト)版で可能だという。審査員の山本理顕さんや高橋晶子さんはこの壁柱によって規定される空間を魅力的と考えたようだ。また4つの雰囲気の異なる空間を創出してそこに相応しいジャンルの本をセットするという提案、仕事場をこの建築内に持つインキュベーションリーダーを点在させるという、ソフトな領域にまで提案を広げていた。ただ図書館の専門家の審査員からすれば、どうやらこの建築的な提案が??ということらしい。なるべく大きな無柱空間のワンフロアでないと図書館としての機能が充分発揮されないということなのだ。そういった観点からすれば、壁柱が邪魔ということになる。

このように建築家は建築的システムの提案に注目し、図書館の専門家はその機能性を重視した結果、表が割れた。山本さんは自身のプロジェクトでも新しい構造システムの提案をしているから、その観点からも作品を評価したと思う。

④案は7つのコアに各階のスラブを受けさせて構造的に成立させたもの。③もこの構造システムを採っていた。この2つの案は比較的大きな無柱空間が可能だが、これは「せんだいメディアテーク」で既に具現化されている。6人の審査員のうち、少なくとも山本さんと高橋さんは当然そのことには気が付いている。③案や④案が採用されれば「せんだい」が既にあることから塩尻の独自性という点で希薄になるな、と私は思った。おそらく山本さんと高橋さんが③案や④案を推さなかったのもその点に尽きるのではないか。そういう意味からすると、②案で建築システムとしてのオリジナリティが確保されたといったところだろうか。

③番の模型の印象は「せんだい」のチューブと呼ばれている鋼管の籠状の「柱」が以前ここで紹介した「銀座ミキモト」のボックスに置き換えられたものという印象だった。そのように捉えるかどうかは人によって異なるだろう、私はそう読み取った。そのことがやや独創性に欠けているのではないかと感じさせたのかもしれない。ただ妹島さんばりのコンセプチュアルな空間は魅力的だった。実際に体験してみたい提案だった。

⑤番だけ他の4案と異なった提案だったが、始めに浮かんだであろう空間の抽象的なモデルにリアリティを持たせることの詰めが少し足りなかった、ということなのかもしれない。あと1階のかなりのスペースを広場として解放するために図書館が地下になっていたことも気になった。あの場所に大きな広場を造るとしたら外に閉じるという判断は妥当だと思った。木漏れ日の空間で読書する心地よさにこだわっていたがそのことはよく分かる。また構造担当の川口衛氏(法政大教授、たぶんそうだと思う)のYポストという構造システムの提案は樹を連想させ、コンセプトと合致していて興味深かった。あんなにスレンダーな構造が可能だとしたら、なんとも魅力的ではないか。

結果的には、図書館単一ではなくて、市民交流施設との機能的な関係についてどう解くかが今回のポイントになったということだろうか、当然ではあるけれど。

今回のプログラムに対して建築の有効性を信じて熱心に取り組んだ全ての提案者に拍手を送る。

これからこの提案を基に議論を繰り返しながら、市民のいろんなニーズとのすり合せに入る事になるだろう。できればその過程も今回の審査のように「透明」に情報提供して欲しいと思う。ウェブサイトという最適の手段を利用して。

審査会場で偶然東京の友人と再会した。どうやらこのブログをみて私と会場で会えると考えたらしい。Sさん、こんどは日帰りではなくゆっくり遊びに来て下さい。


 


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